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No.172 烏場山(からすばやま・265m)
平成17年(2005年)1月4日 曇り マイカー利用

烏場山・略図
振り返って眺めた烏場山
烏場山265m

照葉樹の森へ入る・・・
花嫁街道の登山口

迫力の純林です
マテバシイ林

展望も楽しめる烏場山の山頂
烏場山の山頂

大きなタブノキの木の下で
最後の見晴台


目と足にやさしい「新日本百名山」

《マイカー利用》 …東京湾アクアライン…木更津…和田…花嫁街道入口〜第一展望台〜第二展望台〜マテバシイ林〜経文石〜じがい水〜駒返し〜カヤ場(見晴台)〜烏場山265m〜旧烏場展望台〜見晴台〜金比羅山121m〜黒滝〜はなその広場〜花嫁街道入口… 【歩行時間: 3時間10分】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


 外房の烏場山は、昨年10月5日付けの朝日新聞で発表された岩崎元郎さんの「新日本百名山」で一躍脚光を浴びてしまった山です。東京都大田区の自宅からはアクアラインを利用すれば比較的近いこともあり、「どんな山かな?」 といった興味もありで、ちょっとミーハーですが、正月ボケの身体にカツを入れて歩いてきました。夫婦二人の、今回も静かな山行でした。

 未明の6時20分にマイカーで自宅をスタート。東京湾アクアラインの海ホタルで夜明けの景色を楽しんでから木更津を抜け、国道409号線→410号線と内陸コースの近道を進み、外房を走る128号線に出て北上。内房線和田浦駅の近くを通り越してから左折。沿道にスイセンの咲く、車1台がやっと通れる細い道路を1Kmも進むと烏場山の南側の登山口(花嫁街道入口・いちはら橋)に着く。車が入ることができるのはここまでで、トイレはあるけれど駐車スペースは殆どない。先着の1台と私達のブルーバードでほぼ満車状態だ。後で分かったことだが、マイカー登山の場合は、もう少し手前の「歩こう会駐車場」や「うな陣の駐車場」を利用(無料)するのが正解だったらしい。
 花嫁街道(*)に足を踏み入れたのは午前8時20分頃だった。丸太の階段を暫らく登ると、なだらかで歩きやすい山道が続く。所々スギの植林地帯も交じるが、このコースの殆どはスダジイ、マテバシイ、タブノキ、クスノキ、ヤブツバキ、ユズリハなどの照葉樹(常緑広葉樹)の自然林だ。明るく開けた場所にはエノキ、イロハモミジ、ヤマザクラ、カラスザンショウ、クヌギ、ハゼノキ等の落葉樹も顔を出す。「もののけ姫」の世界、とまではいかないまでも、そこそこの「深さ」はあるようだ。関東以西の極相林である照葉樹の自然林は、現在では案外貴重な存在だという。低山ながらこの山域、侮れないぞ、と思った。林床のアオキやトベラやヤツデなどの、艶のある緑葉が輝いている。野生状態のシュロも大きくて美しい。足元の脆い岩質は砂岩とか泥岩の類かな。
 それほど展望の望めない第一展望台、第二展望台を過ぎた辺りのマテバシイ(当地ではトウジイと呼ぶ)の純林が特に見事だった。このマテバシイの果実(大きなドングリ)はそのままでも食べられるので、救荒食としても古くから本州各地の沿岸部などに植栽されたらしい。このために本来の分布地域ははっきりせず、多分、九州とか沖縄が本来の分布域ではないかと推定されているらしい。再生力の強い木で街路樹にもたくさん利用されている。純群落を形成しやすいとのことだが、葉が大きくて厚く、おまけに葉量が多いために純林内は非常に暗く、ほとんど林床にその他の植物が生育していない。もしかしてマテバシイって、森の嫌われ者…?

* 補足: 千葉県のサイトなどによると、この地のマテバシイは、その枝を海苔の養殖に使う“ヒビ”に利用したらしい。もちろん薪炭材としても利用されていた筈だし、その実(ドングリ)は救荒食として…。う〜ん、その効率の良い樹種選択に、昔の人の知恵は凄かったんだなぁ、と改めて感心する。[後日追記]

 経文石(*)や自我井水(* じがい水)といった謂れ因縁のありそうな箇所を通り過ぎ、「駒返し」で道標に従って右折する。南面が大きく開けた見晴台(カヤ場)も通り過ぎ、北面も見渡せる第三展望台のベンチでウン回目の中休止。それから少し登って、烏場山の山頂に着いたのは午前10時40分だった。
 静かで狭い山頂には、木製の簡易ベンチと、可愛らしく首を傾げた花嫁さんの小さな石像が置かれてあった。周辺にはサワラの若木、ヤマザクラ、コナラ等の木々が生えているのだけれど、その間隔が広いので、隙間からの展望は殆ど360度だ。北面は低い山並みが限りなく続く房総独特の風景で、伊予ヶ岳337m、愛宕山408m、清澄山377mなどがよく見えている。南面を見下ろすと和田(*)の街並みがチラッと見えていて、その向こうには太平洋が光っている。薄曇りで富士山や伊豆大島などの遠望を得ることができなかったのが残念と云えば残念だ。可笑しかったのは、山頂標識の下部に「新日本百名山」と書かれた真新しい木板が打ち付けられてあったことだ。 「早速やったわね。それにしても意外と控えめね」 と佐知子が云っている。
 そんなこんなで、景色を眺めながら早めのお弁当。この日は風の強い日で、山頂は少し寒かったけれど、至福のひとときだった。
 なだらかにアップダウンを繰り返しながら花婿コースを下る。旧烏場山展望台236mを過ぎ、根元から何本もの幹が出ているタブノキの巨木がある見晴台171mで一休み。ここが最後の見晴台だ。南面の山々や海を眺めたりして、名残りは尽きない。
 金比羅山121mから木段を下り、向西坊入定岩窟跡(*)の祠に手を合わせ、長者川の沢底に立ち黒滝(落差約15m)を間近に見物する。沢沿いの整備された道(いい感じだ)を進むと、ヒョッコリと「はなその広場」へ出た。ツバキ(寒椿?)の赤い花がたくさん咲いている。そこから尚7〜8分歩いて、花嫁街道入口へ戻り着いたのは午後1時頃だった。ちょっと歩き足りない気がした。

 帰路の車中での会話。 「(神奈川県の)三浦アルプスと比べて、どう思う?」 と私が訊いたら、佐知子は 「ウーン…」 と唸ったまま返事をしなかった。 「烏場山のマテバシイの純林はとても良かったよ。展望も山の深さも烏場山のほうが上だと思う。やっぱり三浦アルプスは少し負けているかもしれない…」 と私がたたみかけたら、「照葉樹林(自然林)に関しては殆ど同じレベルかしら。海の景色が見えるというのも同じね。はっきりと烏場山が勝っているのは、その標高が50〜60メートル高いということくらいかしら」 と佐知子が答えた。それから私達は随分と長いこと烏場山と三浦アルプスのことについて話し合ったが、とうとうその優劣については結論が出なかった。ただ、私達夫婦に共通した思いはあった。…新日本百名山と比較の対象になるなんて、ただそれだけでも、私達のとっておきの里山[三浦アルプス]は、やっぱりスゴイ山域なんだ…。


小さくて可愛い石像でした
山頂の花嫁石像

岩に枯木がまとわりついてます
経文石

滝の落差は15m
黒滝

*** 補足説明 ***

* 花嫁街道の由来: 私達が歩いた往路の山道は、かつての和田町の山間集落(上三原部落・五十蔵部落)と海辺の集落との交流の道で、花嫁行列もここを通っていたという。それを昭和58年に地元の「和田浦歩こう会」がハイキングコースとして整備し、昔とは多少道すじは違うらしいが、花嫁街道と名づけたらしい。花嫁街道、なんて、なんてロマンチックなネーミングだろう。

* 経文石: 今は風化して読み取れないが、梵字(ぼんじ)がきざまれていたという。

* じがい水(自我井水): 山中の隠し田の水利、水源に使われたとも言われる。

* 向西坊入定岩窟: 黒滝の脇にある岩窟。赤穂浪士の一人片岡源五右衛門高房の下僕であった元助(向西坊)が、断食をし念仏を唱えながら自ら入定した場所、とのことだ。

* 和田町について: 童謡「浜千鳥」ゆかりの地。温暖な気候に恵まれた房総半島の南東部に位置する。日本に4カ所しかない(関東唯一の)捕鯨基地(小型沿岸捕鯨基地)のひとつでもあるという。花摘みが楽しめる観光地としても有名だ。和田浦海水浴場は「日本の水浴場88選」に選ばれている。磯釣りや堤防釣りを趣味としていた私が、(十数年前まで)盛んに訪れた地でもあります。

* コースについて(補足): 今回私達が歩いたハイキングコースは、往路に花嫁街道、復路は花婿コースというなだらかなアップダウンの周遊コースで、烏場山登山の代表的なコースです。コース上のあちこちに木製の階段やベンチ、標識などが設置されています。北側(五十蔵)にも2箇所ほど登山口があって、こちらの方が距離は短かいのですが、交通がやや不便のようです。それに何といっても、あのマテバシイの美林を通過することができません。
 電車を利用する場合はJR内房線の和田浦駅から歩くことになりますが、この場合の総歩行距離は13.5Kmで、歩行時間にして4時間強です。ちなみに、私達が歩いた登山口(花嫁街道入口)起点の総歩行距離は約9Km弱です。
 国道128号線沿い・和田町の花の公園広場「花夢花夢(かむかむ)」の花の売店で、詳細なコースマップを無料配布していました。ここが「和田浦歩こう会」のビジターセンターにもなっているのです。なお、和田浦駅前にも案内所があるとのことです。この日、花の公園広場にはポピーが一面に咲いていました。
 何れにしてもこの烏場山は、特に中高年にお勧めの、目と足にやさしい山です。

本欄は「和田浦歩こう会」発行のチラシ等を参考にして記述しました。

* マテバシイについては、高塚山のページも参照してみてください。




烏場山の美しい照葉樹林
当地ではトウジイと呼ばれています
マテバシイの純林
極相林です
タブノキやスダジイの林
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