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No.288 北小金沢連嶺
平成23年(2011年)7月14日 曇り時々薄晴れ

北小金沢連嶺・略図
こちらから見るとピラミッド型の山容です
登路から小金沢山を望む


静かで涼しい“日帰り大名登山”

…JR中央本線・塩山駅-《タクシー40分》-小屋平〜石丸峠1930m〜狼平〜小金沢山(雨沢の頭)2014m〜牛奥ノ雁ケ腹摺山1990m〜川胡桃沢ノ頭1940m〜黒岳1988m〜白谷ノ丸1920m〜湯ノ沢峠1650m・避難小屋-《タクシー50分》-はやぶさ温泉(入浴)-《タクシー10分》-塩山駅 【歩行時間: 4時間50分】
 →地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


  盛夏に、マイカーを使わずに、都心から日帰りで行ける静かで涼しい山(せめて標高2000m以上)でボリュームもそこそこ、というのはかなり難しい条件だ。 いろいろ考えた挙句、ひらめきに乏しい私が「これっきゃない!」 とひらめいた山域が大菩薩連嶺だった。 そしてさらに熟考を重ね、小屋平から入山して小金沢連嶺を南へ縦走し湯ノ沢峠へ下山する、という名コースを発見した。 「われながらスゴいひらめきだ!」 と小躍りしていたら、妻の佐知子が 「行ったことがなくて日帰りで2000メートル以上の山域といったら、それっきゃないんじゃないのぉ〜。交通費がバカ高いわよぉ〜」 と冷ややかな目線で私を睨んだ。 今回の山行については佐知子は留守番役なのだ。 私はもちろん口答えはしない…。
  梅雨が早く明け、猛暑の日々が続く東京を「あずさ3号」で発ったのは盆の入りの(東京は七月盆)次の日だった。 あまりにもグッドアイデアなトレイルだったので、定年後の“ヒマ”をもて余している友人のSさんとT君もお誘いした。 特急電車とタクシーを存分に利用した「日帰り大名登山」だった。

* 小金沢連嶺(こがねざわれんれい)とは: 大菩薩連嶺の南部、大菩薩峠の南にある石丸峠1930mから小金沢山2014m・牛奥ノ雁ケ腹摺山(うしおくのがんがはらすりやま・1990m)・黒岳1988m・湯ノ沢峠1650m・大蔵高丸(おおくらたかまる・1770m)・ハマイバ丸(破魔射場丸・1752m)・大谷ヶ丸(おおやがまる・1644m)・滝子山(たきごやま・1610m)と続く山稜を(一般的には)小金沢連嶺と呼んでいる。 地籍は山梨県甲州市と大月市にまたがる。 湯ノ沢峠を境にしてその北側(本項)を北小金沢連嶺、南側を南小金沢連嶺と区分けすることもあるようだ。 また、北小金沢連嶺をたんに小金沢連嶺と呼び、南小金沢連嶺にあたる山域を南大菩薩と呼んでいるガイドブックもある。 山域の呼称については曖昧なことが多いが、まぁこの程度の異同は“軽傷”の部類に入ると思う。
  「日本山名事典(三省堂)」や数冊のガイドブックなどを参考にして記述しました。

右の方向に大菩薩湖が見えていましたが・・・
狼平を通過

奥秩父を彷彿とさせる黒木の森です
小金沢山の登り

ゲッ、逆光で真っ黒だ!
小金沢山の山頂にて

北〜東〜南側が開けていました
牛奥ノ雁ケ腹摺山山頂

樹林に囲まれてひっそりとしています
黒岳の山頂

明るい自然林:林床はシダ類やカニコウモリなど
黒岳の広葉樹林
  新宿発7時30分の「あずさ3号」が塩山駅に着いたのは8時53分。 予約タクシーの運転手さんが、なんと改札口まで迎えに来てくれている。 恐縮してそそくさとそのタクシーに乗り込む。 裂石から上日川峠を経由して、石丸峠への登山口がある小屋平バス停前で降ろしてもらう。 前方に数頭のシカが山腹を下って逃げて行くのが見えた。 タクシー料金は6,020円。 「3人では割りにくいでしょう」 と20円おまけしてくれた。 親切で思いやりのある運転手さんだ。
  柔軟体操をしながら、「バス停があるってことは、ここまでバスで来れる、っていうこと?」 とSさんが不審な表情で訊いてきた。 「土・日・祝しか運行していないんですよ」 と私。 先月、大菩薩峠から石丸峠経由でこの小屋平へ下山した私なので→大菩薩嶺、一応そこいらの事情は知っているのだ。 シーズンとか週末ならば、実際、JR甲斐大和駅前からの乗合バス(大菩薩上日川峠線・運賃は950円)、っていう手があるのだが…。
 「平日のほうが山が静かだから…」 とT君が助け舟。 なにやかやで、カラマツ林の山道を和気藹々と登り始めたのは9時40分頃。 小屋平の標高はすでに約1585m。 稜線(石丸峠)までの標高差は350メートル足らずだ。
  おなじみの背の低いミヤコザサが広がり、右手前方に小金沢山(雨沢ノ頭)のピラミッド型の山容が見えてくる。 眼下にはこの山域の景観におけるニューフェース・大菩薩湖(上日川ダム)がその地位を主張している。 生憎の曇り空で、富士山や南アルプスは姿を見せていない。
  石丸峠から狼平(おおかみだいら)にかけてはこの山稜屈指の開けて明るい処だ。 ニガナ類(苦菜・キク科)やミツバツチグリ(三葉土栗・バラ科キジムシロ属)などの黄色くて小さな花が少しだけ咲いている。 コメツガなどの木陰へ入るととても涼しい。 狙いどおり、東京の喧騒と暑さはここでは無縁のものだ。(しめしめ)
  小金沢山への登りは苔むした黒木の深森(自然林)で、奥秩父のそれにも似た幽趣がただよっている。 3等三角点のある山頂は東側(奥多摩側)が開けていて、休憩するにはもってこいだが、この日はその方面に厚い雲がかかっていた。 昼食後、山頂付近の樹種を少し観察してみた。 コメツガ、イラモミ、シラビソなどのいわゆる黒木(この場合、亜高山性の常緑針葉樹をさす)の他にはダケカンバ、ナナカマド、ミネカエデ、カラマツ、ツツジ類などがこの森の主役たちのようだ。 サラサドウダンやベニバナ(?)ツクバネウツギの花期は終わって、その花びらがあちこちに落ちている。 色艶の衰えたハクサンシャクナゲの老花が必死に枝先にしがみついている。
  小金沢山から先も、鬱蒼とした樹林と展望に恵まれた明るい笹原が交互に現れる“気持ちのよい尾根道”だった。 シラビソが目立ち始め、牛奥ノ雁ケ腹摺山付近ではイラモミ(*)が優勢な林も通過する。 黄緑色のそのイラモミの新葉が美しい。 なお、牛奥ノ雁ヶ腹摺山(うしおくのがんがはらすりやま)は、日本で最も長い山名(音数で14音)であるらしい。
  ミヤコザサの草原では、なんとあのウスユキソウ(薄雪草・キク科)が所々に咲いている。 これはいいものを見た、と私たちは大喜びだ。 しかし、立ち止まっていると羽虫類が顔の周りを飛び交って、それが煩い。 …何気に、遠雷が聞こえる。 何時の間にか奥多摩方面の雲が黒くなっている…。
  心は急くのだが足がなかなか前へ進まない。 常日頃の鍛錬を怠っているT君が特にバテ始めたが、T君と私より10歳も年上のSさんは元気だ。 秘けつを訊くと、「今回初めて使ってみたダブルストックがいいみたい」 との回答だった。 ふぅ〜ん、ダブルストックかぁ。 私も今度試してみようかと思ったけれど、両手がふさがっていると、写真を撮るときなど仕舞ったり出したりが面倒臭そう…。
  などと考えている場合ではない。 遠雷が鳴り止まない。 川胡桃沢ノ頭(かわくるみさわのあたま)を通り過ぎて黒岳への登りにさしかかる。 岩っぽい個所もでてきた。 なかなか前へ進まない足を一生懸命前へ出す。 大峠からの道が左から合わさると間もなく、樹林に囲まれてひっそりとした黒岳の山頂へ着いた。 高みの中央には1等三角点の標石が突き出ていて、ここでも小さな羽虫が煩く飛び回っている。
  天空から薄日が差してきたりして、どうやら落雷の心配はなさそうだ。 時間的な目安もたってまずは一安心だ。 黒岳から少し下った雰囲気のよい林内に山梨県の案内板が立っていて、「やまなしの森林100選・黒岳の広葉樹林」と書いてある。 ミズナラ、ダケカンバ、オオイタヤメイゲツ、ハウチワカエデ、ヤマザクラ、ナナカマド、オオカメノキ、ブナ(少し)などの落葉広葉樹にシラビソやコメツガなどの針葉樹が交ざる、なるほどここも素晴らしい森だ。 林床ではカニコウモリが小さな蕾の花をつけて群落し、バイケイソウは来たるべき花の時季をじっと待っている。
  さらになだらかに下ると草原が開け、花崗岩が散在する白谷ノ丸(しらやのまる)と呼ばれる小ピークを通過する。 ここいら辺りのお花畑がこれまた素晴らしかった。 ウスユキソウがあちこちに群落している。 ハナチダケサシ(花乳茸刺・ユキノシタ科)、ヤハズハハコ(矢筈母子・キク科)、咲き始めのシモツケ(下野・バラ科)やヨツバヒヨドリ(四葉鵯・キク科)など、見ごたえがあった。
  膝が痛いと言っていたT君。 Sさんに借りたエアーサロンパスを吹っかけて、私が貸したインドメタシンの軟膏を塗ったら、あっという間に痛みが取れたとのことで、よかったよかった。 疲れた身体と関節痛・筋肉痛には花の景色とインドメタシンが特効薬なのだ。
  雑木林の道や背の高いスズタケの道をずんずん下って午後4時50分頃、ひょっこりと道標が現れて、その右手が湯ノ沢峠の小さな避難小屋と少し離れて建つログ調のトイレだった。 避難小屋の左奥からの下山道(山道)もあるが、私たちは予定通りここからタクシーを呼ぶことにする。 しかしヤバイ! 携帯電話が「圏外」を示している。 まいったなぁ〜。 やっぱり稜線上から電話しておけばよかった、と後の祭りだ。
  冷たくて美味しい湧水の流れる水場でゴクンゴクンと水を飲んだりして、電波を求めてだらだらと林道を下ること約20分。 ようやく携帯電話がタクシー会社に通じる。 塩山から迎えに来るので40分はかかるという。 私たち3人は道端に座り込んでタクシーを待った。 しかしその時間がとても短く感じたほど、私たちの会話はずっと弾んでいた。


稜線の風の当たる処にも平気で生えている
イラモミの新葉
* イラモミ(刺樅): マツ科トウヒ属の常緑針葉高木で、モミ属ではありません。 別名マツハダ。 葉を手で触ってもハリモミほど痛くない。 “森林中で優先樹種となることはまれ”とのことですが、この大菩薩の厳しい条件の山稜ではかなり目立つ存在です。 シラビソやコメツガなどと比べても(多分)風や土壌条件などに強い種だと思います。

* 今回の北小金沢連嶺縦走は、交通費を使い放題使った“大名登山”ですが、景色の良さや木陰に入ったときの涼しさなど、中高年の中級ハイカーには特にお勧めの夏コースです。 (もちろん残雪の春や紅葉の秋もいいと思います。) “黒木の原生林と明るい草原が織りなす”変化に富んだ尾根歩きはほんとうにステキでした。 ガイドブックなどには “藪漕ぎ状態や道の分かりずらい箇所がある” と書かれているものもありますが、よく整備されていて比較的歩きやすい縦走路でした。 もう少し早い時間に下山して、「天目山温泉」に立ち寄ってからバスで甲斐大和駅へ、というのがオーソドックスな帰宅コースだと思います。
  なお、今回の山行で支払ったタクシー料金の合計は17,400円でした。 3人のパーティーでしたので一人分は5,800円です。 「特急あずさ」の往復運賃が7,800円でしたから、交通費の合計は一人13,600円です。(単独行ならば25,200円) 日帰りとしては確かに“バカ高い”かもしれません…。

はやぶさ温泉 はやぶさ温泉: 当初、「やまと天目山温泉」に立ち寄ってからバスで甲斐大和駅、という予定だったのだけれど、下山時間が遅くなってしまい、天目山温泉からの最終バス(18:10)には全然間に合わなくなってしまった。 上りの特急(あずさ34号など)は甲斐大和駅には停まらないことなどを考慮して、タクシーの運転手さんが勧めてくれたのが平成5年5月にオープンしたという「はやぶさ温泉」だった。 恵林寺に近く、塩山駅にも比較的近い、近年人気の立ち寄り湯とのことだった。 金峰山や乾徳山などの奥秩父登山の帰路に利用するハイカーも多いそうだ。 チラシなどに書かれてある案内文によると「地下1000mから自噴する温泉は湧出口温度42.3度、湧出量は日量700トン」とのことで、湯量豊富な源泉掛け流し。 泉質はアルカリ性単純泉。 もちろん飲用も可で、かなりの本格派だ。 口に含むと微かに硫黄の匂いがする。 内湯(大浴場)と外湯(露天風呂)はぬる湯好きの私にはちょうどいい温度だった。 2時間までの入浴料は500円。 良心的な料金だ。
  湯上りに、ラストオーダー(20時)ぎりぎりまでビールを飲んだり“そば定食”などを食べたりした。 ここの源泉を使って料理しているらしく、何を食べてもおいしかった。 従業員さんたちの対応もとても感じよく、まったりと時を過ごすことができた。 塩山駅までタクシーで約10分(1,520円)。
  帰路の車窓からは南の空に皓々と小望月(こもちづき・14夜の月)が浮かんでいた。
  「はやぶさ温泉」のHP

この後(平成25年8月)、「やまと天目山温泉」に立ち寄る機会を得ました。
  →No.311「湯の沢峠から大蔵高丸とハマイバ丸」




変化のある尾根歩きを堪能しました
牛奥ノ雁ヶ原摺山から黒岳へ
ウスユキソウ(薄雪草):キク科
草原にはウスユキソウの群落
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