No.308 鳴虫山から「やしおの湯」 平成25年(2013年)5月14日 |
||
→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ 日光市街のすぐ南にある鳴虫山(なきむしやま・1104m)は“中高年登山者に抜群の人気”だと聞く。今回そのメインコースを歩いてみて、人気の理由がおぼろげに理解できた。日帰り登山としてちょうどいいボリューム(だと私は思う)と、適度に変化のある明るい雑木林の尾根歩きと、下山地の名所(憾満ヶ淵)観光や日帰り入浴施設の「やしおの湯」など、中高年のイージーハイカーにとっての必要条件が殆ど揃っている。そして、日光の社寺が世界文化遺産に登録されたということもあり、里道などにはザックを背負った外人の若いカップルが多く、何となくエキゾチックな感じがするのもとてもいい。なんといっても、鉄道駅を起点にした周回コースが設定ができるのがうれしい。 浅草駅から午前7時30分発の東武スペーシア「けごん1号」に乗る。GW後の平日なので車内はひっそりとしている。日が射しこむのは一向に気にならない性分で、車窓のカーテンを開いたままうつらうつらしていたら、9時18分、終点の東武日光駅(標高約540m)に着いた。トイレは車中で済ませていたのでそのまま歩き始め、駅前を右折して土産物店などが建ち並ぶ日光街道を西進する。前方には真名子山と女峰山と赤薙山が形よく並んでいる。10分ほど歩いて、指道標に従って左折して、志渡淵川(*)を渡った少し先が鳴虫山の登山口だった。お天気も良く、好調なすべり出しだ。 しかしこの日は夏日で、もう汗がにじみ始めている。登山シャツを脱いで下着兼用のTシャツ1枚になると、すーっとして、そよ風が気持ちよい。ヤマツツジの咲く山道を登ると間もなく、右手に鳥居と小さな社(天王山神社)があって、ここは目礼して通り過ぎる。辺りはスギ林で、林床のコアジサイの新葉が木漏れ日に輝いて美しい。やがてヒノキ林も交じりだすが、右側(北側)はコナラ、シデ類、アカマツ、ナツツバキ、ウリハダカエデ、イヌブナ、ズミ、チョウジザクラなどの雑木林(天然林)になっている。標石(*境界標)によると、雑木林側が国有林のようだ。 高度を上げ、コナラからミズナラへと森の主人公が入れ替わって間もなく、神ノ主山(こうのすやま・842m)の山頂に着いたのは10時20分頃だった。ここでは大勢のハイカーが立ち止まって、樹林の隙間から西面の日光連山の景色を楽しんでいる。大真名子山の左手には大きな男体山が聳えていたり…、後で分かったことだが、結局ここが本コース中でもっとも見晴しのよい場所だった。 神ノ主山から新緑の美しい尾根道を進むと、ブナが目立ち始める。思わず頬が緩んで、1株の大きなブナにカメラを向けていたら、ふいに後ろから声をかけられた。なんと、超若いファッショナブルな二人連れの女性ハイカーだ。いや、そんな回りくどい言い方はしなくてよい。つまり山ガールだ。どうやら私の動作に疑問を感じているようだった。 「立派なブナだったので、写真を撮っていたのですが…」 と答えたら、「へぇ〜、これがブナですかぁ!」 と二人ともとても感動していた。なんか恥ずかしくなった私はそそくさとその場を離れたが、暫く進んだ山稜で一休みしているときに、追いついてきたその二人組の山ガールに再び声をかけられた。 「ア・カ・ヤ・シ・オって、咲いていますか?」 ヤマツツジやトウゴクミツバツツジは咲いているけれど、アカヤシオの花期は、残念ながらとっくに終わってしまっていることを告げると、山ガールたちはものすごく悲しそうな顔をした。きっとガイドブックかなんかで予備知識を得てきたのだろう。通り過ぎようとした彼女たちに、慌てて近くの真横を指さしながら、今度は私のほうから声をかけた。 「あのぉ〜、シロヤシオなら、ここに少し咲いていますが…」 それからの彼女たちの喜びようは尋常ではなかった。 「見れてよかったね。教えてもらわなかったら分からなかったね」 と暫く云い続けていた。昔の少女のような…、ロマンを追い求める若人がいる。今どきの若い娘は…、などとはもう云えない。 地形図上の無名峰…892m峰と1058m峰は知らずに通り過ぎていたようだ。相変わらず木の根っこが煩い(*)急斜面を登り切ると、11時50分、そこが二等三角点のある鳴虫山の小広い山頂だった。この山に雲がかかると雨が降るから「泣き虫山」、が山名の由来であるらしい。最近とみに涙腺の弱くなっている私とは相性がいいのかもしれない。芽吹きの新緑の隙間から男体山などの展望もちょっと楽しみながら、ハイカーで賑わう山頂部の片隅に陣取り、東武浅草駅で買ってきた駅弁「深川めし・@1,000円」を頬張る。これがアサリたっぷりで、美味いのなんのって…。 12時半、下山開始。両側に背の低いミヤコザサが疎に茂る、丸太階段やロープ場などの急坂を転げ落ちるように下る。もちろん転げ落ちはしないが、そんな感じなのだ。“コブ”も幾つか越える。石祠のある合峰1084mを通り越し、新緑の美しいカラマツ林を過ぎ、こじんまりとしたピーク(独標925m)で一休み。ここで改めて辺りの植生を観察してみたのだが、南の斜面は相変わらず人工林(ここではヒノキ林)で、北側の落葉広葉樹の天然林(雑木林)にはミズナラ、ナツツバキ、ミズキ、リョウブなどが目立っている。低木層では、やはりツツジ類が圧倒的に多いようだ。この山の“売り”がアカヤシオやトウゴクミツバツツジなどのツツジ類であることに納得だ。 午後2時10分、下りついた処が地下発電所の側道で、少し進んで有料道路(日光宇都宮道路)のガードをくぐると憾満ヶ淵方面と「やしおの湯」方面との分岐だった。思ったよりも早く下山できたので、とりあえず右折して憾満ヶ淵(含満ヶ淵・かんまんがぶち)を観光する。大谷川の渓谷美や、その大谷川に沿って立ち並ぶ苔生した「並び地蔵=化け地蔵」など、なかなか味わい深いものがあった。誰かが植えたものか自生しているものか、ホソバノアマナが道沿いのある箇所に群生して咲いていたのが印象的だった。 踵を返して「やしおの湯」へ向かう。この道も右手に明るい雑木林や大谷川の清流を見ながらの、静かで情緒のある里歩きだった。足元のあちこちは黄色のヘビイチゴや紫色のホトケノザが咲きまくり、なんとニリンソウやスミレ類も、僅かだが、未だ咲き残っていた。 * 志渡淵(しどふち)川: 大谷(だいや)川の支流。大谷川は鬼怒川→利根川となって太平洋にそそいでいます。 * 国有林の境界標について: 原則として「山」の字が入っている側が民地(鳴虫山の場合は町有林らしい)で、その背面(数字などが書いてあるほう)が国有林側です。 * スギやヒノキの根が張り出した山道について: この一帯は硬い火山岩の上に木が育ったため、根を真下に伸ばすことができず横へ伸ばしたものと思われます。 日光和の代温泉「やしおの湯」: 清滝インターチェンジの近く、大谷川の右岸にひっそりと位置する市営の日帰り温泉施設(温泉保養センター)。南面は緑の山々に囲まれていて、ロケーションは申し分ない。横長の広々とした内湯と石組みされた露天風呂は効率的で無理のない配置で、明るい休憩スペースもゆったりとしておしゃれな雰囲気だ。アルカリ性単純温泉、加熱、循環。ヌルヌル感あり。入浴料500円。東武日光駅までのバス便はそれほど多くないので、入館時に時刻表を確認することになる。 入浴後、館内の食堂で湯葉の煮付け(300円)をつまみに、生ビールをぐびぐびと飲む。ほろ酔い気分でバスを待っている間、駐車場の一角にある物産直売所など、辺りをぐるっと散歩してみた。南東の方向に小さなピラミッド型の山があるけれど、あれは多分、下山時に小休止した独標に違いない、と思って、随分と長い間その新緑の山影を眺めていた。 「やしおの湯」のHP * 後日談ですが、本サイトのBBS(掲示板)にチャメゴンさんから 『・・・山ガールたちは多分(テレビ朝日の)「大人の山歩き」という番組をみたのではないでしょうか・・・』 といった書き込みがありました。私はその番組を見たことがないので、まったく知りませんでした。慌ててネット検索で調べてみますと、この3日前(5月11日・朝の6時から)に「栃木日光・鳴虫山〜“絶滅危惧種”アカヤシオの群落」と題して放映されたようです。なるほど、それでこの日(平日にもかかわらず)鳴虫山にハイカーが多かったのかぁ、と納得です。 チャメゴンさん、情報をありがとうございました。 神ノ主山の山頂から女峰山〜赤薙山を望む 再び鳴虫山1104mへ 平成26年5月10日 山の仲間たちをお誘いして、1年後の同じ時季に再び鳴虫山に登ってきました。アカヤシオが既にその花期を終えていたのは同じでしたが、やはり昨年よりは少し季節が遅く進んでいるようで、ヤマツツジは咲き始めたばかりでした。しかしなんと、そのかわり、トウゴクミツバツツジとシロヤシオは満開でした。山稜の芽吹きの新緑も美しく、お天気にも恵まれて、木々の隙間から日光連山もよく見えていました。 鳴虫山の写真集: 大きな写真でご覧ください。 このページのトップへ↑ ホームへ |