佐知子の歌日記・第十六集
佐知子の歌日記・第二十集
平成29年7月〜9月
ためらいを見せつつ夫は二杯目のビールを注文す 昼のレストラン
百合花にアレルギーある孫が来る 窓を開ける花瓶を隠す
「から揚げはお好きですか」に「はい」と言う ほんとは「カラオケ」と云ったらしいが
食卓にノートや辞書を並べさぁ〜 デザートのような歌をつくらむ
「江下る戎克(じゃんく)に豚の仔裸の子」 兵卒でありし父の終戦句
二週間つづく雨の八月に値下げのTシャツ三枚を買う
10代の孫らの会話は意味不明 娘の通訳が頼りとなりぬ
見慣れてる建物だけど「老人いこいの家」にはじめて入る
赤とんぼ飯盛山の頂上にあまた飛び交う宴のように
台風に祭ばやしの聞けぬ午後 ゆっくり二度目の朝刊を読む
肌寒いこんな初秋の夕食はたっぷりきのこのクリームシチュー
看護婦に「きれいな赤ちゃん」と云われし孫は日焼けの野球少年
形よいワイングラスを手にとるも 値札に驚きそっともどす夫
生きのよい秋刀魚を食べたと登山中の夫にメールす おいしかったと
新盆の母の供養の親類ら三月の赤子を順々に抱く (7.2)

水しぶきが飛んできそうなプールわき 子らよはしゃげはしゃげよたくさん (7.3)

手・足・背にあまたのすり傷こしらえて夫が帰宅す女峰山より (7.6)

ためらいを見せつつ夫は二杯目のビールを注文す 昼のレストラン (7.11)

梅雨明けの宣言はまだないが首のあせもにわが夏を知る (7.11)

盆の膳考えなしに並べれば向きが違うと僧が正せり (7.13)

一日にTシャツ三枚取り替えてお取り寄せしたい山上の風 (7.13)

百合花にアレルギーある孫が来る 窓を開ける花瓶を隠す (7.14)

もう一つ眼の病気ふえ大声でどうにかなるさと言ってみたい (7.18)

となり家に垂れ下がりたる笹の葉は切るには惜しい緑なりけり (7.20)

「から揚げはお好きですか」に「はい」と言う  ほんとは「カラオケ」と云ったらしいが (7.21)

本堂に読経の声がひびくころ妣の化身の白蝶あらわる (7.22)

「鏡さん」正直すぎるのあなたって3キロ減に映してくれない? (7.25)

夫と吾が通う歯医者は釣りが好き 鯵三匹を届けてくれる (7.26)

釣りものの三尾の鯵の身は刺身 骨はダシきく吸い物となる (7.26)

景品は高級ティッシュ一箱なり グラウンドゴルフのホールインワン (7.29)

雲多く梅を干すにはためらいて天のご機嫌うかがい見あぐ (7.29)

弁当を作れど夫は出勤せず見落としたカレンダーの×印 (7.30)

チェーン店ばかりが目立つ駅前の商店街に残る煎餅屋 (8.3)

テレビにて世界中の猫と会い15分つづく夫のほほえみ (8.4)

隣人にフウセンカズラの種をあげ茗荷三つをもらう朝夕 (8.5)

迷走の台風5号を気にしつつ今日の晴れ間に梅を干したり (8.6)

食卓にノートや辞書を並べさぁ〜 デザートのような歌をつくらむ (8.7)

座る人の四人はスマホの山手線 二人は読書でいねむり一人 (8.9)

「山の日」は北アルプスに登らずにドローンが映す谷底を見る (8.11)

「江下る戎克
(じゃんく)に豚の仔裸の子」 兵卒でありし父の終戦句 (8.15)

鉛筆をまずは持たねばはじまらぬ今日の短歌と明日への短歌 (8.16)

二週間つづく雨の八月に値下げのTシャツ三枚を買う (8.16)

 夫婦で新宿御苑を散歩 (8.17)
葉の裏に蝉のぬけがら二つ付き 夫と手に取る新宿御苑
観光の外国人がいる御苑 スズカケ並木に蝉鳴きしきる
アスファルトの硬さに痛い足裏は やさしくなじむ土の道を恋う
「ライオン」のビールは旨いと大ジョッキ二杯飲み干すわが夫である

百合花を隠し忘れて鼻水が止まらずあわれアレルギーの孫 (8.18)

夫が作るベーコンエッグの塩胡椒 ちょっときついがだまって食べる (8.19)

水を張りボウルにできた氷割る ウィスキーに似合う山のかたちに (8.24)

二年前の賞味期限のネパールビール うまいと飲む夫舌が酔ってる (8.26)

結末はわかっているがまたも見る「刑事コロンボ」アイロンかけつつ (8.26)

カラスよけネットをひろげる朝六時 ゴミ当番の役目のひとつ (8.29)

雨多い八月でした汗かきの我に休めと言うがごとくに (8.31)

10代の孫らの会話は意味不明 娘の通訳が頼りとなりぬ (9.1)

雨あがりのこの青空を胸にだきララランランと図書館へゆく (9.2)

見慣れてる建物だけど「老人いこいの家」にはじめて入る (9.3)

 飯盛山・高原ハイキング (9.9)
レタス積む大型トラック通る横 コスモスゆれる野辺山の里
右左マツムシソウのむらさきに見とれて歩く飯盛山よ
赤とんぼ飯盛山の頂上にあまた飛び交う宴のように

台風に祭ばやしの聞けぬ午後 ゆっくり二度目の朝刊を読む (9.17)

肌寒いこんな初秋の夕食はたっぷりきのこのクリームシチュー (9.17)

娘よりリンドウの鉢をもらいぬ「今日は敬老の日だからね」って (9.18)

看護婦に「きれいな赤ちゃん」と云われし孫は日焼けの野球少年 (9.19)

ばたばたと過ぎた十日はなんだろう腰の痛みをほぐすつゆ草 (9.22)

形よいワイングラスを手にとるが値札に驚きそっともどす夫 (9.23)

人ごみの横浜駅に漂いて京急の文字見れば落ち着く (9.23)

生きのよい秋刀魚を食べたと登山中の夫にメールす おいしかったと (9.29)

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