佐知子の歌日記・第十六集
佐知子の歌日記・第十八集
平成29年1月〜3月
元旦に「電気ブラン」とう強き酒に酔って寿ぐわがファミリーよ
お節はもう十分なのでポトフーをじっくり煮込む正月五日
寒に入りハエが手をすり日向ぼこ プランターの隅風やわらかく
土曜日の患者がたった三人の待合室はなんだか不安
舟盛りの鯛や平目がピクピクとこちら見てるが 我らは食べる
炊飯器のタイマーをセットし忘れて朝をむかえたり母亡き翌日
二七日
(ふたなぬか)過ぎて天空に浮かびくる母の丸顔すずめに似てる
カキフライ六個はちょっともたれるねなんて私は言ったりしない
マスクする女に会釈をしたけれど人違いだと気づく二分後
山彦や波音のするわが耳は二年前からアウト・ドアー派
孫からの「ありがとメール」を待っている夫落ち着かぬ夜 ホワイトデー
高層のビルに囲まれ背の伸びぬ東京タワーは還暦ちかい
団塊の「塊」が書けずにベビーブーマー世代と記すアンケート用紙
鉛筆を持ちて思いをめぐらせる チョコレートよりも小雨降る午後
元旦に「電気ブラン」とう強き酒に酔って寿ぐわがファミリーよ (1.1)

ゆがみつつ食いしばりたる白き歯の男子に見とれる箱根駅伝 (1.3)

 
読売歌壇選者の歌を読んで (平成29年1月3日・読売新聞)
 九十(ここのそじ)三つの翁が謡うなり。沖の小島に 声とほりゆけ (「海に謡う」より・岡野弘彦)

→ 小島にてその謡
(うた)きいて楽しまん 九十(ここのそじ)三つの岡野弘彦の
 遠ざかりゆかむくるまを呼びとめてあつあつの芋いつぽん買ふも (「石焼き芋」より・小池光)
→ 買ってきた小池光の手の中の石焼き芋のいっぽんのあつあつ
 マフラーをはづし冷気に首筋をさらして歩む天満宮まで (「天満宮まで」より・栗木京子)
→ 首筋を冷気にさらす栗木京子 われはマフラーはずさず祈る
 シャンパンを飲んだところで目覚めれば何かいいことありそうな今日 (「酉年の父」より・俵万智)
→ シャンパンを飲んで目覚める俵万智 追われるばかりのわれの初夢

2秒間に200ccは流れてるアニメ画面の悪者の涙 (1.3)

明日には九十二になる病む母へ派手目の柄のブラウス贈る (1.4)

お節はもう十分なのでポトフーをじっくり煮込む正月五日 (1.6)

試にと脳トレゲームのスマホ繰る反応にぶい暗算できない (1.6)

寒に入りハエが手をすり日向ぼこプランターの隅風やわらかく (1.7)

振袖をぬらしたくない新成人 車より見上げる大きな雨滴 (1.9)

 鎌倉の衣張山(きぬばりやま) (1.13)
行き帰り電車の遅延にあう今日は13日の金曜ゆえか
雲かかり富士は見えぬが鎌倉の海を望めり衣張山頂
鯵寿司や鳩サブレーを買い求め娘一家を待つ午後六時

土曜日の患者がたった三人の待合室はなんだか不安 (1.14)

 全国都道府県対抗女子駅伝(京都市)をテレビで観戦
つぎつぎと雪が額につもりけり都大路の駅伝女子に (1.15)

大森の洋食屋にてなつかしき海苔の佃煮小鉢に盛られ (1.17)

声をかけ手を握りてもただ眠る母はゆめにて誰と語らん (1.18)

山手線の席につくなり若い女 雑穀米のおにぎりを食う (1.21)

大鍋のカレーは二日で食べ終わり またしても増す後悔の辛味 (1.22)

 新潟県へバスツアー
バスの中「ワァー」とう声がわきあがる冬の越後をおおう白雪 (1.24)

 
真鶴半島の灯明山(魚つき保安林) (1.28)
岩につく海苔や貝殻むしりとり童女に帰る真鶴の磯
「魚つき林」とう半島をめぐり行く二時間半の新年山行
舟盛りの鯛や平目がピクピクとこちら見てるが我らは食べる

炊飯器のタイマーをセットし忘れて朝をむかえり母亡き翌日 (1.30)

親なし子となりて三日目 朝食はいつものように味噌汁つくる (1.31)

リビングの芳香剤を詰め替える いっとき森に遊んだような (2.1)

年毎にその声小さくなってゆく「鬼は外!」言う十歳孫の (2.3)

あの世から母は招かれ旅立てり いちめんに澄む今日の青空 (2.7)

「うっそー」と驚く孫はギター弾く夫の指先見つめていたり (2.10)

二七日
(ふたなぬか)過ぎて天空に浮かびくる母の丸顔すずめに似てる (2.14)

 
飯能アルプス (2.16)
杉林は赤茶色して出番待つ こわごわ歩く花粉症の夫
山肌は大きくえぐられ奥武蔵のいのちを積み込むダンプカー
「ほら見て」と車内アナウスしようかな夕焼けを背に黒い富士山

たえまなく来る高波に水鳥は春一番を感じたろうか (2.17)

さ緑の葉に囲まれて雪柳 きょうから白い小花を咲かす (2.20)

クロッカス黄色に咲けり春はもう来ているよってささやきながら (2.20)

カキフライ六個はちょっともたれるねなんて私は言ったりしない (2.22)

マスクする女に会釈をしたけれど人違いだと気づく二分後 (2.24)

 
原因不明の腹痛に苦しむ
セーターやフリース脱いで汗を拭く腹痛にもがく真昼のトイレ (2.26)
腹痛のわれの横にてユーチューブの「きみまろ」に笑う夫たるものが (2.26)
痛い腹さすりつつ行く病院の待合室に幼子も泣く (2.27)
おかゆ食うわが三日目の体重計一キロ半の減を示せり (3.1)

おでんなら食べられるよと大根を二つずつ食う孫らでありぬ (3.3)

帰宅した息子が居間に来るとすぐ花粉症の夫くしゃみを三回 (3.3)

仏壇にデンファレの赤は似合わない着物にコサージュつけてるようで (3.5)

山彦や波音のするわが耳は二年前からアウト・ドアー派 (3.5)

防犯のキャンペーンか自転車の前かごカバーを警察に受く (3.7)

生まれてから暮らし続けた大森の土になりたり七七日の母 (3.12)

九十二歳
(くじゅうに)の往生なれば梅の咲く四十九日の膳はにぎやか (3.12)

霧雨を夫と二人で墓参り父の命日よく雨が降る (3.14)

孫からの「ありがとメール」を待っている夫落ち着かぬ夜 ホワイトデー (3.14)

落葉掃き 優しくあった母親の墓石をみがく一人っ子の夫 (3.17)

雪かむる男体山が六月にはコイワカガミのピンクをはおる (3.17)

高層のビルに囲まれ背の伸びぬ東京タワーは還暦ちかい (3.17)

夕方の五時のチャイムに外見ればまだまだ明るい彼岸中日 (3.20)

団塊の「塊」が書けずにベビーブーマー世代と記すアンケート用紙 (3.20)

少しずつ木々の緑がふえてくる小雨がうれしい春のおみやげ (3.21)

 ミツバ岳から権現山(西丹沢) (3.24)
急坂をあえいで登るミツバ岳ご褒美に咲くミツマタの黄色
富士の嶺片翼白くそそり立ち五分ののちは雲にかくれる
平日の日帰り温泉ゆっくりと語り合いつつ温まってゆく

客人らの話題の主は病なり歳かさねれば二つ三つはある (3.25)

鉛筆を持ちて思いをめぐらせる チョコレートよりも小雨降る午後 (3.26)

焼きたてのフランスパンをかみしめて硬さに耐えている歯なり まだ (3.28)

プランター五鉢に並ぶさくら草をきれいと言って見つめる老人 (3.29)

一分咲きの桜にむかいほほえんで柳のあおがゆうらりゆらり (3.30)

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