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No.255 笠山から堂平山 (奥武蔵)
平成21年(2009年)3月10日 曇り時々晴れ

笠山から堂平山・略図
北風と花粉症の早春賦

東武東上線・JR八高線:小川町駅-《バス30分》-皆谷〜萩平〜笠山西峰837m〜笠山東峰(笠山神社)〜笠山峠・七重峠〜堂平山876m〜剣ヶ峰876m〜白石峠〜白石車庫-《バス35分》-小川町駅 【歩行時間: 4時間50分】
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 池袋から東武東上線の急行で約1時間15分、小川町駅前から閑散とした白石車庫行きのバスに乗る。昨夜からの雨は上がって、明るくなりだした空の前方に目差す笠山(かさやま)の鈍角三角形とその左隣のずんぐりとした堂平山(どうだいらやま)が、車窓の前方に見え隠れしている。やがてそれらの右手に、いかにも子供が描くようななだらかな山容の大霧山もチラッと見えてきた。小川町の南西に位置するこの笠山と堂平山と大霧山は、ちょっと気取った言い方で「比企三山」と呼称されているが、なるほど分かりやすくて目立つ山々だ、とあらためて思った。
 槻川に沿ってバスが進むと徐々に山裾が近くなって、それら比企三山の山頂部は山腹の樹林に隠れて見えなくなる。何時の間にかバスの乗客は私達夫婦の二人だけだ。笠山の登山口・皆谷(かいや)バス停から歩き始めたのは午前10時頃。今朝、家を出るときに花粉症の薬を飲むのを忘れたので…、なんか不安だ。今春は特にひどいから…。
月待信仰塔です
二十二夜供養塔

稜線へ出て笠山へ向かう
稜線の雑木林

北側が開けている
笠山の山頂(西峰)

社や石碑がある
笠山神社(東峰)

天体観測ドームや1等三角点や天測点がある
堂平山の山頂

剣ヶ峰山頂から下山方向を撮る
剣ヶ峰から下る
 萩平(はぎだいら)の集落をくねくねと這う車道を縫って、道標に従って徐々に高度を上げる。今は梅の花がちょうど見ごろになっている。荒れた土手状の南の斜面にはフキノトウが顔を出し、庭木のサンシュユやロウバイの花は黄色く匂っている。なんとものどかな山里の風景だ。所々の明るい林床には開花準備を着々と進めているカタクリの葉っぱも見られた。雑木林の林内ではシジュウカラやヤマガラなどの混群が枝から枝へへと移動する光景にも出っくわした。
 石碑(二十二夜供養塔)の少し手前の杉林でのこと。キツツキのドラミング(木を突く音)が聞こえてきたのでそちらの方向を見ると、そこにはカラスしかいなかった。変だな、と思ってなおも凝視していたが、ドラミングは相変わらず聞こえてくる。やがてそのカラスが近くの樹上に飛び移ると、なんと今度はその方向からドラミングが聞こえてくる。カラスがコゲラとかアカゲラの(キツツキ科)の物まねをしている、と気付くまでにずいぶんと時間がかかってしまった。犬やヒヨドリの鳴き真似など、カラスの物真似上手にはしばしば驚かされる。
 しかし、この“林道を縫う山道”がずっと続くコースにはいささか辟易した。山道に入ったかと思うとすぐに林道(車道)に出てしまう。この繰り返しが、なんと、笠山から堂平山を経て白石へ下山するまで、ずっと続いたのだ。このトレイルは“登山・ハイキング”というよりは“アップダウンのきついウオーキングコース”、といった感じだ。ちなみに、この尾根道は「外秩父七峰縦走ハイキングコース(*)」の一部にもなっているらしい。
 「立派なイヌブナだね」 などと話していたら、そこが笠山・西峰のピークだった。北面が開けていて小川町や寄居町の町並みが俯瞰できるが、この日は北風の強い日で長居はできない。少し進んだ東峰に社(笠山神社)があったので、その軒下を借りて北風を防ぎ、湯を沸かしてラーメンをゆでた。野菜やタマゴをたっぷりと入れたのでとても旨かった。寒い山頂での食事はこれに限ると思う。
 この東峰の神社奥には建築現場などでもおなじみの簡易トイレが設置されていた。試しに覗いてみたけれど、ないよりはマシかもしれないが、きれいなトイレとは言いにくい状態だった。
 笠山峠や七重峠を経て登り返すと視界が大きく開け、芝生の大草原へ出る。ここはパラグライダーたちの基地にもなっているらしい。その草原の頂に薄緑色の天文台観測ドームがピョコンと建っている。ガイドブックなどの写真でおなじみの堂平山山頂部の風景だ。何気に、その左奥には大駐車場や建物(星と緑の創造センター)なども見えている。今日は閑散としていて誰もいなかったから静かな堂平山を楽しめたが、これがシーズン中の週末と思うとゾッとした。
 天体観測ドームの裏側に広場があり、そこに一等三角点と天測点(*)の標石があった。それらを確認してからそそくさと先を急ぐ。
 車道を進むと分岐があり、右手の階段状を登って剣ヶ峰の山頂へ出る。山頂には電波塔と無線中継所の建物と「摩利支天・劔峯大神・大山祇命」と彫られた石碑があった。樹林の隙間からは武甲山や両神山の方面が見えていたけれど、思っていたほどの開けた展望ではなかった。私達は剣ヶ峰の山頂を極めたことに満足して下山の途についたが、ピークを通らない左側の車道の先にはトイレや展望台や駐車場があるらしく、展望だけだったらそちらのルートのほうがよかったかもしれない。
 この山域はコナラ、クヌギ、ヤマザクラ、シデ類、イヌブナ、ミズキ、ホオ、アカマツ、ゴンズイ、アオハダ、リョウブ、ネジキ、アセビ・・・などのいわゆる天然林(雑木林)も交じるが、その殆どはスギ、ヒノキの人工林だ。白石峠を過ぎる頃には、もう私の鼻も目もグチュグチュで、まるで地獄めぐりの様相になっている。生まれてこのかた花粉症と縁がない佐知子を羨ましいと思う。
 とうとう一人のハイカーにも出遭わないまま、沢筋を下り、馬頭観音を通り過ぎ、ひっそりとした白石車庫バス停へ着いたのは午後4時25分頃。運悪く小川町駅行きのバスは出たばかりだった。
 バス停の東屋のベンチでじっとしていると夕暮れの寒気が襲ってくる。もってきたものを全部着込んでもまだ寒い。いたたまれずに、まだシーズン前の休業中ということはわかっていたが、通りの向かいにある「やまびこ」という看板の出ている食堂の暖簾を押し分けてみた。するとなんと、入り口の引き戸に鍵は掛かっておらず、奥から人の話し声が聞こえる。
 「ごめんくださ〜い」 と声をかけると中から人の良さそうなオバチャンが出てきた。なんでも今日はここで村の集会が行われている、とのことで、店内で休んでいくだけならいいよ、と云われた。しかし間もなくするとその集会が終わったらしく、次から次へとジーサマやバーサマが私達に丁重に挨拶をしながら表の乗用車に乗り込んで帰宅していった。嬉しかったのは、声をかけてくれたオバチャンが残っていて、後片付けもあるから次のバスが出るまではここにいてもいいよ、と云ってくれたことだ。暖かい部屋で、試しに頼んでみたらビールや集会の残り物のかっぱえびせんまで出してもらって、私達は地獄に仏とオバチャンに手を合わせた。
 5時37分発のバスが到着して、この店のオーナーと思われるオバチャンに何回も何回もお礼を云った。笠山や堂平山のことは忘れても、この「やまびこ」の優しいオバチャンのことは一生忘れることはないだろうね、と私達はバスの車中で話し合った。宵闇がせまり、車窓の前方には十六夜(いざよい)の月が皓々と輝いている。
 あぁ、しかし…、私の花粉症は重症で、この夜は鼻が詰まって熟睡できなかった。

* 外秩父七峰縦走ハイキングコース: 今回歩いたコースは、毎年4月に行われる東武鉄道主催のハイキング大会のルートの一部にもなっているようだ。埼玉県比企郡小川町から、比企三山などの秩父郡東秩父村の山々を馬蹄形に回り、大里郡寄居町に至る42.195kmの長丁場だ。ハイキング大会はこのトレイルを制限時間内に歩くのが目的らしい。途中リタイアする人が多いそうだが、実際、マラソンと同じ距離の山道を歩くというのは大変な体力と気合と根性が必要だと推察する。私には…、絶対に無理だと思う!
* 天測点: 三角点などの国家基準点のひとつ。天文測量を実施するために設けられた基準点で、1954年から1958年に全国で48点が設置されたそうだ。

おがわ温泉「花和楽の湯」: 下山後に立ち寄ったのが、小川町駅前から歩いて10分足らずの、5年ほど前にオープンして繁盛しているというこの日帰り温泉施設だった。全体的に純和風調のシックなたたずまい。“大人のムード”を強調しているようだ。大浴場をはじめ露天風呂、寝湯、掛け湯、水風呂、足湯、岩盤浴もある。エステ関係あり、レストランあり、カフェ&バーあり。お金を出せば個室や家族風呂もあり…、の、なんでもありのヘルスセンターといったところだ。露天風呂の泉質は強アルカリ単純泉、内湯は鉄分を含んだ地下水。何れも加熱・循環。入館料は浴衣やタオル付きで1,350円。小川町は鎌倉時代には宿場町として栄えたそうで、鬼瓦は古人ゆかりの伝統産業であるらしい。瓦工場の跡地から温泉が湧出したところから「花和楽(かわら)の湯」と命名したそうだ。
 とてもいい日帰り入浴施設だと思うが、この日のような寒い晩はちょっとスポイルされる。というのは、小川町駅まで寒い夜道を歩いて帰って湯冷めをしてしまったからだ。
* この後、入館料は少し値下げされたようです。[後日追記]
  おがわ温泉「花和楽の湯」のHP



比企三山の近景
大霧山766m
大霧山(萩平より)
笠山837m
笠山(七重峠付近より)
堂平山876m
堂平山(七重峠付近より)

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