佐知子の歌日記・第十五集
佐知子の歌日記・第十五集
平成28年4月〜6月
人の目はおおかたサクラにそそがれて 静かにもえるクスノキのわかば
階段の五段をのぼると膝痛む 洗濯物が重すぎるのだ
大きめの制服のそで折りまげて 孫は今日から中学生
「こんにちは」と訪ねし母にそと言えど かすかにまなこを開けるばかり
「ふるさとの浜辺公園」人工の大森の浜に海苔の香のして
ごほうびに夫にはビールとカキフライ われはパフェ食う一万二千歩
咲きそろう都忘れのむらさきが風の強きにも弱きにも揺る
「どこ行くの」訊きたくなるね腰の振り 春の小径をトラ猫あるく
子や孫と弁当囲む運動会 この平穏の続けよつづけ
蜘蛛の巣をかきわけ進む朝の道 君のうしろを離れず歩く
海風に揺れてたなびく椨
(タブノキ)の 落葉のゆくえをじっと見ており
乗っていった自転車忘れ帰宅する ポケットに残るこの鍵は何
けん玉を上手くあやつる孫をほめ 男子に帰りて教え居る夫
つまづいて古き書類をまきちらし税金高の昔を見たり
数独と日本語・英語のパズル終え次の脳トレ探しています
人の目はおおかたサクラにそそがれて 静かにもえるクスノキのわかば (4.1)

つやつやの緑はじける山椒の 葉つまむ指先春の香みちる (4.3)

そばがきを上手につくる夫なれど 後片付けは私の仕事 (4.3)

置き場所をかえてやらねばギボウシの日陰の鉢につんつん新芽 (4.5)

歌う人手をたたく人集うなか 母は無言の音楽の時間 (4.6)

階段の五段をのぼると膝痛む 洗濯物が重すぎるのだ (4.6)

大きめの制服のそで折りまげて孫は今日から中学生 (4.7)

もの言わず晩酌なしの夫の宵 インプラントの手術を終えて (4.9)

母親は散る花びらを手にのせて ほほえみながら幼子に見せる (4.11)

つりがねの白い小花が風に揺れドウダンツツジは春を奏でる (4.12)

山肌はえぐられ人をのみ込んで余震のつづく熊本地震 (4.16)

「こんにちは」と訪ねし母にそと言えど かすかにまなこを開けるばかり (4.19)

来月に閉店となるスーパーの値引きの服はあらかたなくなる (4.19)

 近くの公園を夫婦で散歩 (4.23)
軒ごとに下見のごとく飛びかいて巣作りはじまるつがいのツバメ
「ふるさとの浜辺公園」人工の大森の浜に海苔の香のして
ごほうびに夫にはビールとカキフライ われはパフェ食う一万二千歩

咲きそろう都忘れのむらさきが風の強きにも弱きにも揺る (4.26)

 買い物帰りの駅のホームにて
高校生スマホ片手に輪になって いったい何を語るというのか (4.30)

ネット吊りゴーヤの苗を植えつける 五年前から味わう苦味 (5.2)

 テレビでNBAを観戦して
大男の手には磁石のあるごとくあやつられてるバスケットボール (5.3)

子供の日に妻の日もあればと思うのは全くもってつまらぬことよ (5.5)

「どこ行くの」訊きたくなるね腰の振り 春の小径をトラ猫あるく (5.12)

「おー」という谷底からのあの声がこの世に在(おは)す最後となりぬ (5.14)

真夏日に子や孫と食うすき焼きの一キロの肉たちまち消える (5.23)

四十年使いし蛇口ポロリ折れ はるかに越えた耐用年数 (5.24)

子や孫と弁当囲む運動会 この平穏の続けよつづけ (5.28)

 久しぶりに三浦アルプスへ (6.3)
蜘蛛の巣をかきわけ進む朝の道 君のうしろを離れず歩く
山桜の黒く輝く実を食めば甘みひろがり君にほほえむ
標高は二百メートルぽっちでも 三浦半島の小粒アルプス
海風に揺れてたなびく椨
(タブノキ)の 落葉のゆくえをじっと見ており
* タブノキ(椨): クスノキ科の常緑広葉高木。
 1枚の葉の寿命は2〜3年で、毎年の春から初夏にかけてその半分近くを落葉させる。


乗っていた自転車忘れ帰宅する ポケットに残るこの鍵は何 (6.5)

ギボウシは垣根を越えて茎のばす うす紫の花を咲かせて (6.9)

けん玉を上手くあやつる孫をほめ 男子に帰りて教え居る夫 (6.10)

つまづいて古き書類をまきちらし税金高の昔を見たり (6.13)

朝空の青をいっぱい吸い込んで梅雨の晴れ間のゴミ出しに行く (6.14)

湯上りの息子はのれんの位置を上げ身長差二十二センチの景色 (6.14)

香りよい三十キロを漬け終えて出来栄えいのる梅干づくり (6.19)

弁当にパックのお茶をいれ忘れ今年二度目の言い訳をする (6.20)

プランターのブルーベリーは大粒で 甘味はちきれ夫に自慢す (6.20)

せわしなく団扇をつかい麦茶のむ これがワタシの湯上りの景 (6.25)

顔を上げ片目を開けて俯くは うつろな母のいつもの仕草 (6.25)

数独と日本語・英語のパズル終え次の脳トレ探しています (6.26)

根は伸びて小さき鉢を出でんとす 我が背たけ越ゆスラッシュパイン (6.28)
* スラッシュパイン: マツ科マツ属の常緑針葉樹。外来種。

置き場所を南へ移した山吹の黄色の二輪が梅雨空に咲く (6.28)

「佐知子の歌日記」のトップページへ
「佐知子の歌日記・第十四集」へ「佐知子の歌日記・第十六集」へ


ホームへ
ホームへ