No.369 栗駒山(須川岳)1626m 平成30年(2018年)10月4日(木)〜5日(金) |
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渡渉でドボンはあったけれど… 第2日目=ハイルザーム栗駒-《タクシー約15分》-イワカガミ平8:20〜(東栗駒コース)〜東栗駒山1434m〜栗駒山1626m〜天狗平〜(須川コース)〜昭和湖〜名残ヶ原〜須川高原温泉(入浴)・須川温泉16:35-《バス1時間34分》-18:01一ノ関駅18:37-(やまびこ54号)-21:12東京駅 【歩行時間: 第1日=5時間 第2日=4時間40分】 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ 宮城県と岩手県と秋田県に跨る栗駒山は日本二百名山の一峰で、安山岩の成層火山 (活火山ランクB)であるという。日本山名事典(三省堂)による山名の由来は、栗原(宮城県側)の農民がこの山の駒形の残雪(天馬)を見て種まきを行う習慣があったことによるらしい。岩手県側では須川岳、秋田県側では大日岳と呼ぶそうだ。 その栗駒山の紅葉は“日本一とも称されている”とのことで、私達夫婦にとってはず〜っと憧れの一座だった。で、この山域の紅葉の盛期と思われる10月の初旬に的を絞って、1ヶ月前から宿を予約したりして満を持していた。利用する交通機関については新幹線とタクシーとバス…と金に糸目をつけずに(時間をお金で買って)気張ってみた。幸いにもお天気に(雨が降らない程度だが)まぁまぁ恵まれて、栗駒山の素晴らしい紅葉とその麓の名湯を堪能することができた。 * 栗駒山の登山コースについて: 現在整備されている代表的なものだけでも9コースほどがあるようです。その内訳は、宮城県側に6コース(中央コース・東栗駒コース・裏掛コース・大地森コース・湯浜コース・御沢コース)、岩手県側に2コース(須川コース・産沼コース)、秋田県側に1コース(秣岳コース)で、かなりバラエティに富んでいます。それらのコースをいろいろに組み合わせて歩くのも楽しいと思います。今回私達が歩いたのは、第1日目が最短で歩きやすい中央コースと野趣あふれる裏掛コースで、第2日目が沢歩きが楽しい東栗駒コースと変化に富んだ須川コースでした。…そうなんです、(紅葉と温泉に誘われて)同じ山に2日間連続で登ったんです…。 ●第1日目(10/4・薄晴れ) 中央コース→栗駒山→裏掛コース 盛岡行きの東北新幹線・やまびこ41号がくりこま高原駅に着いたのは午前8時26分で、ホームに降り立った私達はタクシー乗り場へ急行する。マイカーやレンタカーを利用しないで栗駒山の南側の(宮城県側の)登山基地へ行くには、シーズンの土日祝以外は乗合バスが運行されていないので、タクシーを利用するしかないのだ。 くりこま高原駅前のロータリーには空のタクシーが何台も並んでいて、楽々と乗車することができた。 「タクシーの予約はやっぱり必要がなかったね」 と、まずまず順調な滑り出しだ。 無口な老運転手さんにタクシー料金の12,290円を支払って、トイレへ行ったりストレッチしたりして準備して、標高約1100mに位置するイワカガミ平から歩き始めたのは9時40分頃だった。まずは代表的な中央コース(中央遊歩道)の灌木帯を進む。道が広くて石畳で歩きやすい。あちこちの背の低い木々がもう充分に色付いていて、さっきからず〜っとわくわくしている。 ドウダンツツジ属の鮮やかな赤がとにかく凄い。数は少ないけれどヤマウルシの赤も凄い。本来は真紅のナナカマドは…先日の台風の影響だろうか…ほとんどその葉を落としていたが、赤い実がたくさんぶら下がっている様は遠目にはきれいな紅葉だ。ミネカエデやハウチワカエデの紅葉も素晴らしい。オオカメノキも負けじと赤っぽくグラデーションしている。ミヤマナラや矮小化したブナやダケカンバは黄色や茶色に色付いている。それらの紅葉や黄葉に交じってハイマツやチシマザサやアカミノイヌヅゲの緑葉が芸術的なコントラストだ。そのアカミノイヌツゲには文字通りの赤い実がたくさん生っている。やがて視界が益々広がって、栗駒山のおっとりとした山頂部が近くなってくる。もう感嘆符とため息の連続だ。 木製の長い階段を上って、ハイカーで賑わう栗駒山の山頂に着いたのは11時20分頃だった。駒形根神社嶽宮の小さな社に手を合わせてから、一等三角点(点名:酢川岳)の標石の近くに陣取って、東京駅で買ってきたサンドイッチを食べる。そしてサーモスの熱いコーヒーを飲みながらぐるっと360度の大展望、たっぷりと至福の時間を満喫する。北面が特に晴れていて、鳥海山・焼石連峰・早池峰山などがよく見えている。 この日の下山路には裏掛コース(新湯コース)を選んだ。距離はちょっと長いけれど、確かにとても静かで“この上なく原始性の残されているコース”だった。しかし…、中央コースや東栗駒コースとの分岐を過ぎて裏掛コースへ入って、磐井川(いわいがわ)源流を横切る頃から道が少し分かりずらくなってきて、気が抜けなくなった。前方には笊森避難小屋が小さく見えているので、今いるここが何処なのかは分かるのだけれど、その笊森や産沼方面との分岐には道標が無くて、25000図(地形図)と首っ引きで右折して正しい登山道へ進む。その分岐からは一本道で、踏み跡や赤布などもあるので(道迷いに関しては)楽だったが…、もしもガスっていたり雪渓が残っていたとしたら、と考えるとぞっとする。 ガイドブックなどによると、この裏掛コースも御沢コース(表掛コース)などと同じで、2008年の岩手宮城内陸地震で閉鎖されていたのを2013年に整備して開通した、とのことだ。その2008年の地震で発生した土石流跡の凄惨な光景を目の当たりにしたり、東面の景色が大きく開けたドゾウ沢源頭の草紅葉や灌木帯の紅葉を愛でたりしながら、トラバース気味に緩やかに下る。 やがて心落ちつく原生のブナ林へ入る。実際、この裏掛コースは変化に富んでいてとても気分がよい。そしていよいよ、サァ〜この新湯沢を渡ればいこいの村跡の下山口(登山口)は近いな、と思ったその渡渉で、後ろを歩いていた妻の佐知子がドボンをやってしまうのだ。 台風が立て続けに通過したりして、水量がかなり多くなっていたのだ。だから靴を脱いで(靴下は履いたまま)、向こう岸との間に張られたロープを頼りに、膝下の辺りまで水に浸かって飛び石の上を渡ったのだが、足の疲れと水流による目まい(平衡感覚の錯覚)もあったのだろう。幸いに上流側に落ちたので流されることもなく、すぐに起き上がって飛び石に乗れたので、事無きを得た。私はその一部始終を手前の岸から見ていて、一瞬息が止まったような感覚に襲われた。…何れにしても、何処も怪我がなくてよかった。 新湯沢を渡るとすぐに木製の古い階段があり、それを上ると(今は使われていない)休憩舎があって、左手の(近道と思われる)林道はヤブ状態で進めなくなっているので、仕方なくコンクリート製の(これも)古い階段を上っていくと、県道42号線沿いの小広場(登山口・いこいの村栗駒跡)へ出る。ここいら辺りはちょっと昔までのスキー場だったらしい。…この裏掛コースへ入ってからは、やっぱり、とうとう誰にも出会わなかった。 今朝方タクシーで通った県道42号線を…長いスノーシェルターを二つ潜ったりして…だらだらと下って予約の温泉宿(ハイルザーム栗駒)に着いたのは午後4時を少し過ぎていた。標高差で1000m近くの長い下りのせいか常日頃の鍛錬不足のせいか、足の筋肉がとても痛かった。宿の私達の部屋が物干し部屋になったのは、云うまでもない。 駒形の湯「ハイルザーム栗駒」: 栗駒山の南麓・標高約650mに位置する(くりこま高原温泉郷の)近代的な温泉宿泊施設。私達は(疲れていて)利用しなかったが、何種類かのプールなども併設している滞在型の健康増進施設でもあるらしい。泉質はナトリウム・硫酸塩水低張性アルカリ性高温泉で殆ど無色透明。(多分)加熱で半循環。大浴場には高温と低温の湯船があり、外湯もたっぷりとした広さだ。朝と晩で男風呂と女風呂が入れ替わる。食事の量も質もサービスも全く問題ない。近くに硫黄泉の新湯温泉「くりこま荘」がある。 「ハイルザーム」とはドイツ語で、健康に良い(心身の)為になる、という意味だそうで、この宿のコンセプトはちょっと舶来的な(ハイカラな)感じだ。東北にきてこれはちょっと意外で、当初は違和感をもった。なにもあえてドイツの森林セラピー的な示唆をしなくても、東北の素晴らしい自然や風土そのものが(旅人にとって)心身の為になっていると思うからだ。 「ハイルザーム栗駒」で働く人たちは人情的で(静かな優しさに包み込んだ)心温まる気配りをしてくれた。…私は常々思うのだが…、「おもてなし」における東北ブランドのレベルの高さを、案外と当地の人たちは分かっていないのかもしれない。それがまた東北のよさのひとつでもあるのかもしれないけれど…。 「ハイルザーム栗駒」のホームページ ●第2日目(10/5・霧) 東栗駒コース→栗駒山→須川コース ハイルザーム栗駒の朝湯に浸かって、そして7時30分からの朝食を食べ終わるころ 「(8時に予約の)タクシーが来ましたよ」 と係の人に告げられた。栗駒山登山口のイワカガミ平までは9時発の(宿の)無料送迎サービスがあるのだけれど、少しでも早く出発したい私達は本日もタクシーを利用したのだ。…結果論だが、9時発の無料送迎車を利用したとしても、この日の時間的な問題は何もなかった。正味10分程度の乗車時間だったのだけれど、迎車料金とか予約料金とかの加算で(なんと)7,510円のタクシー料金を支払った。 濃霧のイワカガミ平から粘土質で水たまりの多い東栗駒コースへ入ったのは8時20分頃だった。昨日の中央コースは“遊歩道”だが、本日の東栗駒コースは“登山道”で、距離は長いし変化もある。特に新湯沢の上部に沿った100mほどもある滑滝の(初級)沢登りは楽しかった。昨日の(裏掛コースでの)ドボンを思い出してか、佐知子は緊張した面持ちだったが…。 だらっとしていて何処がピークだか分からないような東栗駒山1434mの山頂には三等三角点(点名:新湯森)の標石があるはずだが、矢張り気付かずに通過してしまった。その辺りでは潅木化したネズコ(クロベ)やハイマツに交じってガンコウランが目立っていて、未だに赤い実を残している株もあった。一粒食べてみたら、豊潤な香りと甘さが口の中に広がった。 本来ならば展望が良くて、夏にはステキなお花畑になるというなだらかな栗駒草原を辿り、中央コースとの分岐を過ぎると途端に人影が多くなって、間もなく(もはや懐かしの)栗駒山のホワイトアウトの山頂だった。風が出てきたので少し寒い。フリースとカッパの上着を着て、風の弱い場所を探して、宿で握ってもらったオニギリで早目の昼食だ。 栗駒山の山頂からは西へ向かって、条件が揃えばブロッケンが現れるという県境尾根をゆるやかに下る。ハイマツの中にハクサンシャクナゲやアカミノイヌツゲやチシマザサや矮小化したミネカエデなどが交ざる、ここもいい感じの“小道”だ。ほどなく須川分岐(天狗平)の十字路で、ここを右折して岩手県側の須川コースへ進む。この下山コースは栗駒山登山のメインルートなので行き交うハイカーは多いけれど、とにかく濃い霧なので、景色は何も見えない。スコリア交じりの山道に、この山が火山であることを実感するだけだった。 ひたすら足元を見ながら歩いていると硫黄の臭いがしてきて、やがてトイレのある昭和湖(*)畔を通り過ぎる。イワカガミの(鏡のような)光沢のある暗赤紫色の丸い葉が目立っている。そして地獄谷を右手に見ながら進み、昭和湖から流れているゼッタ沢を木板の小橋で渡って、灌木たちの紅葉が美しいその左岸を下る。するとなんと、嬉しいことに霧が晴れてきた。産沼コースとの分岐(自然観察路分岐・苔花台)の辺りでは陽が射してきて、対岸の山腹が燃え上がるような紅葉に照り映えている。思わずニンマリ。ここで大休止して“紅葉狩り”を楽しむ。 高層湿原の名残ヶ原から須川温泉へ下る道は概ね3通りほどあるが、私達はその真ん中の賽の磧(かわら)を通る道を選んだ。草紅葉の湿原と周囲の紅葉と岩っぽい景観の…どれがゆげ山でどれが硫黄山なのかは同定できなかったけれど…素敵な散策路だった。 硫黄臭のぷんぷんする熱い源泉が湯滝となって流れ落ちる(湯川の)脇を下って、観光客で賑わう須川高原温泉に到着したのは14時頃だった。午後にはこれっきゃないという一ノ関駅前行きのバスは16時35分発だから、なんと2時間半もの“自由時間”が、この須川温泉で、私達に与えられた。ここでも思わずニンマリだ。 * 昭和湖: 現地の案内板によると、1944年(昭和19年)の最新噴火によってできた湖(カルデラ湖)とのことです。乳白色の強酸性の水をたたえています。 須川温泉「須川高原温泉」: 栗駒山の北西側の麓・標高1126mに位置する古くから(約300年前から)の名湯。その泉質(酸性・含硫黄・鉄-ナトリウム-硫酸塩-塩化物線・摂氏47度〜49度・ph2.2)もさることながら、毎分6000リットルという自然湧出量がスゴい。湯宿は2軒で、(私達が立ち寄った)自家源泉宿の須川高原温泉と、湯元の岩手県側から配湯している秋田県側の栗駒山荘がある。1ヶ月前に宿泊の予約を試みたが、何れもとっくに満室で、あっさりと断られた。なお、湯川が流れ落ちる処にはその湯をためた大露天風呂もある。もちろん、すべて源泉掛け流しだ。 須川高原温泉には男女別の広い内湯(大浴場)があり、白濁している酸っぱい湯が湯船から滾々と流れ落ちている。日帰りの入浴料は大露天風呂と同じ@600円。館内には食堂や売店や休憩所もある。私達は利用しなかったが、無料の天然蒸し風呂(おいらん風呂)や足湯もあるそうだ。 熱めの湯なのでそれほど長湯はできず、湯上がりからバスを待つ時間が長くて、ビールがじゃんじゃん喉を通った。私個人の総合的な評価としては(久々に)かなり高得点の温泉だ。→当サイトの「山旅の温泉宿」のページを参照してみてください。 「須川高原温泉」のホームページ 佐知子の歌日記より 念願の栗駒山が車窓より見えたときから登山がはじまる 陽を浴びて紅や黄の葉の色は濃く山肌かがやく栗駒山よ 足もつれ栗駒山の沢水に腰まで浸かる六十ウン歳 きのうとは別のコースで栗駒の頂に立つ痛む足にて あらあらら日差しもどりて錦秋の須川渓谷撮る君いそがし もしかして硫黄かと嗅ぐ山道は すなわち湯の道 須川温泉 たっぷりと栗駒山を登っても次の山へと夢はひろがる 栗駒山は日本一の紅葉だ!
秋の栗駒山・写真集: 大きな写真でご覧ください。 このページのトップへ↑ ホームへ |