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百曲りを登り切る
王ヶ塔の三角点
王ヶ鼻山頂
「二人の小道」にて
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「世界の天井が抜けた」高原へ登る
《マイカー利用》 長野自動車道・岡谷I.C…三城いこいの広場駐車場〜広小場〜(百曲り)〜塩クレ場〜王ヶ頭〜王ヶ鼻〜(二人の小道)〜石切り場〜三城いこいの広場駐車場-《車20分》-扉温泉(泊)… 【歩行時間:
4時間】
→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(王ヶ頭)へ
日本百名山だからという理由と、北アルプスの雪景色を眺めてみたいという理由で、昨年の2月にスノーシューで美ヶ原の大雪原を歩き回った思い出がある。[→前項「冬の美ヶ原」] …でも、そのときはバスツアーだったし、王ヶ頭のピークは見極めていないし、悪天候だったし…、で、何時の日か三城(さんじろ)から標高差620mを歩いて登ってみたいと思っていた。
車で行ける処をわざわざ歩くという理不尽が私達のポリシー(…利用できる文明の利器はなるべく利用するという、他人にはあまり自慢のできないポリシー…)に真っ向から反するのだけれど、多少の「玉にキズ」には目をつぶって、三城の無料駐車場から歩き出したのは午前9時40分。雨は降っていなかったが、ねずみ色の梅雨空だった。
宿泊施設(小梨ヒュッテや山荘ピリカなど)への案内板に導かれ、山道へ入る。暫らくは右手に大門沢の瀬音を聞きながら、カラマツやミズナラやサワラやダケカンバ等の林を歩く。林床のシダ類の緑が美しい。キセキレイのツガイが小枝に止まっている。ホトトギスやウグイスが囀っている。ヒガラやホオジロやコマドリも歌っている。何処からかキツツキ(アカゲラ?)のドラミングが聞こえてくる。「玉にキズ」のおかげだろうか、人影は少ない。歩いてみてよかった、と矢張り思った。
ゆっくりと1時間ほど歩いて、あずま屋の建つ広小場(ひろこば)でひと休み。周囲の低木の幹に樹木名を記した標板がぶら下がっている。例によってメモってきた。バイカウツギ、タカネヤナギ、イボタノキ、ヒロハヘビノボラズ、ズミ、…。白から紅に色が変わるというニシキウツギの花はまだ蕾だった。
広小場で茶臼山へのコースを右に分け、百曲りの登りにかかる。美しい自然林が段々と透けてくる。道端にはキンポウゲやハクサンフウロも咲き始めていて、疲れ始めた身体に潤いを与えてくれる。更に高度を上げてくると、お目当てのレンゲツツジの花が山の斜面のあちこちに咲いている。私も佐知子も満開のレンゲツツジを見るのは初めてだったので、そのみずみずしい朱色に思わず感動してしまった。振り返って眺めると、谷越しの鉢伏山もそのなだらかな山頂部を朱色に染めているのがよく見える。あちらの山も今がレンゲツツジの盛期なんだな、と思った。
切り立った岩場をトラバースして百曲りを登り切ると、そこは美ヶ原の広大な台地の一端だった。尾崎喜八が「美ヶ原熔岩台地」の詩の冒頭で 「登りついて不意にひらけた眼前の風景に、しばらくは世界の天井が抜けたかと思ふ」 と書き記した、まさにその風景だった。昨年の冬に経験済みの広さだったので、苗場山の山頂部へ初めて立った時のような超驚き[→苗場山]ではなかったけれど、急に増えてきた人影や、草原にホルスタインが放牧されている様などは、矢張り「異形」として、これも一種の驚きかもしれないけれど、私達の目に粛々と入ってきた。
そう…、美ヶ原の高原は、じつは昔からずっと(明治42年から、又は大正10年の頃からとも云われる)牧場だったのだ。その証拠に、今でも広い野原にいるのは牛たちで、人間は狭い牧柵の中。牛は草を食べ放題だけれど、人間は草花を摘むことも許されていない。有毒で牛の食べないレンゲツツジは、本来取り残されていていい筈だけれど、山頂部の大半を占める牧場の草原には、当然のことなのかもしれないが、無かった。ここにも自然と人間が、その歴史の過程において苦しく妥協した、「山アラシのジレンマ」があったのかな…。 塩クレ場のベンチで昼食のオニギリを食べながら、取り留めもなくずっとそんなことを考えていた。 ヒバリが天空で囀り、イワツバメが宙を舞っていた。
高原の道を西へ進み、鉄塔群の脇を通り抜け、王ヶ塔のレストラン(王ヶ塔ホテル)でコップ一杯200円の高原牛乳を飲む。そして、ホテルの裏手にある三等三角点の標石を確認してから王ヶ鼻へ向かう。再び静けさが戻ってくる。
美ヶ原の西端、石仏群が並ぶ王ヶ鼻の岩頂へ着いたのは午後1時半頃。なかなかいい感じのピークで、思わずの大休止、展望は360度だ。生憎の空模様で今回も北アルプスは望めなかったけれど、南西の方向に薄日が差し、近くの山々や眼下の松本盆地はよく見えていた。
石切り場へ向かい、「二人の小道」と名付けられた明るい山道(洒落たネーミングの割には急な坂道)を下り始めて間もなくの処、レンゲツツジの群落が凄かった。一面朱の海で、溺れそう。やがて雑木林へ入り、さらに高度を下げていく。
王ヶ鼻から石切り場までは誰にも出合わず、静かな下りだった。石切り場からアスファルト道を歩くこと約30分、三城の駐車場へ着いたのは午後3時30分。夏至の翌日のこの日、太陽はまだ中空に位置していた。
扉温泉「明神館」: 三城から車で約20分、松本市の東南東、美ヶ原と鉢伏山の山間、薄川沿いの標高約1100mのひっそりとした渓谷に位置する。(この薄川は犀川へ合流し、千曲川、信濃川となって日本海へ注いでいる。) 温泉宿は私達が泊った「明神館」と、離れて建つ「群鷹館」の2軒だけだが、日帰りの入浴施設「桧の湯」もある。「東の扉、西の白骨」と云われるほどの由緒あるいで湯とのことで、風呂も食事もサービスも文句のつけようがなかったが、前夜急に思い立っての予約で一人28,000円の部屋しか空いておらず、山旅の私達にはチト高級過ぎてしまった。夕食も朝食も食べ過ぎて、3ヶ月間がんばったダイエットがあっという間にパーになったと、佐知子がぶつぶつ言っていた。
泉温42度、無色透明、単純泉(芒硝泉)。内湯は石タイル貼り木枠。露天風呂は内と外の2種類。京風会席料理。ロケーションもなかなかだった。
「明神館」のHP
次項・鉢伏山と高ボッチ山: 翌日の帰路、ドライブがてら立ち寄ってみました。
レンゲツツジが満開! |
「二人の小道」にて
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バックは鉢伏山です
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美ヶ原の高原は じつは牧場だった!
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