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第1日目
姫川の流れる大出公園
第2日目
白馬大雪渓を登る
杓子岳の天狗菱
トウヤクリンドウ
第3日目
白馬岳の山頂にて
小蓮華山の山頂部
眼下に白馬大池が・・・
第4日目
天狗ノ庭にて
蓮華温泉ロッジ
蓮華温泉・薬師湯
蓮華温泉から朝日岳を望む
第5日目
駅前でお土産を購入
糸魚川の地酒セットと干甘えび
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余裕の日程で白馬岳を堪能
第1日目=新宿8:00-《特急あずさ5号》-11:41白馬駅〜白馬村の大出公園などを散歩〜民宿かくひら館 第2日目=民宿かくひら館-《宿の車30分》-猿倉〜(大雪渓)〜白馬山荘 第3日目=白馬山荘〜白馬岳2932m〜三国境〜小蓮華山2766m〜白馬大池山荘 第4日目=白馬大池山荘〜天狗ノ庭〜蓮華温泉 第5日目=蓮華温泉-《タクシー80分》-糸魚川駅-《北陸新幹線》-東京
【歩行時間: 第1日=約1時間30分 第2日=6時間 第3日=3時間30分 第4日=4時間】
→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(白馬岳)へ
当初の計画では白馬岳→雪倉岳→朝日岳(朝日小屋・泊)→蓮華温泉だったのだけれど、私達夫婦の鈍足ではかなりきついと判断して、白馬大池経由で蓮華温泉へ下山、というコースに変更した。1泊2日のコースを4泊5日で歩いた、ということになる…。でも、第3日目の白馬山荘からの縦走日はかなりの悪天候だったので、コース変更は結果オーライとなったのではないか、と思う。
なんといっても超人気の白馬岳だ。大雪渓歩きや山稜からの大景観や、そして晩夏の花たちなど、山旅の良さをたっぷりと満喫することができたのが嬉しい。…こう云っては不謹慎かもしれないが…、(コロナ禍の今)山小屋などが超静かなのも…夏のシーズン中では得難い経験だと思った。…あの白馬岳が深閑としていて、朝の山頂は私達夫婦だけだったなんて…。
* 現在、鑓温泉小屋が休業中でそのコースが通行止めになっていることも、今回のコース計画に作用しました。
●第1日目(8月23日・曇り) 白馬村を散歩
新宿からの特急では唯一(松本から先の)白馬駅に停まる「あずさ5号」を利用する。新宿駅を8時に発って、閑散とした白馬駅に着いたのは11時41分。駅前の食堂でゆっくりと昼食(佐知子は天ざる、私は大盛りのざるそば)を摂る。それでもまだ時間はたっぷりとある。
とりあえず今日の宿「民宿かくひら館」に荷物を置かせてもらって、近くの大出公園を散歩する。10年前に山の仲間たちと歩いた懐かしの大出公園だが、その山側の道が(土砂崩れのため?)通行止めになっていて、周回コースを歩けないのはチト残念だったけれど、姫川に沿ってあちこちと(行ったり来たり)歩いて、とてもいい足慣らしになった。西面の安曇野の奥には…白馬岳〜五竜岳〜鹿島槍ヶ岳などの後立山連峰の山並みが雲間から見え隠れする…絶景が広がっている。集落を流れるきれいな小川ではバイカモが花をつけている。散歩の途中で立ち寄った古民家カフェ「かっぱ亭」のコーヒーなども、なかなか乙なものだった。
「民宿かくひら館」の優しいご主人や美人の女将も、お変わりなくお元気そうで、今回も大変お世話になった。…素晴らしい「前泊」の一日だった。
民宿「かくひら館」のHP
●第2日目(8月24日・高曇り) 大雪渓を登る
登山口の猿倉までは「かくひら館」のご主人の運転で送ってもらう。ほんとうに至れり尽くせりで、感謝感激だ。1泊3食+登山口までの送り(登山プラン)で@9,000円はめちゃくちゃ割安だと思う。…ひっそりとして人影のない猿倉荘前の広場で軽くストレッチして、登山届を投函して、歩き始めたのは6時10分頃だった。
白馬尻小屋が休業中なのは知っていたけれど、小屋がそっくりとなくなっているとは思っていなかった。なので、大雪渓の摂り付き地点で6本爪アイゼンを装着しているときに、「白馬尻小屋って、通り越したかしら…?」と佐知子が呟いたときに、あぁそうか、解体されていたんだ、と気がついた。
アイゼンがよく利いて、大雪渓の急斜面は順調だ。10年前(→No.32-2「白馬三山」)を思い出しながら、落石には特に気を付けて、ベンガラの赤い粉が蒔かれた踏み跡を忠実に辿っていると雪渓が終わって、葱平(ねぶかっぴら)のお花畑だ。大雪渓の谷を挟んだ左手(右岸)には杓子岳の岩峰(天狗菱)が槍ヶ岳のように天を衝いて聳えている。ミヤマタンポポやハクサンフウロ、そして初秋を思わせるミヤマトリカブトやトウヤクリンドウもきれいに咲いている。
白馬山荘に辿り着いたのは14時半頃。休み休みゆっくりと登ったつもりだが、矢張りそれでもとても疲れた。振り仰ぐと黒部川の流れる大きな谷を挟んで立山連峰が…、剣岳の金字塔が…、高曇りの空にくっきりと見えている。
白馬山荘は思った通り、ガラ〜ンとしている。
●第3日目(8月25日・雨風霧) 白馬岳〜白馬大池
未明から雨と風の音が部屋の小窓を叩いている。白馬山荘での5時からの朝食後、受付のスタッフに「カミナリは大丈夫かなぁ?」と尋ねたら、「カミナリは大丈夫!強風に注意してください。ダメだと思ったらすぐに引き返してください」と教えられた。暫く迷っていたけれど、6時半頃、意を決して山荘を出た。外はガスと本降りの雨で、嵐状態だ。
ホワイトアウト寸前の白馬岳山頂2932mで証拠写真を撮って、重心を低くしてガニ股になって、主稜線を北へ進む。足元ではトウヤクリンドウ、ホソバツメクサ(イワツメクサだったかも)、コメススキも強風に耐えている。カッパの下にはフリースも着ているけれど、それでも寒く、顔に当たる雨粒が痛い。「気合ね!」「気合いだ!」とお互いに言い聞かせる掛け声が、なんか懐かしい。
三国境は長野、富山、新潟の県境で、ここで雪倉岳から朝日岳方面への道を左に分け、暫くは信越国境を進むことになる。この辺りは二重山稜の地形やコマクサの群落でも有名だが、その花期は終わっていたようで、濃霧の隙間にイワオウギとイワギキョウを辛うじて確認できた程度だ。“花や展望に心を奪われる”ステキな稜線、の筈なんだけどなぁ…。
鉄剣の立てられた小蓮華山2766mの山頂部も雨・風・霧で、なんとか写真は撮ったけれど、それだけで精一杯だ。そして先を急いでいると、悪天候時に姿を見せる象徴でもあるライチョウが、ついにハイマツとガレの尾根道に現れて、親子連れで私達を先導する。3羽のヒナがお母さんの周りをよたよたと歩く姿が可愛らしい。
ここで後ろから私達に追い付いてきた中年ご夫婦に「ライチョウがいますよ」と教えると、お二人は嬉しそうに立ち止まって、私達と一緒に長いこと観察をした。そのときにお二人に言われたことだが、私達が(山荘を)出発したのを見て勇気を出して出発した、とのことだった。私達の約30分後に歩き出したとのことだから、相当に俊足なお二人だ。というか、やっぱり私達が遅すぎるのかも。何気に、足が痛いと佐知子がびっこをひいている。久しぶりの重登山靴がつま先に当たっているようだ…。
ハイマツに交じりミヤマハンノキも目立ってきた。船越ノ頭2612mを過ぎて、雷鳥坂を下るころから風が凪いで雨も止んで、神秘的な白馬大池が眼下にくっきりと見えてきた。風吹大池に次ぐ北アルプスで2番目に大きい山上湖だ。その畔の赤い建物・白馬大池山荘に着いたのは11時の少し前だった。ビールを飲んだり食事をしたり付近を散歩したり、リゾート気分で、この日の午後はまったりと過ごす。
●第4日目(8月26日・曇り→晴れ) 白馬大池〜蓮華温泉
今日の行動予定も半日ハイキング程度のボリュームなので、気は楽だ。5時30分からの白馬大池山荘の朝食をゆっくりと食べてから、花の終わったコバイケイソウと、今は綿毛になって風に揺れている稚児車(チングルマ)の大草原を、北へ向かって徐に歩き出す。天気は快方に向かっているようで、曇ってはいるけれど空は明るい。
やがて間もなく樹林帯へ入るが、標高約2380mに位置する白馬大池から標高約1475mの蓮華温泉までの、この下山道がとても楽しかった。コースを通して最も目立っていた樹木はダケカンバで、高度が下がるに従って(概ね)ハイマツ、シラビソ、オオシラビソ、コメツガ、ネズコ、(ハクサン?)シャクナゲ、オガラバナ(アサノハカエデ?)、ナナカマド、カラマツ、オオカメノキ、ハウチワカエデ、サワグルミ、ミズキ、ヤマザクラ…と植生が(亜高山型から山地型へと)徐々に移り変わる。
ちょうど中間地点に当たる「天狗ノ庭」と呼ばれる開けた箇所からの、雪渓を張り付けた小蓮華山〜鉢ヶ岳〜雪倉岳〜朝日岳〜の展望が素晴らしい。近くにはアキノキリンソウ、ヤマハハコ、咲き終わったキヌガサソウ、今が見ごろのウメバチソウ、オニアザミ、シナノオトギリ、シモツケソウ、などが咲いていて、地を這うような背の低い(潅木化した)カラマツの姿が超渋い。標高は2000mくらいだが、背のやや高いハイマツ(キタゴヨウだったかも?)も生えていたりして、興味は尽きない。
再び樹林帯に入り、サンカヨウ(微かな甘みの実)、ゴゼンタチバナ(赤い実)、ヤマアジサイ(エゾアジサイ?)、などを観察しながら歩いていたら、あっという間に今回の山旅の終点・蓮華温泉ロッジに着いてしまった。時計を見るとまだ午前11時半頃。ロッジで昼食(きつねうどん)を摂ったら、さっそく定評のある露天風呂巡りをしてみよう。
蓮華温泉「蓮華温泉ロッジ」: 山小屋風の温泉宿と思うと腹が立つかもしれない。つまり温泉付きの山小屋、といった感じだ。アメニティグッズは置いてなくて、もちろんテレビもなく、携帯は圏外だ。標高1475mに位置し、地籍は新潟県糸魚川市に属する。上杉謙信の時代に発見されたという由緒ある温泉は、湯量・質ともに流石に素晴らしい。1894年(明治27年)
に、あのウォルター・ウェストンがこの温泉に宿泊して白馬岳に登頂した、というのも凄い近代史だ。
源泉の違う4つの野天風呂を巡る“温泉ハイキング”は評判通り、ファンタスティックだった。佐知子は靴擦れで足が痛いのと恥ずかしいのとで遠慮したけれど、私はロッジから約15分ほど登った展望のよい薬師湯(酸性石膏泉)とこじんまりとした黄金湯(重炭酸土類泉)に浸かった。感想は「もう最高!」だ。もちろんロッジの白濁した内湯(総湯:単純酸性泉)もとても良かった。何れも口に含むと微かな酸味と苦みがある。その詳細については蓮華温泉の公式ホームページに任せるとして、とにかく、ここの温泉(だけ)は本当に素晴らしい、と思った。料金は1泊2食付き税込み@12,000円(+個室料2,000円)だった。車の入れる場所ということなどを勘案すると、山小屋とほとんど同じ内容のサービスについての評価(コスパ)は微妙だ。1976年(昭和51年)に車道が全線開通するまでは“登山者だけの温泉”だった、というのもこの温泉ロッジの個性に影響しているのかもしれない。
「蓮華温泉ロッジ」のホームページ
●第5日目(8月27日・快晴) 蓮華温泉から一路東京へ
午前8時、予約しておいたタクシーが時間通りに迎えに来てくれて、私達は車中の人となる。季節運行のバスは8月中旬以降は土休日のみの運行なので、金曜日の今日はタクシーに頼らざるを得ないのだ。しかしやっぱりお金を使っただけのことはあって、車窓からの美しいブナ林や北アルプス北部の山並みや正面の雨飾山の景色など、素敵なドライブだった。ガイド役もつとめてくれた親切な運転手さんにタクシー料金の15,760円を支払って、糸魚川駅からは北陸新幹線に乗る。
新幹線の車内(自由席)もガラ〜ンとしていて、私達はマスクの隙間からペットボトルのお茶を飲んだりしながら、素晴らしい5日間の山旅を静かに振り返っていた。でも、糸魚川駅から東京駅までの所要時間がたったの2時間程度しかないのが、ちょっと物足りない。…この仕合せな余韻をずぅ〜っと感じていたいのに…。
佐知子の歌日記より
落石を恐れながらも大雪渓 アイゼン利かせ登ってゆきたり
人間を怖がりもせず雷鳥は餌をさがして親子で歩く
膝痛と靴擦れの身は何の罰(ばち) 雨風強き山道をゆく
小屋前はチングルマの大群落 稚児車となり風と遊べり
痺れてる足引きずりて下山する「温泉温泉」と呟きながら
糸魚川の銘酒セットを購(あがな)いて飲み比べする笑顔の夫よ
白馬岳登山の山行記録
@栂池から白馬三山: 平成8年8月
A猿倉から白馬三山: 平成23年7月〜8月
B白馬岳から蓮華温泉: 令和3年8月(本項)
白馬岳・花の写真集: 花の写真をまとめました。
※ コロナ下の登山、及び山小屋の現状: 本サイトのコラム欄です。参照してみてください。
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