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白馬岳 Part2
No.32-2 猿倉から白馬三山
平成23年(2011年)7月30日〜8月2日 第1日目:雨と霧登山第2日目:雲上は晴れ登山第3日目:曇り

白馬三山・略図
まったりと大雪渓コース

第1日(登山前日)新宿駅前-《高速バス》-白馬町〜大出公園散策〜民宿かくひら館 第2日=民宿かくひら館-《民宿の車30分》-猿倉〜白馬尻〜葱平〜白馬山荘 第3日=白馬山荘〜白馬岳2932m〜丸山2768m〜杓子岳2812m〜鑓ヶ岳2903m〜鑓温泉小屋 第4日=鑓温泉小屋〜猿倉-《タクシー25分》-みみずく温泉(入浴)〜白馬町
【歩行時間: 第1日(登山前日)=1時間30分 第2日=6時間30分 第3日=5時間 第4日=3時間50分】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


 今回の参加メンバー山歩会は総勢12名。ここ数日間の天気予報はあまり良くないが、「自然」は一筋縄ではいかなくて、山は行ってみなければわからないこともあるので…、と、それがお釈迦様が私たちにたらしてくれた「一本の蜘蛛の糸」だった。

●第1日目(7/30・曇): 安曇野散策 白馬町〜大出公園散策〜かくひら館.
森は人工林でした。
大出公園を散策
 新宿駅前を午前9時に発った高速バスは、午後2時頃に予定を少し遅れて白馬町バス停に到着した。その足でJR白馬駅前の北アルプス総合案内所へ行き、アイゼンを持参していないメンバーは1,000円を支払って4本爪を借り受ける。山頂直下の白馬山荘に返却可能で、そのときは300円が戻ってくるという。
 予約の民宿「かくひら館」は白馬駅前から歩いても10分足らずの距離にある。白馬岳などの北アルプスの山並が見渡せる好ロケーションで、登山者にも優しい宿だ。働き者といった感じの美人の女将が私たちを温かく出迎えてくれた。
 早速ザックを宿に預け、近くの「大出公園」をぐるっと一周、ゆっくり歩いて1時間30分ほどの散歩をする。ここのところ続いている豪雨によって姫川はひどく濁っていて、大出の吊橋などから見えるはずの山並みもこの日は雲の中。ちょっと不満足だったが足慣らしにはなったはずだ。
 風呂上りの夕げ、地元の食材をふんだんに使った宿の料理は質も量も充分だった。夜は軽アイゼンの使用法についてみんなで予習。明日からの英気を養う。
  民宿「かくひら館」のHP

●第2日目(7/31・雨): シャネルの5番だ! …猿倉〜白馬尻〜白馬山荘.
登り切るのに正味2時間ほどかかりました
白馬大雪渓を登る

大雪渓を登り切ってほっとしているところです
大雪渓上部にて

日本のタイム・イブキジャコウソウ(シソ科)
イブキジャコウソウ

山荘前の広場から撮影
旭岳に落ちる夕日
雨はもう止んでいるけど…
 夜中には音を立てて降っていた雨はほぼ止んだようだ。5時からの朝食を済ませ、5時30分にはにこやかなご主人の運転する小型バスで猿倉の登山口まで送ってもらう。それにしても、「かくひら館」の3食・登山口までの送迎付きで@8,000円の宿泊料金は驚きの安さだ。
 猿倉荘前の受付に登山届を提出して、雪渓歩きでは落石に注意、などの説明を受ける。予報通りに再び降り出した雨に傘を差して、林道をゆるやかに登り始めたのは6時15分頃、白馬駅前からの始発バス利用よりも早い時間だ。ここでも「かくひら館」に感謝感激!
 下山予定コースの鑓温泉道を左に分けて進む。道沿いではエゾアジサイが鮮やかな青色に咲いている。
 白馬尻小屋前で雨具に身を固め完全武装する。さらに暫く進むといよいよ大雪渓だ。昨夜の宿での予行演習はなんだったのか。アイゼン装着に手間取るメンバーもいて、てんやわんやの状況。でも何時もの通り和気藹々。にぎにぎしく大雪渓に足を踏み入れる。
 流石に日本一の白馬大雪渓。全長約3.5km、標高差約600m。思っていたよりずっと長くて広い。登っても登っても雪道が続くが、赤い粉が蒔かれた踏み跡を忠実に辿るとけっこう歩きやすく、慣れてくると楽しくなってくる。
 約2時間の大雪渓直登を終えてアイゼンを外す。それからガレ場を登ると再び雪渓が出てきて、ルートのわかりにくい分岐もあったが、なんとか正しい踏み跡を見つけてトラバースする。やがてクルマユリやミヤマキンポウゲ、イワオウギ、ハクサンフウロ、テガタチドリ、オオカサモチなどの高山植物が咲き乱れる葱平(ねぶかっぴら)を通過。薄紫色の絨毯のようなイブキジャコウソウに軽く触れ、その指を嗅ぐととてもよい匂い。 「う〜ん、これはシャネルの5番だ!」 と思わず大きな声で言ったら、微妙でマチマチな反応がメンバーたちから返ってきて、ちょっと照れてしまった私だった。(*
 疲れと感動のため息をつきながら、ゆっくりとさらに高度を上げる。チアノーゼ(高山病の症状のひとつ)の出てきたメンバーも何人かいて、ちょっとイヤな予感。雨はなかなか止まない。
 村営頂上宿舎の脇を通り、少し登ると待望の主稜線(信州と越中の国境稜線)へ出る。しかしガスでなんにも見えない。足もとのウルップソウなどを愛でながら北へなだらかに登り、白馬山荘へ着いたのは午後3時30分頃だった。白馬岳山頂往復は明朝のお楽しみにして、まずは缶ビールとジュースで乾杯!
 あとで聞いてわかったことだが、私たちが猿倉を出発した30分後には雨とガスで大雪渓コースは入山禁止になったそうだ。そんなこととは露知らず、「今日はそれほど追い越されなかったね。当会の実力もアップしたもんだ」 などと云いながら、ガラ〜ンと空いた山荘に「大ラッキー!」 と喜ぶ私たちだった。夕げを楽しく過ごしていたのがよかったのか、心配していたメンバーのチアノーゼは引っこんでしまったようだ。
 雨音を聞きながら部屋で歓談していたら突然日が射してきた。それっと表へ出て、近くのピラミッド型の山・旭岳の右肩に落ちる美しい夕陽を、私たちはずっと眺めていた。

* CHANEL・No.5: イブキジャコウソウの名の由来はその香りがジャコウ(麝香)に似ているからだそうです。ジャコウは雄のジャコウジカが分泌するものが原料で、じつは「シャネルNo.5」にも使われているんです。ですから、イブキジャコウソウの匂いを嗅いで 「シャネルの5番だ!」 と思わず叫んでしまった私の感性は正当なんです。あまり強調すると余計に冷やかされそうですが…。

●第3日目(8/1・晴)花と展望! 白馬山荘〜白馬岳〜鑓ヶ岳〜鑓温泉小屋.
白馬岳山頂からご来光を仰ぐ
ご来光を仰ぐ

何故か一人、山荘で爆睡していました
白馬岳山頂にて

振り返って岩峰を仰ぐ
下山路にて
 未明、そっと小屋の小窓を開けてみると星が瞬いている。想定外の好天気に戸惑いながらも、ニヤッと笑って慌てて仕度して、みんなを急がす。お化粧なんか後回しでいいよ。どうせ景色しか眼中にないんだから。と心の中で叫ぶ。ここから標高差で僅か100m足らずの白馬岳山頂だ。
 白馬岳山頂で、頸城山塊の辺りに広がる大雲海からの、感動のご来光を仰ぐ。南西の方向には剣岳や立山が頭を出している。なんといっても眼前の杓子岳と白馬鑓ヶ岳が大きくて迫力がある。旭岳もなかなか立派だ。足元にはチシマギキョウ、ミヤマアキノキリンソウ、ミヤマクワガタ、ツメクサ類などがきれいに咲いている。コマクサも少し咲いている。もうこれで本山行の半分は成功だ。
 白馬山荘に戻り、朝食を摂ってから縦走を開始したのは6時20分頃だった。雲が幾分多くなってきたけれど、山岳展望はまだまだ開けている。咲き乱れる多様な高山植物もじっくりと観察しながら、丸山、杓子岳、鑓ヶ岳と快調に南進する。これがほんとうの、雲上のプロムナードだ。
 三等三角点があるガレた鑓ヶ岳山頂でも大展望を充分に楽しんでから、さらに南へ向かって主稜線を下る。途中のザレた斜面に今が花盛りのコマクサの群落があった。こんな過酷な環境ではコマクサしか咲けないよね、と感心する私たち。パイオニア中のパイオニア(先駆植物)のコメススキ(イネ科)もスゴイやつだけれど、コマクサも相当にすごい。他の植物が生育できないような砂礫地に生えるため、地上部からは想像できないような(1mほどの)長い根を張ってその身体を支えているという。色と形のあでやかさといい、高山植物の女王といわれるゆえんだろう。
 鑓温泉分岐でも、主尾根に別れを告げながらの大休止。時間にゆとりのある山歩きって、とてもいいものだ。
 鑓温泉へ下る途中、大出原(おいでっぱら)などの素晴らしいお花畑を通過する。コマクサ、クロトウヒレン、ミヤマアキノキリンソウ、ミヤマキンポウゲ、ミヤマダイコンソウ、イワオウギ、コバイケイソウ、ハクサンコザクラ、アオノツガザクラ、ムカゴトラノオ、ハクサンイチゲ(意外と少ない)、チングルマ、ミヤマキンバイ、ヨツバシオガマ、コイワカガミ、ベニバナイチゴ、ニッコウキスゲ、クルマユリ、アオノツガザクラ、…などなど、ここでもため息の連続だ。振り仰ぐと今まで歩いてきた山稜の一部がぐるっと取り囲んでいる。それは穂高の涸沢や木曽駒の千畳敷にも匹敵する、迫力のある岩山の景観だった。
 源泉掛け流しの鑓温泉小屋に着いたのは午後2時30分頃だった。
 お釈迦様がたらしてくれた“一本の蜘蛛の糸”はとても太い糸だった。本山行の要ともいえる本日はとうとう一日中よい天気。晴れ男や晴れ女に感謝すべきか、普段の行いが善い人に感謝すべきか、誰に感謝したらよいのかは難しい問題だが、多分、お釈迦様に感謝するのが筋かもね、と独り言…。

●第4日目(8/2・曇)感謝感激! 鑓温泉小屋〜猿倉…みみずく温泉〜白馬町.
朝の鑓温泉小屋
鑓温泉を出発!

これで何度めの雪渓だろうか・・・
雪渓をトラバース

白馬八方温泉「みみずくの湯」
みみずくの湯
 “一本の蜘蛛の糸”はまだ切れない。上天気とはいかないが、今日も雨の心配はなさそうだ。例の野趣あふれる鑓温泉(露天風呂)に浸かりながらご来光を待ったが、流石にそれは雲の中だった。
 小屋での朝食後、6時30分頃に出発。お花畑やクサリ場や雪渓のトラバースなど、今日も変化に富んだ鑓温泉道だ。振り返って眺めた岩峰群の景観や、足元のキヌガサソウや白花のヤマホタルブクロやニッコウキスゲの群落などが次々と私たちを魅了する。ウラジロナナカマドとタカネナナカマド(花や実が下向きにつく)の違いを観察したり、サンカヨウの甘酸っぱい実をちょっとつまんだりして、快調に、しかしゆっくりと下る。
 ブナ林を過ぎて間もなく、起点の猿倉に到着。12時の少し前だった。予約のタクシーを待つ間、猿倉荘前のテーブルで蕎麦やかき氷を食べて過ごす。帰路には、白馬駅近くの「みみずくの湯」で山の汗を流す予定だ。
 蜘蛛の糸を上りきって、極楽〜極楽じゃ〜。

 「北アルプス登山の登竜門」と云われるほどのスタンダードな白馬岳。その白馬岳登山コースの中でも超スタンダードでポピュラーな今回のトレイル。まったりとはしているけれど変化に富んでスキのない名コースであることに間違いはない。人気の山、人気のコースにはそれなりの理由がある。それをまざまざと思い知らされた今回の山行でもあった。美しい山岳展望と高山植物と、そして素晴らしい仲間たちに感謝感激!

白馬鑓温泉: 前項・白馬三山(1)を参照してみてください。
白馬八方温泉「みみずくの湯」: JR白馬駅から歩いて約10分ほどの距離にある共同浴場。白馬三山の眺めが良いことから人気があるようだ。10数年ほど前にボーリングに成功したとのことで、それほど古くはない温泉施設であるらしい。無色透明無味無臭の湯は強アルカリ性単純泉で源泉掛け流し。石貼りの内湯と露天風呂は充分な広さで落ちつけるムード。食堂がないのがちょっと残念。入浴料は一人500円だが、私たちは回数券(10枚3,000円)を有効利用した。下山後のひとっ風呂にはお勧めだ。
 入浴後表へ出ると、向かいににコンテナみたいな造りの豆腐屋があるのに気がついた。そこで売っていた豆乳ソフトクリームが美味かった。
  白馬八方温泉「みみずくの湯」のHP

* 帰宅してからの後日談(夫婦の会話)だが…、どちらからともなく言いだして、う〜んなるほどな、と思ったことがある。それは、15年前は軽いと思ったコースが今回はずいぶんときついと感じたことだった。矢張り体力の衰えは歴然としている。中高年の山歩きで忘れてはならない教訓 “昨年よりは確実に衰えていることを前提に計画せよ” をしみじみと実感したものだ。そして、腰痛や膝痛などの同病を相哀れむ、仲睦まじい私達夫婦だった。(^^ゞ


 白馬岳登山の山行記録
@栂池から白馬三山 平成8年8月
A猿倉から白馬三山 平成23年7月〜8月(本項)
B白馬岳から蓮華温泉 令和3年8月
白馬岳・花の写真集 花の写真をまとめました。



主稜線から振り仰ぐ白馬岳
白馬岳を振り返る
白馬岳からの下りで撮りました
前方に杓子岳と鑓ヶ岳

高曇りの中、すっきりと見えていました
白馬山荘付近から立山連峰を望む(右側が剣岳)

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