No.260-2 和名倉山(白石山)2036m 平成21年(2009年)6月2日 |
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第2日=将監小屋〜山ノ神土〜西仙波1983m〜東仙波2003m〜吹上ノ頭1990m〜八百平〜川又分岐〜二瀬分岐〜和名倉山2036m〜山ノ神土〜(七ツ石尾根)〜牛王院下〜二ノ瀬-《車40分》-大菩薩の湯(入浴)…勝沼I.C… 【歩行時間: 第1日=7時間 第2日=8時間50分】 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ *** 前項「笠取山から唐松尾山」 からの続きです *** ●第2日目(6月2日・晴) ただの石っころか、それとも・・・ 将監(しょうげん)小屋の午前4時頃、広い板張りの四隅にそれぞれ居を構えていたカップルたちがもぞもぞと起き出した。私達も負けじと起き出して、明るくなり始めた表へ出て朝の冷気を胸一杯に吸い込んだ。小屋前の草原からはモルゲンロートに染まる大菩薩嶺がくっきりと望め、その右奥には富士山も見えている。わくわくしながらコンロでコーヒーを沸かしてサーモスに詰める。小屋番さんが定時よりは随分と早く朝食の用意をしてくれたので、とんとん拍子に事が運び、おかげさまで5時少し過ぎには歩き始めることができた。 まずは将監峠から牛王院平(ごおういんだいら)へと、昨日歩いたカラマツ林や広いササ原を登り、山ノ神土(かんど)から和名倉山への縦走路に入る。足元のササ(ミヤコザサ)は刈ってあって非常に歩きやすく、おまけになだらかな勾配だ。周囲の樹種はダケカンバ、コメツガ、シラビソ、カラマツ、トウヒ(少し)、ミネカエデ、ナナカマド、アセビ…など、深山の趣だ。 「北北東に進路を取れ! だね」 「洋画(ヒッチコック)の題名なら“北北西…”よ。それにしても、ちょっと古いわねぇ…」 と私達の会話も弾む。 少し進むと笹原が広がり、南・東面が大きく開け、雲取山などがよく見えている。そして岩っぽくなり、再び背の低い樹林帯へ入った頃から満開のアズマシャクナゲの連続だ。 仙波のタルを過ぎて西仙波(前仙波)1983m、東仙波(奥仙波)2003m、焼小屋ノ頭、吹上ノ頭1990mと続く稜線のシャクナゲが特にすごかった。展望もシャクナゲも予想をはるかに上回っている。所々に錆びた鉄ワイヤーが放置されているが、これはかつて木々の伐採に使われたものだろう。足元を見れば、何時の間にか火山岩(花崗岩質)から堆積岩の地質に変化している。専門家ではないので断定はできないが、白っぽいのが石灰岩で赤っぽいのがチャートにまず間違いはない。早咲きのコイワカガミがそれらの岩の隙間から華麗な姿を見せている。 吹上ノ頭と八百平の中間地点に西側が大きく開けた箇所があって、昨日登った唐松尾山やその先の甲武信岳などが谷を隔てて展望できる。もっと進んだ処では靄が一瞬晴れて、南西の後方に白い峰々(南アルプスの一角)も見えたりした。思わず稜線上で立ち止まっての、登山地図や地勢図などと首っぴきの山座同定は楽しかった。時々、和名倉山の平べったくて重量感のある山容が前方に見え隠れする。私達が初めてこの山を意識したのは12年前の三峯神社から雲取山へ向かう稜線上だった。 「やっぱり堂々として大きな山ねぇ…」 と佐知子がつぶやく。 荒廃しているという川又へ下る道との分岐(川又分岐)を右折する。その先の秩父湖側へ下る道との分岐(二瀬分岐)も右折して、細身のシラビソやカラマツが生い茂るなだらかな道を進む。千代蔵の休ン場と呼ばれる辺りはカヤトの原で明るいが、少し進むと再び鬱蒼とした樹林帯へ入る。倒木や太い幹の切株が其処彼処に苔生している。道標の赤テープに気をつけながら進んでいると、私達をとっくに追い越していった同宿の中年カップルとすれ違う。今回の私達も、一番早く小屋を出発して一番遅くに下山する、いつものパターンになりそうだ。 この細身の木々が林立する森は、変な言い方だが「若い原生林」だ。林野庁などの管理努力もあるのかもしれないが、この高地に本来自生するはずの樹種が自然な形で生い茂っている。1950年代から60年代にかけて皆伐や山火事で散々な目にあったこの森は、今その撹乱(かくらん)から立ち直りつつある。二次遷移という名の自然の営みが着々と進行しているのだ。それは矢張りホッとする美しい情景だった。 深い森の中に忽然と現れた、という表現が当たっているかもしれない。和名倉山の狭い山頂は樹木たちに囲まれてひっそりとしていた。二等三角点の標石の前で呆然と立ち尽くす私達だったが、やがて「静かな感動」が押し寄せてきた。これが怪峰とか奇峰と呼ばれた和名倉山の「正体」だったのだ。崇め奉ったご本尊がただの石っころだとわかってしまった…、そんな寂寞も確かに感じたが、私達はすぐにはその場所を離れがたかった。チョコレートを齧ったりサーモスの熱いコーヒーを飲んだり、倒木に着生しているコケ類を観察したり、わずかに日のあたる空間に生えているバイケイソウを珍しいものでも見るようにしみじみと眺めたり…、しながら随分と長い間辺りをウロウロして過ごした。そのときの私のメモにはこう書いてある。 『…コメツガ、シラビソ、ダケカンバ(少し)、ナナカマド(少し)、ミネカエデ(少し)、…みんな若くて細い。林床は暗く、植生はまだ乏しい。でも、このままそっとしておけば、数百年後には多様性に富んだ立派な原生林になっているだろう…。』 そんな和名倉山の静かな山頂を辞したのは午前10時03分だった。来た道を、展望を楽しんだりシャクナゲの花を観賞したりして復習しながら、稜線散歩の続きを楽しんだ。 山ノ神土から牛王院平を再び通過して、七ツ石尾根をひたすら下る。麓近くになるとミヤコザサは姿を消し、代わりに一回り背の高いスズタケが林床の主役になる。昨日は鳴いていなかったエゾハルゼミが哀調のある音色をミズナラの森に響かせている。薄暗い林下では腐生植物のギンリョウソウが真っ白い茎に真っ白の花を咲かせていた。 奥秩父のシャクナゲ・写真集: 大きい写真でご覧ください。
大菩薩の湯: 和名倉山登山の帰路に立ち寄ったのが旧・塩山市(現・甲州市)の日帰り温泉施設「大菩薩の湯」だった。丹波山村の「のめこい湯」にするかどうか迷ったのだが、初めてということもあるし中央高速・勝沼インターに近いということもあり、こちらを選んだ。 パンフレットには泉質は明記されていないが公式サイトには“高アルカリ性泉”と記されてあった。加熱循環、無色透明無味無臭だがアルカリ性泉特有のヌルヌル感があった。石貼りの内湯や岩風呂風の外湯、冷たい源泉風呂などもあり、広さも質も十分だ。入浴料3時間以内600円(一日は1,000円)。レストランなどの施設も充実している。奥多摩側の「小菅の湯」とともに、大菩薩嶺登山からの帰路に立ち寄るにもうってつけの入浴施設だと思う。 「大菩薩の湯」のHP * 丹波村山の「のめこい湯」については No.233「黒川鶏冠山」 を参照してみてください。 * 奥多摩側の「小菅の湯」については No.27-2「大菩薩嶺(その2)」 を参照してみてください。
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