佐知子の歌日記・第五集
佐知子の短歌集5-2〜日々の暮らし(秋から冬へ)
十八の目が見てる
もどりくる暑さを少しなつかしみ ごくりと麦茶のどに浸しぬ

長月の雨を恋う人請わぬ人 思わせぶりな天
(あめ)のご機嫌

大空に祭太鼓の音がひびく 我が家はお鈴
(りん)が控えめに鳴る

ちっぽけなわたくしごときの歌なれど これでも多少なやんでおります

よい年になりますようにと来年のカレンダーを買う十月一日

突然の大雨に濡れ Tシャツがラップのようにぴたり張りつく

「日が短くなってきたね」「ほんとにね」そんな会話をきょうは3回

大雨にワイパーすばやく反応す 時速100キロ盾なる車

この世にはもういない人と思い知るちょっときついね墓参りって

蒸し暑さもどりてけだるい月曜日 刑事ドラマをじっくりと観る

ホームにてクリームパンを口に入れコーヒーを飲む通勤の女

水やりの鉢からぽんと飛び出でてバッタは次のすみかを探す

この映画 筋はとっくに忘れたわ 再放送っていつも新鮮

雨上がりの空気をたんと吸い込めば肺がおどろく青色の香に

換算をすればあのボルトより速く走れるというカピバラの足

ハロウィンが終わればすぐにクリスマス コンビニで知る歳時記かしら

食卓に家族写真を飾り置く 十八の目がやんわり見てる

ぬばたまの黒髪復活あるらしい 知らずにきのう茶髪にしたわ

強風や地震をすぐに感知する 昭和の我が家スマートハウス

藻の陰にかくれて金魚お昼寝す えさの気配によたよた泳ぐ

全機能使われずいる我がスマホ 質問待ちの教師のように

再検査結果がわかるその日まで 三時のおやつはケーキに決めた

虫の音と問えば違うよ耳鳴りと云われせつない老い行くパーツ

人様にかかわりなきも秋晴れに こっそり悩む体重増加

拍手背に足の不自由な少年は 半周遅れをひたすら走る

現実を告げられるのがこわくって 体重計にのらない十日

つわぶきの黄花凛と立つうらやまし 里よりもらい十年目にして

雨音が歌っているよな夜ひとり つられて足がタンタンタタン

白菜の高値つづきに漬物をひと休みするとひとり宣言

たくあんの大根予約すみにけり 樽や重しの用意整う

霜月の小雪まじりの雨の日はテレビにてとくと「ベン・ハー」を観る

湯気の中 がんも・ちくわぶ選びとり いちめんにぬるチューブのからし

わが腕は規格の外にあるらしいユニクロのシャツ3センチ長い

炊事終えハンドクリーム塗る夜半に 今年も冬が来たと思えり

値上がりを告げし灯油屋いつもより素早くポリタン置いてゆきたり

染みてくる小指に五ミリの傷口の理由わからず苛立つ二日

何年も家族そろってクリスマス祝う我が家は日蓮宗なり

年末の掃除したてのガス台を今日は使わず出前とりたい

子を背負う八百屋の夫婦にこやかで たくあんうまく出来る予感す

クリスマスツリーやリースを飾りたて 新年は氏神様へ参ります

広告のおせちの写真手本にし 正月用品メモ帳に書く

おしゃべりの合間に食べて少し飲む 全員主役の忘年会

悪玉のコレステロール上昇に 買わない豚肉買えない牛肉

肉眼で世の中みたのは十数年 めがねをたよりのああ半世紀

手をくじき腫れたる甲にしわがなく痛みはあれど二十歳の張りなり

手のくじきやっと良くなりなめらかに 指でかぞえる短歌のリズム

たまにはと仏壇まわりを掃除する 写真の義母が笑っているよ

満月の白い光を追いかけて赤信号を気づかず渡る

わけもなく気ぜわしくなる十二月 深呼吸せよわが生まれ月

ぴったりと鉛の板を背につけて ぎっくり腰の今日が始まる

ハンドルに はちきれそうなレジ袋 カゴなし自転車を漕ぐ外国人

飛んでくる黒い糸くずよけきれず 老人病ゆえ眼のなかにしまう
 飛蚊症かも…

まえうしろ若者多い星の夜 氏神様へ初詣の列

二秒なり目の前過ぎる若人ら ぐいと胸張る箱根駅伝

正月のストレス全部ためこんで 増える体重眠れぬ夜中

寒の朝 指先ふるえて掴みいる洗濯物は冷凍品か

レジに待つ日本男子のかごのなか キャベツに醤油缶ビールなど

鉄瓶の湯気立つ部屋で居眠りす アメリカ映画はハッピーエンド

無気味なり山手線の昼下がり あいつもこいつもスマホすりすり
(Tamu)
雪の日の山手線の乗客は スマホでゲームしているだけよ
(返歌)

門番のような雪だるま陽をうけて 午後にはあららおばけになりぬ

乳飲み子のほおにそっと指おけば 歯のない笑顔万人を救う

まんまるの大きな白菊飾られて 少しはにかむ父の墓なり

はずすのは辞書をひくとき かけるのはテレビ見るとき わたしはだあれ?
 
→答え・近視メガネ

あちこちのボタン押せどもグラタンを焼くに手間取るオーブン操作

常連の候補者となるノーベル賞 村上春樹よ下手になるべし

「秋」にのみ表紙がかかるすりきれた父の形見の俳句歳時記

ウィスキーを口にふくんで飲みほすと なぜだか「カァッー」と言いたくなるね

理由などないけどなぜか決めている ビオラの花色むらさきと黄に

足早に帰る夕暮れ雲の間に 淡い月みえ歩みゆるめる

その苗字考えなしにもう読めり 大活躍のテニスの錦織

 
甥の結婚式に参列
黄ばんでる式服用のネクタイを 漂白したのち結ぶ夫なり
世話をする甥のまなざしあたたかく ボケてる母が結婚式にいる
にぎやな披露宴なり 気取らないたぶんいつもの新郎新婦
ほめられてはずかしそうに目をふせる 水玉ドレスの似合う孫なり

挟まったケーキのナッツが取れなくて 舌をころがし百面相をする

白菜とたくあん漬けた樽を置く 我が家の玄関グルメの入り口

分離してチーズフォンデュー失敗す 鍋とワインのせいにしておく

来年は四十歳になる息子 嫁はいつ来る体重いつ減る

歌声のテレビに拍手プロの技 由紀さおりと森山良子

覚えてるつもりでいても次の日はおおかた忘れる健康番組

病癒え七日ぶりなる自転車を漕げば青空ぐんぐん近づく

はじめての駅に降り立ちその灯り なんだか落ち着くセブンイレブン

股引
(ももひき)はないかと問えば「タイツならある」と答える若い店員

うなりつつポルシェは我を追い越せり 負けじとペダル漕ぐ冬の道

傘カバー・ハンカチ・手袋・道にあり 拾わず過ぎる蒲田駅前

 トム・クルーズ主演の映画「アウトロー」をテレビで観て…
笑顔なきトム・クルーズの映画など 醤油をつけない刺身のような

元旦に「電気ブラン」とう強き酒に酔って寿ぐわがファミリーよ

ゆがみつつ食いしばりたる白き歯の男子に見とれる箱根駅伝

2秒間に200ccは流れてるアニメ画面の悪者の涙

お節はもう十分なのでポトフーをじっくり煮込む正月五日

試にと脳トレゲームのスマホ繰る反応にぶい暗算できない

寒に入りハエが手をすり日向ぼこプランターの隅風やわらかく

振袖をぬらしたくない新成人 車より見上げる大きな雨滴

土曜日の患者がたった三人の待合室はなんだか不安

大森の洋食屋にてなつかしき海苔の佃煮小鉢に盛られ

山手線の席につくなり若い女 雑穀米のおにぎりを食う

大鍋のカレーは二日で食べ終わり またしても増す後悔の辛味

舟盛りの鯛や平目がピクピクとこちら見てるが我らは食べる

リビングの芳香剤を詰め替える いっとき森に遊んだような

たえまなく来る高波に水鳥は春一番を感じたろうか

さ緑の葉に囲まれて雪柳 きょうから白い小花を咲かす

クロッカス黄色に咲けり春はもう来ているよってささやきながら

カキフライ六個はちょっともたれるねなんて私は言ったりしない

マスクする女に会釈をしたけれど人違いだと気づく二分後

 原因不明の腹痛に苦しむ
セーターやフリース脱いで汗を拭く腹痛にもがく真昼のトイレ
痛い腹さすりつつ行く病院の待合室に幼子も泣く

雨あがりのこの青空を胸にだきララランランと図書館へゆく

見慣れてる建物だけど「老人いこいの家」にはじめて入る

台風に祭ばやしの聞けぬ午後 ゆっくり二度目の朝刊を読む

肌寒いこんな初秋の夕食はたっぷりきのこのクリームシチュー

娘よりリンドウの鉢をもらいぬ「今日は敬老の日だからね」って

プランターを逆さまにして土ほぐす 宿を追われたみみずが五匹

アフリカの国々を歩く夢をみた 第一候補はアルプスなのに

石柱に旧東海道と彫られたるミハラ通りはシャッター通り

「困った」と言うも墨すり筆をとる米寿の叔母の確かな三水
(さんずい)

英国籍カズオ・イシグロはノーベル賞「もののあはれ」を心中に書くという

校庭に球音ひびく土曜日の老人会のグランドゴルフ

つるつるの門扉
(もんぴ)にバッタがしがみつき 一足一足登りゆきたり

ドラえもん観ながらつつくおでん鍋 湯気にほかほか家族が集う

強風と台風一過の青空にうつの半分飛んで行きたり

頬つたう涙をふきつつ中七個の玉ねぎ刻む明日はカレーだ

接骨院ばかりが増えるこの町に内科とマンション少なくくらす

画面暗く視野の低下と気をもむがリモコン操作の誤りと知る

母親は「お昼を買いに行こうネ」と幼子に言う 作らないんだね

割引は5%なりシニアデー いそいそと行くドラッグストア

友からの喪中はがきの三通に母らが越えた九十歳の坂

年の瀬にもう10センチ背がほしいカーテンはずし窓ふきおれば

11月29日はなななんと「イイニクノヒ」で牛肉を買う

灰色の介護施設のカレンダー 数字大きくメモ欄ひろし

インド人の彫り深き顔に見つめられチキンカレーとナンを注文す

外食のつもりが昼はインスタントラーメンになる年の瀬である

子の話題 もうなくなりておのが身の病を語る忘年会よ

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長靴がないどうしよう台風が迫る明日は歌会なのに

木の枠の玻璃戸より入る隙間風 強弱つけて太鼓のごとし

レジ係りに「ツルハのですよ」と云われたり あわてて捜すライフのカード

集まった担ぎ手わずか八人に大人も入る子供神輿よ

 
月の道・薪能(熱海にて)
さざ波の寄せる岸辺の能舞台するりすり足篝火に映ゆ

親類が集まり来たる秋彼岸 話題は生きる者らの病
(やまい)

ニュースにて中秋の名月を知り すぐ路地に出て空に確かむ

十二歳の孫とその母笑いあい 赤い毛糸のあやとり続く

勘違い聞き違いなど多くあり わがアクセサリーとするしかなくて・・・

町会の班長なれば軒めぐり「赤い羽根募金を」と言うんです

台風の去りし朝方あたらしき風入れよと窓開け放つ

リビングに体重計を置いてみる 一キロ減に二ヶ月が過ぎ

目が覚めたときが起きるとき土曜日の朝茶は旨しゆるり飲みほす

頑丈だと夫に貰いしモンブラン わが筆圧は芯を二度折る

この十年パーマをかけない剛毛に前髪なぜかほどよく巻き毛

もうすぐとの思いが通じ友よりの渋ぬきの柿たらふく食べる

四時からは「歩行者天国」となる通り 買い物客見ぬ商店街よ

眠気払い九十二歳の講話きく 斉藤茂吉の鰻と女

俳壇に衣被
(きぬかつぎ)あり 辞書ひけば なんだ千葉ではオッペシ芋だ

珈琲の香にめざめ朝を知る 伸ばす手足がほぐれてゆくよ

保育士の「あっ柿」の声に一斉に園児ら見上げる路地のおさんぽ

雨の午後テレビの映画をみていても画面をよぎる病む友の顔

女四人尽きぬ話の中心は友の病と親の介護と

幼子をあやす子のいぬ甥夫婦 かがむ背中がさびしく見えて

雨あがりそれとばかりに眼科へといそぐもすでに患者は五人

腹痛におそらくは四年に一度の「食欲なし」を味わってます

拍子木を打つ先頭とあと五人 光るチョッキで町内夜警

二つ三つ花芽ふくらむサクラソウ 春よ春よと正月二日

 
グラウンドゴルフ
寒くって涙・鼻水出ると言う 年長者らのホールインワン

一玉が五百円ものレタスなり カイワレダイコン好きになりそう

 
日光から飯坂温泉へ知人たちとツアー旅行へ
修復を終えたる日光陽明門 金色まとう王者の構え
ひらひらと降りしきる雪ながめれば長湯になりぬ飯坂温泉

どのようにもぐり込んで来たものか わがスリッパに乳液のふた

二枚ならなんなく終わるワイシャツのアイロンがけの三枚はおっくう

恋人を待つかのごとく路地に出るゴミ当番に待つ収集車

 
冬季・平昌オリンピック
冬五輪羽生結弦の金色のうれし涙が銀盤に落つ
支えたる人への感謝を忘れないピョンチャン五輪のメダリストらは
オランダに体格劣る日本女子足並みそろいパシュートは金
道産娘の「そだねー」「そだねー」にさそわれてカーリング初の銅メダル来る


平成25年〜30年の秋から冬にかけての、日常を詠んだ短歌を編集しました。

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