紅葉狩りドライブと展望ハイキング
《マイカー利用》 中央自動車道須玉I.C-《車70分》-馬越峠〜天狗山〜馬越峠-《車20分》-南相木温泉(入浴)… 【歩行時間: 2時間】
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「日本山名事典(2004年5月発行・三省堂)」によると、天狗山は全国に49座ある。同名漢字の山としては全国で13番目に多い山名だという。案外少ないと云うべきかやっぱり多いと云うべきかは微妙なところだ。天狗岳は24座、天狗森は13座で、こちらはかなり少ない。民話などで「山の親爺」として日本人に親しまれてきた天狗様だが、山名の数においては権現様(権現山)の89座(同4位)に完全に負けている。ちなみに、最も標高の高い天狗山は立山連峰(富山県)の天狗山2521mで、最も標高が低いのは長崎県対馬市の天狗山115m。ついでに、同名の山ベストスリーは城山(298座)、丸山(187座)、愛宕山(121座)。と、少々つや消しの前置きになってしまった…。
秋晴れの一日、とにかく出かけてみよう、ということで私達夫婦が選んだ山が長野県南佐久郡の天狗山1882mだった。この天狗山の山頂部は尖がった露岩で、それが微かに赤みを帯びている。見ようによっては天狗の鼻のようにも天狗の面のようにも見える、いかにも天狗様が羽団扇(はうちわ)をもって飛び回っているような、登高意欲をそそられる山容なのだ。
夜明けの中央自動車道を走り、須玉インターから清里、野辺山と小海線沿いに北上する。南アルプスも八ヶ岳もくっきりと見えている。麓のカラマツ林が見事な黄色に染まっている。前方に並んで聳える男山と天狗山の、際立った岩峰が近くなってくる。信濃川上で右折して、千曲川源流に沿って遡上する。この道は甲武信岳(奥秩父)の信州側の登山口でもある梓山や毛木平へ続く道だ。なつかしさを感じながら、手前の大深山(おおみやま)で左折して県道2号川上佐久線へ入る。ここは縄文時代中期のものといわれる大規模な遺跡(大深山遺跡)があることで有名な処だ。ほどなくして、川上村と南相木村の境界に位置する馬越(まごい)峠へ着いた。標高は既に1620m。小さな駐車場には私達の車だけ。心もザックも軽く、歩き始めたのは午前8時頃だった。
アプローチのない、取っ付きからの尾根歩きだ。いきなりの急登をミズナラの落葉を踏みしめながら登る。時折紛らわしい分岐があるけれど、主稜線を外さなければ大丈夫。徐々に林が疎になり、アカマツ、コメツガ、ダケカンバも少し交じる。稜線付近のカラマツは既に葉を落としている。シャクナゲが目立ち始めた。
急な岩場が次から次へと出てくるが、足場はしっかりしている。チャート(堆積岩の一種)の山、ということだが、ここのチャートは赤みが少なくて、どちらかというと灰色だ。チャートにも色々な色があるんだな、と、また勉強になった。
馬越峠からワンピッチの1時間強で天狗山の狭い山頂へ着いた。質素な山頂標柱と二等三角点と花崗岩で造られた真新しい小さな石祠が置かれた石ガレの山頂は、絶頂とか天辺などという言い方が相応しいと思えるような、好ましくて素晴らしい山頂だった。視界は勿論一点360度だ。
* 天狗山山頂からの展望: 南西の横尾山や飯盛山の頭上には北岳や甲斐駒ヶ岳などの南アルプスの山々が並び、その右手の八ヶ岳との間には中央アルプスの南駒ヶ岳と空木岳がピョコンと見えている。西に隣接する男山のとんがりの、その奥に広がる八ヶ岳連峰は南端から北端まで全部見えた。北八ツの北の端の茶臼、縞枯、北横、更に蓼科山と続くボコボコの形が面白い。そしてスゴイのがその右奥の遥か遠くに連なる北アルプス北部の白峰たちだ。鹿島槍、五竜、白馬岳などの形がはっきりと見て取れる。真北に位置する八風山(北佐久)方面の斑模様の紅葉が美しく、その彼方には浅間山が噴煙を東へたなびかせている。その右手前の御座山(おぐらやま)が中腹までを黄色に染めて、近くてかっこいい。忘れちゃいけない南東に目をやると、奥秩父の山たちが樹林越しにズラッと並んでいて、小川山の峰越しに金峰山の五丈岩や瑞牆山の大ヤスリ岩が太陽を背に受けて、黒々としたシルエットになっている。
それらの景観は感動だった。私達二人だけの静かな山頂で、私達は語り合うこともなく、それぞれが眺めている方向の遠い山名を、時たま小さな声で独り言のように呟くだけだった。
当初の計画では、ここ(天狗山)から更に西へ向かって男山1851mまで足を伸ばすか、もしくは馬越峠まで戻ってから東の尾根を進み御陵山(おみはかやま・1822m)を往復するか、の予定だった。何れも歩行時間にしてプラス4時間程度の行程だが、そのルートはここからはっきりと見えているし、それぞれの山頂での展望もこことたいした差は無いように思えた。1時間近く佇んだ天狗山の山頂を辞すとき、久しぶりに会話した。
「少し歩き足りないけれど、もう充分だね…」
「温泉に浸かって、帰りましょう!」
水は低い方に流れるとか…。進むときの決断は遅く何時も喧嘩になるけれど、退却の決心は早くて意見の合う私達だった。
馬越峠へ戻り着いたのは未だ午前11時。ゆっくりと靴を履き替えて車に乗り、県道2号を北へ下り、麓の南相木温泉「滝見の湯」で汗を流す。それから南佐久、秩父、奥武蔵…、と山間の一般道をクネクネと縫いながら帰路に就いた。山里は何処も彼処もカラマツやミズナラなどの黄葉の真っ盛りで、うっとりするような美しさだった。
紅葉狩りドライブが主体の山旅になってしまったが、妻の佐知子は典型的なペーパードライバーで、何時も助手席で眠っていて、絶対に車の運転を交代してはくれない。私は歩くのより車の運転の方が疲れた。
南相木温泉「滝見の湯」: 長野県中央の東端(南佐久)、群馬県境の近く、南面に天狗山、北面に御座山を配す、標高約1400mの山間に位置する南相木村の日帰り温泉施設。施設は新しくゆったりしていて気持ちいい。4年前(平成13年10月)にオープンしたらしい。泉質は単純泉(低張性弱アルカリ性低温泉)。石タイル貼り。露天風呂あり。循環、加熱。塩素消毒、とのことだったが、それほど塩素臭は気にならなかった。入浴料は350円とかなり安い。裏に三川(千曲川の支流)が流れていて「犬ころの滝」が近いが、風呂場(露天風呂)から見えるはずの滝は私には見えなかった。女湯からは見えたらしいが…?(*)。
特筆すべきは食堂で食べた蕎麦の味。私は普通の蕎麦を食べて、それでも充分美味かったが、佐知子の食べた地元の蕎麦粉を使った「相木そば」は割高(850円)だけのことはあって、私もちょっとつまんだが、ザラザラしていて蕎麦の香りがプーンとして、べらぼうに美味かった。秋は新蕎麦の季節でもある。
「滝見の湯」のホームページ
* 後日、当サイトのBBS(掲示板)の常連の篠ちゃんから「滝見の湯」に関する情報提供がありました。篠ちゃんは、露天風呂から「犬ころの滝」が見えなかったので係の方に確認をしたそうです。すると、上流側の風呂場でないと見えない、との回答だったそうです。男湯と女湯が週毎に入れ替わるので又の機会にどうぞ、とも云われたそうです。
妻の佐知子には見えて私には見えなかった「犬ころの滝」の謎が解けました。篠ちゃん、ありがとうございました。
* そのまたずっと後日、平成24年9月の御座山登山の帰路に同温泉施設を利用しました。「相木そば」は少し値上げされていて900円になっていました。このときは露天風呂の“覗き窓”から「犬ころの滝」を見下ろすことができたので、溜飲が下がりました。
(*^^)v
男山の奥に八ヶ岳
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相木村から御座山を望む
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