佐知子の歌日記・第十六集
佐知子の歌日記・第十六集
平成28年7月〜9月
流れ星を三つも見たと言う夫よ 我は夢でもぬか床まぜり
家庭科の評価は「3」のわたくしがボタンを付ける「5」の夫のシャツ
ややこしい手順に潜むポケモンGOを見つけられずにスマホをとじる
リオ五輪 平和もねがい開かれる 日本時間の八月六日に
赤や黄の水着のようないでたちの女子ランナーを映すハイビジョン
黄と緑の国旗の色に髪を染めジャマイカの選手銅メダルなり
隣席の細くて若い女
(ひと)の食う あのステーキは三百グラムだ
手をなでてゆっくり伝える「こんにちは」に病む母は笑む そんな気がする
「雨ですよぉ〜」近所の声に走り出す 洗濯物が待つベランダへ
青春の18きっぷを持ちつつも譲られ座るシルバーシート
ピカソでもゴッホでもない青の空 奥秩父にてゆるりと眺める
言の葉を忘れた母の手を握ること多くなり四年目の秋
「日が短くなってきたね」「ほんとにね」そんな会話をきょうは3回
もう一度甘きかおりに酔いたくて金木犀まで十二歩もどる
ジョギングをなまけて半年 公園の草木よりも筋肉恋し (7.4)

わき出ずる知恵なく揺れる心なくそれでもなぜか歌詠みたくて (7.5)

すべ知らず六十六年越すわれら 盆のしつらい葬儀屋にきく (7.6)

誕生日にビールを贈る 父親を亡くした婿の笑顔がもどる (7.6)

「いいにおい」帰るとすぐに夫や子はカレーの鍋をのぞき込むなり (7.7)

効き目などなくてもよいと思いつつブルーベリーの七粒をもぐ (7.8)

新盆に集まる妣の親類のおだやかな声が昔を語る (7.14)

墓石の開眼供養はめでたいと云われ納める妣のお骨を (7.17)

「甘い」とう言葉がふいに蘇る 母のおやつは氷イチゴ (7.19)

診察は三分間なり連休の明けた眼科に五十分を待つ (7.19)

コンビニの脇に座れるホームレス 小雨降る夜は何処に行かん (7.21)

食べ物の好き嫌いなきわが腹を去年のズボンにどうにか納める (7.22)

 
北八ヶ岳・蓼科山から北横岳へ (7.28〜29)
千人が立てども余る広さもつ蓼科山の岩原頂上
流れ星を三つも見たと言う夫よ我は夢でもぬか床まぜり
灰色の雲海しだいに明るんでオレンジ色の太陽あらわる
縞枯れのシラビソ林の足元に育つ若木のまぶしき緑
全員が無事の下山に乾杯のビールは美味し ただただ美味し
金曜の夜の数多の若人にとまどい歩く品川駅前
階段の下りに痛む両足を登山の土産と言いきかせてる

家庭科の評価は「3」のわたくしがボタンを付ける「5」の夫のシャツ (8.1)

起きてすぐ今日の天気を確かめて三十キロの梅を干すなり (8.4)

手作りの梅干・らっきょう・紅生姜 そろいて卓に朝がはじまる (8.5)

ややこしい手順に潜むポケモンGOを見つけられずにスマホをとじる (8.5)

リオ五輪 平和もねがい開かれる 日本時間の八月六日に (8.6)

難民として参加するオリンピック 国旗を背負わぬ者の苦しみ (8.6)

一年は早いのかいや遅いのか義母の居ぬ夏ことしも暑い (8.12)

赤や黄の水着のようないでたちの女子ランナーを映すハイビジョン (8.12)

 国立科学博物館附属自然教育園へ夫婦で散歩 (8.13)
今年から「山の日」のある八月に夫と行く自然教育園
半日を夫と廻りて自然園 蝉のぬけがら三つを拾う

隣席の細くて若い女
(ひと)の食う あのステーキは三百グラムだ (8.13)

手をなでてゆっくり伝える「こんにちは」に病む母は笑む そんな気がする (8.13)

黄と緑の国旗の色に髪を染めジャマイカの選手銅メダルなり (8.14)

レスリングの四つもぎ取る金メダル大和撫子の根を見たり (8.19)

アメリカを抑えてメダル銀ひかる陸上男子ら四百米
(よんひゃく)を走る (8.20)

不機嫌な大気に迷う白雲と黒雲まざる空ながめおり (8.20)

台風に倒れる自転車おこすとき 濡れて重いよTシャツGパン (8.22)

午後二時を過ぎるといつも鳴る電話 お墓や宝石勧めてくれる (8.26)

「認知症予防」と聞けば反応す二人の母の病なるゆえ (8.27)

「雨ですよぉ〜」近所の声に走り出す 洗濯物が待つベランダへ (8.29)

両目あけじっと見つめる今日の母 大丈夫だねコーヒー飲めたし (8.29)

 大弛峠から国師ヶ岳と北奥千丈岳 (9.3)
青春の18きっぷを持ちつつも譲られ座るシルバーシート
2リットルの水の重さを知る仲間よろこび綴る山の味噌汁
ピカソでもゴッホでもない青の空 奥秩父にてゆるりと眺める

日に三本 汗ふきタオル取り替える ほんとの秋よ早く来い来い (9.5)

突然の大雨に濡れ Tシャツがラップのようにぴたり張りつく (9.8)

二十五年使うエアコンこわれたり太ってしまった息子の部屋の (9.10)

言の葉を忘れた母の手を握ること多くなり四年目の秋 (9.15)

「日が短くなってきたね」「ほんとにね」そんな会話をきょうは3回 (9.17)

たくさんの歌詠め読めと本はいう 相撲中継はじまったのに (9.18)

もういいといつかは言わん誕生会 十本のろうそくを消す孫は (9.19)

聞き分ける力弱まるわが耳は都合の善し悪し量っているらし (9.20)

大雨にワイパーすばやく反応し時速100キロ盾なる車 (9.22)

この世にはもういない人と思い知るちょっときついね墓参りって (9.22)

蒸し暑さもどりてけだるい月曜日 刑事ドラマをじっくりと観る (9.26)

ホームにてクリームパンを口に入れコーヒーを飲む通勤の女 (9.29)

もう一度甘きかおりに酔いたくて金木犀まで十二歩もどる (9.29)

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