No.485 房州アルプス(無実山267m) 令和6年(2024年)10月27日(日) |
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→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(無実山)へ MLBのワールドシリーズ(ドジャースvsヤンキースの第2戦)と、総選挙の投票日だということを気にしながら、夫婦で房州アルプスの周回コースを歩いてきた。 房州アルプスといっても、実際の地籍は千葉県富津市だから上総の国(総州)になるのだが…、もう既に定着してしまっている感もあるし、安房の国(房州)に近いということもあり(ネーミングに関しては)まぁいいか、といったところだ。 公共交通の便があまりよくないので、マイカーを利用した。大田区の自宅からは東京湾アクアラインを利用すれば(渋滞がなければ)約70分で行ける距離なのだ。 館山自動車道の富津中央ICから国道465号→県道182号(上畑湊線=通称:もみじロード)と緑豊かな地を走り、林道鹿原(しっぱら)線が右から交わる地点の(7~8台は駐車可能な)駐車スペースに車を止める。そして軽くストレッチしてから、その林道鹿原線を歩き始めたのは午前8時を少し過ぎた頃だった。久しぶりの千葉県の山にウキウキしている。涼しい風が身体を通り抜ける。 林道鹿原線のこの区間は尾根筋を歩くので、所々の樹林の途切れから、右に左に房総丘陵の展望が広がる。道端にはヤマゼリの白くて小さな複散形花序や花被片に紫色の斑点をつけたヤマジノホトトギスなどが咲いている。セイタカアワダチソウも(案外ときれいに)けっこう咲いている。つる性のカラスウリが…カラスが食べ残したものか…朱色の大きな果実を垂らしている。紅葉にはちと早いけれど、房総の里は秋色だ。 林道の途中で地元の中年男性から「どこへ行くんだい?」と声をかけられた。「房州アルプスを歩きます」と答えたら「・・・??」といった感じで、ご存じないようだった。少し間をおいて「…そういえば、この先に分岐があって、何か道標みたいなものがあったけれど、あれかなぁ…?」と呟いてから「ここいらはイノシシやサルやキョンがいるので、気を付けた方がいい。マムシやヤマビルにもね」と注意してくれた。あとから思うと、この日に出遭ったのはこの中年男性だけだった。…それにしても、地元の方がご存じないなんて、房州アルプス…大丈夫かなぁ、と少し心配になってきた。 「地元の人は関心がないのねぇ」と妻の佐知子がぶつぶつ云っている。「案外とそんなもんかもしれない」と私が答える。敢えて意識しなくても、こんなにも緑に恵まれた地元の方たちにとっては毎日が“低山ハイキング”なんだから…、多分。 歩き出してから50分ほども過ぎたころ、この地域(梨沢)の青年部会が設けた「房州アルプス・無実山・登山口」の道標が目についた。その下部には「…令和元年の台風15号の被害によりこの地の山や沢は大変危険な状況になっている…復旧・整備作業は進んでいるが、充分に注意してほしい…駐車する際はダッシュボードにルートや人数を掲示しておいていただきたい」旨の注意書きがされてある。ありゃ、しまった。マイカーのダッシュボードにそんな登山届的なものは置いてこなかったぞ。と思ったけれど、ここから引き返す気力はない。…駐車スペースの標高が約60mでこの登山口の標高が約220mだから、標高差で既に160mは登ってきたのだ…。自宅に(何時もの通り)今回山行のあらましは書き置いてきたし…、つまり私達のきょうの行動予定は(もう中年になる)同居の息子には知らせてあるし…、まぁいいか、と思った。で、房州アルプスの山道へ静々と進む。 その山道は広くてなだらかで、とても歩きやすい。木々の隙間から近隣の山並みも見えている。マテバシイの純林を抜けてから、分岐を左(東)の枝尾根へ進んで、志駒愛宕山225mを往復(正味約15分)してみる。山頂と思しき小広い空間にはそれなりの社(拝殿)があって、その裏側には「志駒訶具都智神社跡」と彫られた石碑が建っている。山頂標識はないけれど…なかなか趣き深い山頂だ。その社の軒下を利用させてもらって中休止。周囲はタブノキやスダジイなどの自然林。その林床のサンショウの実が赤く熟していたので、口に一粒含んで齧ってみた。…つ~んと山椒の良い香りがして、それから暫くは舌がびりびりに痺れた。 :* 訶具都智神社(かぐつちじんじゃ)のカグツチとは、記紀神話における火の神のことで、秋葉神社と同じように…つまりやっぱり山火事を恐れての…地元の方たちの山火事封じの祈りが込められているのだろうと推察する。昔も今も、火事や雷はとても怖い。 神社分岐に戻ってから再び房州アルプスを南へ、いくつかのコブを右に巻いて進む。やがて尾根の西側がスッパリと切れ落ちている「地獄のぞき」や東側の展望が良い「露天のテラス」を通過する。…道は段々と細くなってきて、登山道っぽくなってくる。先頭を歩いていた佐知子が「小さな鹿のような…多分キョンが…前の方を横切った!」と騒いでいる。日本では特定外来生物のキョンだが…。 指導標のない分岐を右へ…高みの方向へ…少し登ると、そのピークが(国土地理院の地形図には山名注記のない)無実山(みなしやま・267m)の狭い山頂だった。二等三角点(点名:梨沢)の標石の傍に渋い山頂標識があって、その右脇のマテバシイの幹には山名由来の解説板(*)がぶら下がっている。山頂の周囲はスダジイやヤブニッケイなどの樹林に囲まれていて展望はないけれど、居心地のよい空間だったので、三角点の脇にビニールシートを敷いて、どっかと腰を降ろす。そして東京湾アクアラインの海ほたるで買ってきた菓子パンで早めの昼食とする。食後は辺りの樹木を観察したりサーモスの熱湯でコーヒーを濾したりして、小1時間の大休止を楽しむ。 * 無実山(みなしやま)の山名由来: 源頼朝がこの道を馬に乗って通過中、椎の実が頭に当たって激怒「花が咲いても実はなるな」と椎の木に八つ当たり。以来「みやまの椎は実がならなくなった」という伝説がある。椎の木は源頼朝を傷つける意図はなく無実であり、それ以降この山を「無実山(ミナシヤマ)」と呼ぶようになったとか。[山頂の解説文をそのまま転記] 無実山の下りあたりからは若干道が荒れてくる。痩せ尾根の七曲りを下ったり、急斜面の細い踏み跡をトラバースしたり、気の抜けない登山道が暫く続く。やがて道はなだらかになり、マテバシイの純林を抜けて、シャガの目立つ(あまり管理のされていないような)ミカン畑を通り、民家の前を通過すると林道保田見(ぼてみ)線に出る。ここが内台入口(房州アルプスの南側の登山口)だ。 静かでいい感じの林道保田見線をだらだらと下り、県道182号(もみじロード)にぶつかって左折する。この志駒川に沿った「もみじロード」の舗装道歩きが…山に囲まれた緑豊かな景色を見ながらの、味のある山里歩きではあるのだが…長くて耳に煩かった。日曜日だったこともあるのか、この道路にはスポーツタイプの4輪車や2輪車が多く走っている。走り屋たちにとっては絶好のワインディングロードであるようで、前から後ろから次々と大きなエンジン音を立てて、気持ちよくぶっ飛ばしている。バイク族(峠のライダーたち)などはバリバリ伝説の巨摩郡みたい、と思った。→ちょっと古いかなぁ…。(^^;) 道すがら「地蔵堂の滝」などを見物したりして、道路沿いの駐車スペースに戻ったのは13時50分頃だった。この日、房州アルプスを歩いたのは私達だけだったかもしれない。青色のマイカーは、今朝と同じように1台だけで、ポツンとしていた。 正味だと「半日ハイキング」ということになるが、充分に緑の低山アルプスを満喫することができた。このぶんだと、日帰り温泉(富津市金谷の「海辺の湯」を予定)に立ち寄ったとしても、総選挙の投票締め切り時間には余裕で間に合いそうだ。もちろん制限速度以下のスピードで、静かにゆっくりとマイカーを運転したとしても、だ…。 * 房州アルプスで観察のできた樹木: タブノキ、スダジイ(トウジイ)、アカガシ、マテバシイ、ヤブニッケイ(青い実)、シロダモ、ヤブツバキ、ヒイラギ、アセビ、トベラ、コナラ、クリ、エンコウカエデ、アオギリ、ハゼノキ、カラスザンショウ、アカメガシワ、ガマズミ(赤い実)、モミジイチゴ、サンショウ(実)、アカマツ…など。 里に近い低山域だから、クスノキや園芸種と思われるカエデ類やスギ・ヒノキなども少し交ざるけれど、なんといっても森のメインはタブやシイなどの(房総らしい)極相の照葉樹で、概ね好感の持てる自然な植生だ。 天然温泉「海辺の湯」: 帰路に立ち寄ったのは東京湾の入口(つまり浦賀水道)の東に面した、富津市金谷の「海辺の湯」だった。外湯などからは眼下に豪快な磯の波しぶきを眺めることができる。茶褐色の湯の泉質はナトリウム・カルシウム・硫酸塩・炭酸水素塩冷鉱泉(低張性弱アルカリ鉱泉)、加温、半循環。入浴後の、すぐ隣りの食堂の海鮮料理が美味しかった。 食事中にスマホで調べてみたら、大谷と山本のドジャースは、この日の戦い(対ヤンキース・ワールドシリーズ第2戦)に勝って2連勝としたことがわかった。で、益々気分を良くした。 「海辺の湯」のホームページ 佐知子の歌日記より 秋晴れに房州アルプス歩きたり 照る葉の森は陽に輝きて 傾きて右に左にバイク行く 爆音響くもみじ街道 |