No.94-1 初秋の 上高地散策 平成11年(1999年)10月9日 |
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松本電鉄・新島々駅-《バス70分》-大正池〜田代池〜田代橋〜河童橋〜(梓川左岸)〜明神池〜(梓川右岸)〜河童橋〜上高地温泉ホテル(泊)… 【歩行時間:
3時間30分】 |
ハイカーなどで賑わう上高地 |
焼岳2455m |
穂高連峰(岳沢) |
*** コラム ***
生命力は強いが日が当たらないと弱い樹種を陽樹というが、上高地に自生するヤナギ類(ケショウヤナギ、エゾヤナギ、イヌコリヤナギ、ドロノキなど)やハルニレ・サワグルミなどはその陽樹の代表的なものだ。それらは河川の氾濫や森林火災や台風などの「森林の撹乱」の後に草本類に続いて真っ先に頭角を現してくる樹木なので、パイオニア植物(先駆植物)とも云われている。と、私の云いたいことの準備は整った。 上高地の独特な美しい森林景観は、実は梓川の周期的な氾濫による、という。台風などの影響により10年〜20年に1回程度大きく氾濫したり、流路を大きく変えたりする梓川。その「撹乱」した明るい空間にいち早く住みつくのがケショウヤナギなどのパイオニア植物だ。仮に大きな撹乱がないとすると、シラビソやブナなどの陰樹にいずれ淘汰されてしまうという。つまり、上高地の渓畔林の「遷移」は、その若齢段階での繰り返しになっている、ということだ。だから上高地は、過去から今日まで独特な景観を維持しているのだ。言い方を変えると、上高地の渓畔林は自然の生態系の中にあって微妙なバランスの上に成立している、ということだ。 山間における土砂流出防止などのために行なう治山ダム工や護岸工や流路工などのことを渓間工(治山工事の一種)というが、その渓間工や沢沿いの道路建設が盛んな近代の日本においては、この上高地の森林景観はありそうで案外ない、めずらしい植生の宝庫だという。堤防などを作って梓川の氾濫を押さえ込むと、ケショウヤナギやハルニレの森林は滅びてしまう恐れがあるというのだ。なんとなれば、この日本でケショウヤナギが自生しているのは北海道の十勝・日高地方の川の上流部と上高地だけ、ということからもその希少価値が理解できると思う。[ケショウヤナギについて、最近の調査によると本州の山岳地帯にも隔離分布していることが分かってきたらしいが…。] この上高地においても、治山工事に積極的な建設省(現国土交通省)と現状を維持しようとする環境庁(現環境省)とが永年にわたって「つばぜりあい」をしてきたらしい。しかし、私達が今回久しぶりに訪れた上高地では、治山運搬路が既にできていたりして、工事はもうとっくに始まっているようだ。 渓間工は、主にその河川流域に生計をたてる人々のためにするもので、上高地の宿泊施設などのオーナーや関係者には気の毒だが、できたら梓川の床固め工事(流路工)などはやらないで、建物の移動(嵩上げ)工事などで対処してもらいたい、と思う。そのための公費負担はやぶさかではないし、もしかしたら、大掛かりな治山工事などよりもずっと少ない経費で済むかもしれない。つまり、観光地(上高地)の自然景観を守るために「自然」に介入するのではなく、自然にできる景観を自然のままにしておくために観光施設のほうを移動させよう、というのが私の提案だ。 しかし、ことは素人の私が考えているように単純ではなく、他に難しい問題がたくさんあるのかもしれない。仮にそうだとしても、それらの問題点をじっくりと検討するためにも、自然の渓畔林が土砂を抑える機能を有していることもふまえたうえで、今すぐに、とりあえず工事の全面凍結を望みたい。 上高地のケショウヤナギやハルニレなどの樹木は、周期的な梓川の氾濫によってその種を昔から存続させてきた。その上高地の独特な景観の主人公たちを、私は守りたい。 * 以上は森林インストラクターの教科書や小泉武栄氏の著書(「山の自然学」・岩波新書)などを参考にして記述しました。 自然と自然保護について: 当サイトのページです。参照してみてください。 |