「私達の山旅日記」ホームへ

No.292 帳付山(ちょうづけやま・1619m)
平成23年(2011年)11月28日 高曇り マイカー利用

諏訪山の山稜から天丸山〜帳付山を望む
三笠山(諏訪山)から帳付山を望む : 後日(H26年10月)撮影

帳付山・略図
3台の車が既に駐車していた
天丸橋駐車場

林道上野大滝線をくねくねと登る
まずは林道歩き

登山道入口から馬道へ入る
カラマツ林

ツガが目立ちます:前方に天丸山
馬道を往く

ここからが難所の連続
馬道のコルで一休み

ルートファインディングの力試し
悪路の稜線を進む

稜線の登山道から帳付山を望む
帳付山が眼前に

左から P3-天丸山-大山-倉門山
振り返れば天丸山が

この左奥(西側)が大展望!
帳付山の山頂

ルートファインディングの楽しさ…
遭難者救助の場面に遭遇!

《マイカー利用》 関越自動車道→上信越自動車道・下仁田I.C-《車50分》-天丸橋駐車場〜天丸山・帳付山登山口〜馬道のコル〜帳付山(往復)…野栗沢温泉「すりばち荘」(入浴)-《車40分》-下仁田I.C… 【歩行時間: 6時間50分】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


  西上州(群馬県)と北秩父(埼玉県)の境に聳えるかつての秘峰・帳付山は、結論を先に云ってしまって恐縮だが、なんとも面白い山だった。 私達夫婦はこの山を歩いているとき終始緊張して、つまり「山」の真髄にふれて、その醍醐味に陶酔してしまったのだ。

  カーナビに従って、夜明けの上信越自動車道・下仁田インターから国道299号線を進み、舗装路の林道奥名郷線へ入る。 「民宿すりばち荘」のある上野村野栗沢を過ぎて暫く、天丸橋駐車場へ着いたのは午前7時20分頃だった。 平日だというのに既に3台の車が駐車していたが…、なんか様子がおかしい。 警察(群馬県警)関係の車だろうか、その車窓に「天丸山付近へ入山したSさんが行方不明になっているので情報をお願いします」 とのメモ書き(貼り紙)がしてある。 う〜ん、なんだろう…? と思いながらも特に深く考えずに、とりあえずいつものように支度して、軽く準備体操をする。 その遭難者の救出現場に出っ食わすことになろうとは、このときは想像もしていなかったし、歩き出した途端にもうほとんど忘れてしまっていた。 後になって、それは“とんでもないことだった”と悟るのだ。 久しぶりの本格登山で、佐知子も私もけっこう緊張している…。
  上野村の案内板によると、この天丸橋駐車場の南側は大山1540m〜倉門山1572mへの沢コースの登山口にもなっているようだ。 私達夫婦は“工事中のため(車両は)全面通交止”の注意書きのある看板を横目で見ながら、右へ(北側へ)分かれる林道・上野大滝線へ足を踏み入れる。 まだ未舗装の(これから舗装されるのかも)、割と最近完成したらしい林道部分で歩きやすいのだが、これが思いのほか長かった。 なだらかな勾配をせっせと歩いたのだが、それでも40分以上かかってしまい、日の短いこの時季のこととて一抹の不安が脳裏をよぎる。 のり面工事中の林道終点近くに「天丸山・帳付山登山口」はあった。 近くに1〜2台くらいの駐車スペースがあったので、なぁ〜んだ、ここまで車で来れたじゃん、と思ったのだが…。
  ほぼ等高線に沿ったなだらかなトラバース道を南へ進む。 登山道と呼ぶにはあまりにも広くて立派な道で、かつては上州から甲州へと続く馬道(うまみち)であったらしい。 社壇乗越から左へ分岐するはずのP1→P2→P3→天丸山と続く岩稜の登山道は、今では通行禁止になっていて、その入口も分からないほど荒れているようだった。(*) 植生はカラマツ林からヒノキ林、そしてイヌブナ、アカシデ、センノキ、ホオノキ、ヤマザクラ、ミズメ、シャラノキ、カエデ類、(コメ?)ツガ、アセビなどの雑木林へと移り変わる。 紅葉は殆ど終わっていて、さくさくと落ち葉を踏みしめる音が耳に心地よい。 シカの糞も所々に落ちている。
* 麓の上野村の注意書き(看板)には「天丸山は平成7年12月27日に発生した山林火災により、樹木及び登山道は壊滅的な被害を受け、落石等で非常に危険な状態になっておりますので、登山はご遠慮ください」 と書いてありました。
  この馬道が約1時間、馬道のコルまで続いた。 もしも復路で遅くなって日が落ちても、ここまで戻っていればなんとかなるね、と佐知子と確認し合った。 馬道のコルは天丸山、倉門山・大山、そして帳付山方面との交差点にもなっている処で、分かりやすい指導標が立っている。 小休止の後、意を決して上武国境の稜線を西へ向かい、帳付山を目指す。
  馬道のコルから暫く進むと左手前方の沢筋の斜面下から「お〜ぃ」という男性の声が聞こえた。 「誰かいるのかしら?」 と佐知子。 「なんか、誰かと話しているような…、そんな感じの声だね」 と私。 「私達の話声が聞こえたので呼びかけているのかしら」 と佐知子が食い下がる。 「もしも助けを求めているのなら“たすけて!”とか言うはずだよ」 と私が返事して、暫く耳を澄ませて歩いたが、何の反応もなかったのでそのまま稜線を進んだ。 私達は麓の駐車場で見かけたメモ書き…遭難者の存在のことを…このときすっかり忘れていたのだ。 稜線は切れ落ちて、踏み跡も徐々に怪しくなってくる。
  帳付山への尾根道は道なき道の悪路だった。 道しるべのテープ類はあるのだが、それが分かりにくくて少なくて、何とも頼りない。 勘と経験を生かして方向を決める箇所が次から次へと出てくる。 尾根を大きく外さなければ方向に関してはまず問題ないのだが、油断するとすぐに断崖絶壁や超急斜面の怖い縁に出てしまう。 少なくとも3〜4回は脱コースしてしまったが、その都度すぐに気がついて戻り、正しいルートを見つけて事無きを得た。 岩稜を避けて進む場合、そのほとんどは南側に巻道があるようだった。
  ミズナラやブナが目立ち始め、(コメ?)ツガ、キタゴヨウ、アズマシャクナゲも多くなってきた。 ひねたヒノキやアセビ、そして初夏には美しい花を咲かせるヤシオツツジなど、原生林の様相だ。 所々開けた個所や樹林の隙間からは周囲の山々などが見えてくる。 なんとなく嬉しくて楽しくなってきた。
  木の根っこや岩の出っ張りをホールドとスタンスにして、3点確保を駆使して、ようやく帳付山の狭い山頂に着いたのは午前11時20分頃だった。 日ごろの鍛錬不足の私達にしては上出来だ。 西側の少し奥が北面から西面へかけて300度の大展望で、ここで大休止にした。 上州や秩父の峰々が山座同定向きにずらっと並んでいる。 その奥には白装束の浅間山や八ヶ岳も見えている。 幸い風は無く、それほど寒くはない。
  それにしても静かだ。 この日この山へ入ったのは私達だけだと思われた…。
  たっぷりと小1時間ほど、帳付山の山頂部で至福の時を過ごし、徐に踵を返す。 往復登山なので、復路は気分的に楽だ。 しかし稜線上ではやっぱり1〜2回脱コースしてしまった。 トラロープの張ってある怖い岩場が1箇所あり、往路はそこを通過したのだが、復路は敢えて南側の巻道を進んでみた。 しかし急斜面とヤブコギで、こちらも同じくらい怖かった。
  馬道のコルに大分近づいた頃、例のあの「お〜ぃ」という男性の声があった処を通過していると、その声のあった斜面下から這い上がってくる制服姿の若者がいた。 群馬県警の職員のようだった。 そして下方からは複数の人声が聞こえてきた。 「麓の駐車場で見た貼り紙…遭難者のSさんと関係があるんじゃないかしら…」 と佐知子が私に話しかけてきて、私は思いだして 「あッ!」 と小さく叫んでしまった。
  制服姿の若者の話を聞いてみると、はたして、その遭難者をやっと発見してこれから救出するところだった。 「私たちに何かお手伝いができますか」 と訊いたら、「近いところで高くて見通しの良いところがあったら目立つものを振って合図してください。 これから救助ヘリが来るもので…」 と云われた。 しかし…、いくら探してもこの付近は高木の林で、開けたピークはなかった。 うろうろしているうちにヘリが上空を旋回して、すぐに正確な救助位置を捜しあてたようだった。 私達は邪魔になるとかえって悪いと思い、群馬県警や地元消防団やレスキュー隊などの大勢の人による救出活動が始まったころ、そっとその場を離れた。 往路で私達が遭難者を発見していたら、もう数時間か数十分なりとも早い時間に救助ができたかも知れない、という苦い思いが心に残った。
  時間に押されたこともあり、疲れていたこともあり、馬道のコルからの天丸山山頂往復は割愛して、なだらかで歩きやすい馬道を下る。 林道へ出ると県警のパトカーなど数台の車が停まっていて、数人の警官から 「天丸橋駐車場に駐車してある青い車はあなたたちのものか」 と訊かれた。 私達をとても心配していたようだったので、その訳を聞いてみた。 聞いて愕然とした。 じつは野栗沢の「民宿すりばち荘」の前には登山届の投函箱があるそうで、そこに私達の登山計画書が入っていなかったのが(心配の)原因であったらしい。 今度来るときは必ず登山届を提出してください、と叱られた。 車でさっと通り過ぎたので私達は投函箱に気がつかなかったのだ。 悪いことをしたと思った。
  登山口からだらだらと長い林道を下り、天丸橋駐車場に戻りついたのは日没も近い午後4時20分頃だった。 ここでも10人以上の救助隊の人たちが右往左往していた。 私達は 「ご苦労さまです。助かってよかったですね」 と愛想を振りまいて、車のヘッドライトを点けてから、ゆっくりとその場を去った。 少し進んで、車の外がし〜んと静かになったとき、「全面通行止めの注意書きを無視して林道を登山口まで車で行っていたら、きっともっと叱られたわね」 と助手席の佐知子がぽつんと言った。

* ニュースによりますと、この男性遭難者(59歳)は、2日前(26日)に山へ入ってから帰宅していなかったそうで、ご家族からの依頼で翌27日の朝から捜索活動をしていたとのことでした。 滑落が原因で、なんとか一命は取り留めたようです。 男性は登山歴約30年のベテランだということです。
  11月28日の午後、稜線上でくり広げられた遭難者救出の様子が、関係者が写したものと思われますが、さっそく“You Tube”に投稿されています。


* 帳付山について補足説明: 天丸山1506mは国土地理院の地形図にも載っているれっきとした三角点峰ですが、今回私達が目指したのはその先(南西・約1.5km)に位置する山名注記のない山・帳付山1619mです。 かつては西上州の秘峰と呼ばれたそうですが、山と渓谷社の「関東百名山(平成5年初版)」に選ばれたこともあり、近年ではけっこう人気があるようです。 山名の由来については、日本山名事典(三省堂)によると 「樹木測定のために山を見渡して帳面に記した山なのでこの名がある…」 ということらしいです。 深くて静かで、山頂奥からの展望もよく、登山の醍醐味、特にルートファインディングの楽しさを堪能するにはうってつけの山だと思います。

野栗沢温泉「すりばち荘」 野栗沢温泉「すりばち荘」: 帳付山の麓(上野村)には「浜平温泉・しおじの湯」や「向屋温泉・ヴィラせせらぎ」や「塩ノ沢温泉・やまびこ荘」など個性的な温泉が多いので迷ってしまいましたが、この日私達が帰路に立ち寄ったのは民宿すりばち荘の「薬師の湯」でした。 天丸橋駐車場からは車で10分ほどの好位置にあります。 閑散とした建物内部で、宿の人の愛想もあまりよくありませんでしたが、気持ちよく入浴することができました。 こじんまりとした浴室で、総ヒノキ造りの浴槽にゆっくりと浸かると山の疲れが消えていきます。 泉質はナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉。 (多分)加熱、循環。 入浴料は500円。 ここに前泊して天丸山・帳付山登山、というのが本道だと思いました。
  すりばち荘の辺りにあるという登山届の投函箱を少し探してみたのですが、日が落ちていたせいか、(朝と同じで)私達には見つけることはできませんでした…。
  「すりばち荘」のHP



帳付山山頂部からの展望
中央左側に八ヶ岳が見えているんですけど・・・



帳付山への尾根道は悪路だった…
帳付山への道は悪路でした
ルートファインディングの楽しさを堪能しました (^_^;)

このページのトップへ↑
No.291「伊豆大島・三原山ハイキング」へNo.293「多峯主山から天覧山」へ



ホームへ
ホームへ
ゆっくりと歩きましょう!