佐知子の歌日記・第五集
佐知子の短歌集2〜いつもの散歩道にて〜
わざわざ踏んで廻り道


 冬 わざわざ踏んで廻り道

霜柱 わざわざ踏んで廻り道「サクサク」うれし歩みもはずむ

霜柱を踏みつつ歩く公園の行きずりの人「寒いね」と告ぐ

縁石をポンとはずんで平均台 コマネチふうよと他人
(ひと)に云い

突然の雨降り戻る散歩道 何やら映画の敗残兵

坂の下ゆうらり黒い冬けやき アンパンマンが笑ったような
 下欄のイラストでイメージしてください。 (^^ゞ

東へと今日の飛行機むねをそり 行ってくるぞと翼をつきだす

マスクかけ列なす人は足踏みす 病院前の大寒の朝

ほえたてる二匹の子犬におだやかな眼差し送るセントバーナード

コンビニのわき行く新年三日目に 恵方巻のポスターを見る

右足の小さきブーツが傾いてポストの上に置かれていたり

公園にきのうの雪のすがたなく エサを捜せるすずめの多し

半分の高さに伐られた公園の桜木五本冬をこせるか

人の手で落ち葉きれいに掃かれてる 公園としては美しいけど

幾万の小枝それぞれ天に向き陽をたくわえる冬の桜木

冬の雨あがりて歩く公園の湿り気を深く胸におさめる

いつも行く公園ひとの気配なくわが庭のごとめぐる正月


 春 老女の本心見たい

公園の早咲きの梅白く笑み 私の鬱
(うつ)にさよならを言う

それぞれの細枝泳ぐ柳なり 風を供としいざ大空へ

足ゆるめ見える景色は色濃くてスローモーション柳も梅も

うめさくられんぎょうこぶしゆきやなぎ 役者そろって公園の春

青空に咲く白梅を香ごと そっと我が家へ運べぬものか

公園は泥にまみれた雪が消え すまし顔して春を待つなり

水鳥は護岸工事の騒音に「慣れています」とすいすい泳ぐ

歩きつつ視線はつぼみを離れない 晴れ渡る日にさくら待つ人

ゆっくりと歩いてみれば街の色 ひいらぎなんてん黄色の小花

一分咲きの桜にむかいほほえんで柳のあおがゆうらりゆらり

やわらかな日差しにそっとペダル踏む 陽光桜七分咲きなり

人の目はおおかたサクラにそそがれて 静かにもえるクスノキのわかば

公園の桜のアーチ誇らしげ 根元のタンポポ負けじと開く

花咲いてはじめて分かる木の名前 案外さくら街に生きてる

争いと事故のつなぎにどの局も 桜開花のニュースを流す

初対面 手に缶ビールぎこちなく 一日限りの花見の宴

さんぽみち 夫が先行く三歩あと 歩く老女の本心見たい

場所取りの青いシートに散る桜 海にただよう花小舟かな

自販機のうえにとら猫ひなたぼこ ねむそうな目で雲をみている

幾万の花びらの上歩きおり もったいなくも姫様気分

蜜吸わずガサッと花を抱えもつ よくばりすずめ桜林を飛ぶ

あぐらかき四人の少女菓子を食う ゲームしつつの新型花見

満開の日から二日が過ぎたのでニュースにならないきれいな桜

母親は散る花びらを手にのせて ほほえみながら幼子に見せる

公園に黄色の三輪車わすれられ 五日をすぎても桜によりそう

散る桜 追いかけごっこの子のように 行き先つげず風と戯る

棚の藤新芽の向きはさまざまに おのれの行く手めざして伸びる

山吹と交互に植える雪柳 春を夢みる小径の図面

ヨチヨチとピンクの靴が足を乗せ 公園中を冒険してる

二秒なりせっかち蝶が蜜を吸う 花は静かに顎を突き出す

散る桜両手ですくいふうーと吹き公園せましと母子はめぐる

まちかどの道の割れ目にむらさきの すみれきりりと咲き誇るなり

水鳥のいない岸辺に老夫婦 それぞれの杖もちつ歩めり

赤い蕊
(しべ)白い帽子についてきて フィナーレ飾る桜のブローチ

うす紅の葉から緑へ少しずつ変わるクスノキ大田区の木なり

蜘蛛の糸 桜のしべをつつみおり 揺りかごのごとそっと守りて

黄のリュック背負っているよなクマンバチ 身をまるめつつ藤に吸いよる

幼子の一人に八つの大人の目 砂場を囲むやさしさの縁

クマンバチは何処へ飛んでいったやら しおれた藤が棚にゆれてる

浴用のタオル身につけランニング 母の日からは花柄てぬぐい

春雷におびえるごとく屈む草 雨あがりにはいきいきと立つ


 夏 若ぶるわたし

かけ足でつぎつぎ木々を追い抜けば みどり葉3Dのごと迫りくる

おはようと声かけてくれる友のいて 手を振り走る朝の公園

月曜の公園ベンチに頭たれ 缶コーヒー持つ背広の男

陽にあてた土からミミズ這い出るも クネクネ踊ってそして静まる

雨上がり庇の下の蜂の巣に くすり噴射の都会のくらし

散歩あと全身シャワー夏が来た と言ってみたい若ぶるわたし

公園の小さな池に雑魚泳ぐ 透明な水知らぬあわれよ

散歩みち追越際にほえたてる 子犬よ我はそんなに変か

のっそりと頭を上げる亀がおり 後ろに二匹雑魚泳ぐなり

しゃれ男しゃれた犬つれつまづけり 見ないふりなどできずに見たわ

百日紅
(サルスベリ)ちからの限り陽をうけて 紅く輝き蜂を誘(いざな)

ある限り父に力をぶつける子 腕相撲の手まっ赤になりぬ

きのうまで確かにいたよ亀と雑魚 波が立たない公園の池

虫かごとあみを手に持ち父子連れ 忘れないでね公園の夏

散歩後の背中の汗にシャワーして なんだかんだもついでに流す

昨日より一時間はやく散歩する すれちがう人も犬も違うなり

地境のアスファルトより這い出でて つゆ草は独立を宣言す

アカシアの葉にしがみつく抜け殻は 今鳴く蝉のものかも知れず

半円にしなる竿先なにもなし 背中まるめて餌つける男

ジョギングをなまけて半年 公園の草木よりも筋肉恋し

台風に百日紅の花こぼれたりピンクが蓋う灰色の道

めっきりと蝉のなき声小さくなり緑道の夏暮れてゆくなり

何色と言うのだろうか凛々しさとやさしさ混じるつゆ草のあお


 秋 寄り目で答える

雨にぬれすまなさそうにネコジャラシ 頭を垂れて歩道に並ぶ

そういえば蝉の声せぬ散歩道 夕べ小庭にこおろぎの鳴く

台風に落ちた葉の山よけて行く 今日の歩数は一割増しか

台風に倒れた柳幹くだけ とがった木口怒りの形相

咲きそろう赤のまぶしき曼珠沙華 遅刻はしないクローンのさだめ

息が切れめまいがしそうランニング「ファイト!」と云われ寄り目で答える

葉を切られ白肌くねらせポーズとる 歩道のスズカケはじらいながら

いつもより一時間遅く歩き出す 見慣れぬ人の多い公園

さえずりが歌っていると聞ける日は ジョギングの足かーるく弾む

片足で袋を押さえ口でつく サンドイッチはカラスの朝食

髪たばね少年野球の一員の少女はピンクの自転車をこぐ

クラクションが響きわたる交差点 謝っている自転車の女

もう一度甘きかおりに酔いたくて金木犀まで十二歩もどる

一時間の一年ぶりの散歩道あたらしい家が三軒建つなり

北風にハナミズキの紅い葉はふるえながらも小枝をつかむ

平成25年から30年にかけて、いつもの散歩道で詠んだ短歌を編集しました。

ケヤキ(夏)のイラスト ケヤキ(冬)のイラスト
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