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No.94-2 冬の 上高地
平成18年(2006年)1月10日 風は無かったが・・・小雪がぱらついた

上高地・略図
「夏」とは全然違う・・・

JR松本駅-《バス75分》-中の湯バス停-《送迎車5分》-中の湯温泉(泊)-《送迎車5分》-中の湯バス停(釜トンネル入口)〜大正池〜河童橋〜ウェストン碑〜田代橋〜中の湯バス停… 【歩行時間: 5時間】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(河童橋)へ
  西穂高口駅付近を散策(番外編): 翌々日、新穂高ロープウェイに乗りました。


 年末に、くしゃみをしたらギックリ腰になってしまい、大掃除やらの家の手伝いが何もできなくて、妻の佐知子の目がつり上がっていた。年が明けてからも、室内でストックをつき、腰の痛みと五十肩と水虫と痔に、脂汗を流してヒーヒー云っている私だった。歳相応の持病の数々で、なんてことはないのだが、特に新参者のギックリ腰に関しては、これで3年連続の快挙(愚挙?)である。どうも秋から冬にかけては私の腰は要注意のようだ。本格的な冬山を歩いてみたいけれど、予定していた山行はすべてボツ。なんとも情けない話だが、今の私は佐知子に云わせると、コルセットに身を固めたASIMO(アシモ)君だ。
 そんなヨレヨレの私にも歩くことができる素晴らしい「冬山超入門コース」があった。それが「中の湯」をベースにした河童橋付近までのなだらかな日帰り周遊コース、つまり上高地散策だ。

大正池ホテル裏から自然探勝路へ
前方に大正池

この先から樹林帯へ迷い込みました
自然探勝路を歩く

穂高連峰は雲の中でした
誰もいない河童橋

左側に梓川が流れています
梓川右岸を下る
 前泊した「中の湯温泉旅館」のサービス送迎車で約5分、車止めのゲートがある釜トンネル入口(中の湯バス停の斜め前)で降ろしてもらう。人影は無く、小雪がぱらついている。売店の管理人さんの話によると、今朝の気温は当地としては暖かいほうでマイナス約9度、とのことだった。その売店前から歩き出したのは午前8時頃。昨年(H17)の7月2日に開通したばかりの(新)釜トンネルへ入る。
 この(新)釜トンネルは全長1380mの立派なもので、対面通行が可能になって、以前の暗いイメージは払拭されていた。この季節、一般車両は通行止めだが、治山工事関係の車両がときたま行き来している。所々に明かりがついているので懐中電灯は必要ないし、路面は凍結していないのでアイゼンも必要ない。隔世の感、がする。
 釜トンネルを抜け出ると、白銀のモノクロームの世界が広がる。積雪の深さは1m弱くらいだろうか、思ったより少ない。梓川を挟んで対岸の、横一線の灰白色の渓畔林が美しい。車道の雪は固められていて、必要ないとは思ったが、ザックにぶら下げておくのもうっとおしいので、宿で借りてきたスノーシュー(有料1,500円)を装着した。すると今度は歩くのがうっとおしくなった。
 大正池ホテルの手前を左へ逸れて、河畔の自然探勝路へ入る。大正池は半分凍っていて、僅かに残った枯木立が寂しそうに立ち尽くしている。マガモが数羽、未凍結部分の岸辺を泳いでいる。前方の穂高連峰は雲の中だったが、左手の焼岳がガスの切れ間からときたま見え隠れする。寒々しくも清々しい風景だ。
 林の中へ入ると踏み跡が徐々に頼りないものになってきて、いよいよスノーシューが有効になってきた。夏には入れない処を通るのは楽しかったが、小動物などのフィールドサイン(足跡など)を観察しながらテキトウに歩いていたら、田代池の左奥を通って、もとの車道(梓川左岸)へ出てしまった。
 母ザルに続いて小ザルが目の前を横切る。その親子ザルが走り去っていった方向の雪面を見て、「森の中にウサギの足跡と同じくらいたくさんあった、あの引きずった足跡はサル、だったのね…」 と佐知子がしきりに感心している。河畔の石ころをひっくり返して川虫を捕らえて食べたり、木の芽やササの葉などを食しているらしい。私たち人間と同じ霊長類でありながら、服も着ず手袋もつけず、裸足で雪上を歩いているというのが私には信じられない。極寒の中で生きのびているサルたちの逞しさに脱帽だ。
 閑散としたバスターミナルの軒下でアンパンとコーヒーの早めの昼食を摂り、それから誰もいない河童橋を渡る。宿や売店などはすべて閉鎖されていて、夏の騒々しい上高地がウソのようだ。
 カラマツやカンバ類などの木々には思ったほど霧氷はついていなかったが、上流側も下流側も雪景色が美しい。やや赤っぽく見える樹木はケショウヤナギに違いない。晩秋から春にかけてその梢が紅く染まり、白く蝋質化した若枝など、まるで化粧したように見えるのでケショウヤナギ。この日本での自生地は、殆ど北海道の十勝・日高地方と上高地だけ、という希少価値のある樹木だ。その「お化粧姿」を見ることができたのは、これからもずっと私達の自慢になると思った。
 梓川右岸をなだらかに下り、帰路につく。左手対岸の六百山から霞沢岳へ続く山並が白くて大きい。ウェストン碑を通過し、懐かしの上高地温泉ホテル前も通り過ぎる。工事用の車両が通る右岸の治山運搬路をこのまま進んだほうが除雪されていて歩きやすいのだが、私達は敢えて田代橋を渡って再び左岸へ出ることにした。少しでも雪深い処を歩いてみたかったのだ。
 田代橋から下流を眺めると、カワガラスがせっせと水に潜っているのが見えた。少し進んでから、うっとおしいスノーシューを外してみた。途端に足元が軽くなって歩きやすくなった。こんなことならもっと早くからスノーシューを外せば良かったと思った。この日に関しては、自然探勝路の一部(道なき樹林帯へ敢えて迷い込んだ)を除いては、スノーシューは全く必要なかった。
 釜トンネル入口に戻り着いたのは午後2時半頃。私のギックリ腰もなんとかもちこたえたようでホッとした。売店の優しい管理人さんがお茶とお菓子をご馳走してくれた。間もなく「中の湯温泉旅館」の送迎車が到着した。その車に乗るとき、ふと振り返って、誰もいない河童橋のたもとで飲んだサーモスの熱いコーヒーの味を思い出した。

ホテル並みの施設です
中の湯温泉旅館

眼前に雄大な山岳風景
玄関前から穂高連峰
中の湯温泉旅館: 安房峠中腹の標高約1500mの山中に位置する、穂高連峰などの展望に優れた一軒宿。焼岳の登山基地としても有名だ。宿のパンフレットによると、旧来は釜トンネル入口にあったものを、安房トンネル工事の関係で平成10年春に移転して再オープンしたものらしい。中の湯バス停(釜トンネル入口)までは宿の送迎車で約5分の距離。釜トンネル入口にある売店はここの管轄。新島々駅までの送迎サービスもある。
 泉質は無色透明の単純硫黄泉。内湯は石貼りで、熱めと温るめの二つの浴槽がある。源泉が熱いので加水して温度調節をしているらしい。消毒剤も若干使用しているようだが塩素臭は気にならない。真正面の霞沢岳が大きく、その左手には険峻な穂高連峰が望める。まるで雪庇のような雪の層が周囲を囲む露天風呂で、垂れ下がる氷柱を口に含んでみたら火照った身体に冷たくて、もう最高の気分だった。私達は利用しなかったが、この他に家族風呂もあるし、付属施設として釜トンネル入口近くに「ト伝(ぼくでん)の湯」という洞窟風呂もある。こちらは鉄分の多い泉質のようだ。温泉を利用した心地よい暖房もよかったし、昼に食べた当地(信州)の素材を使った蕎麦も美味しかった。「日本秘湯を守る会」会員の宿。私達はトイレ付きの部屋で1泊2食付一人13,800円。洗練されたサービスで、快適な宿だった。
  「中の湯温泉旅館」のHP

 この宿に、じつは、私達は3連泊した。上高地散策の翌日は「湯治」に専念して、からっと晴れた翌々日の帰路には新穂高温泉へ立ち寄った。そしてロープウェイに乗り、西穂高口駅から西穂高山荘へ向かって少し歩いてみたりして、荘厳な冬の北アルプスの片鱗を垣間見た。→下欄参照

初秋の上高地散策: 平成11年10月の記録です。参照してみてください。

梓川の奥にぼんやりと焼岳が・・・
河童橋から焼岳を望む
寒々しくも清々しい景色
上高地の雪原を歩く


*** おまけ(番外編) ***
新穂高ロープウェイ西穂高口駅付近を散策
平成18年(2006年)1月12日 【歩行時間: 約1時間】 なんと快晴でした


 上高地散策の帰路、新穂高温泉からロープウェイに乗り、西穂高山荘へ向かって(その途中まで)散歩してみました。…少し歩いただけで、白銀の別世界が開けます。

オオシラビソの原生林です
樹氷の迫力は蔵王並み

開けた処からの山岳展望が素晴らしい
この日は好天気で展望もグー

ゴンドラ内から撮影
新穂高ロープウェイから笠ヶ岳(左端)方面を望む

西穂高口駅には散策用の長靴なども用意されています。
冬の新穂高ロープウェイ観光の際は是非お試しください。超お勧めです。


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