近景も遠景も素晴らしい南八ヶ岳
【歩行時間: 第1日=4時間 第2日=7時間】 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(権現岳)へ * 編笠山から権現岳: 平成24年6月の山行記録です。 第1日目(10月23日・曇り): 中央本線の小淵沢駅から普通列車に乗り換えて2つ目の駅、富士見駅は、昭和10年に小海線が開通するまでは国鉄(現JR)最高の標高であったとのことです。また、富士見高原は堀辰雄の私小説「風立ちぬ」の舞台にもなった処です。その富士見駅から富士見高原まではタクシーで約15分(料金約3,300円)でした。富士見駅も富士見高原も、この日は寂しいほどひっそりとしていました。 午前9時40分、私達夫婦は富士見高原リゾート内にあるゴルフ場の建物の脇(標高約1340m)から歩き始めました。道標はしっかりしています。 暫らくゆるやかに登り、不動清水(水場)で編笠山への道を右に分け、西岳へ向かいます。傾斜が徐々にきつくなってきます。林道(林道編笠線)を4回ほど横切りますが、車の走っていない林道は草ぼうぼうで、荒れていました。特に3番目の林道は、もうほとんど森に同化していました。所々のアスファルト道歩きを覚悟していたのですが、いい意味で裏切られました。 タクシーの運転手さんは、今年の紅葉は例年よりかなり遅れている、と云っていましたが、はたしてその通りでした。ミズナラやイロハカエデの葉はまだ緑色で、カラマツやウリハダカエデは黄緑色でした。標高が高くなってもカラマツの色は黄緑のままで、ダケカンバやナナカマドは既に葉を落としていました。 4つ目(最後)の林道を横切ってバテ始めたころ、樹高が低くなり展望が開けだします。小広場2138mなどから振り返ると富士山や南・中央アルプスがよく見えています。この辺りから斜面がガレてきます。 午後からは雲が低くなってきました。 裸地の西岳山頂2398mからの展望については、生憎と北面の南八ツの峰々は霧の中でしたが、南面眼下の裾野に広がる中央線沿いの街並み(諏訪盆地)はまだ見えていました。東面の稜線鞍部には青い屋根の青年小屋がはっきりと見て取れ、その右手には端正な山容の編笠山が高々と聳えています。 西岳からは幹が細くて樹高の低いシラビソの純林を通り、乙女の水と呼ばれる水場を過ぎると間もなく青年小屋に着きます(午後2時45分)。残念なことにこのころからガスってしまい、予定していた編笠山山頂往復は明朝に延期することにしました。足元の霜柱が美しく光っていて、セーターを着込んでも寒かったです。樹林に掛かるサルオガセが風にゆれていました。 * 青年小屋は編笠山と権現岳との広い鞍部に建っています。夜の室温は零度近くにまで下がり寒かったですが、豆炭のコタツに潜ったらぐっすりと眠れました。毎年10月最終土曜日には権現岳の八雷神に安全を感謝する八雷神祭が行われ、どぶろくや木の実酒、甲州名物ほうとうなどがふるまわれる、とのことでした。
編笠山の山頂で展望をゆっくりと楽しんでから青年小屋へ戻り、3日前(10/21)が初冠雪だったというギボシ2700mと権現岳2715mへ向かいます。こちらから眺めると左側のギボシのほうが権現岳よりも立派です。国土地理院の地形図にはギボシの山名は記載されていないので、この岩鋒は権現岳の一峰ということになるのでしょうか。そう思って眺めると、確かに権現岳はギボシを従えた双耳峰のようにも見えます。なお、2004年5月発行の「日本山名事典(三省堂)」にはギボシの名が(単独で)記載されていて、山名の由来については山容が擬宝珠に似ることによると書いてありました。擬宝珠(ぎぼうし・ぎぼし)とは「欄干の柱頭などにつける宝珠の飾のことで、形は葱(ネギ)の花に似る[広辞苑]」ということだそうです。実際、ギボシの山頂部は葱坊主のように尖がって見えました。 ギボシの狭いピーク(東ギボシ)には雷神を彫った石塔が3基並んでいて、そのうちの一番小さな石塔は倒れていました。ここからの一点360度の眺めが抜群でした。間近の南八ツの主峰たちは勿論、三つの日本アルプスや富士山など、雲の合間から美しい絵画のように見えています。麓のずっと向こうには諏訪湖も見えています。周囲の潅木に張り付いた霧氷もきれいで、澄み切った秋空には筋雲が浮かんでいます。矢張り来てみて良かった、と思う至福の山頂でした。 ギボシと権現岳のピーク間の距離は僅か200メートルほどで、その鞍部に建つ権現小屋を正面に見ながら、足場のしっかりしているナイフリッジを下ります。そして赤岳へ向かう縦走路(キレット)を左に見送り、権現岳のガラガラの岩峰(集塊岩)に攀じ登ります。天辺の岩上には鉾(剣ではありません・念のため)が立っていました。うしろ(東面)は垂直に落ち込んでいて、多くのクライミング・ルートがある地獄谷へ続いています。岩上に立つと、ちょっと怖かったですが、お山の大将の気分です。この権現岳は古くからの修験道の山でもあったらしく、付近には石碑や小祠がありました。 これも帰宅してから調べたのですが、権現岳の小祠は檜峰神社で、八雷神と磐長姫命(ここでは総称して八ヶ岳権現)が祀られているとのことでした。檜峰(ひみね)の語源は「火の峰」で、落雷によって火が起こされた場所、という意味だそうです。磐長姫命(いわながひめのみこと)は富士山の木花開耶姫命(このはなさくやひめのみこと)の姉で、この姉妹の美醜にからむ嫉妬の伝説(古事記)は有名です。八ヶ岳と富士山の背比べの伝説など、この2座がここでもライバルの関係にあったということが、私には興味深く感じられました。 * 姉妹伝説については No.137燈明ヶ崎遊歩道と烏帽子山 を、八ヶ岳山名の由来については No.52赤岳から横岳と硫黄岳 を参照してみてください。 これまた展望のよい三ツ頭、前三ツ頭を経て、徐々に傾斜がゆるくなる下山ルートを辿ります。ひねたダケカンバやカラマツが、強い西風を受けて東へたなびいている姿が芸術的です。色付き始めたミズナラやカエデ類もとてもよかったです。昨日は全くの緑葉だったので、一晩でこの麓は秋になってしまったのでしょうか。シジュウカラやヒガラが何時も何処かで囀っています。時々、シカの甲高い鳴声が聞こえてきます。初秋の名残りのマツムシソウが、もう僅かですが、まだ咲いていました。麓近くのダケカンバやヤハズハンノキなどの黄葉もきれいでした。お天気が良かったので、なにもかにもがよかったです。 小広い天ノ河原のベンチに腰掛けて、景色のおさらいをします。それから広い遊歩道をなだらかに下ります。大きな駐車場のある天女山を通過して更に500mほど南進すると、そこから大泉高原の車道歩きで、所々に小洒落れたレストランやペンションなどがありました。樹林の隙間から振り返ると、権現岳の右奥に円錐形の赤岳が、その名のとおり赤褐色にくっきりと聳えています。 私達の好きなJR小海線の、閑散とした甲斐大泉駅(標高1165m)へ着いたのは午後3時半頃でした。 * 皇太子殿下ご来臨: 青年小屋の居間に飾られてあったお写真を見て知ったのですが、この山域は、先月(9月27日〜28日)に、皇太子徳仁殿下がお歩きになったそうです。私達とのコース取りの相違点は入山経路で、殿下は観音平から編笠山を目指して入山された、とのことです。青年小屋泊は同じで、翌日の権現岳、三ツ頭を経て天女山へ到る下山ルートも全く同じでした。小屋の方にもそのときのご様子をいろいろとお聞きすることができました。ミーハー的で恐縮ですが、それはとても興味深いことでした。 私が皇太子様だったら(仮定法です)、ヘリコプターで山頂をめざし、お供の屈強なSPに担がれて山を下ります。しかし、殿下は勿論ご自分の荷物はご自分でお持ちになって、常に控えめでにこやかで、稀にみる御健脚なんだそうです。あやかりたいものだと思いました。 皇太子殿下ご来臨を知った翌日(第2日目)、私達は殿下の踏み跡をさがしながら、背筋を伸ばして、襟を正しながら歩きました。 西岳から編笠山と権現岳・写真集: 霧氷の付き始めたギボシの山稜。 編笠山から権現岳 観音平から入山
【歩行時間: 第1日=4時間 第2日=6時間】 青年小屋に1泊して、山の仲間たち(山歩会)と同山域を歩いてきました。恐れ多いことですが、今回は7年前の秋に皇太子様が歩かれたコースと全く同じコースを辿りました。 第1日目はなんとかお天気がもって、降られたのは小屋に着く直前だけでした。編笠山の山頂はホワイトアウトでしたが、山腹のコメツガ、シラビソ、キタゴヨウ、ダケカンバなどの“コケむした森林(原生林)”がステキでした。薄暗い林床では、シラビソの稚樹が目いっぱい枝と葉を拡げて、少しでも光を浴びようと努力している姿が印象的です。 * 編笠山の南側の原生林は「やまなしの森林100選」に選ばれています。 第2日目は快晴で、素晴らしい稜線歩きができました。近くの山々は勿論のこと、南・中央・北アルプス、乗鞍、木曽御嶽もくっきり。この季節に富士山も見えたのは感動です。長い下山路でしたが、展望を楽しんだり足元に咲いているキスミレやフデリンドウなどを愛でたりして、飽きませんでした。 麓の里歩きではズミ(コナシ)の花がちょうど満開で、それもついでに楽しみました。下山後は「甲斐大泉温泉・パノラマの湯」へ浸かって、甘露甘露の生ビール。もう最高!です。 八ヶ岳の真骨頂は矢張り「南」。いい山はやっぱりいい、と思いました。 「編笠山から権現岳」の写真集: 大きな写真でご覧ください。 甲斐大泉温泉「パノラマの湯」: 小海線甲斐大泉駅の近く(徒歩3分)に、平成16年4月にオープンした日帰り温泉施設です。前回(上欄)のときはこの存在に気がつきませんでした。 泉質はナトリウム・炭酸水素塩泉(低張性中性高温泉)。殆ど透明・無味・無臭、ヌルヌル感あり。かけ流し・循環併用。内湯も外湯(露天風呂)も広めで、ゆったりと入浴できました。下山地に、安心して入浴や飲食ができる温泉施設があるのは本当にうれしいことです。
* 南八ヶ岳のその他の山行記録です。 赤岳から横岳と硫黄岳: 平成9年11月 編笠山から権現岳と赤岳: 平成19年10月 赤岳(県界尾根・真教寺尾根): 平成25年9月 |