北アルプス横断(前編) No.420-1 折立から雲ノ平・高天原 令和3年(2021年)7月26日〜27日 |
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コロナ下に山小屋を利用して… 【歩行時間: 第1日=6時間30分 第2日=7時間 第3日=5時間 第4日=8時間 第5日=6時間】 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(雲ノ平)へ 7月23日から始まった東京オリンピックのテレビ観戦に後ろ髪を引かれながら、1週間を費やして、夫婦で北アルプスの中央部を西から東へ横断してきた。富山県側の折立(薬師岳登山口)から入山して、憧れの雲ノ平・高天原を巡り、裏銀座の北側(水晶〜野口五郎〜烏帽子)を辿って長野県側の高瀬ダム・七倉に下山、というルート概要だ。常日頃の鍛錬不足と寄る年波でかなり苦戦したけれど、何とか(ほぼ)予定通りに怪我もなく歩き通すことができた。無理をしない計画が功を奏した、と自画自賛。 ●登山前日(7月25日・曇) 東京〜富山〜立山 東京駅9時23分発の北陸新幹線「はくたか557号・金沢行き」は12時5分に富山駅に到着する。コロナの影響か、乗車率は30%くらいだっただろうか。 富山駅前のショッピングセンター(マリエとやま)の6階で昼食を摂ってから、1階の食品売り場でパンや菓子類の予備食を購入。これで明日からの山行準備は万全だ。 13時50分発の富山地方鉄道本線・立山行きに乗換えて、その終点に着いたのは14時54分。予約の宿(山の宿・やまびこ)に電話を入れると、5分足らずでワゴン車が迎えに来てくれる。運転しているのは穏やかで親切な宿のご主人だ。 こうして、私達の北アルプス横断の山旅は始まった。何気に、数日後に上陸しそうな大型の台風8号の動きが気になっている。 立山山麓温泉「山の宿・やまびこ」: 立山黒部アルペンルートの玄関口でもある立山駅から車で5分の位置にある温泉旅館。非常に親切な中年ご夫婦が切り盛りをされている。部屋の窓からは緑(近くの山腹)が目に優しくて、まったりとくつろげる。外湯はないけれどタイル張りの内湯だけで十分満足。泉質はナトリウム炭酸水素塩泉、アルカリ性、高温泉(43.4℃)、無色透明無味無臭、加温、循環、少しヌルヌル感。地元の食材を使った心のこもった料理は美味しかった。 翌朝の折立(登山口)までのタクシーの手配など、親身になって面倒を見ていただいた。ご主人と女将さんに感謝感激。1泊夕食付き一人8,450円(税込み)は割安だ。 「山の宿・やまびこ」のホームページ 佐知子の歌日記より 寝台車なき現在は新幹線にてすうっと富山へ着いた ●第1日目(7月26日・曇) 折立〜太郎兵衛平〜薬師沢小屋 約束通り早朝の5時45分、宿(立山山麓温泉)の玄関前にタクシーが迎えに来てくれた。なるべく早く歩き始めたかったのだけれど、登山口の折立(おりたて)へ至る有料道路(富山県有峰林道)の入口が開くのは午前6時から、とのことで、これでも最速なのだ。有峰湖を眺めながらの快適なドライブだったが、タクシー代14,200円+有料道路代1,900円=16,100円は、懐がチト痛かった。1時間以上は遅くなるけれど、有峰口からのバス利用(6:39発・@2,450円・予約制)という手もあったのだが、そう…、常日頃の鍛錬不足と寄る年波の私達夫婦にとっては、お金で時間と体力を買う必殺技を駆使するしかないのだ。…と、なにやかやで、標高約1350mに位置する折立から歩き始めたのは6時40分頃だった。 この折立からの登山道は19年前(2002年8月)にも歩いたことのある懐かしい道だ。[→No.143「薬師岳から黒部五郎岳」] そのときの思い出話をしながら、標高差約1000mをひたすら登る。ブナ、ツガ、クロベ(ネズコ)、コメツガ、(オオ)シラビソ、ダケカンバ、アカミノイヌツゲ、ハイマツ…と高度が上がるごとに植生の変わる垂直分布を横目で観察したりもしたが、案外早く(午前11時10分)、太郎平小屋の建つ太郎兵衛平に辿り着いた。コースタイムの5時間よりも(休憩時間を含めても)30分ほど早く歩いたことになるのだが、もしかしてこの(昭文社の登山地図)のコースタイムは、少し甘いんじゃないかと思う。というのは、例によって私達は(10組くらいのパーティーに)追い越されっぱなしで、誰も追い越してはいない。…このコースタイムに対する慢心が、じつは、翌日以降の私達を苦しめることになる…。 太郎平小屋の太郎ラーメン(並・1,200円)を食べて少し元気を取り戻し、黒部五郎岳へ続く主稜を右に分けて、標高差約400mの急勾配を薬師沢へ下る。トウヒだろうか、所々に長細い(円柱形の)球果がたくさん落ちている。3回ほど木橋で徒渉して、カッパが棲むというカベッケヶ原を過ぎると、二つの沢が合流する地点(薬師沢出合)に瀟洒な薬師沢小屋が建っていた。時計を見ると14時40分。私達にとっては上出来の登山初日だ。…残念なことに、今日一日は殆どガスっていたけれど…。 * この日、観察のできた花: ママコナ、ゴゼンタチバナ、ハナニガナ、ニッコウキスゲ、キンコウカ、エゾシオガマ、モミジカラマツ、コイワカガミ、チングルマ、シナノキンバイ、ミヤマキンバイ、ミヤマキンポウゲ、イワイチョウ、コバイケイソウ(今年は当たり年かも)、ヨツバシオガマ、ウラジロタデ、シラネニンジン、ウサギギク、クルマユリ、ソバナ、ツマトリソウ、キヌガサソウ、など。 佐知子の歌日記より 折立(おりたて)より息もたえだえ登り着く太郎平で食う太郎ラーメン 澄む流れ二つが出合う薬師沢 登山者のほか釣人もおり 山小屋の夕食なのに昆布じめのブリがあったよ さすが富山だ
標高差で400mほども登ると、そこからは木道で、雲ノ平へ向かって標高差約200mの高原をなだらかに登る。この区間(薬師沢小屋→雲ノ平・標高差約600m)のコースタイム3時間20分のところを、私達夫婦は(数回の休憩を含めて)4時間50分を要した。コースタイムの1.5倍程度、というのが私達の通常の歩き方だから、これはこれで問題はないのだけれど、昨日よりは矢張り大分疲れている。…ちょっと不安な予感が脳裏をよぎる…。 とはいえ、憧れの雲ノ平だ。アラスカ庭園やギリシャ庭園などの、日本最後の秘境と呼ばれる庭園歩きなど、とてもシックな感じでよかった。幸いにも(ここまでは)高曇りだったので、周囲の(水晶岳や黒部五郎岳や薬師岳などの)名だたる峰々の展望もあり、草原にはたくさんの高山植物が咲き乱れている。雲ノ平山荘下の分岐付近にどっかと腰を据えて大休止。天空の庭園・雲ノ平をたっぷりと満喫する。…このころからガスが出始める。 雲ノ平の分岐を北へ進み、奥スイス庭園や小さなコブ(二つの小ピーク・関西電力の無線塔あり)を越える。霧が晴れたときの眺望が素晴らしい。そしてそれから、高天原峠へ向かって高度を下げる…、その下りに苦戦した。要所には梯子やロープもあるのだが、ゴロ岩に辟易したのだ。若いころはこのようなゴロやガレの道は得意で、リズムよくポンポンと下ることができたのだが、今はもうそれは見果てぬ夢だ。特に大きな段差が辛くて、超ゆっくりと、よっこらしょとしか進めない。…おまけに雨も降ってきた。私は腰が痛いし痔も痛い。妻の佐知子は膝が痛い…。 高天原峠で左からの大東新道を併せ、森や草原の道をトラバースして尚も下り、高天原山荘に着いたのは(なんと)15時20分頃だった。雲ノ平→高天原山荘のコースタイム2時間30分を、私達夫婦は4時間40分をかけて歩いたことになる。特にサボってもいないし、植物観察に専念していたわけでもない。とても真剣に、一生懸命に歩いたのだけれど…。 この山旅の目的のひとつでもあった高天原温泉入浴は…そんなわけで…疲れと気力の関係でボツになった。標高約2130mに位置する高天原山荘から更に北へ80mほど下っての(コースタイムで往復50分かけての)入浴は、温泉好きの私達にとっても、このときは過酷すぎた…。残念だけれど。 前日の薬師沢小屋もこのランプの宿・高天原山荘も天然水が豊富で、それを遠慮なくじゃんじゃん使えるのが嬉しい。山では冷たくて美味しい水が何よりの贅沢だ。 * この日、観察のできた花: ミヤマダイモンジソウ、ゴゼンタチバナ、モミジカラマツ、カニコウモリ、ユキザサ、ウラジロナナカマド、オオヒョウタンボク、ミツバオウレン、コバイケイソウ、イワイチョウ、チングルマ、コイワカガミ、ヨツバシオガマ、アオノツガザクラ、ハクサンイチゲ、ミヤマキンバイ、キヌガサソウ、ワタスゲ(綿毛)、など。 佐知子の歌日記より 雲が切れ黒部五郎や薬師岳が見えてきたよと夫が喜ぶ あこがれの雲の平への道険し お花畑に苦しさも飛ぶ
次項「高天原から烏帽子岳」へ続く
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