No.209 大白森(おおしろもり・1216m) 南八幡平 平成18年(2006年)9月3日 |
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→ 国土地理院・地図閲覧サービスの該当ページへ 白神山地・和賀山塊の研修旅行[前項・小影山]を終えた宿酔いの朝、乳頭温泉郷の鶴ノ湯で現地解散した私は、そのまま帰宅するのは勿体ないので、近くの大白森をハイキングするという仲間の有志(計4名)に加わることになった。予定していなかった山行だったので(特に心の)準備は何もしていない。鶴ノ湯の受付で相談したらパンフレットのような登山地図(有料100円)があったので、喜んでホッとしてそれを購入した。その登山地図をじっくりと眺めて、はたと、ようやく、今いる乳頭温泉郷と大白森や秋田駒ヶ岳や乳頭山などの近隣の山々との位置関係が理解できた。 八幡平から南へ伸びる裏岩手連峰の更に少し南側、というか、南八幡平縦走路の一角を担っている、というべきか、あるいは田沢湖や秋田駒の北に位置する乳頭温泉郷の更に少し北側、といったほうがわかりやすいのか…。とにかく、秋田と岩手の奥深い県境にのっぺらと連なるのが大白森(おおしろもり・おじろもり・1216m)や小白森山(こしろもりやま・1144m)などの山々である。山容に「切れ」はないけれど、山頂部に広がる湿原と麓の名湯がこの山域を特徴づけているようだ。登山地図を見れば見るほど、面白そうな山々に心が躍った。 この山行を企画したO女史をリーダーに、鶴の湯本陣前の駐車場広場から歩き始めたのは午前7時40分頃だった。鳥居をくぐり鶴の湯神社で両手を合わせてから、暫らくはブナ混生林(*)を進む。「金取り坂」とも「肝(きん)取り坂」とも呼ぶのだそうだが、ジグザグに登るのでそれほど急登を感じさせない。樹林が所々途切れたチシマザサの原の縁などにはヨツバヒヨドリや(エゾ?)オヤマリンドウなどが目立って咲いていて、ゴゼンタチバナは赤い実をつけている。振り返ると秋田駒ヶ岳がかっこよく聳えている。 ダケカンバやオオシラビソなどの樹高が低くなり、木道が現れて、辺りは益々湿原っぽくなってきた。アザミ(タムラソウだったかなぁ?)が咲いている。白い花のシロバナオヤマリンドウも咲いている。乳頭山へ続く道を右へ分ける地点(蟹場分岐)からは秋田と岩手の県境を進むことになる。辺りの景色は限りなく八幡平の稜線のそれに似ているように見える。小白森山の山頂を示す標柱を通り過ぎてから約40分、鞍部からなだらかに登り返すと大白森のただっ広い草原山頂へ着いた。まだ午前10時45分だった。 山頂部の四方に広がる高層湿原にはウメバチソウが一面に咲いている。ミツガシワやイワイチョウの季節にはチト遅かったようで、全体的には咲いている花の種類は少なかった。山岳展望は地平線の彼方に360度、といった感じで、これは山頂部に広い草原をもつ苗場山や平ヶ岳などと共通した独特の景観だ。私たちは山頂標識のさらに先へ進み、北面の山々もはっきりと同定した。 北から東南面にかけて、木道の先にずんぐりとした曲崎(まがりさき)山、その奥の八幡平から続く裏岩手の平らな山々、ひときわ天を突く岩手山、ピョコンと乳頭山、相変わらずかっこいい秋田駒、などの上半身が草原に浮かんでいるように見えている。西面の草原はちょっと小高いこともあり雲も出ていたので遠景は無かったが、その草原の緑がとても美しかった。木道に腰掛けて早めの昼食を食べたりして、のどかで楽しい別天地の山頂だ。 このまま北へ進んで曲崎山から大深岳(裏岩手縦走路)へ至るコースが魅力的だが、それにはこの先の避難小屋(大白森山荘か八瀬森山荘)を利用してもう一日が必要になる。宿泊の準備もしていないし日程的な余裕もない私たちだ。残念だが、ここで引き返すしかない。 来た道を辿り、鶴の湯に戻り着いたのは午後2時頃だった。乳白色の露天風呂(名湯だ!)で山の汗を流してから、満ち足りた気分で家路についたのは、云うまでもない。 * 大白森登山で観察できた樹木: ブナ、ミズナラ、カラマツ、スギ、イタヤカエデ、ハウチワカエデ、ウワミズザクラ、ホオ、マルバマンサク、トチ、ガマズミ、オオカメノキ、ナナカマド、ヒメアオキ、ヒメモチ、ツルシキミ、タニウツギ、ハイイヌツゲ、アオモリトドマツ、ダケカンバ、キタゴヨウマツ、ミネカエデ、など… * 大白森山頂の三角点について: 木道沿いの山頂標識のある位置から草原を左(西側)へ少し進んだ処に大白森の三等三角点があるらしい。しかし、木道から外れて位置するこの三角点については、湿原の植生保護の観点から、一般のハイカーは立ち入って確認してはいけないと思う。私たちも、それ(三角点標石の確認)については、今回は慎んだ。 乳頭温泉郷「鶴の湯」: 南八幡平国立公園、乳頭山の西麓(標高約640m)に位置する有名な温泉。開湯以来350年とのことで、乳頭(にゅうとう)温泉郷のうち最も古くに開かれた湯場がこの一軒宿の「鶴の湯」であるらしい。「本陣鶴の湯」と書かれた門のなかに入ると時代をワープしたような錯覚に陥る。萱葺きの屋根と黒い柱や板塀の、まるで時代劇映画のセットのようなたたずまいだ。山懐の緑に溶け込んで、のどかな浮世絵のようにも見える。本陣は、二代目秋田藩主・佐竹義隆公が湯治に訪れた際に警護の者が詰めた建物として、今では鶴の湯を代表する建築物となっているとのことだ。その萱葺きなどの維持管理は大変なものであろうと推察する。 白湯・黒湯・中の湯・滝の湯と微妙に異なる乳白色の4種類の源泉があり、湯量は豊富で、もちろんカンペキな源泉掛け流し。シックな木造りの内湯も大きな露天の外湯もまったく文句のつけようが無いほど、素晴らしい温泉だ。泉質は含硫黄・ナトリウム・塩化物、炭酸水素塩泉(硫化水素型)。ほんのりと硫黄の臭い。湯上りは肌しっとりだ。食事は岩魚や地元の山菜など、工夫されていて美味しかった。夕餉に別注文した岩魚の骨酒などはもう絶品。湯と酒で身体の芯までほぐされた感じがした。私たちが泊まったエコノミーな部屋(2・3号館)は1泊2食付8,550円だった。テレビは全館ないらしい。入浴のみは500円。 「鶴の湯」は、素朴さとひなびた感じを上手に無理なく演出した、秘湯・名湯の名に恥じない、風情を感じさせる癒しの湯宿だ。 「鶴の湯」のHP * 今年の2月(2006/02/10)、鶴の湯温泉において発生した雪崩災害(死者1名、負傷者16名)について、現況においてはなんらその影響はないように見えた。破損・埋没した露天風呂や内風呂など、必死の復旧作業だったのだろうと推測する。意外となだらかな傾斜の裏山(雪崩発生現場)をしみじみと眺めて、雪国の冬の怖さを思った。
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