|
立岩が見えてきた
マムシグサの実
“バンド”を通過
立岩の本峰
立岩の頂上にて
威怒牟畿不動に参拝
|
スリルと展望の「中級者向」コース
《マイカー利用》 …関越自動車道-上信越自動車道・下仁田I.C-《車35分》-大上・線ヶ滝・南登山道入口(標高約760m)〜バンドの鎖場〜立岩(西立岩)〜威怒牟畿不動〜線ヶ滝-《車30分》-塩ノ沢温泉(泊)… 【歩行時間: 3時間50分】
→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ
この地域(群馬県甘楽郡南牧村)の岩峰群を最初に見たときは、中国の桂林のような景色だ、と思ったものだ。立岩(たついわ・1265m)や鹿岳(かなだけ・1015m)や烏帽子岳(えぼしだけ・1182m)など、にょきにょきと岩が天空に向かって伸びたようなこの地の山岳風景は独特で、標高の低さにもかかわらず里からの眺めは壮快だ。
下山後に知ったことだが、「立岩は西上州のドロミテ(イタリアの東アルプスに属する山群)」というコピーもあるらしい。まぁしかし…、規模からしても、その比喩はかなりのこじつけかもしれない。なんとなれば、一部の皮肉屋たちから、この山域の脆い岩質を揶揄して「泥みてぃ」とも云われているらしい…。実際、西上州の山々を桂林やドロミテと比べること自体が不自然なことで、それはまったく失礼な話なのかもしれない。今回この地へ久しぶりに行ってみて悟ったことは、ここにはここの、ここにしかない良さがある、ということだった。
上信越自動車道の下仁田インターを出てから約30分、南牧川の支流の星尾川に沿って右折して尚も遡上する。不思議なのは、こんなに山奥まで来たのにまだ人家が絶えないことだ。
「狭い谷間で畑はほんの少し、一体どうやって生活しているのかしら?」 と助手席の佐知子が話しかける。
「白壁などの、けっこう立派な家が多いけれど、30数年前までの林業の盛んだった頃に儲けたのかなぁ…」 と私が答える。
「家は立派だけれど古くてひっそりとしていて、たまに歩いているのは老人ばかりよね。駐車している軽自動車も“紅葉マーク”が多いわよ」 と彼女の観察はスルドイ。
「確かに老人が多そうな集落だけれど、若い人たちは下仁田や富岡の町などに働きに出ているんじゃないかなぁ…」
「今日は日曜日よ!」
「・・・・・・」
などと夫婦のたわいもない会話をしているうちに、前方の高曇りの空に目差す立岩の岩峰が大きく見えてきた。山奥の最後の集落・大上(おおがみ)を通り過ぎて間もなく、線ヶ滝の案内板がある処へ出る。どうしようかと迷ったけれど、下山後に見物しよう、ということでここも通過した。するとそのすぐ先が行き止まりの広場になっていて、数台の自動車が既に駐車していた。壊れかけている案内板によると、ここは大型バスの転回用のスペースとのことで、邪魔にならないように奥の路上の端に車を停めた。ここが荒船山と立岩の登山口になっているのだ。
歩き始めたのは丁度午前10時。山里は今が紅葉の旬だ。沢を渡って、道標に従って分岐を2回右折して、「南登山道」から上って「北登山道」を下る左回りの周廻コースを進む。それらの道標は新しいものであったが、南登山道(直登コース)の入口には「中級者向」と書かれた古い標板が地面に置いてあった。「中級ってどのくらい…?」
と佐知子が不安そうだ。「多分何時ものお役所仕事だよ!」 と根拠のない意見で彼女を励ました。足元のマムシグサの赤い実が不気味に鮮やかだ。
暫らくはスギの植林地帯を登るが、やがてコナラ、クリ、アカマツ、ケヤキ、イヌシデ、イタヤカエデ、オオモミジ、ミズナラなどの明るい秋色に染まった雑木林(自然林)を進むようになる。ここまでは何時もの“自然観察ハイキング”で、私たちの心は軽く会話も弾んでいたのだが、徐々に道はガレてきて、いよいよ岩の切り立った鎖場が現れると私達は寡黙になる。
前を歩いていたツアーの大団体が“渋滞”している。このような岩壁を横切る狭い岩棚を登山用語ではバンドと云うらしい。高度感もあって怖そうだ。渋滞が解消してからゆっくりと渡ったが、見た目よりは足場はしっかりとしており、岩場の苦手な佐知子も難なく通過することができた。ガイドブックなどによるとこのバンドが本コースの最大の難所とあり、まずはホッとする。
岩壁を巻いたりして急坂を登っていくと、左手に小ピーク(南峰?)へ出る踏み跡があったので立ち寄ってみた。3〜4人くらいしか立つことのできないような狭いピークの南側は切れ落ちていて、両神山などの西上州から奥秩父へ至る山並が見えている。右手には立岩の本峰も間近にすっくと聳えていて、あまりにもいい処だったので、ここでお弁当にした。
昼食後は少し下って分岐へ戻り、北側の明るく疎な樹林帯を急登して再び稜線へ出る。木彫りの素朴なお地蔵様に手を合わせてから少し進むとそこが山頂標識のある本峰(西立岩)だった。狭い山頂だがベンチもあり、殆ど360度の大パノラマが広がる。北面の至近距離にピラミダルに聳えている京塚山(荒船山)が特に印象的だ。残念ながら浅間山や八ヶ岳などの遠望は雲の中だが、充分な感動だ。稜線上の背の低い木々としてはリョウブやツツジ類が多く、これにアカマツ、ミズナラ、ネズミサシ(ネズ)などが交じる。なんともステキな尾根歩きだ。
尾根道をさらに北へ進むと、足元のガレ岩が徐々に土へ変化して、ミズナラやモミジ類などの、ここも明るくて素晴らしい紅葉だ。群馬県の調査によるとこの辺りには稀産種のジゾウカンバ(*)が自生しているらしいが、山岳展望や森の紅葉に見惚れて観察するのをウッカリしてしまった。それがちょっと心残りだ。
* ジゾウカンバ: カバノキ科の落葉高木。本州中部の山岳地帯に自生する日本固有の稀産種。(「日本の野生植物・平凡社」より抜粋)
カラマツ林を通り、尾根を外れて左のスギ林へ下り、開けた箇所が出てきたなと思ったらそこが威怒牟畿(いぬむき)不動だった。右手の、落差40〜50メートルはあろうかという大岩壁の真上から水滴が流れ落ちている。大雨の後などはさぞかし壮観だろうと思う。その落ちる水滴の内側の、オーバーハングした大岩壁の中ほどに不動明王像が祀られていて、私達はそこまで行って手を合わせた。ここはけっこう由緒あるお不動様であるらしいが、修復がされていないようで、小さな木製の社など、かなり荒れていた。
尚も薄暗いスギ林を下り、往路と合流して間もなく、午後3時、振り出しの駐車スペースに到着した。行動時間は5時間で、正味の歩行時間は3時間50分。変化のあるコースと展望に大満足だったが、軟弱な私達にしては珍しく、少し歩き足りない気がした。
下山後に近くの名瀑・線ヶ滝を観光した。鉄製の螺旋階段は老朽化のためだろうか、閉鎖されていて滝壺には降りることはできなかったが、眼前の落差30メートル以上はあるという長細い滝は、それなりの迫力で、行ってみてよかったと思った。
この日はここから30分ほど車を走らせて、隣の上野村にある塩ノ沢温泉に宿をとった。明日は南牧村のもう一つの岩峰・鹿岳(かなだけ)に登る予定だ。
塩ノ沢温泉「やまびこ荘」: 群馬県上野村にある私営の国民宿舎。平成13年7月に改築、営業再開とのこと。御巣鷹山・日航機墜落事故の「慰霊の園」を訪れた皇太子様が利用された宿でもあるらしい。平成16年3月に南牧村と上野村を結ぶ湯の沢トンネル(全長約3300m)が開通して、下仁田方面からのアクセスが便利になった。3階建ての立派な建物で、2名1室の場合は本館(新館)は1泊2食付一人10,125円、別館(旧館)は8,025円。3日前の予約の段階で新館は満室とのことで、私達は旧館に部屋をとった。泉質は塩化物・炭酸水素塩泉。加熱、循環。無色透明無味無臭。石貼りの内湯や露天や洞窟風呂など多彩。料理はイノブタ鍋など地元の食材を使用したもので美味だった。西上州への山旅などにはもってこいのエコノミーな宿泊施設だ。ただし、バイキング形式の朝食が8時から、というのが遅すぎてちょっと問題だ。せめて7時からにしてもらえれば、ゆとりのある山行(アウトドアー)計画ができると思ったが…。
* 「やまびこ荘」はこの後(2020年1月より)休業→閉館した模様です。[後日追記]
翌日は鹿岳登山へ
素晴らしい展望と紅葉とスリル!
稜線にて(バックは立岩)
|
下山道(北登山道)にて
|
岩場を攀じる
|
|
←↑木彫りの素朴なお地蔵様(立岩の山頂直下にて)
|
立岩と鹿岳の写真集: 大きな写真でごらんください。
このページのトップへ↑
ホームへ
|