No.183-1 トムラウシ山2141m 前編 平成17年(2005年)7月12日〜14日 |
||||||
【歩行時間: 第1日=6時間40分 第2日=5時間 第3日=7時間10分】 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ *** 前項 富良野岳から十勝岳と美瑛岳からの続きです *** 北海道の「ヘソ」は富良野市だが、その「重心」は新得町にあるという。それを記念した新得駅前のやじろべえ形のモニュメントを見ながら、1日に1本の、午前7時20分発の拓殖バス(7/9〜8/21運行)に乗る。私達のマイカーは一宿のお世話になった駅前旅館に預けてきた。バスの乗客は私達夫婦のほかには一人の中年ハイカーの男性だけで、三人の貸し切り状態だった。その中年ハイカーも明日はトムラウシに登るらしい。 バスは十勝川に沿って北へ遡行する。途中、バスの運転手さんから 「降りてダムを見物しますか?」 と聞かれたけれど、本降りの雨が降っていたので、中年ハイカーとも相談して、そのまま走ってもらうことにした。ダム見物の停車時間が割愛されたせいか、予定より10分早くトムラウシ温泉に到着した。 雨が止んだ(と思っていた)ので、大きなザックを宿に預けて、トムラウシ山へ続く登山道を散歩がてらに歩いてみた。そしたら再び大雨になって、傘を持ってこなかった私達は大きなミズナラの木の下でじっとしていた。雨足が弱くなったのを見計らって、ぬかるんだ道を走って下り、近くの東屋(兼トイレ)で雨宿り。しかし雨は再び激しく降り、私達はその東屋に釘付けになってしまった。随分と長い間、足元のアリンコの働きぶりなどを観察していたら、目の前を一台のライトワゴン車が宿の方向に走り去った。と思ったら、暫らくしてそのワゴン車が引き返してきて、車窓から私達に傘を2本差し出してくれた。ありがたかった。あとでフロントに尋ねたら、その優しいライトワゴンの運転手さんは宿の従業員だった、とのことだった。 かなり早めのチェックインだったが、宿の対応は親切そのものだった。レストランでの昼食後は、のんびりと風呂へ入ったりしながら過ごした。快適な宿のおかげで、明日からのトムラウシ登山の心と身体の準備が出来上がった。天気は快方に向かっているという…。 トムラウシ温泉「東大雪荘」: トムラウシの南麓にエゾマツやミズナラなどの原生林に囲まれて建つ民営の国民宿舎で、一軒宿の温泉だが、リゾートホテルの感もある。岩風呂風の内湯も露天風呂も大きくてとてもいい。泉質は含硫黄・ナトリウム・塩化物・炭酸水素泉。源泉温度は約93度。無色透明、微かに硫黄の臭い。循環併用だが、湯船からは常に湯があふれ出ていて、ほとんど源泉掛け流し。部屋の窓の下には十勝川の支流ユウトムラウシ川が流れる。夕餉に特別注文したオショロコマ(イワナ)の骨酒など、もう最高! 1泊2食付一人9,232円は割安感。 一昨年の大雪山縦走の際、ようやく予約のとれた東大雪荘だったが、台風襲来のハプニングで急遽下山して、泣く泣くキャンセルした思い出が私達にはある。人気の温泉宿だから、今回も3ヶ月以上前に予約を取っておいたのだ。その私達の期待は正しかった。この宿はそのサービスや居心地のよさにおいてずば抜けていた。フロントを受け持つ初老の紳士…元々のホテルマンだろうか…の、ホテルサービスの術を心得た、じつにきめ細かい配慮など、全く素晴らしいものだった。北海道のど真ん中の山奥で、こんなに(いい意味で)都会化された、イキで洗練されたサービスを受けるなんて驚きだ。 私はこのトムラウシ温泉が大変気に入ったが、少し残念だったのは、この温泉が一部循環で、塩素類の臭いが僅かだけれどしていた、ということだ。衛生のためにはやむない処置だとは推察するけれど、大きな湯船の広さはその3分の1でも十分だと思うから、せめて完全な源泉掛け流しにしてほしかった。 東大雪荘のHP ●7月12日(高曇り): 満天の星空 トムラウシ温泉〜短縮登山口〜南沼キャンプ地
トムラウシ温泉から未舗装の林道をそのタクシーで20分ほども走ると、短縮コース登山口手前にある土場跡の駐車場に着く。既に数台の車が停まっている。ここは標高1030mで、トムラウシ温泉の標高651mよりも約380mほど高い位置にある。昨日のバスの中でもいっしょだった中年ハイカーとタクシー代を割り勘して、歩き始めたのは午前5時50分頃だった。 ネマガリダケの生い茂る道を暫らく進むと温泉コースとの分岐へ出る。「キャンプ場での今夜のおかずにタケノコ、採ってみるか?」 と云ったら、「ここ、国立公園よ!」 と佐知子に叱られた。テントやシュラフや3日分の食料などでパンパンになったザックが重い。 昨日来の雨でぬかるんだり水溜りになった道は歩きにくいことおびただしい。私達は、うっとおしいからと、このときもスパッツは着けないでいたので、ズボンの裾は泥水だらけになってしまった。トドマツ、ミズナラ、マカンバの樹林からエゾマツ、ダケカンバの樹林へと徐々に移り変わる。それにミヤマハンノキ、ミネカエデ、ウラジロナナカマドなどの脇役が森にアクセントをつける。針広混交の、典型的な北海道の山の自然林だ。 カムイ天井からコマドリ沢の手前までは尾根伝いの新道(2003年開通)ができていて、カムイサンケナイ川に沿って遡行する従来の沢コースは閉鎖されていた。増水時の渡渉で事故があったためらしい。新得町役場商工観光課の説明板によると、沢コースより約700メートル長い、とのことだった。この新道の泥んこ道もひどかった。ちょっと古いけれど、どこまで続くぬかるみぞ、の心境だ。ダケカンバの樹高が段々と低くなってくる。 コマドリ沢に合流してからの雪渓の登りが長かったけれど、徐々に展望が開け、辿り着いた前トム平からは岩と池塘と雪田とハイマツとお花畑の天国だった。あのコマクサが、無造作にあちこちに咲いている。黄色のタカネオミナエシ(チシマキンレイカ)や薄紫のイワブクロも咲いている。そのゴージャスな尾根上の草原の礫地に座り込んで、コンロに火を点けてのささやかな昼食。きのこご飯と味噌汁とソーセージだ。周囲は雪渓だらけの広大な山裾で、背後に東大雪の山々が並び、行く手にはトムラウシ山がトムラウシ公園を挟んで目の前だ。 トムラウシ山頂直下の南沼キャンプ指定地も、視界の開けた素晴らしいロケーションだった。私達がテントを張ったすぐその脇では、雪渓から流れ落ちる雪解け水がせせらぎとなって一晩中音をたてていた。水場が近いというのは理想的なテン場の条件だ。周囲の草地はエゾノハクサンイチゲ、チングルマ、イワウメ、ミヤマキンポウゲ、エゾノツガザクラ、エゾコザクラ、キバナシャクナゲ、イソツツジなどの高山植物のオンパレード。眼前にはトムラウシの岩峰が聳えている。私達がこのキャンプ指定地に辿り着いたのは午後3時前だったが、霧が出たり晴れ間が出たりでちょっと忙しい空模様の中、付近を散歩したりして飽きることはなかった。 夜中にふと目が醒めて、テントから首を出して空を眺めたら星が降っていた。佐知子を起こしていっしょに外へ出てみた。満天の星空の中央に天の川が流れている。月は出ていなかったけれど、星明りだけでトムラウシ山頂部や周囲の山々が黒々と見えている。まるでプラネタリウムにいるようで、めまいがする。来てみてよかった、と私達はそのときしみじみと思った。
「北海道の山旅・のほほん24日間」の写真集: 大きな写真でご覧ください。 このページのトップへ↑ ホームへ |