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No.127 火打山から妙高山
平成13年(2001年)7月20日〜22日 第1日目:雲り第2日目:晴れ

火打・妙高 略図
第1日目
高谷池への登山道から焼山(左)と火打山を望む
焼山〜影火打〜火打山

大輪の白花:キヌガサソウ
キヌガサソウ

テント場はこの右手にある
高谷池ヒュッテ

第2日目
天狗ノ庭から眺めた火打山
高谷池と火打山

バックは(左から)金山・雨飾山・焼山
火打山の山頂にて

火打山山頂から南面を望む
火打山から高妻山

火打山山頂から南東面を望む
火打山から妙高山


ミヤマオダマキ:火打山の斜面にて
ミヤマオダマキ

テガタチドリ:妙高山北峰の山頂部にて
テガタチドリ

妙高大神の碑:妙高山南峰にて
妙高山の南峰

燕温泉の温泉街
燕温泉へ下山


花の山から勇壮な複式火山へ

第1日=信越本線妙高高原駅-《バス50分》‐笹ヶ峰〜黒沢〜富士見平〜高谷池ヒュッテ 第2日=高谷池ヒュッテ〜天狗ノ庭〜火打山2462m〜高谷池〜茶臼山2171m〜黒沢池ヒュッテ〜大倉乗越〜妙高山北峰2446m〜南峰2454m〜天狗平〜燕温泉 第3日=燕温泉-《バス20分》-関山駅
 【歩行時間: 第1日=3時間 第2日=8時間30分】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(火打山)へ


 頚城(くびき)山塊と呼ばれる山域は、妙高連峰(妙高山、火打山、焼山、金山、雨飾山、等)、戸隠連峰(乙妻山、高妻山、戸隠山、西岳、等)、飯縄山、黒姫山の4つに大きく分けることができるという。この中の、妙高山、戸隠山、飯縄山、黒姫山と、これらの東に位置する斑尾山を北信五岳と呼んでいる。そして、頚城三山とは妙高山、火打山、焼山を総称したときの呼び名である。と、前置きが長くなってしまったが、私達夫婦が7月の三連休に選んだ山は、その頚城三山のうちの二つの名峰、火打と妙高だった。
 * 焼山は、現在、火山活動のため登山禁止になっています。
 → この後(2006年末)、焼山登山は解禁となったようです。[後日追記]

 第1日目(7/20・曇り): クソ暑い東京から長野新幹線と信越線を乗り継いで約2時間半、妙高高原駅へ着いたのは午前8時50分だった。9時発の川中島バスに乗り、終点の笹ヶ峰で降り、軽快な気分で歩き出したのは9時45分。ここは既に標高1300メートル。涼しい風が私達の歩を早めてくれる。
 ブナ、カエデ、ミズナラ、ダケカンバ…、の気持ちのよい樹林帯を緩やかに登り、黒沢の出合いでひと息入れる。ここからは「十二曲り」とよばれる急登だ。何故かすれ違う登山者(下山組)が多かった。そのうちの一人のオバサンの両手にはネマガリダケの筍がいっぱい。いいのかしら、こんなのって。でも、美味しそう…。
 オオシラビソが目立ち始めると黒沢池への分岐でもある小さな広場の富士見平に着く。分岐を左へ進み、少し歩くと樹高が低くなり視界が開けてくる。やがて、左手の前方に火打山、影火打、焼山のスリーショット。高谷池ヒュッテのくすんだ赤い三角屋根も見えてきた。大型の白花のキヌガサソウや黄色の小花のオオバミゾホオズキなどが私達をやさしく出迎えてくれた。 ヒュッテに着いたのは午後1時40分、まだ日は高かった。
 取り敢えず高谷池ヒュッテでチェックインを済ませたのだが、ビールを飲みながらここではたと考えた。雲が低く垂れこみ始め、展望は期待できなくなってきている。若干寝不足だし、久々の「登山」だし、ビールも飲んじゃったし、とにかく疲れたし…、と、なにやかやと理由をつけて、予定していた火打山への往復登山(歩程3時間弱)を明日に延期し、のんびりとヒュッテ付近を散策することにした。明日が強行軍になることが予想されたが、この時点ではなるべく考えないことにした。
 というわけで、午後2時半からは、明日のコースの下見も兼ねて、火打山へ続く木道をほろ酔い気分でゆっくりと歩いてみた。両側の湿原や草原にはハクサンコザクラやイワイチョウの群落をはじめイワカガミ、ミヤマカラマツ、モミジカラマツ、アオノツガザクラ、ミヤマキンポウゲなどが咲いている。所々に現れる小ぶりのダケカンバが草原にアクセントを与え、ウラジロナナカマドは花期を迎えていた。潅木などの日陰に咲くキヌガサソウの群落には、初めて見たせいもあるけれど感動した。輪状に広がる大きな葉の真ん中に一輪の大きな白花を咲かせたその姿は、質素さとゴージャスさの両方をバランスよく併せもった、たとえようもないほどの美しさだった。

* 高谷池ヒュッテ: 妙高高原町町営の山小屋。完全予約制というのが、昨今では当たり前だとも思うが、嬉しい。混雑を予想していた三連休初日だったけれど、余裕の一畳に一人でゆっくりとくつろげた。従業員も皆とても感じが良かった。自炊中心の造りで、1階の自炊室には6台(くらいだったと思う)のプロパンのガス台が用意されていて、いつでも誰でも使うことができる。自炊道具から食器まで借りることができるのもいいところだ。消毒済みの飲用の水が蛇口からでてきて使えるが、洗い物などに使うのは禁止されていて、歩いて1分程度のキャンプ場近くの水場まで行くことになる。勿論、食事も用意してもらえる。この日、夕飯にでてきたのはビーフシチュー(もどき)でそれなりに美味しかったが、ご飯はボソボソで不味かった。1泊2食付きで一人5,500円。私達は朝食をお弁当にしてもらったのだが、少し安くなって一人4,950円だった。二人で1万円を支払って100円のお釣りをもらったのは、2食付きの山小屋では初めてだ。宿泊料もすこぶる良心的だと思った。ロケーションはスペシャルクラス。2階と3階のテラスは眼前の高谷池の湿原とその奥の悠揚とした火打山を眺めるのに絶好の展望台だ。
 夕食後、再びヒュッテの近くを散歩してみた。キャンプ場は超満員で、テントを張れない中年のご夫婦などは水場近くの青天井の道端でシュラフにもぐり、寝る準備をしていた。
 夜、深い霧が辺りを包む。持参の赤ワインを少し飲み過ぎたようだ。7時半にはもうぐっすりだった。

 第2日目(7/21・晴れ): 未明、懐中電灯の明かりの中で、高谷池ヒュッテ一階の、例の炊事場でお湯を沸かす。インスタントスープの粉に湯を注いでいたら、15年前から使っていた私の懐中電灯の豆電球が切れた。予備の豆電球と交換するのはこれで何回目だろうか。どうもリチューム電池にしてからはサイクルが早くなってきたようだ。電池のパワーに豆電球が負けているのかな。なんて、ぶつぶつと言いながら佐知子の最新式のヘッドランプを借りて、不器用に電球の交換作業をしていたら、あっという間に夜が明けた。スープも冷めていた。温めなおした残りのお湯をサーモスに詰めて、気を入れなおして、そそくさとヒュッテを出たのは午前4時20分。明けの明星はまだ見えていたけれど、懐中電灯は既に必要のない明るさだった。昨日サボってしまった火打山往復を今日に延期したため、私達にとっては強行軍の一日になりそうだ。
 キヌガサソウやハクサンコザクラやイワイチョウなどを復習しながら、昨日下見をしておいた木道を北西へ進む。前方に大きくたおやかな火打山、振り返ると黒沢岳の上に複式火山の妙高山が顔を出している。遠望は利かないけれど、天気はマァマァだ。
 小さな池塘が点在する湿原(天狗ノ庭)でワタスゲやハクサンチドリの群落などを見ることができた。更に進むと、いよいよ火打への登りに差し掛かり、ササ原や小ぶりのダケカンバが目立ってくる。山頂までの標高差約360メートルは矢張りきつかったけれど、斜面に咲いている沢山の花に随分と勇気づけられた。ミヤマキンポウゲ、モミジカラマツ、ウサギギク、オタカラコウ、クルマユリ、赤紫色のミヤマオダマキ、ベニバナイチヤクソウなどが美しく咲いている。やや大ぶりなハイマツに混じり、少しだけれどハクサンシャクナゲも咲いている。8月中旬頃からが花期だというマルバダケブキの黄花もけっこう咲いていた。ここでも佐知子の「高山植物ポケット図鑑」が大活躍。
 途中二回の小休止で、火打山の小広い山頂へ着いたのは午前6時丁度だった。
 三等三角点のある火打山の山頂からは遮るもののない360度の展望が広がる。西の方向、噴煙を上げる眼前の焼山となだらかな金山の間からひょっこりと雨飾山が顔を出している。ここから眺めた雨飾山はとても控え目だ。妙高山は勿論、戸隠連峰や黒姫山などの頚城の山々は、近いこともあって終始よく見えていた。しかし、焼山の左後方にチラっと見えていた北アルプスなどの遠くの山々は、一度雲の中へ入ると二度とその姿を現してはくれなかった。晴れ渡った時にはよく見える筈の佐渡島も、この日は雲の中だった。
 流石に山頂は風が強く、少し寒い。眺望を充分に楽しんだ後、来た道を少し下った処で、ヒュッテのおにぎりで朝食にした。
 景色や高山植物などを再び楽しみながら高谷池まで戻り、一路妙高山を目差す。ササ原やオオシラビソの林を通過。茶臼山も何時の間にか通り過ぎて、六角形の青い丸屋根が印象的な黒沢池ヒュッテで一休み、水分を補給する。何時ものことながら、のんびりと歩いていたので、そろそろ時間が気になりだした。黒沢湿原の散策をはしょって、私達としてはハイペースで歩き出す。(他のパーティーを追い抜くことはなかったが、めずらしいことに追い越されることもなかった。)
 大倉乗越、長助池分岐と通り過ぎ、いよいよ妙高山への急登に取り付く。喘ぎながら登り詰め、一等三角点のある妙高山北峰へ辿り着いたのは11時35分、大勢の登山者たちが休憩をとっていた。
 雲が厚く垂れ込めていて、噴火の名残りの大岩がゴロゴロとしている山頂部では視界は得られなかったけれど、テガタチドリの群落が私達の目を楽しませてくれた。花期には少し早かったが、大きなミヤマシシウドも印象的だった。
 パン食で昼食を済ませ、北峰を辞したのは午後12時15分。少し登り返すと、北峰より8メートルほど高い南峰のピークへ着く。ここで妙高大神を祀る石祠に両手を合わせてから、下山を開始する。もう既にバテバテ状態になっている。鎖場など、慎重に下った。
 天狗平を過ぎ、硫黄の臭いのする北地獄谷に沿ってゆっくりと下る。ブナ林を抜け燕(つばめ)新道に出る。疲れ果ててノロ足になり、もう限界だと思ったとき、山々に囲まれた燕温泉の温泉街が眼下に見えてきた。ほっとして薬師堂まで下り、あらためて見下ろすと、このひなびた温泉街はまるで大海原に突然浮かんできた潜水艦のようにも見えて、何故か可笑しかった。
 ヘロヘロ状態で燕温泉に着いたのは午後4時20分。本日の行動時間は、なんと12時間。しみじみと、矢張り、疲れた…。

燕温泉「針村屋」: 温泉街は妙高の東北麓・標高1160mの静かな山間に位置している。狭い坂道を挟んで温泉宿が8軒に土産物屋が2軒、情緒豊かにひしめき合っている。坂上の石段の上に妙高山への登山口でもある薬師堂があり、さらに少し登った処に無料露天風呂「黄金の湯」がある。この露天風呂、下山後に汗を流すにはもってこいだけれど、外から丸見えなので、女性はちょっと勇気がいるかも。
 「針村屋」はその小さな温泉街…坂上の薬師堂から坂下のバス停まで100mにも満たない…の中ほどに建っていた。食事は食堂にて。地元の食材を使った料理は美味しかった。1泊2食付き、トイレ付きの十畳間で一人1万円は安いと思った。内湯外湯とも石のタイル張り。含土類石膏泉、42度、もちろん源泉掛け流し。白濁した湯は微かに硫黄の臭いがした。

 第3日目(7/22・晴れ): 朝風呂から朝食までの時間、宿のサンダルで温泉街の近くを散歩してみた。昨日の下山時には気が付かなかった惣滝なども見物してみた。清々しい朝の空気の中、山旅の疲れが癒えていくのが分かったが、足の筋肉痛で、薬師堂の石段を下るのはとても辛かった。


* 火打山は以北最高峰: 国内において北側にその山より高い山がない、という山を最近では「以北最高峰」と呼んでいますが、実はこの火打山も日光の奥白根山や尾瀬の燧ケ岳などと同じ「以北最高峰」です。だからなんなの? と云ってしまえばそれまでかもしれませんが…。
 これより先にその山よりも高い山がないのですから、それは、やはりスゴいことだと私は思います。ちなみに、深田久弥著「日本百名山」の火打山の項には 「緯度的に見て、火打より北に火打より高い山はない」 と感動をこめて格調高く書かれてあります。
 「以北(遠)最高峰」の山列一覧については No.66日光白根山の頁のコラム欄を参照してみてください。
[後日追記]



高谷池のほとりに建つ高谷池ヒュッテ(見えるかなぁ)
高谷池湿原
妙高南峰から北峰方面を眺める
妙高山の山頂部

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