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No.183-2 トムラウシ山2141m 後編
平成17年(2005年)7月12日〜14日 時々ガスったが概ね良い天気

トムラウシの略図
太陽は既に高く・・・
トムラウシ山頂

このあと、脱コースしてしまいました
北沼へ下る

無事に辿り着けてほっとしました
ヒサゴ沼に到着

ヒサゴ沼のテン場です
ヒサゴ沼

「トイレの原点」が隣に建っています
ヒサゴ沼避難小屋


北海道の山旅・のほほん24日間 [4/8]
神々が遊んだ庭で遊ぶ

登山前日(7/11)=新得駅前-《バス》-トムラウシ温泉 第1日(7/12)=トムラウシ温泉-《タクシー》-短縮コース登山口〜南沼キャンプ指定地 第2日(7/13)=南沼キャンプ指定地〜トムラウシ山2141m(2回アタック)〜ロックガーデン〜日本庭園〜ヒサゴ沼避難小屋 第3日(7/14)=ヒサゴ沼避難小屋〜化雲岳1954m〜第一公園〜滝見台〜天人峡温泉(泊)…
 【歩行時間: 第1日=6時間40分 第2日=5時間 第3日=7時間10分】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


*** 前項 トムラウシ山(前編)からの続きです ***

●7月13日(晴/曇): 踏み跡が無い! 南沼キャンプ地〜トムラウシ山〜ヒサゴ沼避難小屋
 薄明るくなってきたので、テントに荷物を置いたまま慌ててトムラウシ山頂をめざす。ゴロ岩を50分ほども攀じ登ると一等三角点のある山頂へ着いた。一生懸命に登ったのだけれど、北海道の朝は早かった。太陽は既に東大雪の山々の上に煌々と輝いている。そして文字通り360度の大展望だ。そんな展望の山並の中で、南西方向の十勝連峰左端の独立峰、下ホロカメットク山1668mの均整のとれた円錐形が見事で、妙に印象に残った。
 巨岩を積み上げたようなトムラウシ山の山頂部には、その東側に窪地があって、対岸のピークが双耳峰のように聳えている。十勝岳や表大雪の白雲岳方面から憧れをもって眺めていたトムラウシってこれだったのか、と感慨もひとしおだった。ご来光には間に合わなかったけれど、山頂からの景色に充分満足した私達は、来た道をゆっくりとテン場へ下った。時折美しい声でさえずる小鳥が空を飛ぶ。イワヒバリは北海道にはいないとされているので、カヤクグリだったかな、それともノゴマだったろうか。
 今日はヒサゴ沼避難小屋までの、コースタイムにして3時間足らずのラクラク行程だ。テン場近くの南沼を散策したり花を愛でたりして、朝食前後をのほほんと過ごす。しかし、その油断が、この日の大苦戦の原因の一つでもあったなんて、このときは知る由もなかった。テントを片付けて歩き出したのは8時を過ぎていた。
 南沼キャンプ指定地からトムラウシ山の北裾にある北沼へ抜けるには、西側の巻き道もあるけれど、私達は再びトムラウシの山頂を踏んで北沼へ向かった。この岩稜の下山路(ロックガーデン)が不明瞭で厄介だった。踏み跡が幾つにも分かれている。先頭を歩いていた私はその左側の踏み跡を頼りに下っていったのだが、何時の間にか踏み跡が無くなっている。佐知子が 「なんか変よ…」 と後方から声をかける。前方の北沼も見下ろせるし、コンパスで確認しても方向はそれほど間違っていない。えーぃままよ、と、そのまま突き進んだ。危ない箇所を幾つか過ぎる。まさかここで三点確保の岩登り技術が役に立つとは思わなかった。
 ようやく北沼の東岸に出て巻き道と合流する。暫らく進むと正しい尾根道にも合流して胸をなでおろした。佐知子が責めるような眼差しで私を睨みつけている。このとき突然大きな轟音がしたので驚いて振り返ったら、北沼上方の雪渓が割れて、大きな雪の塊が音を立てて沼に落ち込んでいる。ガスっていたら、もしかしてあの雪渓に迷い込んでいたかもしれない、と思うとゾッとした。その悪魔の落雷音のような響きは、長い間私達の背後を襲っていた。
 ロックガーデン、天沼(あまぬま)、日本庭園と、奇岩と池塘の絶景にため息をつきながら、主稜線を休み休み北進する。相変わらずコマクサが咲いている。エゾノハクサンイチゲやチングルマの大群落が素晴らしい。私達は「大雪の奥座敷」のど真ん中にいるのだ。
 右手眼下にヒサゴ沼が望める岩陰で昼食の大休止。モチ入りのチキンラーメンだ。傍らにはエゾノツガザクラやチングルマが咲いている。「チッ、チッ」とも「ビーッ、ビーッ」とも聞こえる鳴き声に目をやると、ナキウサギが岩から岩へとすばしっこく走っている。時々可愛らしく立ち止まるのだけれど、私のバカチョンデジカメではシャッターにタイムラグがあって上手く撮れない。そんな言い訳をしているうちにナキウサギは岩陰に隠れてしまって、二度とその姿を現さなかった。
 ヒサゴ沼畔の避難小屋へ下る大きな雪渓でも大苦戦した。ここでも踏み跡を見失ってしまったのだ。傾斜は益々きつくなってくる。佐知子が怖がっている。雪上を左へトラバースして岸に上がり、ブッシュ(ネマガリダケ等)の藪漕ぎに挑戦してみたけれど全然歯がたたない。あきらめて、靴の底でザラメ雪を削りながら、再び一歩一歩、今度は右へ向かって雪渓を下る。アイゼンを持参していない私達にはもう限界かな、と思った頃、はっきりとした踏み跡を見つけた。ほっとして歩きやすくなった斜面を下降すると、ヒサゴ沼西端の木道が見えてきた。
 時間がたっぷりあると思って歩いているとすぐに時間がなくなってしまうものだ。ヒサゴ沼避難小屋にザックを下ろしたのは午後2時半頃で、苦戦した割には早く着くことができたのだけれど、それは今日の行程が超短かったからだ。余裕のある日程と計画でよかったと思う。
 ヒサゴ沼畔にテントを張っている青年に声を掛けられた。話を聞くと、当地を管轄する十勝支庁(環境生活課)の職員とのことで、小屋の利用状況の実態調査をしているとのことだった。一週間交代で一人でキャンプ生活をしているらしい。私達もアンケート調査に協力したりして、その環境生活課の青年職員といろいろ話もした。たとえ仕事でも山でひと夏過ごせるなんてイイですね、と云ったら、アハハと笑っていた。
 30人収容のヒサゴ沼避難小屋は無人小屋で、この日は7〜8名ほどの利用者でゆったりと過ごせた。レトルトのチキンカレーライスの夕食後、近くの水場へ持てるだけの水筒やポリタンクを持って、散歩がてら出かけた。今年は北海道の山々も例年に比べ残雪が多いという。幾つもの雪渓を貼り付けた周囲の峰々に囲まれて、ミニ盆地のような地形の幻想的なヒサゴ沼だ。その底一面に薄モヤがかかり、夜の帳(とばり)が降りようとしていた。

●7月14日(高曇り): 流石にカムイミンタラだ! ヒサゴ沼避難小屋〜化雲岳〜天人峡温泉
どう見てもペチャパイに乾ブドウ、だな
化雲岳を望む

前方に化雲岩
化雲岳山頂に到着

化雲岳からトムラウシを望む
トムラウシを振り返る
 午前4時05分、明るくなった頃、ヒサゴ沼避難小屋を出た。濃い朝霧が出ている。不安な気持ちで、化雲岳へ向かって長くて広い雪渓を登る。思った通り、右岸も左岸も霧の中へ消えてしまった雪渓の真ん中で、全く何処を歩いているのか分からなくなった。踏み跡はのっけから無い。昨日の苦戦が今日も続く。昨日より始末が悪いのは、今朝は視界がまったく無いということだ。しかし上りだった。下るよりはずっと気が楽だ。とにかく上へ上へと進んでいたら、約1時間後、主稜線の一角に辿り着いた。慎重に雪渓の端を抜け出る。少し先には木道もあるれっきとした登山道が続いている。その木道に腰掛けて、コンロで湯を沸かしてスパゲッティカルボナーラの朝食だ。
 スパゲッティを食べていたら霧が晴れてきて、辺り一面はだだっ広いお花畑だった。行く手を望むと、緑の丘の上にポチョンと茶褐色の岩が乗っかっている。あれが化雲岳かと思うと何だか可笑しかった。まるでペチャぱいにくっついた乾しブドウのように見えたからだ。(あっ、失礼いたしました。) 今日もお天気は何とかなりそうだ。
 再びカムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)の空中散歩を続ける。この山稜は、本当に、何処も彼処も素晴らしい。可憐な高山植物が咲き乱れ、奇岩のオブジェはまるで計算されたような美しい配列になっている。なんと贅沢な眺めだろうか。
 ペチャぱいの乾しブドウだと思ったのはゴツンとした大きな岩塔(化雲岩・高さ約5m)だった。その脇に化雲岳の山頂を示す標柱と三等三角点の標石が立っていた。展望を充分に楽しんでから、表大雪へ続く主稜線を右に見送って、天人峡へ向かって枝尾根の長い道のりを歩き始める。
 暫らくの間は広い草原状の礫地を、エゾノハクサンイチゲやエゾノツガザクラやコマクサなどに見送られ、ゆるやかに下降する。右前方には忠別川が流れる谷を挟んで旭岳などの表大雪の眺めが広がり、左後方ではトムラウシの大容量がずっと私達に別れを告げている。
 この下山路は長かったけれど飽きることはなかった。ガレ石や所々のぬかるんだ道で歩きにくい処もあったけれど、開けた登山道沿いには高層湿原の第二公園や第一公園などのビューポイントが目白押しだ。特に木道を歩く広大な第一公園ではエゾコザクラの群落や一面のワタスゲが風になびく様子がステキだった。常に正面に構えている残雪の大雪山の景観など、もうずっと夢見心地で、どこまでもさまよって歩き続けたい心境だった。
 高度が下がってきて、やがて森林帯へ入る。太目のエゾマツ(アカエゾマツ?)やダケカンバが目立つ。たまたま伐り倒されたエゾマツが道筋にあったので、切り株の年輪をざっと数えてみたら、細身の木だったけれど100以上は数えることができた。すると、あちこちの太めの木は、多分樹齢300〜500年くらいじゃなかろうか、と他愛もないことを佐知子と話し合ったりした。
 ツバメオモトが咲いていたので暫し観察したり、滝見台で「羽衣ノ滝」を見物などしてから、急降下してドスンと天人峡へ辿り着いたのは午後3時頃。2〜3人のハイカーとすれ違っただけの、静かでファンタジックな下山路だった。

天人峡温泉「天人峡グランドホテル」 天人峡温泉「天人峡グランドホテル」: 背後に清流・忠別川が流れ、その対岸には垂直に切り立つ岩盤(あまつ岩の右端)の奇景を配したロケーション。かなり高さに角度のある絶景で、夜は幻想的なライトアップもされる。周囲の緑と柱状節理の縦縞の茶色が見事なコントラスト。その美しい景色を部屋の窓からも風呂場からも眺めることができる。石貼りの内湯と露天風呂。ナトリウム・カルシウム・マグネシウム-硫酸塩泉、45〜50度、褐色にやや濁る。微かに鉄の臭い(金気臭)。正真正銘の源泉掛け流し。湯量も豊富。とてもいい湯だった。いまどき珍しい部屋食(夕餉)も嬉しかった。旭川駅からバスで1時間、美瑛駅へはタクシーで約30分だった。1泊2食付一人10,650円。
 私が学生の頃に旅した思い出の天人峡温泉。その切り立った景観は昔も今も変わらないが、「ひなびた」感じはもう全く無くなっていた。それは36年という歳月のことを考えれば当然のことなのかもしれないが、一抹のさびしさも感じた。私には俳句の才はないけれど、一句出てきそうな天人峡の夕べだった。
 この夜、テレビで、知床が世界自然遺産に登録されたと報じていた。羅臼やウトロや斜里の町では大変な騒ぎになっているだろうな…。

●7月15日(晴/曇): あまり意味のない移動日 天人峡温泉〜美瑛〜新得〜白金温泉
 天人峡温泉でトムラウシ登山の疲れを癒した私達は、タクシーと電車を利用して新得の町へ戻った。駅前旅館のご主人に、5日間マイカーを預かってもらったお礼をしてから白金温泉へ向かった。前々から予約のしてあった「大雪山白金観光ホテル」に泊まるためだった。幌尻岳登山が急遽取り止めになった影響はここにも及び、私達は富良野を中心に上川盆地を何回も行ったり来たりすることになる。
白金温泉: 前項 富良野岳から十勝岳と美瑛岳 を参照してください。

●7月16日(曇/晴): のほほんとした移動日 白金温泉〜旭川〜北見〜阿寒湖温泉
 白金温泉から旭川→層雲峡 と上川盆地を抜け、北見盆地も通り抜けて、阿寒湖までのドライブの一日。明日からの雄阿寒岳・雌阿寒岳登山の下見も兼ねて、それぞれの登山口までのドライブ観光をしたり、阿寒湖畔の散歩などもした。
 私達の北海道の山旅は、いよいよ道東の山々へと移り変わる。

次項 雄阿寒岳 へ続く



「もう8時だぜ・・・」
南沼キャンプ地にて
アカエゾマツ林の後方は大雪山(旭岳)です
下山路(第一公園)にて
バックが化雲岳
化雲岳から天人峡へ下山開始!


外部サイトへリンク 「北海道の山旅・のほほん24日間」の写真集大きな写真でご覧ください。

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