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No.230 大山三峰山935m(丹沢)
平成19年(2007年)10月15日 曇り

大山三峰山 略図
アブラチャン:クスノキ科の落葉小高木。幹が群立つ。
アブラチャンの林

稜線の崩落で根が露出してしまったアカマツ。
風前の灯なマツ

左右が鋭く落ち込んでいる
痩せ尾根にて

岩沙参:キキョウ科ツリガネニンジン属の多年草
イワシャジン

山頂は近い!
クサリ場

狭くて静かな山頂でした
三峰山の山頂


起伏の変化と痩せ尾根の緊張感!

小田急線本厚木駅-《バス35分》-煤ケ谷〜物見峠〜三峰山(北峰・中峰・南峰)〜不動尻〜広沢寺温泉-《バス40分》-本厚木駅
 【歩行時間: 5時間40分】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


 丹沢山塊に三峰を名乗る山は2座ある。一つは丹沢山から北東にのびる尾根にある三ツ峰1360mで、もう一つが大山の北東に位置する三峰山935mだ。混同されないようにそれぞれ「丹沢三ツ峰」・「大山三峰山」と呼び分けているようだ。私達夫婦が前々から登ってみたいと思っていたのは大山三峰山のほうで、その理由は、背が低く展望にも恵まれないコースだけれど、けっして侮ることのできない“小粒の山椒”的な存在の山であるらしいからだ。朝晩はめっきり冷え込むようになってきた秋の良い日に、来週の「山歩会」の下見も兼ねて、私達はわくわくしながらいそいそと出かけた。

 本厚木駅北口の5番線バス乗場から約30分で煤ケ谷(すすがや)バス停に着いた。準備運動もそこそこに、歩き始めたのは午前9時15分頃だった。谷太郎林道へ入り、右手の正住禅寺の門前を通過して暫らく、道標に従って右折して登山道へ進む。あちこちに「ヤマビルに注意!」の看板が出ていて、親切にも“塩”が用意されている。当地(清川村)の善意に深く感謝しながら、鹿柵をくぐり、スギの植林地帯をひたすら登る。
 ドングリがたくさん落ちていたのでふと辺りを見回すと、何時の間にか明るい天然林(雑木林)になっていて、木々の間から北の方向に丹沢前衛の山々(仏果山や経ヶ岳など)が見え隠れしている。今回の私の山行メモには 「…コナラ、イヌシデ、イタヤカエデ、ホオ、ヤマザクラ、クリ、フサザクラ、ツリバナ、オオカメノキ、オニシバリ、クロモジ、ミズキ、ヤマハンノキ、ヤシャブシ、アラカシ、シラカシ、アセビ、モミ、ツガ、クロマツ、アカマツ、ミズナラ、イヌブナ、アブラチャン、リョウブ、ヤマボウシ、ミツバツツジ、マユミ、ヤマウコギ、ダンコウバイ、イヌザンショウ…」 と書いてある。この山域は冷温帯林(ナラなどの落葉広葉樹林)と暖温帯林(カシなどの照葉樹林)がせめぎあっているけれど、わずかに冷温帯の樹種のほうが優勢であるようだ。→最近の私の“山行メモ”は、このように樹種名だけのことが多いのです。(^_^;)
 金網が剥がれてしまっている二つ目の鹿柵を過ぎて暫く進むと分岐へ出る。右手は物見峠経由で左手は三峰山へのショートカットコースだ。私達は“物見…”の語意に期待をもって右手のトラバース道へ進んだ。しかしさて、物見とは名ばかりで(樹林に囲まれて)殆ど展望のない峠だった。
 その物見峠を左折して、主尾根に沿って南進する。辺りの林床にはマツカゼソウが群生している。ミカン科としては唯一の草本であるらしい。微かに白い花をつけて、(アジアンタムのような)清らかな緑の葉っぱが風に揺れている。その様はまさに「ワビ・サビ」の世界だ。柑橘系の葉の香りのせいか、シカが食べないのが幸いして丹沢には多いらしい。
 ショートカットコースとの合流点にあるベンチでホッとひといき、ついでに昼食の大休止。西側の木々の隙間から丹沢山や円山木ノ頭や丹沢三ツ峰などの大きな稜線の輪郭が、曇天の薄霧の中に浮かび上がる。頭上にはヤマボウシの赤い実が美味しそうに生っている。
 昼食後、痩せ尾根を更に南進する。徐々にアップダウンがきつくなってきて、いよいよこのコースの真骨頂、クサリ場が随所に現れる。しかし、私達は拍子抜けするほど、それほどの恐怖は感じなかった。樹木にさえぎられて視界が開けていない(高度差を認識できない)のもその理由だが、なんと云っても足場がしっかりとしていることの安心感が大きかった。嬉しかったのは、こんな痩せ尾根の急峻な道筋に可憐なシロヨメナが間断なく咲いていてくれたことだった。
 そしてもっと嬉しかったのは、この稜線上で前々から是非見てみたいと思っていた、青紫色の可憐な鐘花をつけたイワシャジンに出遭っていたことだった。それはじつは帰宅してから撮っておいた写真を調べてみて分かったことで、なんとも冴えない話なのだが、私達は、私達のロマンのひとつが成就されたことで感動だった。気になったのは、そのイワシャジンが咲いていたのは急峻な崖っぷちなどの人が容易に近づくことのできない処に殆ど限られていた、ということだ。「日本の野草(山渓)」によると“中部地方から関東地方の山地の湿った岩石の間などに生える多年草”とあるけれど、そういう場所は登山道沿いには他にたくさんあったと思う。ここでも“盗掘=人間”の怖い影を見たような気がした。
 この三峰山には、その名の通り三つのピークがあるが、小さなピークも含めると(多分)その倍以上はあると思われる。山頂標識と三等三角点があるのは中央峰(中峰)で、北峰と南峰にはなんの標識もない。中峰の狭い山頂で休憩しているときに、それではさっきのピークが北峰でこれから登り返すのが南峰か、と分かったくらいである。でもそれはそれでとても良いと思う。不必要な標板でごちゃごちゃに飾り付けられた下品なピークよりはずっとマシだと思う。
 清流を見ながらの沢沿いの下山道もとても良かった。シーズンオフで閑散とした不動尻キャンプ場からは車道(二ノ足林道)をだらだらと下るのだが、長い「山ノ神トンネル」を通過するとき、出口が明るく見えるだけで足元は真っ暗だった。強引にそのまま歩いてしまったけれど、懐中電灯を使ったほうが良かったかもしれない。沿道にはカワミドリ(シソ科)が咲いていた。
 午後4時半頃、その長いトンネルを抜けて暫く進んだ処で軽トラックに声をかけられた。1キロ足らずの距離だったが好意に甘えて広沢寺温泉まで荷台に載せてもらう。今回山行で唯一出合った人と車だ。それほど静かな、今回の山旅だった。心配していたヤマビルについては、肌寒いこの日の陽気もあってか全く姿を見せなかった。ヤマビルもそろそろオフシーズンに入ったようだ。


今回の参加者は15名でした
三峰山の山頂にて
* 平成19年10月21日(快晴): 上述の(下見の)一週間後に、同コースを「山歩会」のみなさんといっしょに歩きました。この日はお天気にも恵まれ、西側の丹沢山方面の山並が木々の隙間からくっきりと見えていました。痩せ尾根や不動尻へ下る急坂など、変化に富んだテクニカルコースですが、全員元気に声を掛け合いながら歩き通し、充実した山歩きを満喫しました。
 ほのかな甘みのアケビの実が稜線上の何箇所かで生っていましたので、ちょっと食べました。ふるさとの味、とでも云うのでしょうか。メンバーの多くの方が昔話をしながら、種をぷッぷッと吐きながら、優しい笑みでそれを食していました。
 予約をしておいた下山地の広沢寺温泉で入浴と食事(蕎麦)を楽しんでから家路につきました。その(食事付きの)日帰り入浴2時間コースは一人2,500円で、甘露甘露の大団円でした。

トトロの猫バス?: じつは、広沢寺温泉前から出発する本厚木駅行きの土・日のバスは、15時10分以降は19時5分発の最終便しかないのです。15分ほど歩けば便の良い広沢寺温泉入口バス停までは行けるのですが…。
 その広沢寺温泉前からの最終バスに私たちは乗りました。10月の夜7時頃ですから、辺りはもう真っ暗です。車内灯を点けてひっそりと停車していた小型のバスは、まるでトトロの「ねこバス」のように見えました。私たちは行きと同じようにワクワクして、そのバスに乗りました。


広沢寺温泉「玉翠楼」: No.35日向山 を参照してください。



大山三峰山で出会った草花と昆虫
岩沙参:キキョウ科ツリガネニンジン属の多年草
イワシャジン[Adenophora takedae] 
明治時代に武田久吉博士が丹沢で発見

松風草:ミカン科の多年草
マツカゼソウ
葉を揉むと柑橘系の香り
白嫁菜:キク科の多年草 
シロヨメナ
ノコンギクなどの仲間です
大雪隠黄金虫:ウンチコガネと云う人もいます
オオセンチコガネ
(美しい)フンコロガシです…

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