No.181 後方羊蹄山(しりべしやま・1898m) 平成17年(2005年)7月4日〜5日 ![]() ![]() ![]() |
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【歩行時間: 第1日=4時間30分 第2日=5時間30分】 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ 地元の人も各地から集まったハイカーたちも、略して羊蹄山(ようていざん)と呼んでいた。本当は後方羊蹄山と書いて「しりべしやま」と読むのが由緒正しいことらしい。まぁ、私にとってはどちらでもいいことなのだが、妻の佐知子は深田久弥氏に敬意を表して「しりべし…」に終始こだわっていた。で、本サイトでは「しりべしやま」に統一してある。 尚、この山のアイヌ語名はマッ・カリ・ヌプリ(後ろを・曲がる・山)と云うそうで、真狩川が語源になったらしい。前方羊蹄山(尻別岳)=雄山=ピンネシリに対して後方羊蹄山=雌山=マチネシリという呼び方がある、というのも面白い。その容姿から蝦夷富士の愛称があるのは有名だ。と、のっけから少々ややこしくなってしまったが…。
ほんの短い区間のトドマツの人工林を抜けると、あとは自然林だ。エゾマツ、エゾイタヤ、ミズナラ、ダケカンバ、ナナカマド、ミネカエデなどの樹林をひたすら登る。林床はチシマザサ(ネマガリダケ)で、道端のゴゼンタチバナが目を和ませる。五合目(標高1090m)辺りからひねたダケカンバが優勢になり、その樹高も段々と低くなる。振り返ると樹林の隙間から、田園の彼方に倶知安だろうか、などの街並みが見え隠れしている。ウコンウツギが今を盛りに咲いている。休憩してじっとしているとひんやりと寒い。シマリスが時折登山道を横切る。 八合目を過ぎた辺りでシラネアオイの群落に驚いた。このシラネアオイはこれから先、山頂部にかけて、あちこちで見かけることになる。本家本元の日光白根山ではほとんど見られなくなったこの花をここで大量に見るなんて、やっぱり北海道はすごいと思った。今年は例年より2週間ほど当地の夏が遅いという。私達はラッキーだったのだ。 山頂部(大火口)と北山1843mと羊蹄小屋の三方向への分岐点でもある九合目で視界が開けた。しかし風強く、霧も出てきて展望は利かない。ハイマツは小さな赤い花をつけ、そのハイマツ帯の縁にはキバナシャクナゲやイソツツジが咲いている。ウラジロナナカマドは白い花をつけ、エゾノツガザクラは群落して(佐知子に言わせるとショッキングピンクの)小さな壺形の花をたくさんつけている。ツガザクラ類は自然雑種ができやすいと云われているが、これは珍しい純粋種とのことだ。独立峰ということが、この山の純粋さを保持しているらしい。 この倶知安コースと山頂部の植物群落は天然記念物に指定されているとのことだ。この日目にしたその他の花はオオタチツボスミレ、サンカヨウ、オダサムタンポポ(エゾフジタンポポ)、ノウゴウイチゴ、ハクサンチドリ、トカチフウロ、ハイオトギリ、メアカンキンバイ、エゾカンゾウ(エゾキスゲ)、イワヒゲ、コケモモなど。イワブクロやイワギキョウはまだ蕾だった。 ハイマツをかき分けながらなだらかに進み、羊蹄山避難小屋に着いたのは午後1時50分。若い管理人さんが暖かく私たちを迎え入れてくれた。この管理人さんは北海道の高山植物や登山のことについてかなり専門的な分野にまで造詣の深い方で、後方羊蹄山の植生の純粋さなどについても、四方山話の中でたんと教えてもらった。感謝感激だ。 夜になって益々霧が濃くなってきたようだ。雨と風の音が小屋を包む…。 * 羊蹄山避難小屋(羊蹄小屋): 倶知安コースの九合目から南へなだらかに進んだ処、真狩コースとの分岐点近くに位置する。収容人員100名。シーズン中(6月中旬〜10月中旬)は管理人が常住。自炊。水場は100メートルほど先の雪渓直下で、冷たい雪解け水がじゃんじゃん流れていた。しかしこの水場は毎年7月下旬以降は涸れてしまうとのことだった。宿泊料は一人800円。私達はシュラフを持参していたので必要なかったが、貸毛布(1枚200円)や貸シュラフ(1袋300円)の用意もある。この日の宿泊者は私達夫婦を含めて4組の6名のみ。静かで快適な小屋だった。 ![]() ![]() * 鯉川温泉旅館はこの後(2018年3月より)休業しているようで、とても残念です。日帰り入浴については今まで通り受け付けているようですが…。[後日追記] ![]()
礫地の斜面を横切り、いくつかのお花畑や雪渓を登りつめると火口壁の上に出る。小屋にメインザックを預けてきたのでサブザックだけの身体は軽かったが、強風に吹き飛ばされそうな恐怖だった。ガニ股で重心を低くして、視界数十メートルの白一色の空気の中をナメクジのように進む。 この山の山頂部には大小4つの火口やくぼ地があり、地形を複雑にしているという。特に分岐では何回も標柱を確かめる。時々振り返ってはコンパスと首っ引きで、帰路に備えて方向を記憶する。突風が吹くと、先頭に立っている私の腕に佐知子がしがみつく。顔に当たる雨滴が痛い。 何回も諦めて引き返そうかと思ったけれど、気がついたら何時しか岩稜になり、三角点(旧山頂・1893m)を通り過ぎて山頂標識のある後方羊蹄山の最高点(1898m)へ辿り着いていた。小屋を出てから約1時間20分後だった。相変わらずの激しい雨と風だ。道南、道央の最高峰から360度で見えるはずの展望は全く無い。引きつった顔の目と目で、佐知子と、お互いの健闘を称えあう。 この先、大火口(父釜)の縁を更に時計回りで進むと距離的には早く小屋に戻れそうだったが、足場の悪い岩場が続くという。私達は迷うことなく来た道を引き返した。小屋に戻ってから管理人さんにも云われたことだが、この悪天候下でのそのコース選択は大正解だったらしい。 私達二人のためにわざわざストーブに火をくべてくれた親切で優しい管理人さんに感謝の挨拶をして、下山の途についた。幾分雨風は弱まってきたようだ。半月湖駐車場に戻ったのは午後1時50分だった。 「ふるさと富士」の後方羊蹄山は、私達に山の良さと怖さを同時に教えてくれた、植物などの種の保存に優れた独立峰だった。それはまるで気位の高い「先生」のような存在でもあった。 ![]() ![]() * 幌尻岳登山を断念: 後方羊蹄山2日間の登山を終えてニセコ薬師温泉の部屋でくつろいでいるとき、大問題が発生した。明後日から予定していた幌尻岳登山をあきらめざるを得ないことになってしまったのだ。…事の次第はこうである。 山小屋だからその宿泊予約は形式的なもので、事前に連絡しさえすれば何とかなるだろう、と思っていた私が浅はかだった。どうしてもその小屋(幌尻山荘)を利用しなければ軟弱な私達には不可能な幌尻岳登山だが、管轄するお役所に予約の電話をしてみて驚いた。もう何ヶ月も前から予約はいっぱいで、テント設営も含めて到底宿泊は許可できないと云う。もう北海道に来てしまって予定も組んでしまっている、せめてテント使用の許可だけでもと懇願しても、全く受け付けてくれない。さぁ、困った。 「現地へ強引に行ってしまっても、多分いやな思いをするわね」 と佐知子が云って、それで断腸の思いで幌尻岳登山を断念することになったのだ。 私達の山旅(北海道の山旅・のほほん24日間)の計画はここで大きく狂ってしまった。再度夫婦会議を開き、夕方の風呂にも入らず真剣に協議した。その結果、幌尻岳登山の次に予定していた「トムラウシ・十勝岳縦走」を変更して、それぞれの山をゆっくりと別々に登る案が浮上した。これだと前半の日程に多少のギクシャクやダブリはあるけれど、後半の計画は予定通りになる。何時ものことだが、発案権と議決権は妻の佐知子の専有で、あちこちの宿泊施設に予約やキャンセルの電話をしたのは私だった。 その後、幌尻山荘の「ウワサ」をいろいろと耳にした。どうやら近年、予約受付開始日(6月1日)のその日でいつも満杯になるらしい。なんかおかしいぜ、幌尻岳は…。
幌尻岳登山のために予約しておいた平取町の町営素泊り温泉「びらとり温泉」へ向かう。移動の途中、洞爺湖をぐるっと半周歩いてみたけれど、昭和新山や有珠山は霧雨の中だった。 ![]() ![]() 町営の「びらとり温泉」は「二風谷ファミリ−ランド」内にあり、泡風呂や打たせ湯などもある近代的な入浴施設だ。宿泊棟は少し離れて建っていて、銭湯へ行く感覚で、傘を差してサンダルをカランコロンと鳴らすのも風流だ。当地で産出するという沙流川銘石や幸太郎石などを配した大きな内湯はゴージャスだった。含硫化水素・食塩重曹泉、11.6度、加熱循環。ほとんど無色透明無味無臭。特筆すべきはここのレストランで食したサイコロステーキ(800円)の美味さだ。フライドポテト(300円)もほくほくに甘くて美味しかった。レストランで支払った以外の料金は宿泊料(素泊りのみ)1,000円とふとん代1,000円と入浴料500円の合計2,500円だった。 * この2年後(2007年7月)の北海道山行(幌尻岳登山)の際、びらとり温泉を再び利用しました。相変わらず静かな環境で、レストランの食事も美味しかったです。このときは少し贅沢をしてステーキを食べましたが、もう、絶品でした。尚、サイコロステーキはカットステーキと名を変えて、セット料金は980円になっていました。とにかく、安くて美味い! [後日追記] * 更にその後(2014年7月)、「びらとり温泉・ゆから」としてリニューアルオープンした模様です。[後日追記]
北海道に梅雨が無いなんてウソだと思った。ここ数日間は地元の人も首をかしげるほどのぐずついた天気が続いている。幌尻岳登山中止は結果オーライ、だったかもしれない…。 明日からは十勝岳登山だ。
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