No.155-1 塩見岳3052m 前編
 平成15年7月19日〜20日 霧(ガス)が出て雨も降りました マイカー利用
塩見岳 略図
正面に豊口山の大岩壁
まず林道歩き

登山口で一休み
豊口(大鹿)登山口

タフなコースでした
眠いよー、疲れたよー

稜線鞍部の樹林帯にて
塩見小屋はまだ?

白山千鳥:ラン科の多年草。高山植物
ハクサンチドリ


寝不足は登山の敵!?

《マイカー利用》 第1日=中央自動車道 松川 I.C-《鳥倉林道》-ゲート前駐車場〜豊口山登山口〜三伏峠〜本谷山2658m〜塩見小屋 第2日=塩見小屋〜天狗岩〜塩見岳(西峰3047m・東峰3052m)〜塩見小屋〜三伏峠〜豊口山登山口〜駐車場…鹿塩温泉(泊) 【歩行時間: 第1日=7時間 第2日=6時間30分】
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  一応、なんとなく、日本百名山を目差している私達夫婦。 かつて、南アルプス北部の白峰三山(北岳・間ノ岳・農鳥岳)縦走や南部の荒川三山〜赤石岳縦走の計画の段階で、塩見岳を加えようかと思って試行錯誤したことがあるけれど、脚力のない私達、正味4日間の夏休みではどうやっても無理だと分かった。 で、塩見岳だけがポツンと残ってしまっていたのだ。 今回、貴重な7月の三連休。 満を持しての塩見岳登山だった。

  第1日目(7/19): 東京と名古屋を結ぶ中央自動車道は、岡谷ジャンクションを頂点として「逆の字」の形をしている。 その「逆の字」のの内側の大部分を占めるのが赤石山脈、つまり南アルプスだ。 塩見岳はその南アルプス主稜のど真ん中に位置する抜きん出た高峰。 遠くて深くて高い山だ。 未明の中央自動車道を、左手に巨大な南アルプスの気配を感じながら、ひたすら走る。
  中央自動車道の「逆の字」の左肩に位置する松川インターを出て、大鹿村方面へ向かい、中央構造線の走る伊那谷を横切りながら東へ進む。 夜が白々と明けてくる。 天竜川を渡り、支流の小渋川に沿って谷間の静かな道を運転していると、突然前方の路上にニホンザルの群れを発見して、眠気が吹っ飛んだ。 「サルだ!」 と叫んだら、助手席の佐知子も目が覚めたようだ。
  大鹿トンネルを抜け、上村方面へ右折し、3Kmほど走って国土交通省の看板の先を左折。 あとは道標に導かれて、ひたすら高いほうへ道を選ぶ。 と、何時の間にか鳥倉林道を走っている。 松川インターから1時間強の夜明けのドライブで、鳥倉林道の車止めゲート手前の駐車場(無料)へ着いた。 目一杯駐車して、多分35台くらいかな、の駐車場には既に20台ほどの車が止っていた。 小鳥のさえずりを聞きながら、車中で朝食をとったり、少し仮眠したりした。
  何時雨が降ってもおかしくないような、そんなねずみ色の空模様だ。 いそいそと、ゲート脇に設置してある登山ポストに登山者カードを提出し、「親子連れのクマに注意!」 の看板を横目で睨みながら、歩き始めたのは午前6時40分頃だった。
  豊口山は石灰岩質の山(地層は秩父帯)、らしい。 アスファルトの路上に蝋石のような石ころが沢山落ちている。 眼前の大岩壁がけっこう迫力がある。 その豊口山の南西斜面を等高線に沿って視界の開けたスカイライン(林道)は続く。 ゆっくり歩いて、約40分ほどで標高約1800mの豊口山登山口に着いた。 この鳥倉林道を利用した塩見岳への最短コース(豊口山コース)の登山口の名称については、「豊口(山)登山口」又は「鳥倉(林道)登山口」が一般的だと思っていたけれど、登山口の標板には「大鹿登山口」と記されてあった。 なんか判然としない、なぁ…。
  人工のカラマツ林を黙々と登る。 やがて徐々にシラベ(シラビソ)が主役の自然林へと移り変わる。 寝不足で、とても眠い。 歩きながら半分眠っている自分に気がついて「まずいなぁ」と思った。 眠り姫の佐知子も、当然のことながら体調絶不調。 とにかくゆっくりと、慌てず、休み休み、ナメクジのように歩く。 辺りに落ちている石ころは緑色岩やチャートになっている。 何時の間にか大断層を通り越して、地層は秩父帯から四万十帯になっているようだ。 (事前に少し勉強したので多分間違いないと思う。)
  三伏峠までの中間地点辺りからゴゼンタチバナやオサバグサなどの高山植物が咲いていた。 思わずニンマリとしたけれど、ここのオサバグサは早池峰登山の際の薬師岳山麓で見たそれと較べてあまりにも貧弱だったので、オサバグサファンの私としてはガッカリして目を背けてしまった。 昔の恋人と久しぶりに再会して、色艶の衰えた容姿と目じりのシワが気になって、思わず目を伏せてしまった、と、そんな感慨に近いものをそのとき感じた。 勿論、そんなたとえ話を佐知子には言えるはずはなかった。 もし言っていたら、「昔の恋人だってあなたのことをそう思っているわよ」 と逆襲にあうのは分かっていたことだから…。
  少しガスってきて、ついに小雨が降ってきた。
  三伏峠経由の塩見岳登山のメインルートは、ここ数年の間に塩川土場からのコースからこの豊口山コースに奪われてしまったようだ。 私達がそうであったように、コースタイムにして約2時間ほど短縮できるのが、その主な理由だと思う。 その塩川コースが左から合流して間もなく、主稜の一角、標高2615mの三伏峠小屋へ着いた。 雨が降っていたので、小屋に二人分の休憩料800円(お茶付き)を支払って、お握りの昼食。 相変わらず眠気が私達を襲う。 既にバテ気味で、先が思いやられた。
  南アルプスの森林限界は北アルプスより約200m高く、2600m〜2700mくらいだという。 三伏峠小屋を出て、シラベの樹林帯を過ぎ少し登ると、ハイマツとハクサンシャクナゲの待望の稜線へ出る。 三伏山を通過した頃から雨は止み始めたけれど、霧が晴れず、矢張り展望は利かない。 なだらかに下ると、再び細身のシラベとダケカンバの樹林帯に入る。
  三伏峠から塩見小屋までは、中間地点にある本谷山をはじめ、幾つかのピークを登り下りする。 私達は相当に疲れていたらしい。 その森林限界付近を上下するタフな縦走路を、いやになるほど長く感じた。 トロ足で少し歩いては小岩にドッカと腰を落として小休止。 シナノキンバイやミヤマキンポウゲなどの黄色い花たちや、ツマトリソウやゴゼンタチバナなどの白い花たち、そしてハクサンチドリの赤紫色の花が、私達を多少は元気付けてくれる。 前方の登山道に目をやると、ウソのツガイがしきりにエサをつついている。 「何を食べているんだろうね?」 と声を掛けたけれど、佐知子は「ウーン」と唸っただけだった。
  緑色岩と茶色のチャートが一層目立ち始める。 ハイマツ帯を登ると、突然左に小さな塩見小屋が現れた。 午後4時丁度、だった。 私達の後から塩見小屋へ辿りついた宿泊客はほんのわずかだった。 ここ暫らく軽いハイキングしかやっていなかったからかなぁ。 殆どグロッキー状態の私達だった。 「寝不足は登山の敵ね!」 とポツンと云った佐知子の言葉に、私は不覚にも 「ウン!」 と素直に返事してしまった。

*** コラム ***
塩見小屋と「小屋のオヤジ」河村さんのこと

小さな素晴らしい小屋でした
塩見小屋
  私には昔買い求めた月刊誌などを大切に保存して繰り返し読む、といった変な趣味があります。 私が購入した「岳人」は過去2冊で、そのうちの1冊が南アルプス特集の1999年6月号(No.624)なのですが、かなりの頁数を使って塩見小屋の御主人・河村正博さんのことが詳しく書かれてあります。 ご本人の寄稿文も載っていて、興味深く読まさせていただきました。 若い頃から南アルプスの山小屋管理に携わって、気取りの無い人生を歩まれてきた河村さんに、少なからず羨望の気持を抱いたものでした。
  その憧れの河村さんに今回初めてお会いして、矢張り私の思っていた通りの人だったな、と思いました。 僭越な云い方かもしれませんが、優しい笑顔の河村さんを、まるで私の旧友であるかのように感じました。 1941年生れで、私よりはズッと年上なのですが…。 山のことや山小屋のことなど、色々とお話もお聞きしたかったのですが、じつは、私はなんだか恥ずかしくて、とうとう殆ど喋れなかったのです。 1976年に倒壊していた塩見小屋を手作りで再建した、そのご苦労はいかほどのものであったか、察するに余るものがあります。
  私達がこの小屋に予約を入れたのは2ヵ月ほど前でしたが、そのときの河村夫人の話ぶりでは多分私達がこの日の最後の「客」でした。 93年に大鹿村の鳥倉林道が開設され三伏峠まで短時間で登れるようになってからは、百名山ブームも手伝って、登山者が急増したという人気の塩見小屋ですが、もうけに走らず、完全予約制を貫き通している河村夫妻に拍手喝采です。 また、地下浸透トイレを廃止し、災害用簡易トイレを活用するなど、環境保護にも大変気を使われているのも素晴らしいことだと思いました。
  標高差で160mの谷を下ってボッカしてくるという水は、ここでは貴重品です。 しかし、夕飯の食卓には熱いお茶がたっぷりと用意されていました。 コロッケも揚げたての熱いのを出してくれます。 ご飯も味噌汁もあったかで、疲れと眠気で食欲のなかった私達でしたが、全部残さず美味しくいただきました。 寝床も一畳半に二人、必要十分なスペースでした。 30名で満員の小さな小屋ですが、交代制の食事時も含めて窮屈さは感じません。 限られた空間と、限られた人材と食材で、精一杯工夫されているのがよく分かります。 本当にもう拍手喝采です。
  そのゆったりとした食事時、同席した塩見新道から登ってきたという男性二人のパーティーを交えての会話が弾みます。 主人の河村さんは少し離れて穏やかな笑みを浮かべながら静かに私たちを見守っていました。 その時の話題ですが、マイカー利用なら、三伏峠を経由しない三峰
(みぶ)川からの塩見新道がいいとのことでした。 静かな道だし、アップダウンがない分累積標高差は少ない、と河村さんも声を掛けてくれました。 この日、河村さんから直接お話の聞けた唯一のことでした。

* その後、河村さんご夫妻は塩見小屋の管理を後進に譲り、三伏峠の南東に位置する小河内岳避難小屋(夏季は管理人が常駐)の小屋番としてつとめられているそうです。 静かな小屋のほうが河村さん好みなのだと思います。 …らしい、ですね。 またまた拍手喝采です。 [後日追記]

  夕食後、外へ出てみたら霧が少し晴れて、塩見小屋の屋根越しに天狗岩を従えた塩見岳が見え始めた。 大絶景だ! 小屋裏の稜線へ出て振り返ると、今日歩いた三伏峠や本谷山などの近くの峰々もくっきりと見えている。 西側は一面の雲海だ。 小躍りして、写真を撮り続けた。 これだから「山」はやめられないんだよな、と思ったけれど、その至福のひとときは長くは続かなかった。 夕日に映えて益々美しくなってきたな、と思った頃、あっという間に厚い雲が垂れ込めて、やがて辺りはガスに包まれてしまった。 急に寒気を感じて、慌てて小屋へ戻る。
  快適な小屋のおかげで、この夜はぐっすりと眠ることができた。

次項 塩見岳(後編) へ続く



塩見小屋裏の稜線から撮影
夕日に映える塩見岳(左奥)と天狗岩:左手前は塩見小屋の屋根


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