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まず白笹山へ向かう
沼ッ原調整池を見下ろす
白笹山の山頂
南月山の山頂
牛ヶ首に到着
シラタマノキ(ツツジ科)
沼原湿原散策
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高山植物の宝庫だ!
《マイカー利用》 東北自動車道・西那須野塩原I.C-《車45分》-沼ッ原駐車場〜白笹山1719m〜南月山1776m〜日の出平〜牛ヶ首〜姥ヶ平〜沼原湿原散策〜沼ッ原駐車場-《車20分》-板室温泉(入浴)-《車25分》-西那須野塩原I.C 【歩行時間:
6時間20分】
→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ
なんと、半年ぶりに夫婦で山へ行くことになった。このサイト名の「私達の山旅日記」の“私達”とは私達夫婦を指しているのだけれど、数年前からずっと老いた両親の介護があって、私達はなかなか二人で家を空けることができない。今回は、近くに住む私達の長女一家が拙宅の面倒を見てくれることになり、“私達の山旅”が久しぶりに成立したのだ。
と、ちょっと個人的な前書きになってしまって恐縮ですが…。
夜明けの東北自動車道を北上して、西那須野塩原I.Cから板室温泉を経由して、沼ッ原調整池を見下ろす広い駐車場(標高1275m)に着いたのは午前8時頃だった。トイレ脇に設置してある黒磯市(現在は那須塩原市)の説明板によると、この貯水池は上池とも呼ばれ、日本初の揚水発電用の人造湖とのことだ。地下水路を通って約2km離れた下池(深山湖)へ流れ落ちるらしい。上池の反対側(東側)には白笹山(しらざさやま・1719m)がおっとりとしたコニーデ型で聳えていて、その左奥のだら〜んとした山容が今回のターゲット・那須五岳の一峰の南月山(みなみがっさん・1776m)だ。出羽月山の南に位置するから南月山とのことで、かつては月山信仰の山として登られていたという。なるほど、月山のミニチュア版といった感じがしなくもない。この緑濃い平凡な山容の山稜が岩と高山植物だったなんて、この段階では夢にも思わなかった。
今回の周回コースは時計と反対回り、まずは白笹山を目指す。季節がら足元を飾る花は少なく、アキノキリンソウの黄花が際立っている。
初めのうちは巨木の少ない(若い)森を登る。樹種はケヤマハンノキ、ヤシャブシ、ミズナラ、リョウブ(花)、カエデ類、シロヤシオなどのツツジ類、沢筋にはサワグルミ…等々。林床に広がるササは一見クマザサのようだが、葉の裏に細かい毛があることなどからクマイザサだと思う。やがてサワラ、アスナロ、ウラジロモミ、キタゴヨウ、ネズコ(クロベ)などの立派な針葉樹が目立ってくる。振り返ると、樹林の隙間からまぁるい沼ッ原調整池やその右隣の沼原(ぬまっぱら)湿原が時折見下ろせる。オオカメノキの赤い実がそれらの景色にアクセントをつけている。
コメツガ、ダケカンバ、ミネカエデ、アズマシャクナゲなどが目立ち始めると間もなく、それらの低い木々に囲まれた白笹山の狭い山頂だった。植生が高山っぽくなってきて、なんだかドキドキする。予備知識もないままこの山域に足を踏み入れた私達だったが、このときのこの期待感が、じつは大当たりだったのだ。
南月山へ向かって鞍部から登り返すとシャクナゲが多い。なんとなく葉っぱの様子が変なので手にとってみる。葉が丸まっていて、その裏がアズマシャクナゲのように茶褐色のビロード状(軟毛が細かく密着)ではなく白っぽくて無毛だ。あれれぇぇ…、これって高山帯に自生するハクサンシャクナゲじゃないかしら。う〜ん、間違いない。ここいら辺りはアズマとハクサンがご近所づきあいをしている。 「一体どうなっているの? ここの標高は1700メートルぽっちよ…」 「う〜ん、なんかすごいなぁ…」 と感心する私達だった。 [→アズマシャクナゲとハクサンシャクナゲの違いについて]
那須連峰や帝釈山脈などの展望がすこぶるよい南月山の山頂部に到着しても、ここの植生に対する私達の驚きは増すばかりだった。周囲の低い樹木(潅木)たちをざっと観察してみると…、ハイマツ、ミネザクラ(タカネザクラ)、ミヤマハンノキ、ダケカンバ、ミネカエデ、ウラジロナナカマド、アカミノイヌツゲ、マルバシモツケなど、高山植物のオンパレードなのだ。まるで標高2500m以上の日本アルプスを歩いているようだ。緯度の関係と、火山性の土壌と強い西風の影響が作用しているのかもしれない。
樹木の観察を終えて、出羽月山に向いているという南月山神社の石祠や二等三角点の標石も確認してから、案外と広い山頂部でまったりと大休止。コンロに火を点けて、野菜と卵をたっぷりと入れたラーメンを啜る。数組のハイカーたちも楽しそうに三々五々時を過ごしている。
南月山から北へなだらかに進む。日の出平を通過して牛ヶ首へ至る小1時間ほどのこの明るい尾根歩きが素晴らしかった。前方の那須岳の主峰・茶臼岳1916mが徐々に大きくなる。山腹の無間地獄から噴煙を上げる様がおどろおどろしく、茶褐色の岩峰も迫力がある。稜線上の所々にはトモエシオガマ、エゾリンドウ、ヤマトリカブト、ホツツジなどの初秋の花たちが咲いている。栃木県の案内板には
“特に日の出平付近のミネザクラの群落が有名で、5月中旬頃には花見を楽しむことができる” といったようなことが書いてある。6月上旬頃のシロヤシオの花など、初夏がこの山域の花の旬のようだ。
眼前に茶臼岳を仰ぐ牛ヶ首で左折して、主稜線に別れを告げる。ススキの類やウラジロタデなどのパイオニア(先駆植物)が疎に生える火山性の岩っぽい道を暫く下ると、牛ヶ首からも見えていた感じのよい平地(姥ヶ平)にさしかかる。道沿いのシラタマノキには、その名の通りの白玉のような花が今を盛りに咲いている。ガンコウランの黒い実もなかなか風情があり、少し離れてエゾリンドウもオヤマリンドウも咲いている。トモエシオガマも相変わらず咲いている。
片道200mほどの木道を往復して、姥ヶ平のひょうたん池を見てきた。ひっそりとした小さな池で、正面の茶臼岳を水面が映す様は、ありきたりの美かもしれないが、やはり美しかった。
やがて樹林帯へ入って、それほどきつくない傾斜を樹木の観察などをしながら下る。今回の周回コースについて、森林インストラクターとしての私の目から見ると、白笹山への上りには那須連山では珍しい亜高山性の針葉樹林帯があって興味深く、山稜は驚きの高山植物群で、この下りのコースはブナ・ミズナラ・ダケカンバが主役の典型的な冷温帯の自然林で心が休まり…、その変化に富んだ植生が大変おもしろい。おまけに下山地には沼原湿原の散策コースもある。
少し遠回りして、その沼原湿原をぐるっと巡る木道を歩いてみた。まるでミニ尾瀬ヶ原といった感じだ。ニッコウキスゲの季節には観光客で賑わうそうだが、今はヌマガヤの群落が寂しそうにしている。そしてここもご多分に漏れず“乾燥化”が進んでいるようで、あちこちにズミ(バラ科)が侵入してきている。ズミの花は美しいので、それはそれで結構なことだとも思うけれど、この乾燥化の一因に揚水発電用の貯水池建設があることを思うと、少し複雑な気持ちになる。失ってしまうものの大きさが気になるのだ。湿原の縁にはエゾリンドウ、ゴマナ、アキノキリンソウなどが少し咲いていた。
一日をたっぷりと山に浸かり、沼ッ原駐車場に戻りついたのは午後5時を過ぎていた。
南月山の山頂でラーメンを食べていたときや、ハイマツの茂る明るい尾根道をゆっくりと歩いていたときや、ひょうたん池の水面に映る茶臼岳を眺めていたときなど、私達は何回も“来てみてよかった”と思った。留守番をしてくれた私達の長女家族に感謝感激だ。何時か、できたら初夏のころにまた来てみたいと、ほんとうにそう思った。
帰路の立ち寄り湯はもちろん板室温泉で、それもとても楽しみだ。 あぁしかし、お土産をたくさん買わねばならない…。
南月山登山の写真集: 大きな写真でご覧下さい。
那須岳: 平成9年の山行記録です。
板室温泉「板室健康のゆグリーングリーン」: 那須七湯のひとつ。板室温泉の閑静な街を貫く那賀川沿いに建つ公営の日帰り温泉施設。沼ッ原駐車場からは車で約20分、西那須野塩原I.Cまでは約25分だった。平成6年9月にオープンしたらしい。特筆すべきは巨岩を配した露天風呂だ。これはかなりいい。「綱の湯」と「大空の湯」が男女週替りとなるとのことだが、梁から何本も下げられている綱につかまりながら入浴するという「綱の湯」が伝統のある風呂とのことだ。この日は女性専用で、残念ながら私は入ることはできなかったが、佐知子から聞いた話によると、どうやら私が入った「大空の湯」のほうがずっと広いらしい。それもそのはず、「綱の湯」はかつての板室共同浴場を再現したユニークなもので、狭い浴槽に大勢が同時に入浴できるように水深を深くしたもの(立ちながら浸かる)なのだ。綱につかまるのは溺れないため、というのが笑える。アルカリ性単純泉、一部循環。入浴料500円(65歳以上200円)。平日ということもあり空いていて、受付の感じもよく、館内も広く、のんびりとくつろげた。
露天風呂に入浴中に日が落ちて、空にはあと4日で中秋の名月という「十日夜(とおかんや)の月」が皓々と照っていた。
南月山の山頂部で撮りました!
それぞれの球果(松ぼっくり)の違いを感じてください
キタゴヨウ
長さ約6〜9cm
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ハイマツ
長さ約3〜5cm
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コメツガ
長さ約1.5〜2.0cm
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