佐知子の歌日記・第十六集
佐知子の歌日記・第十九集
平成29年4月〜6月
満開の日から二日が過ぎたのでニュースにならないきれいな桜
淡く濃く みどりみどりの山並に 桜がふあーんとほほえんでいる
棚山の芽吹きのあおにつつまれて君との時間
(とき)をゆっくり登る
赤ワインの一升瓶を買い求め 夫は手早くリュックに詰める
しゃれた名の「グランデュオ蒲田」 どうしても「蒲田駅ビル」と言ってしまう
腫れ引かぬわがアレルギーに夫は今朝インターネットの検索始む
焼きたてのメロンパン食むよろこびが胸焼けの後悔に変身す
母の日に来るかなと待つ午後三時 プレゼントを手に娘あらわる
大空をささえきれずに困ってる 降りだしそうな雨が重くて
言の葉がうかんでこないこの三日 われをゆさぶる午後の春雷
山の中 おとなしくいた仲間らは下山のビールをいっきに飲みほす
初咲きのピンクの紫陽花一輪を妣に供えて今日をはじめる
工事中のいつもの道をよけて行く一年ぶりの近所の小路
詠うぞと下心もちて紫陽花と雨を見つめて六分が過ぐ
貝殻をつぶし固めた大森のなつかしき路地を夫と歩めり
梅干を作りはじめて十三年 孫は髪長きおとめになりぬ
紅色はしだいにうすれ陽をあびたポインセチアは緑葉を出だす
白と黒二匹の猫が向かい合い手足を伸ばす とある日の暮れ
ボタン穴はちきれそうにシャツを着る弟の腹祖父をおもわせる (4.2)

タヌキだと言うがライオンと本音を言ってしまった夫のクラフト (4.3)

二時間の宴会の間につぎつぎと桜いで来る飛鳥山公園 (4.5)

さみどりのもみじをそっときりそろえ一輪挿しに夫は飾りぬ (4.8)

四十歳のわが娘をば二十八歳と個人情報を知らぬ者が言う (4.8)

サザヱさんの絵柄の缶の飴をなめ いっときゆるむ口元である (4.9)

白花のフリージア淡く香りおり八丈島ゆ春をいただく (4.11)

満開の日から二日が過ぎたのでニュースにならないきれいな桜 (4.12)

診察に泣く幼子の声やみて待合室へとはずむ足音 (4.14)

何万字書いたら役目終えるのか鉛筆一本ながさの限界 (4.14)

散る桜両手ですくいふうーと吹き公園せましと母子はめぐる (4.15)

幾度も消しては書いて考える三十一文字手ごわいね・・・ったく (4.19)

掘りたてを送ってくれし義母はなく二つ買いたり八百屋のたけのこ (4.20)

 
棚山ハイキング (4.22)
淡く濃く みどりみどりの山並に 桜がふあーんとほほえんでいる
棚山の芽吹きのあおにつつまれて君との時間
(とき)をゆっくり登る
山梨の盆地や山を見渡して長湯になりぬ「ほったらかし温泉」
赤ワインの一升瓶を買い求め 夫は手早くリュックに詰める
新宿が近くになるとたまらずに目薬をさすドライアイの夫

これ以上太らないよう息子には小ぶりのごはん茶碗を買いたり (4.23)

両岸に鯉のぼり数多つるされて泳ぐ鯉などいない呑川 (4.27)

しゃれた名をつけられているがどうしても「蒲田駅ビル」と言ってしまう (4.27)
しゃれた名の「グランデュオ蒲田」 どうしても「蒲田駅ビル」と言ってしまう

遠回りだけど「この路地とおるのよ」と花をめでつつ老人は云う (4.28)

元の顔思い出せぬと夫は言うアレルギーにまだらのわれを (4.30)

プランターの真っ赤ないちご一粒をもいで寝起きの夫にさしだす (5.2)

アレルギーのわが頬見つめ友の目はだんだんだんだん大きくなりぬ (5.4)

腫れ引かぬわがアレルギーに夫は今朝インターネットの検索始む (5.5)

連休の渋滞伝えるレポーター ヘリコプターから声は弾んで (5.5)

焼きたてのメロンパン食むよろこびが後悔の胸やけに変身す (5.7)

なすのトゲすばやくわれの指を刺すラップの刃より二倍の痛み (5.8)

月齢にあわせて藍を育てると染色家は云う現代の世に (5.8)

孫らにとアイスクリームを買い置くが今日の暑さに食べてしまいぬ (5.11)

ワイシャツのアイロンかけを本日の仕事納めとしたいのですが (5.11)

六四で今のところは夫に勝つ 人の名速く思い出すゲーム (5.12)

母の日に来るかなと待つ午後三時プレゼント手に娘あらわる (5.14)

大空をささえきれずに困ってる 降りだしそうな雨が重くて (5.15)

言の葉がうかんでこないこの三日 われをゆさぶる午後の春雷 (5.18)

春雷におびえるごとく屈む草 雨あがりにはいきいきと立つ (5.19)

 湯ノ沢峠から大蔵高丸〜ハマイバ丸 (5.20)
タクシーを使い標高かせぎおり大名登山のわが「山歩会」
「こんな緑があるんだね」と驚く 山道すべて新緑に染まる
山の中 おとなしくいた仲間らは下山のビールをいっきに飲みほす

夕化粧という名をもつ草の花 ちいさなピンクを朝に咲かせる (5.21)

「本当にいい子たちだ」と夫は言い晩酌すすむ五月の夕べ (5.21)

飛ぶハエをこわいと言って足早にトイレへ逃げる孫は十四歳 (5.23)

 孫の運動会 (5.27)
小規模な小学校ゆえプログラムどんどん進む大運動会
騎馬戦に手ばやい動きの少年は敵のしるしを三枚もぎとる
日差し濃い児童の席はそのままに見物人は木陰へ移る

初咲きのピンクの紫陽花一輪を妣に供えて今日をはじめる (5.29)

三枚の鎮痛薬を夫に貼る 半年ぶりのキックリ腰に (5.30)
酒飲めど痛みは消えぬ午後八時 夫はそろりと寝室へ行く (5.30)

フェンス越しに眺めるばかりの隣家の白い十字のドクダミの花 (6.2)

寝不足の重い目蓋がたれ下がり鏡を見ずに半日過ごす (6.4)

工事中のいつもの道をよけて行く一年ぶりの近所の小路 (6.7)

西部劇の酒場のシーンに「うまそう」と夫は昼からウィスキーを呑む (6.7)

ストロベリームーンとう赤い月雲に隠れて水無月九日 (6.9)

ためらわず目玉二つの卵焼く息子をうらやむわれの貧乏性 (6.11)

一人居るこの静けさを楽しまん我のものなりあと二時間は (6.13)

詠うぞと下心もちて紫陽花と雨を見つめて六分が過ぐ (6.13)

大き目の腸のポリープあったよと人間ドック終えた夫が言う (6.14)

ひと月は七味ニンニク避ける卓ほんとは酒もあっカレーもね (6.15)

叩いても直るわけなく家電品の取扱説明書めくる (6.16)

梅仕事段取り八分といいきかせ 瓶・笊・重しをしっかり洗う (6.17)

雨の中自転車こいで父の日に娘の笑顔とワインが届く (6.18)

貝殻をつぶし固めた大森のなつかしき路地を夫と歩めり (6.20)

梅干を作りはじめて十三年 孫は髪長きおとめになりぬ (6.24)

若駒はどこまで走るや新記録二十九連勝の藤井四段よ (6.26)

紅色はしだいにうすれ陽をあびたポインセチアは緑葉を出だす (6.28)

白と黒二匹の猫が向かい合い手足を伸ばす とある日の暮れ (6.29)

心栄え良き友ふたりそれぞれの重い病を静かに語る (6.30)

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