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No.208 小影山558m(和賀山塊)
 平成18年9月2日 晴れ ワゴン車で移動

小影山 略図
仁鮒・水沢天然スギ植物群落保護林にて
日本一背の高い天然スギ

大ブナを熱心に観察をするメンバーたち
岳岱自然観察教育林

小影山登山

ここからスタートです
抱返神社前

抱返り渓谷越しに見えていました
振り返ると白岩岳

赤いシャツが佐々木氏です
↑こんな巨木がたくさん…↓
ブナの巨木を見上げる
ブナの巨木

これもけっこう大きなブナでした
幹が空洞のブナ

超地味な山頂でした
小影山の三角点

奥村氏(右)と大ブナの前で記念写真
奥村先生と…


奥羽山脈北部の山旅(前編)
知る人ぞ知る、太さ日本第2位のブナの巨木

秋田空港…能代(泊)…(自然林などを見学)…阿仁比立内「松橋旅館」(泊)-《車》-抱返神社(抱返り第一駐車場)〜小影山〜抱返神社-《車》-乳頭温泉… 【歩行時間: 2時間40分】
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プロローグ

  8月31日(登山前々日): たまたまJALバーゲンフェアが8月29日から8月31日までの搭乗を対象に行われていた。 新幹線よりかなり安い(羽田・秋田間11,000円)ので、飛行機を利用して秋田入りした。 この日は能代市内のホテルで一晩を過ごした。

  9月1日(登山前日): 朝、二ツ井で森林インストラクター東京会の仲間たち(今回の参加者12名)と落ち合って、白神山地・和賀山塊の研修旅行が始まった。 ガイドは当地の佐々木昇氏だ。 2000年12月に脱サラして翌年2月に(56歳で)「ネイチャーガイド白神PRO」を立ち上げた、という“白神ガイドのプロ第1号”でもある。 深い知識に裏付けられたジョークを交えた解説は楽しい。
  まず、仁鮒・水沢天然スギ植物群落保護林(天然の秋田杉)で日本一背の高い天然スギ(58m)などを見学した。 それから、藤里町管内の釣瓶落峠で針広混交林を見学したり、岳岱自然観察教育林内で樹齢400年ブナを主とする天然林などを観察して、この日は阿仁マタギが経営する「松橋旅館」に宿をとった。 夕食後は、シカリ(マタギのリーダー)の松橋氏(*)からたっぷりと(生々しい)お話をお聞きすることができた。

* シカリの松橋氏: 今回お会いしたのは阿仁を代表するシカリの松橋時幸さん(73歳)です。 マタギの半生をつづった『第十四世マタギ・松橋時幸一代記』甲斐崎圭著(中公文庫)の主人公です。 「松橋旅館」を営むかたわら、狩猟の時期には山に入り、クマやウサギなどを撃って生活しているといいます。 松橋さんは、代々受け継がれてきた「日光派マタギ」の第14代目です。
  その松橋さんのお話の中で、特に印象に残っているのが、「クマの主食はブナの実ですが、クマにとってはどんなブナがいいのでしょうか?」 という私たちの質問に答えて 「やはり若々しくて実をいっぱいにつけるブナだ。 巨木や老木は広い面積を占有する割にはクマに与える実が少ない!」 とおっしゃっていたことです。 大きな木は森にとってもそこで暮らす動物たちにとってもいいものだと思い込んできた私たちは、シカリのその話を聞いて、「なるほど…」 と大きく頷いたものでした。


小影山の「巨樹の森」へ

  9月2日(登山当日): いよいよ小影山(こかげやま)登山の日だ。 ガイドは昨日からいっしょの佐々木氏と、「白神山地ものがたり」や「秋田のハイキング50」などの著書で知られる奥村清明氏(*)、という超豪華な顔ぶれだ。 今回の研修旅行を取り仕切った仲間のS氏が奥村先生の縁戚とのことで、このような企画が成り立ったのだ。

* 奥村先生に感謝: この小影山が紹介されているガイドブックは、多分「秋田の山登り50(無明舎出版)」だけだと思いますが、その著者の奥村清明氏と当地の名ガイド・佐々木昇氏が案内してくれるのですから、こんなにラッキーで心強いことはありません。 奥村先生は秋田山岳会前会長、日本山岳会会員、白神山地のブナ原生林を守る会事務局長、秋田県自然保護団体連合代表理事、全国自然保護連合理事、日本自然保護協会・日本野鳥の会・WWF・等会員、秋田ハッセルブラド・フォトクラブ会長、・・・などなどの要職にある忙しい方です。 近著の「白神山地ものがたり」は当地を理解する上での必読書だと思います。 私たちの研修山行に付き合っていただいて、本当に、感謝感激です。

  秋田県にある田沢湖の南東側、岩手県との県境に沿って真昼山地がある。 この真昼山地北部の和賀岳1440mを主峰に仰ぐ一帯を特に和賀山塊と呼んでいる。 かつてはマタギの猟場でしかなかった山域だ。 その樹種の多さ(多様性)に関しては白神山地をも凌駕するという。
  この和賀山塊の北西に位置する小影山は標高558mの低山だが、その山頂部に林立するブナなどの巨木群により、最近注目されだした山であるらしい。 特に胸高で幹の周囲が8.4mあるという日本第2位の太さのブナはおおいに見る価値があると云う。

  神社や売店のある抱返(だきがえり)渓谷の第一駐車場(標高約100m)から歩き出したのは午前9時頃だった。 スギの植林地を登り抜けると開けた処(稜線)に出る。 振り返ると抱返り渓谷の谷越しに白岩岳1177mの鈍角三角形が見えている。 林縁にはヤマジノホトトギスやホツツジ、ツクバネソウなどが咲いている。 進行方向に秋田駒ヶ岳がよく見えるとのことだったが、今日はその方角に雲が出てしまっていた。 バリカンで刈ったように一帯の樹木が伐られていて、展望は良いけれど、その鉄塔や送電線がちょっと目障りだ。
  やがて、道は深い原生林(巨樹の森)へ入っていく。 大木のブナやミズナラがある。 センノキ(ハリギリ)、クリ、トチ、ホオ、カツラ、イタヤカエデ、ハウチワカエデ、クロベ(ネズコ)、ハクウンボク、などの立派な木も次から次へと現れる。 木登りしてその実を食べるそうだが、ブナの樹幹についたクマの爪痕が生々しい。 落ちているブナの実など、あんなに小さなものをどうやって食べるのかガイドの佐々木氏から逆質問されたけれど、誰も正確には答えることはできなかった。 直接まとめて口から(舌で)吸い込み、口の中で(舌で)硬い皮(殻斗)とやわらかくて美味しい実をより分けるそうだ。 クマの舌って、けっこう敏感で繊細らしい。 また勉強になった。
  低木ではオオカメノキ(ムシカリ)やオオバクロモジなどが目立った。 モミ(ウラジロモミかな?)の幼木(もしかしてハイイヌツゲかその仲間かもしれない)も育っている。 林床はチシマザサ(ネマガリダケ)、ヒメモチ、ヒメアオキ、ツルシキミ(ツルミヤマシキミ)、エゾユズリハなどで鬱蒼としている。 所々に(まだ)咲いているエゾアジサイが美しい。 ここはブナの純林ではないけれど、ブナ混交林とでもいうのかな、これはこれで立派な極相林(原生林)であるらしい。 学術的にも貴重な原生林とのことだ(*)。 アリやカナヘビも忙しそうに歩き回っている。
  神代ダム方面へのミニ縦走コースを左へ見送ってからは、ほとんど藪漕ぎの状態で前進した。 先導する佐々木氏のあとを必死で追いかける。 最後尾には奥村先生が控えているので安心だ。
  抱返神社の登山口から正味90分ほども歩いて、小影山の平坦な山頂に辿り着いた。 山頂標識は無く、3等三角点が狭い登山道の真ん中にあるだけの、樹林に囲まれた慎ましくも好ましい山頂だった。 日本第2位の太さのブナの木は、この先約5分の、なお藪漕ぎした処にひっそりとあった。
  1993年に発見されて日本第1位になったというこの小影山のブナは、その翌年、同じ山域の白岩岳の尾根上にあるブナ(胸高の幹周り8.6m)にその地位を譲ったという。 奥村先生の話によると、白岩岳のブナは確かに小影山のものより幹周りは太いようだけれど老木で、もうかなり疲れている、とのことだった。 見ても立派なのは矢張りこの小影山のブナ、らしい。 地上から3〜4mのところで株立状に枝分かれていて、上部はそれほど立派だとは思えなかったが、胸高辺りの太さは全くびっくりするほどの迫力だった。
  国土地理院の地形図にも登山道の表示はなく、山中にも標識がほとんどないこの山で、ガイドなしでこのブナの巨木に出会うのはかなり難しいと思われる。 それほどこの山は、里から近いにもかかわらず未開の地であった。 里人の自然に対する歴史的な畏敬の念が、この地を「自然」のままに「ほっぽいておいた」のだろう、と推察した。 白神山地の住民も、この和賀山塊や朝日・飯豊山地の住民も、東北地方の人たちはみんな、結果的に凄く偉いと思う。 それは、自然保護のために戦った人たちも(表だって)戦わなかった人たちも含めた、すべての地元住民の総意であった、と私は思いたい。 いろいろと問題点はある(またはあった)とは思うが、願わくば、この自然にできた「自然」を、未来永劫子々孫々に伝えたい…。
  来た道を復習しながら辿り、抱返神社前の駐車場に戻ったのはまだ日の高い午後1時40分だった。 ソフトクリームを買いに行ったら、売店のオバチャンが 「さっきヨロヨロしながら下山してきた中年の登山者が、小影山の山頂付近で道に迷ったと云っていたよ」 と教えてくれた。 あの山頂部の道なき道の状態では、さもありなんと思った。

森林インストラクターのTamuです* 小影山の植生について: 奥村清明先生からいただいた資料の中に河野昭一博士(京都大学名誉教授・植物学者)による小影山のブナ林に関する論文のコピーがありました。 そのほんの一部、“さわり”をご紹介します。
  河野博士は 「田沢湖町周辺の和賀山系は、さまざまなブナ林がそろって残存している日本でも数少ない場所である」 とした上で、「(小影山は)比較的低海抜地にほとんど人出の入っていない林が非常に良好な状態で残されている」 と断定しています。 また、小影山のブナ林の特徴として、「ブナのみならずミズナラ、イタヤカエデ、クリ、クロベなどが混生する極めて成熟したユニークな林分を形成し、かつては東北地方各地の低山帯にごく普通に存在した代表的な落葉広葉樹・針葉樹混交林の原型を維持したきわめて重要な林分であり、・・・」 「小影山ブナ集団の遺伝的多様性は、他地域のブナ集団と比較しても、非常に高いレベルで保たれていることが判明した」 と言及しています。

* コースについて補足: 今回の私たちは山頂部の原生林(ブナ混交林)を観察するのが目的でしたので、小影山への最短コース(往復登山)でしたが、山頂部からさらに北へ向かいミニ縦走をして周遊するコースがあります。 北側の神代調整池の畔(神代ダム)へ出て、「東北の耶馬溪」とも云われている名勝地(抱返り渓谷)の遊歩道を辿って抱返神社へ戻るコースです。 この場合の歩行時間(コースタイム)は百尋ノ滝を往復(1時間)しても約5時間30分で、日帰りハイキングとしては丁度よいボリュームだと思います。
  なお、神代ダムから北へ約30分ほども歩くと夏瀬温泉へ出ますが、ゆっくりと温泉で汗を流してから帰路につくのもいいと思います。 この場合の歩行時間は3時間10分程度です。
* コースタイムについては奥村先生の「秋田の山登り50(無明舎出版)」等を参考にさせていただきました。

エピローグ

  小影山ハイキングを満喫した私たち一行は、この日は田沢湖の北東にある乳頭温泉「鶴の湯」に泊まった。 奥村先生もご一緒していただいて、夕餉には白神山地や和賀山塊の自然についての話でおおいに盛り上がった。 かつて(世界自然遺産登録前)の白神山地の自然保護運動についての苦労話など、私にとっては大変勉強になった一夜だった。

この翌日は乳頭温泉から大白森登山をしました。



これが太さ日本第2位のブナだ!

樹齢:推定400年だそうです
胸高の幹周りは8.4m

樹高:実測で33mだそうです
上部は枝分かれしています

* この3年後(2009年10月)、小影山山頂部の巨大ブナ(↑)は台風の強風で根こそぎ倒れてしまったそうです。 非常に残念に思います。(後日追記)
 拙BBS(掲示板)に情報を提供していただいたSKさん、どうもありがとうございました。

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