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三ツ峠登山口
枯れたウバユリ
清八山の山頂
本社ヶ丸の山頂
宝鉱山のヤグラ跡
鶴ヶ鳥屋山の山頂
鉄塔下から見上げる
船橋沢を下る
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展望と自然林の尾根歩き
新宿-《高速バス1時間45分》-河口湖駅前-《タクシー20分》-三ツ峠登山口〜大幡八丁峠〜清八山1593m〜清八峠〜本社ヶ丸1631m〜鉄塔脇〜角研山1377m〜宝鉱山のヤグラ跡・笹子駅分岐〜鶴ヶ鳥屋山1374m〜笹子駅分岐〜鉄塔下〜(船橋沢)〜JR中央本線笹子駅 【歩行時間:
5時間40分】
→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ
台所の炊飯器からメロディーが微かに聞こえる。朝の5時、どうやら予約通りにご飯が炊き上がったらしい。洗濯機といい炊飯器といい、簡単な操作で忠実に仕事をこなす、しかも文句も言わないで、素晴らしい電化製品だ。これじゃぁ主婦はやっぱりラクだろう〜なんてことは絶対に、口が裂けても口には出せない。そっとベッドから起き上がって、静かに着替えてから台所へ行き、手のひらに塩をたくさん振りかけて大きなおにぎりを2つ作る。おにぎりの中身は妻の佐知子が紀州産の梅を丹精して漬けた梅干だ。巻いた焼き海苔のいい匂いが部屋中に広がる。2階で寝ている父の寝息も確認してから、昨夜準備しておいたザックを背負って、「じゃぁ〜行ってくるよ」 と爆睡中の佐知子に小さく声をかける。
本日の天気予報は“快晴”だ。家を出た途端、やはりうきうきとしてくる。ターゲットは御坂山地の北東部に聳える本社ヶ丸(ほんじゃがまる・1631m)と鶴ヶ鳥屋山(つるがとやさん・1374m)だ。
新宿駅前からの富士五湖方面行きの高速バスは人気の路線なので、矢張りキャンセル待ちになってしまったが、なんとか始発(7時10分発)に乗ることができた。定時の9時少し前に河口湖駅前に着き、ここからはタクシーを利用する。休日ならば9時発の乗合バスがあるのだが、平日なので次のバスは9時40分発になってしまうのだ。登山姿で駅前をウロウロしている人は私しかいなかったので、つまり相乗り交渉もままならず、もったいないけど一人の乗車になった。
でも、タクシーに乗ると地元の情報が聞けて面白いこともある。話好きの運転手さんから、こちらの桜は平地よりは例年1ヶ月ほど遅いが、今春は大分早いようだ、と聞かされる。なるほど、東京のソメイヨシノは数日前には散ってしまったけれど、タクシーの車窓からは6〜7分咲きのそれが目に優しい。河口湖畔を通り過ぎるときの、水面に映る白銀の富士山に桜の花…、運転手さんの説明にも力が入る。居眠りはしていられない。
駐車場がある三ツ峠登山口から、三ツ峠山方面への懐かしのジープ道(→ No.133「三ツ峠山」)を右に分けて、車止めのゲート脇から清八林道を歩き始めたのは9時30分頃だった。カラ類の小鳥が盛んにさえずり、道沿いのキブシはクリーム色の可愛らしい花穂をぶら下げている。しかし…、この登山口の標高は既に1300m近い。“春の予感”はあるけれど、足元に草花の姿は未だ見えず、殆ど冬枯れ状態だ。枯れたウバユリが風に揺れている。
河口湖に注ぐ西川が流れる谷に沿って、その左岸から右岸へと、清八林道をなだらかに登る。右手後方には電波塔の立つ御巣鷹山(三ツ峠山の1峰)が見え隠れしている。辺りはカラマツ林にミズナラやモミなどの天然林が交ざる林相で、車が走らないダートということもあり、気分はすこぶる良い。林縁の(陽のあたる)急斜面にはフサザクラやアブラチャンなどの株立ち状の樹木が多いようだ。土砂が崩れやすい不安定な急斜面で、主幹が倒れても萌芽枝が生き残るというフサザクラなどの戦略には、いつも感心して感動してしまう。
登山口から50分ほど歩いた処が富士山の見える林道終点の広場で、そのすぐ先が大幡八丁峠だった。指道標が壊れて(分解されて)地面に置いてあったが、地図とコンパスさえ持っていれば分かりやすい分岐だ。三ツ峠山への尾根道を右に分けて北へ進む。ミズナラ、ブナ、ハウチワカエデ、モミ、ツガ、ツツジ類などの明るい自然林だ。ひと登りすると清八山(せいはちやま・1593m)のこじんまりとした山頂で、展望は凡そ300度。南面の三ツ峠山の右手の富士山が相変わらず大きいが、そのさらに右手の黒岳や尖がり頭の釈迦ヶ岳も近くて大きい。そしてその奥には南アルプスの主峰たちが白くぼんやりと連なっている。これまでも、これからも、ずっと素晴らしい眺めが続くことになる。
清八山から北へ少し下ると清八峠で、ここで笹子駅方面の登山道を左に分け、主稜を東へ向かう。岩場が多くなってくるが、それほど怖くない。展望の良い“コブ”を幾つか越えて、本社ヶ丸1631mの山頂に着いたのは11時半頃だった。清八山の山頂にあったのと同じような1株のアカマツが印象的だ。そして、ここからの展望も清八山に勝るとも劣らない。1組の中年カップルが(富士山がよく見える)南側で休憩していたので、少し遠慮して北側の三等三角点の標石の傍に陣取って、八ヶ岳や奥秩父や大菩薩連嶺の山々などを眺めながら昼食にした。自作の大きなおにぎりとゆで卵だ。自分で云うのもなんだけれど、これがやはり絶品で、2個ともペロッとたいらげた。暑くもなく寒くもない微風快晴。甘露甘露の至福のひとときだ。
今回は鶴ヶ鳥屋山も狙っているので、私にとってはロングコースだ。あまりのんびりともしていられない。胸焼けするほど腹がきつかったけれど、意を決して、さらに東へ向かって縦走を続ける。
冬枯れ状態のブナ・ミズナラ自然林の隙間から展望も楽しみながら、1541m峰(石切山)〜鉄塔脇〜角研山(つのとぎやま・1377m)…とアップダウンを繰り返す。尾根が痩せている箇所もあったりして、ムードたっぷりだ。初夏にはツツジ類の花が美しい処でもあるらしい。林床のスズタケが消えて、何時の間にか背の低いミヤコザサになっている。
角研山から下っての鞍部(笹子駅分岐=船橋沢下降点=宝鉱山のヤグラ跡)で少し迷ったけれど、初志貫徹、鶴ヶ鳥屋山へのピストンを決行した。しかし矢張り、これがかなりのアルバイトだった。ガイドブックには「(笹子駅分岐から鶴ヶ鳥屋山の)往復には約1時間をみておけばよい」 と書いてあったけれど、バテ始めていた私にとってはとんでもないことだった。実際は、休憩時間も含めて1時間45分を費やしてしまったのだ。
ブナやミズナラやツガの巨木も目立つ感じのいい稜線だけれど、行けども行けども目標の鶴ヶ鳥屋山に辿りつけない。やがて、標高が少し下がってきたからだろうか、クリ、アカマツ、ネジキ、ナツツバキ、リョウブ、イヌシデ、アカシデ、ハリギリ、ホオノキ、ミズキなどの低山型の樹種が目立ってくる。眼前のピークが結局ニセ山頂だった、をいったい何回繰り返しただろう。ようやく鶴ヶ鳥屋山の山頂標識と三等三角点を見たときは、けっこう感激だった。樹林に囲まれていて展望はそんなによくないが…、とにかくホッとした。陽が落ちる前になんとか下山できそうだ…。
笹子駅分岐に戻ってから稜線を右折して、標高約600mに位置する笹子駅に向かって急坂をひたすら下る。アスファルトの林道を横切り再び山道へ入り、大きな送電鉄塔の真下を通過する。何時の間にかコナラ、クリ、シデ類の(よくある)雑木林を下っている。それから、感じのよい船橋沢の渡渉を数回繰り返し、芽吹きの新緑とサクラやレンギョウの咲く里道を通り、無人の笹子駅に着いたのは午後5時近かった。自宅で(多分)心配している佐知子に携帯電話で“無事下山”の連絡をする。そして、自動販売機のポカリスウェット500ccを一気に飲み干して、今日の私の登山は終わった。
寒い駅舎で次の上り電車を待つ約30分間、えもいわれぬ仕合わせな気持ちでベンチに腰掛けて、私はずっと目を閉じていた。
* 本社ヶ丸登山のコース取りについて: ネット検索などで調べてみると、標高約600mに位置するJR中央本線笹子駅からの周回コースが圧倒的に主流のようです。本社ヶ丸の裏登山口とも云える三ツ峠登山口の標高が約1300mですから、私は大分楽をしたことになります。本社ヶ丸と鶴ヶ鳥屋山を併せると、けっこうきつい登山になりますが、中高年の(私のような)足に自信のない方には清八林道(三ツ峠登山口)からのアプローチをお勧めします。交通費がちょっと割高になりますが…。
なお、鶴ヶ鳥屋山からはさらに東へ進んで中央線の初狩駅(標高約460m)へ下るコースもありますが、笹子駅へ下山するほうが若干楽だと思い、私は今回のコースを選びました。
* 適期について: 今回の「本社ヶ丸から鶴ヶ鳥屋山」については、岩場あり、展望の尾根歩きあり、沢筋の渡渉あり、と変化に富んでいて、ブナ・ミズナラの明るい山稜もとてもステキでした。しかし春植物の季節には早すぎて、印象に残った花は登山口と下山口に咲いていたキブシだけだった、というのが少し残念でした。ツツジの咲く新緑のころか、山が装う紅葉の時季は、きっと、もっと素晴らしい山行になると思います。展望に関しては今回のような“冬枯れのころ”が断然いいのですが…。とかくこの世はままなりません。
* 鳥屋(とや)とは、鳥を飼っておく小屋のことですが、それ以外にもいろいろな意味があるようです。興味のある方は国語辞典を引いてみてください。
ブナ・ミズナラの明るい山稜
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鶴ヶ鳥屋山(山腹)から本社ヶ丸を望む
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清八山から富士山〜黒岳〜釈迦ヶ岳を望む(右奥は南ア)
再び 本社ヶ丸へ 平成26年11月8日
富士急・河口湖駅前-《タクシー》-三ツ峠登山口9:50〜大幡八丁峠〜清八山1593m〜清八峠〜本社ヶ丸1631m〜角研山1377m〜笹子駅分岐〜(船橋沢)〜JR中央本線・笹子駅17:00 【歩行時間:
4時間30分】
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山歩会の11月定例山行に本社ヶ丸を選びました。いい山なので紹介せずにはいられませんでした。
雲っぽい一日で、富士山展望に関してはイマイチでしたが、ブナ・ミズナラの自然林やスリルの岩場や下山路(船橋沢)の渡渉など、変化に富んだコースにみなさん大満足だったようです。紅葉については、山の中腹あたりまでがその見ごろを迎えていましたが、山稜は既に散っていて冬枯れの様相でした。
登山前日(11月7日)は立冬で、日も随分と短くなってきた今日この頃です。それが気になって…真っ暗闇になってしまうと船橋沢の渡渉は超危険なので…随分と心配しましたが、全員で声を掛け合って、なんとか明るいうちに下山できました。夕暮れ迫る笹子駅でホッと一息ついたときは、山仲間の温かさと山の良さをしみじみと感じました。
* じつは、この日は(たまたま)笹子駅近くの笹一酒造で「新酒フェア」が開催されていたのです。でも、残念なことに試飲会などのイベントは午後4時30分までで、私たちが下山したのは5時近くになっていました。…残念な思いをしたのは私と2〜3人の(酒好きの)メンバーだけでしたが…。(^^ゞ
佐知子の歌日記より
半身の富士仰ぎつつあたたかなココア味わう本社ケ丸に
若者は60リットルのザック置き 縦走の山さらりと指さす
急坂をすべらぬように落ち葉踏む 日暮れ気になる本社ヶ丸
本社ケ丸 無事の下山に乾杯のビールするする喉すべるなり
ブナ林の山稜を進む
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船橋沢の渡渉
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