No.309-1 足利行道山442m その@ 平成25年(2013年)6月29日 |
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→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ 週末の午前8時53分、快適な東武鉄道の特急「りょうもう3号」が足利市駅に着いた。どんよりとした空模様だが、梅雨の真っ最中だからこれはしょうがない。なんとか一日もってくれ、と祈りつつ、駅前から9時発の“やまなみ号”に乗車する。何処まで乗っても運賃は200円の、足利市の生活路線バス。目指すは関東の高野山とも云われる足利行道山(ぎょうどうさん)だ。 小型の市生活路線バスは渡良瀬川を渡ってからJRの足利駅を経由して、市街地を快調に北上する。気さくな運転手さんと軽口を云いながら、足利市の駅前から33分、道路が徐々に狭くなって閑散としてきたころ、終点の行道山バス停に到着した。降りたのは友人のT君とHさんと私の、むさくるしい男の三人だけ。歩き始めたのは9時40分頃だった。 石階段の多い参道脇にドクダミとユキノシタがたくさん咲いている。二つの山門をくぐったりして、だらだらと30分ほども登っていくと、断崖の上に建つ清心亭(茶室とのこと)が見えてくる。この浄因寺は和銅7年に行基上人の開創と伝えられる名刹とのことだ。本堂も鐘楼堂もけっこうシブい。なにげに、山形県の山寺を縮小したようなロケーションで、心静まる風景だ。昭和50年に栃木県の名勝第1号に指定されたというのも頷ける。とはいえ「関東の高野山と称される」はちょっと言い過ぎかも…。 道標に従って崖の上(頂稜)へ出て、石像の寝釈迦を見物する。安蘇の山並みや足利市街が望める岩っぽい小空間に、その他のたくさんの石仏などとともに寝釈迦像があった。思っていたよりもずっとシンプルで小さいサイズ(身長50〜60cmくらい)で、こう申し上げては失礼だが、可愛いらしい感じがした。 さらに進んで、木製のベンチとテーブルと東屋と、非常に見にくい銅製の方位盤と三等三角点441.7mの標石のある、ごしゃごしゃっとした石尊山見晴台に着く。生憎の空模様で、見えるはずの日光連山や赤城山などは雲の中だ。黄色地に黒の斑点が美しい豹紋の蝶々が、ベタッと羽を広げて小岩の上で休んでいる。温暖化の影響でその分布域を北上させているツマグロヒョウモンだ。最近では関東北部でも普通に観察できるようになったが、これも嬉し悲しだ。* 食草のパンジーの栽培が盛んになったため、という説もあるようです。 行道山というのは浄因寺の山号で、その名のピークは地形図上にはないのだが、私が使っている古いガイドブックには「足利行道山(石尊山)」と標記されていたので、もしかしてここ(石尊山見晴台)が行道山の山頂かも…、と友人たちとも話し合った。しかしネット上の山行記録などを読むと、松田川の流れる谷を挟んで北西に位置する石尊山486mが望める見晴台、という解釈が主流で、「石尊山=行道山」云々に関しては謎が多いようだ。日本の神や仏のいいところはその“曖昧さ”だと思うから…、まぁいいか。* ちなみに、日本山名事典(三省堂)の“行道山”の項には 「古くは石尊山といっていた」 と書かれてあります。 この山域は、ヒノキ・スギの人工林にコナラ、ヤマザクラ、ホオノキ、イタヤカエデ、イロハモミジ、リョウブ、ネジキ、シデ類、ツツジ類、シラカシ、アラカシ、ヒサカキ、ヤブツバキ、アカマツなどの天然林が交ざる、関東地方の低山部によくある(里山の)植生だ。しかし…コナラとよく似た幹の…この明るい山稜の主役は…う〜ん、これはなんだろう? 葉っぱ(葉柄が殆ど無い)を見るとミズナラとカシワの中間のようで、これはもしかして交雑種なのかもしれない。秋になって堅果(どんぐり)を見ればもっとはっきりするのかもしれないけれど…、う〜ん、う〜ん、と唸って立ち止まっていると、やっぱり友人たちはそんな私を無視して先を急ぐ。あわてて私が追いかける。→ ナラガシワかな。とも思ったけれど、帰宅してから調べてみたら、やっぱり(暖温帯系の)フモトミズナラ(モンゴリナラ)に違いない。純林を形成している箇所もあったりで、私的には、とても興味深い林相だ。 こじんまりとして樹林に囲まれた大岩山(剣ヶ峰)の山頂を通り過ぎ、稜線を右(西)へ外れ、アスファルトを暫く下ると大きくて立派なお堂が建っていた。ここにご本尊として安置されているのが等身大の木造・毘沙門天だという。その本堂脇の広場の、樹齢約600年という大きなスギの前にあるベンチに腰掛けて、少し早めの昼食にした。3人とも東武浅草駅の売店で買ってきた駅弁で、Hさんのは幕の内弁当風、T君と私は偶然にも同じのアサリたっぷりの「深川めし」だった。T君は、いつもはギタギタのトンカツ弁当なのだが…。そういえば少し痩せて普通のデブになったみたい、とからかったら、彼は怒らないでニヤニヤしていた。それやこれやで、山行中でもっとも楽しくて頬が緩む時間がゆっくりと流れる。 大岩毘沙門天の山門をくぐり石階段を降り、閑散とした車道を左へ暫く進むと、再び山道(尾根道)に合流する。274.4mの四等三角点の標石…山道沿いのなだらかなこのピークは無名峰(黒岩山?)らしい…を通り過ぎ、赤い頭巾と前掛けの石仏(念仏供養尊)のある峠でまたまた小休止。案内板によると、この辺りは「カタクリの里」というネーミングもあるようだ。ここからはあともう一息だ。 両崖山の山頂はイコール足利城の本丸跡で、御嶽神社や月読命三日月神社やに天満宮などが立ち並ぶ、ここも由緒あるシックな空間だ。私にとって嬉しかったのは、この地では珍しいタブノキ(クスノキ科の常緑広葉樹・暖温帯の代表樹)がここに自生していた、ということだ。生息域(暖帯林)の北限に伐採を逃れて生き残った6株だ。三浦半島の低山などで見てきたタブと比べると、その葉の大きさが半分くらいしかなく、樹齢(200〜250年とのこと)の割には成長不良のいじけた個体が多かったが、異国で同郷人に出遭ったような感動だった。もっとも昨今は、年平均気温も随分と上がっているはずで、つまり、そんなに無理をしなくとも(天然記念物にして保護しなくても)、これからはこの地にタブやカシやシイが繁茂してもちっともおかしくない、と、さめた言い方で恐縮だが、私は思う。 両涯山から少し下った展望台からは、南面の景色(足利市街など)がよく見える。嬉しいかな、天気予報に反して日が射してきたのだ。足利市の総合運動公園もよく見えていて、これから向かうスーパー銭湯「幸の湯」はその向こう側だね、と、例によって風呂上がりの生ビールが私たちの脳裏にちらつき始める。 織姫公園への主稜コースを右に分け、急坂を下ってドスンと着いた処が足利市街の端(本城一丁目)だ。そこから閑静な車道を歩き、風呂へ入ったり、足利市駅までの散歩がてらに足利学校を見学したり、生ビールを飲んだり…と、まだまだ楽しい時間が私たち3人を待っている。 * コース等について(補足): 足利行道山は関東百名山(山渓)の1座であり、今回の私たちが歩いたトレイルの行道山〜両涯山の区間は「関東ふれあいの道・歴史のまちを望むみち」の一部にもなっています。明るい雑木林に囲まれた、よく整備された山道で…多少のアスファルトもありますが…観光を兼ねた“まったり一日ハイキング”を楽しむにはうってつけだと思います。都心から安くて近い、というのが何よりです。 なお、バスの便については本数が少ないので、事前に確認しておいたほうがよいと思います。まぁ、バスに乗り遅れたときはタクシーを利用する、という手もありますが…。 幸の湯: 足利市内に建つ、いわゆる何でもありのスーパー銭湯。露天風呂は足利松田からの“運び湯”とのことだが、特にこれといった特徴はないようだった。休憩所(兼・食堂)のおばちゃんがとても感じよかった。入浴料は600円(平日だと500円)。東武線の足利市駅まではゆっくり歩いて約30分の距離だった。 今回の足利行道山ハイクの計画段階で、下山地(足利市街)に立ち寄り湯を見つけたときは嬉しかった。そして実際に利用してみて、庶民的でくつろげる「幸の湯」には大いに満足した。 散歩がてら足利市駅へ向かう途中、400円の入場料を支払って、日本で最も古い学校(足利学校)を見学した。ここも由緒あるシックな処だった。 * 「幸の湯」は2022年5月20日に閉館したそうです。誠に残念です。[後日追記] 足利行道山A: この10年後(令和5年5月)の山行記録です。 明るくて歩きやすい雑木林の尾根道 木陰が多いので(6月下旬の割には)案外と涼しかったです
両涯山の山頂直下(南側)から足利市街を望む このページのトップへ↑ ホームへ |