「私達の山旅日記」ホームへ

No.276 二子山1166m(北秩父)
平成22年(2010年)6月25日 薄晴れ マイカー利用

二子山 略図
左が西岳で右が東岳
R299から二子山

道標はしっかりしている
股峠(またとうげ)

石灰岩の稜線
東岳へ向かう

黄花紅輪花:石灰岩の山に咲く稀少な多年草
キバナコウリンカ

北側はイワシモツケや潅木化したミズナラなどの樹林
東岳の頂上

切り立った岩峰
東岳から西岳を望む

ここにもシモツケソウとイワシモツケが咲いていた
西岳の頂上

石灰岩採掘でテーブル状になった叶山
てっぺんハゲの叶山

ホールドとスタンスはしっかりしている
最後のクサリ場

下山道から振り返って仰ぐ二子山が大きい
魚尾道峠から二子山


稀少植物の咲く展望と緊張の岩稜

《マイカー利用》 …関越自動車道・花園I.C-《車65分》-坂本登山口〜股峠〜二子山東岳〜股峠〜二子山西岳(東峰・中央峰・西峰)〜魚尾道峠〜国道299号線・下山口(魚尾道登山口)〜坂本登山口-《車30分》-「バイクの森おがの・般若の湯」(入浴)-《車50分》-花園I.C… 【歩行時間: 4時間50分】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


  「日本山名事典(三省堂)」によると、埼玉県の秩父地方(秩父郡+秩父市)には3座の二子山(ふたごやま)がある。 そのうちで最も標高が高いのは、両神山から南東へ直線距離にして約2.5kmの稜線上に聳える二子山1370m(別名・辺見ヶ岳)だ。 しかし残念なことに、この山は地味で知名度も低く、おまけに一般登山道も無いヤブ山であるらしい。 武川岳の峰続きにあり、武甲山の東側に位置する二子山883m(別名・物見平)は、山域としては奥武蔵に属する。 背は低いがけっこう目立つ双耳峰で、かつて私達夫婦も登ったことがあるハイキングによい山だ。 そして今回ご紹介するのが、両神山の北側に河原沢川の流れる大きな谷を隔てて聳える二子山1166m(別名・西岳)だ。 にょきにょきとした石灰岩の岩峰なので、この近辺(特に国道299号線沿い)では非常に目立つ存在でもある。 見た目の容量やたくましさについてはこの二子山が群を抜いていて、流石に「日本の山岳標高一覧1003山(国土地理院)」や「日本の山1000(山と渓谷社)」や「関東百(名)山(実業之日本社・山と渓谷社)」などに選ばれているだけのことはあると思う。 埼玉と群馬の県境に位置していることもあり、ガイドブックなどの山域分けでは「西上州の山」としているものも多い。 本サイトでは、私達が秩父側からアプローチしたこともあり、その山域を「北秩父」とした。
  両神山登山の際に初めてこの二子山を意識して以来、私達夫婦は何時か必ず登ってやろうと目論んでいた。 問題は“岩場の恐怖”で、妻の佐知子が苦手とする“クサリ場が連続する”というその岩稜歩きだった…。

  テレビで未明のワールドカップ(日本・デンマーク戦)を見終わってから、いつものメンバー(妻と二人)で気分よく出掛けた。 気分のいいときは眠くはならないもので、車の運転も苦にならない。 それにしても日本はよくぞ決勝トーナメント(ベスト16)へ進んだものだ。
  カーナビのアナウンスに従って関越自動車道・花園インターから秩父方面へ西進し、やがて国道299号線をひた走る。 坂本の民宿登人(のぼりと)の先を右折して林道・西秩父線へ入ってすぐ、登山口近くの駐車スペースに車を止める。 地形図の等高線を読むと、ここの標高はすでに約620m。 簡易トイレ(バイオとのこと)などもあるこじんまりとして清楚な空間だ。
  じつはこの林道をさらに進むと北側にもうひとつの登山口(藤倉登山口)があって、コースタイムはかなり短縮されるらしい。 しかしそれじゃぁ登山としてのボリュームが少なすぎるだろう、ということで、軟弱で根性無しの私達としては珍しく、堂々と“表玄関”から入山することにしたのだ。 登山口に設置してある登山者数の調査カウンターを2回(二人分)押してから、歩き始めたのは午前8時50分頃。 きょうは梅雨の中休みらしく、天候についての心配はなさそうだ。
  薄暗いスギの植林地帯を仁平沢に沿って進む。 林床のコクサギがけっこう大きく育っていて、その艶やかな緑葉が美しい。 やがて明るくて緑鮮やかな落葉広葉樹林も交じりだす。 モミジ類が多いので、きっと紅葉の時季はもっと素晴らしいだろう。 耳に(エゾ?)ハルゼミの鳴き声が心地よく、足元のマツカゼソウは風にそよいでいる。
  ローソク岩方面へのトラバース道を左へ分け、ニリンソウの群生地(今はもう咲いていない)を過ぎると間もなく、登山口から小1時間ほどで、西岳と東岳の鞍部(股峠)へ着いた。 案内板や木のベンチなどもあって、休憩するにはよい場所だ。 私達と時を同じくして、クライミング用のヘルメットを被った二人の男性が北側の藤倉登山口から登ってきた。 軽く挨拶を交わすと、その二人はローソク岩方面へ進んでいった。 この二子山はロッククライマーたちのゲレンデとしても人気があるらしい。
  股峠(またとうげ)付近の樹種を例によってメモってみた。 モミジ類(イロハモミジ、イタヤカエデ)、シデ類(イヌシデ、アカシデ)、ミズナラ、などの他にトチノキ、フサザクラ、サワシバ、アワブキなどの水っけを特に好む(本来は沢筋の)樹種も多い。 峠なのに何故、と考えて、きっと両方の岩峰(西岳と東岳)に降った雨がこの峠にも集まってくるんだな、と推察した。
  などとのんびりと樹木の同定をしていたら、何時もの通り佐知子がイライラしだした。 さっそく私が先頭に立って、まず東岳へ向かう。 ヤマブキショウマの咲く粘土質の樹林帯を登り切ると、これからがいよいよクサリ場などのある岩稜だ。
  赤テープやペンキなどの道標や踏み跡に注意して、三点確保をしっかりと守って、道を外さないように慎重に一歩ずつ進む。 要所には金具のステップも取り付けられている。 足元にはピンク色のシモツケや黄色のイワキンバイがきれいに咲いている。 そしてなんと、稀少な好石灰岩植物のキバナコウリンカイワシモツケも咲いている。 特にキバナコンリンカ(キク科)は今や殆どここにしか咲いていない超稀少植物(絶滅危惧IB類)とのことだ。 時々立ち止まってはそれらの花や開けてきた山岳風景にうっとりと見とれる。 私達はもう既に感動の坩堝(るつぼ)だ。
  しかし案外とあっけなく東岳の狭い頂上へ着いてしまった。 佐知子の表情にも笑みが出てきて“案ずるより産むが易し”の心境だ。 北側は潅木に囲まれているが、南面が大きく開けていて河原沢を隔てて聳える両神山の大容量が迫力だ。 まずはサーモスの熱いコーヒーブレイク。 さらに少し奥へ進むと一層高度感のある小空間へ出るが、高所恐怖症の人にはちょっときついロケーションだ。
  目差す西岳の切り立った岩峰を眼前に眺めながら股峠へ戻り、今度は休まず直進して登り返す。 樹林の中を暫く登ると指導標があり道は二手に分かれるが、ここでは上級者向けのルートを左へ見送って、西岳の東峰の北側を巻く一般道へ進む。 ガイドブックの中には「東岳は西岳の上級者コースよりも難しい」と書いてあるものもあって、東岳を難なく制覇した佐知子には問題は無いと思ったのだが、彼女の決心は固く、当初の予定通りのコースを進んだのだった。
  一般道とはいってもクサリ場もあり、それなりの岩場も通るので気は抜けない。 ここも休み休みゆっくりと慎重に進み、3等三角点のある二子山の最高点(西岳の中央峰1166m)へ着いたのは12時20分頃だった。 矢張り狭くて岩ゴロの頂上だが、ここにもシモツケソウやイワシモツケが咲いている。 展望は殆ど360度で、北面の赤久縄山や御荷鉾山などの西上州の山々もよく見えている。 東側直近には、先ほど登ってきたのが信じられないくらいの角度で東岳が屹立している。 西側には、これから向かう西岳の西峰が、これも鋭く聳えている。
  この西岳中央峰で大休止の後、「ゴジラの背のような」岩稜を更に西へ進む。 雨風に削られた石灰岩は見た目は恐いが、登山者にホールドとスタンスを豊富に提供してくれる。 焦らずに踏み跡を辿れば案外と安全だ。 うっかりしてちょっとルートを外すと、やはりここでも危険は増大する。 立ち止まっては大展望を楽しみながら、緊張の稜線歩きを続ける。 土のある足元にはナツトウダイがひっそりと咲いている。
  前方に時折見えている“てっぺんハゲ”のような白っぽい小平地は…、あれが叶山(かのうさん・標高約1000m)の切り取られた山頂部に違いない。 武甲山と同じように石灰岩の山体を露天掘りにされ、こちらはテーブル状になっていて何処がピークだか分からなくなっている。 「関東百山(実業之日本社)」の該当項(筆者:横山厚夫氏)には 「(昭和46年暮の時点では…)叶山は同じ岩山であってもおだやかな台形をなし、私好みの山容であった」 と書かれてある。 また、深田久弥氏の遺作となった「山頂の憩い(新潮社)」の“二子山”の項(昭和45年作)には 「これ(叶山)も岩山で、その東面は垂直に切れ落ちて、そこに深い窓(牢ノ口)をつくっている。神技とでも言いたいような自然の傑作である。…」 と記述されている。 その横山氏の「私好みの山容」や深田氏の「自然の傑作」というのを、一目でいいから、私も見てみたかった。
  西岳の西峰から下山開始。 本コース最後のクサリ場を降り、ようやくヒノキ林の安全な登山道へ出てホッとする。 コアジサイの淡青色の花などを愛でながら下っていくと、感じの良い尾根道になる。 ローソク岩のトラバース道が左から合流して間もなく、魚尾道峠(よのおみちとうげ)を通過する。 左斜面一帯が皆伐されているのですこぶる眺めが良い。 振り返ると、今さっき歩いていた二子山の岩峰の連なりが、物凄い迫力で頭上に覆い被さってくる。 ここからの二子山の絶景は、今は未だ苗木のヒノキが育つまでの(数年間の)ワンチャンスかもしれないわね、と佐知子が云っていた。
  志賀坂峠への(少し荒れている)登山道を右へ分けてからも暫くは絶景の尾根歩きが続いた。 それから樹林帯を通って国道299号線へドスンと下り、アスファルトを約10分間も歩いて、振り出しの坂本登山口へ戻り着いたのは午後3時頃だった。 行きがけにインプットした登山者数の調査カウンターを覗いてみると、その数字は6806になっていた。 私達が入力したときの数字が6803だったので、この登山口を利用したハイカーは私達のほかに少なくても3名はいたようだ。 何れにしても、この二子山は予想していたよりもずっと静かで、小粒の山椒のような、ピリっとした素晴らしい山だった。

* 二子山の素晴らしい植生とスカイライン(岩稜歩き)に、私はえも言われぬ魅力を感じました。 特に、この石灰岩の岩峰に特産する貴重な植物とその自然環境を、子々孫々まで伝え残したい、と切に願います。 切望する…だけしかできない、軟弱で根性無しの私ですが…。
* 深田久弥氏は、遺作となった「山頂の憩い(新潮社)」の“二子山”の項(昭和45年作)で、次のように記述されています。
 『西岳と言い東岳と言い、大地からニョッキリ岩が生えたような奇妙な山である。高さは千メートルそこそこだが、この強烈な個性は讃
(たた)えていい。岩ばかりから出来た二子山――ユニークな存在である。』
* 二子山の登山道については、小鹿野山岳会などの地元の方々がルートを整備していると聞きます。 安全に楽しく本コースを歩けたのはその方々のおかげです。 末文になりますが、深く感謝いたします。

二子山・花の写真集 大きな写真でご覧ください


バイクの森おがの「般若の湯」 バイクの森おがの「般若の湯」: 二子山登山の帰路に立ち寄ったのが、埼玉県秩父郡小鹿野町般若にある町営の日帰り温泉施設。 悪く言ってしまえば旧「クアパレスおがの」の残骸だ。 2009年5月から、世界モーターサイクルミュージアム「バイクの森おがの」に付属する施設として生まれ変わったという。 ドイツの温泉療養を模倣した“水着で入るファミリアなクアハウス”は、結局は日本人の感性にそぐわなかったようだ。 「オートバイによるまちおこし」の中心事業というが…、自然に優れたこの町で、今、何故バイクなのか。 40歳代前半まで「ホンダ・ブロス650cc」に乗っていたこともあり、バイクについては多少は理解のある私だが、イマイチぴんとこない。
  露天風呂も内湯も衛生的でゆったりとくつろげるし、レストランも併設されている。 近年、雨後の筍のようにオープンしている地方の日帰り入浴施設としては、平均的な印象だ。 地元のなじみ客と思われる数名が入浴していた。 循環・過熱の湯はやや濁りがあって殆ど無味無臭だったが、特に露天風呂はヌルヌル感があり、多分アルカリ性の泉質だと推察する。 公式HP等にもその泉質等が明示されていないので、私の“感性”だけで本項を書かざるをえない。
  受付嬢など、従業員の対応は非常にいいのだが、なんというか、システム上の問題かあるいはそれ以前の問題か、ギクシャクとした印象を受けた。
* 「般若の湯」はこの2ヶ月後(H22年8月)で営業を終了した模様です。 私の“感”が当たっていたのかもしれません。[後日追記]



二子山はにょきにょきした石灰岩の双耳峰
右奥にぴょこんと出ているのが中央峰
東岳から西岳へ向かう
西峰の左奥にチラッと見えているのが叶山
西岳の中央峰から西峰へ向かう
“ゴジラの背のような”岩稜を進む



*** コラム ***
中高年の平衡感覚と「冒険」について

  さて突然ですが、世界的に正式な「高齢者の区分」というのはどうなっているのかご存知でしょうか?
  国連の世界保健機構(WHO)の定義によると、65〜74歳を前期高齢者(ヤングオールド)、75〜84歳を中期高齢者(ミドルオールド)、85歳以上を後期高齢者(オールドオールド)と呼ぶらしいです。 ちなみに、私はまだ中年です。
  ということで(どういうこと?)、今回は中高年の平衡感覚についてです。
  高齢になると筋力や俊敏性など各種の体力は若い頃の半分くらいまで落ちてきますが、特に平衡性については凄まじいばかりに低下するようです。 「登山技術全書・登山医学入門(山と渓谷社)」によりますと、平衡性については男女とも(65歳で)20歳のときの20%前後にまで低下する、とのことです。 恐いですねぇぇぇ。
二子山の西岳を登る
  そういう意味で、クサリ場の続く今回の二子山は中高年向きの山ではないかもしれない、と、行く前まではそう思っていました。 しかし実際に登ってみて分かったのですが、ルートファインディングに留意して踏み跡を外さないことを前提に、岩登りの基本技術(三点確保:三点支持)をしっかりと守れば、この山のクサリ場は平衡感覚の落ちた中高年にも安全に歩くことができると思いました。

  老いても山歩きにおける多少の冒険性は維持したい、と思うのは、それは罪なことでしょうか。 客観的な判断と経験に裏付けられた“安全の範疇での冒険”ならばいいじゃないか、と思う私ですが…。 妻の佐知子は、山登りではどんな冒険であれ、それは絶対にダメ! と云っています。 (^^ゞ
  たしかに「冒険」の解釈については、その人の思想や経験値等による個人差があるようです。 そもそも“安全の範疇での冒険”はもうすでに冒険ではない、という考え方もあります。 一方、家から一歩出れば冒険の世界(アウトドア=冒険)と云う人もいますし…。
  トムソーヤーの冒険はハッピーエンドでめでたしめでたしですが、実際は何時もそうだとは限りません。 う〜ん、その“境界”というのは…、かなり難しいですね。 まぁ、人それぞれ、金子みすずの「みんなちがって みんないい」ということで、今回の話にけりをつけたいと思います。 キーワードはやはり「多様性」ですよね。

このページのトップへ
No.275「根本山」へNo.277「権現山」へ



ホームへ
ホームへ
ゆっくりと歩きましょう!