佐知子の歌日記・第一集
佐知子の歌日記・第一集
平成25年2月〜3月
突然に うたよみたくて指かぞえ あれかこれかと六十三歳
霜柱 わざわざ踏んで廻り道「サクサク」うれし歩みもはずむ
庭先で夫の髪刈る老女おり 城峯の里風やわらかく
十月
(とつき)ぶり二人で歩く山道は 吐く息聞こえうれしはずかし
ドラえもん風のブランコ出しとくれ あの山この峰便りをのせて
花粉症ではないけどマスクする 話さずにすむ隠れ蓑のごと
水まきのホースたらりとやわらかく 春の知らせに蛇口をまわす
コンタクトレンズをやめて二年なり メガネの跡の鼻の二すじ
それぞれの細枝泳ぐ柳なり 風を供としいざ大空へ
さんぽみち 夫が先行く三歩あと 歩く老女の本心見たい
孫帰り静かな部屋で栓を抜く とくとくとくとビールこだます
一瞬のためらい抱き足を置く エスカレーター立会い勝負
われに問う 置かれた場所で咲きなさい テレビの老女微笑みながら (2.14)

はにかんでそっと取り出すチョコクッキー バレンタインの孫ほほ赤く (2.14)

縁石をポンとはずんで平均台 コマネチふうよと他人に云い (2.15)

突然の雨降り戻る散歩道 何やら映画の敗残兵 (2.15)

 
鎌倉アルプスハイキング・単独行 (2.16)
天園の トンビもよろける強風に ものともせずに子供ら走る
春弁当 凍てつくほどの風の下 飛び跳ね走る子の声高く
キーキーと鳴くよな声にふりむけば 大木あわれ北風小僧
八幡宮 願いたくさんすまし顔 小銭投げ入れ欲張りオバサン

佐・知・子・だれ 澄んだ目の母 見る先は 昔の影か 今のまぼろし (2.17)

突然に うたよみたくて指かぞえ あれかこれかと六十三歳 (2.18)

急ぎ足 向かうは眼科バツグ持ち 待合で読む「短歌入門」 (2.18)

メール打つ力ない友春まだ遠く 雨降る夜にケータイ見つめ (2.18)

霜柱 わざわざ踏んで廻り道 「サクサク」うれし歩みもはずむ (2.18)

パーマかけララララララと一回り パソコンの君が横目でチラリ (2.18)

 
城峯山ハイキング (2.21)
庭先で夫の髪刈る老女おり 城峯の里風やわらかく
十月
(とつき)ぶり二人で歩く山道は 吐く息聞こえうれしはずかし
呼び声に気づきもせずに先を行く 景色見たさにただそれだけに
武甲山白すじ千本いたいたし がまんの大関秩父の盟主
両神山浅間に御荷鉾雲取も 展望満載城峯の頂上
ドラえもん風のブランコ出しとくれ あの山この峰便りをのせて
熱高し君の目うつろ吾れのせい 寒いホームにせかせた吾の

ほしいもの視力体力細い脚 微笑みあえる今日と明日 (2.23)

憂いなき食卓夢み魚焼く 涙ふきふき玉ねぎきざむ (2.23)

ほんとなの対面キッチン好きな主婦 水弱く出し鼻すすらぬ女 (2.24)

髪の色かわりし時越え今日もまた 元気に荷分け生協仲間 (2.25)

護岸より見えるは道路倉庫群 アメリカ行きのあの海が見たい (2.25)

吾もまたインフルエンザで床に臥す 君の看病湯たんぽのごとく (2.28)

インフルが無菌の息子染めぬよう ころあい計りリビングへ行く (2.28)

慣れぬ家事ご苦労様と言いつつも 夫には内緒手抜きわざあり (2.28)

 
しのびよる緑内障の恐怖
欠け満ちる月よおまえは贅沢な わが視野欠けば満つる時なし (2.28)

あるならば義母の笑顔に贈りたい ミセス大賞八十代の部 (2.28)

水やりを忘れツワブキ葉がちぢみ シクラメンもうなだれている (3.5)

寒さゆえ背丈伸びぬかサクラソウ 啓蟄の陽鉢からこぼれて (3.5)

花粉症ではないけどマスクする 話さずにすむ隠れ蓑のごと (3.5)

密集地おまけに建具骨董級 うわさ話は風と共に入る (3.5)

アジサイの新葉こんもり寄り合って 花咲くを待つ向かいの小庭 (3.7)

水やればあちこち新芽の披露宴 鉢物なれど堂堂揃う (3.8)

ペンケース青キリンとは珍しや 茶の皮革に浮き仲良く歩く (3.9)

岩手山テレビの緑あふれ出る 画面ゆがんで滲む山肌 (3.11)

大舞台うたい踊る子まなこあけ ズズズのハイハイ五年前の春 (3.11)

「味方だよ」吾にはそれが中和剤 背より道説く冷静な君 (3.13)
 Oh,darling darling stand by me stand by me stand by me…

花手向け墓石みがく君無言 父に祈るは吾の我のことか (3.14)

仕事帰りムコ殿照れてホワイトデー 無口より発す「いつもアリガト」 (3.14)

水まきのホースたらりとやわらかく 春の知らせに蛇口をまわす (3.15)

白菜の樽あらい終え春陽さす 出番待つなり宝のぬか床 (3.15)

歯医者だと口紅塗らずペダル踏む 眼医者へ行くのにボケまたひとつ (3.18)

リビングに漢和辞典と古語辞典 カビの匂いの新参者よ (3.18)

赤い新芽
(ツブ)今日は変身緑の手 もみじ葉誕生メガネ拭き見る (3.20)

わが鉢のシモツケソウは園芸種 君は見ないが緑美人なり (3.20)

夜毎さす目薬なれどたまに云う「薬つけたか」は君の愛なり (3.20)

母たちの笑顔頼りに自転車で 環七二国池上通り (3.21)

コンタクトレンズをやめて二年なり メガネの跡の鼻の二すじ (3.25)

孫帰り静かな部屋で栓を抜く とくとくとくとビールこだます (3.25)

音高くいかにもワタシ仕事中 食洗機よも少し加減しろ (3.26)

着られると古いブラウスあててみる 樟脳しみた時代物なり (3.26)

はじめてのエスカレーター迷い足 半世紀前デパートで母と (3.28)

一瞬のためらい抱き足を置く エスカレーター立会い勝負 (3.28)

チューリップ赤く並んでフラメンコの 踊り子のよう春の情熱 (3.29)

上等な土産は父のバナナなり 歓声上げた日々は思い出 (3.30)

待ちわびたドウダンツツジ手に入れて 置き場所なやむ路地裏ぐらし (3.31)

明日の米研いで終わるや主婦の吾 そのあと貴重なワタシの時間 (3.31)

 いつもの散歩道で
五千歩を歩き走るが日課なり 着替えるシャツに冷気ただよう (2.25)
それぞれの細枝泳ぐ柳なり 風を供としいざ大空へ (3.17)
ほら咲いた男年寄り話すわき 桜待つ人目礼し行く (3.17)
足ゆるめ見える景色は色濃くて スローモーション柳も梅も (3.17)
うめさくられんぎょうこぶしゆきやなぎ 役者そろって公園の春 (3.21)
公園の桜のアーチ誇らしげ 根元のタンポポ負けじと開く (3.22)
花咲いてはじめて分かる木の名前 案外さくら街に生きてる (3.23)
初対面手に缶ビールぎこちなく 一日限りの花見の宴 (3.23)
さんぽみち 夫が先行く三歩あと 歩く老女の本心見たい (3.25)
毎日の五千歩ウォーク中毒か 雨に罪なしでもうらめしや (3.25)
幾万の花びらの上歩きおり もったいなくも姫様気分 (3.26)
蜜吸わずガサッと花を抱え持つ よくばり雀桜林を飛ぶ (3.28)
棚の上新芽いちめん強く立つ もとをたどれば一本の藤 (3.28)
海中の泥すくう船二隻あり もう建物は要らないと思う (3.28)
うす紅の葉から緑へ少しずつ 変わるクスノキ大田区の木なり (3.30)
あぐらかき四人の少女菓子を食う ゲームしつつの新型花見 (3.30)

「佐知子の歌日記」のトップページへ
「佐知子の歌日記」のトップページへ「佐知子の歌日記・第二集」へ
直線上に配置

ホームへ
ホームへ