佐知子の歌日記・第二集
佐知子の歌日記・第二集
平成25年4月〜5月
田舎より移し植えたる花の名を 都忘れと云うもおかしき
朝の九時行き交う介護の送迎車 遠くない日の我どこにいる
ヨチヨチとピンクの靴が足を乗せ 公園中を冒険してる
「あら帰ってきたの」でなく「待ってたわ」 そういうふうに口紅を描く
全機能使われずいる我がスマホ 質問待ちの教師のように
緑の香ふんわり新茶飲みほすと 憂きことするりするっと抜ける
小さな巣卵産みつけ飛ぶ蜂に くすり噴射の都会の暮らし
口飲みがトレンドだとは知らぬ母 ペットボトルのふたでお茶飲む
雨の午後えんぴつかたく握りしめ 眠ったままでいすから落ちる
客多くお茶ばかり入れ気ぜわしく 一体わたし何なのかしら (H25.4.1)

ユーチューブいつも選ぶは青春歌 深夜の居間はカラオケがわり (4.1)

シャープペン我に馴染まずすぐ折れる 太くて強いエンピツがいい (4.1)

「空に星があるように」は君と吾の 離れずにあるテーマソングなり (4.1)

これはボクこっちはワタシに似ていると 母親さがす古いアルバム (4.2)

このチョッキ三十年も着ていると アルバムに見つけためいきをつく (4.2)

アルバムの重さ我が家の歴史なり 良き事ばかりではないけれど (4.2)

ほの暗き部屋でストーブ赤々と 静かに想い悩める仕合せ (4.2)

「明日いるか」聞いて予定を作る君 ずるいぞ一人山行くなんて (4.3)

山の会延期の知らせ皆にする 思いそれぞれ声より察す (4.5)

将棋さす子の目光りて盤に射す スポットライトあてるがごとく (4.5)

母に会い握られし手はあたたかと告げる君の目細くなりぬる (4.6)

田舎より移し植えたる花の名を都忘れと云うもおかしき (4.6)

雨の日は天女が降りて羽衣に心の涙つつんで運ぶ (4.6)

落ち着かぬ子が居て写真決まらずに 立たされ坊主の一年生 (4.8)

おさがりのスーツなれども胸はって力いっぱい飛べ一年生 (4.8)

「おめでとう」いっぱい浴びる子の横で影うすくなりだまる子の姉 (4.8)

窓ガラス風が吹くたび震えてる 自然で良しと君は云うなり (4.9)

家事をせずただえんぴつとノート持ち歩き回るはないものねだりか (4.9)

坂道を下るごとなりホームの母 終着駅が見えているのか (4.10)

エンピツを握る孫の手もみじから やさしく強い小八ッ手となる (4.11)

歳月よ娘
(こ)の三十六の誕生日 吾(あ)の部分入れ歯出来上がるなり (4.12)

くずれゆく目と歯はすでにサイボーグ せめて残りは自前で生きぬ (4.12)

サシスセソうまく発音できぬ義歯 初メガネの日と同じ違和感 (4.12)

 
秩父御岳山登山 (4.14)
身に痛し横断道路抱え持つ 秩父御岳切腹の山
機嫌よく笑い出しそな山々に ふもとですみれ山吹と舞う
下山後の温泉いそぐ君のわき つくしんぼうの行列つづく

カレンダー花まるは吾の出動日 子守頼まれマジックで塗る (4.16)

どこにある鉄板焼器見当たらず 囲む湯気なき焼きソバ食べる (4.17)

花多し庭の小手まり褒められて 昼食わすれ長話かな (4.17)

それぞれの孫自慢するおしゃべりに老い仕度など挟み込むなり (4.18)

朝の九時行き交う介護の送迎車 遠くない日の我どこにいる (4.19)

幾度もポスト見るなり添削のラブレター待つ心バクバク (4.19)

雨あがりみどり葉濃きに縁どられ 黒黒迫る桜樹
(さくらぎ)の幹 (4.21)

したいことせねばならぬを天びんに はかりつつかも人のくらしは (4.22)

ヨチヨチとピンクの靴が足を乗せ公園中を冒険してる (4.23)

二秒なりせっかち蝶が蜜を吸う 花は静かに顎を突き出す (4.25)

房垂れて今がさかりの藤の花 蜂は蜜のみめざして進む (4.25)

茶色から湯気立つ緑に変身す 春の若布の底力見る (4.27)

おだやかな光と空気のごちそうにディナー気分の二人の朝餉 (4.28)

老金魚いき絶え絶えに隅におり 新参金魚はつらつ泳ぐ (4.29)

「あら帰ってきたの」でなく「待ってたわ」 そういうふうに口紅を描く (4.30)

ふきのとう口に含めば全身に福島の春苦味広がる (5.2)

苦瓜の鉢にふわっと水やれば 浸み込んで行く土にどんどこ (5.2)

全機能使われずいる我がスマホ 質問待ちの教師のように (5.3)

いま在れば九十四になるきょうの日に 父の好物豆を味わう (5.4)

 
長女や孫といっしょに高尾山ハイキング (5.7)
これがシャガと花の名言えば娘らは どうでもいいよな顔で見るなり
達人の描く螺旋は小気味よく みなの目とろりソフトクリーム

緑の香ふんわり新茶飲みほすと 憂きことするりするっと抜ける (5.8)

 
箱根へツアーハイキング (5.11)
苦しみや喜びさえも五百よう 羅漢の像が静かに見下ろす
うす晴れに富士現れて喜ぶが よもぎ見つけて摘む手せわしく

母の日に紺のチュニックもらいおり ボケ母らには何もせぬ吾に (5.12)

狭い道ゆずりあうとき身をかしげ 今こそ生きる江戸しぐさあり (5.13)

おかわりし地元のレタス食べた宿 思い出せずにアルバムめくる (5.13)

サラダの名コールスローかスルーだか 舌をかみそう食べる前から (5.13)

どんな虫「鳴虫山」に住んでいる 声聞きたくも私は留守番 (5.14)

骨密度ふえるを願い日課とす 今日もジョギングただひたすらに (5.14)

陽にあてた土からミミズ這い出るも クネクネ踊ってそして静まる (5.15)

風呂上がり乾くまではからす色 湿る髪ふれしばし見つめん (5.15)

口飲みがトレンドだとは知らぬ母 ペットボトルのふたでお茶飲む (5.16)
 NHK学園の短歌コンクールに応募、秀作に選ばれた一首です。後日、本頁に追加。

病む友の癒えるを願い語り合う またの会う日を約束しつつ (5.17)

小さな巣卵産みつけ飛ぶ蜂に くすり噴射の都会の暮らし (5.19)

散歩あと全身シャワー夏が来た と言ってみたい若ぶるわたし (5.19)

雨上がり庇の下の蜂の巣に くすり噴射の都会のくらし (5.19)

眠れぬ夜コーヒー飲んでいたからと 言い訳つくり寝返りをする (5.20)

雨の午後えんぴつかたく握りしめ 眠ったままでいすから落ちる (5.20)

ラーメンの一人前は多すぎて ダイエットでなく汁残すなり (5.23)

人気者スカイツリーは一周年 東京タワーはアイドルだった (5.22)

 
三浦雄一郎さん80歳でエベレスト登頂! (5.23)
三浦さん八十歳でエベレスト 我五十五歳でタンボジェまで
八十歳山に登っていられるか 望み片手に抱きつ歩く
八十歳槍ヶ岳にて万歳と言ってみたくて予定に入れる

午前二時眠れぬ夜に浮いている 暗闇の中見えるものあり (5.24)

公園の小さな池に雑魚泳ぐ 透明な水知らぬあわれよ (5.27)

のっそりと頭を上げる亀がおり 後ろに二匹雑魚泳ぐなり (5.27)

ある限り父に力をぶつける子 腕相撲の手まっ赤になりぬ (5.27)

休業日知らずに君はペット屋へ 金魚だって休みがほしいさ (5.28)

 
回想
貝殻を路地にまきまき下駄で踏む むせるにおいの大森のまち (5.28)

大きくて顔の半分口だらけ ジュリア・ロバーツそれでも女優 (5.29)

我はあと十七年「しか」ないと言い 八十までは「まだ」と君言う (5.29)

きのうまで確かにいたよ亀と雑魚 波が立たない公園の池 (5.30)

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