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No.298 日留賀岳(ひるがたけ・1849m)
平成24年(2012年)5月17日 薄曇り マイカー利用

日留賀岳・略図
変化に富んだ林相を楽しむ

《マイカー利用》 東北自動車道・西那須野I.C-《車・35分》-小山氏宅の駐車場・登山口〜シラン沢林道〜林道終点・登山口〜木の鳥居〜日留賀岳[往復]…《車・5分》…塩原温泉「華の湯」(入浴)-《車・30分》-西那須野I.C… 【歩行時間: 7時間50分】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


  栃木県の北部、男鹿山塊の南端にひっそりと聳えるのが「渋くて無骨な(鷲頭隆)」日留賀岳である。 関東百名山の一峰であり、山頂からの展望がよく、山稜の森の姿が美しいと聞いている。 登山口のある南麓には塩原温泉郷がある、というのも嬉しい。 前々から狙っていた山で、私達夫婦はうきうき・いそいそと未明の東北自動車道を北進した。

  カーナビに案内されて西那須野I.Cを降り、箒川(ほうきがわ・那珂川水系)に沿った国道400号線(塩原バレーライン)を西進して約30分、塩原温泉郷の先を右折する。 閑散とした白戸集落をゆるやかに上ると間もなく、高原状の最上部に日留賀岳登山口のある立派な民家(小山氏宅)が見えてくる。 1/25000の地形図では標高657mの基準点のある辺りだ。 手作りの道標もわかりやすく、思ったより楽にここまで来れた。
  小山氏宅はひっそりとしており、家の人はお留守のようだった。 南を振り返ると高原山がおっとりと大きく聳えている。 お庭の奥にある駐車場を使わしてもらい、玄関に置いてある登山者名簿に記入して、屋敷裏の鳥居をくぐって北へ向かって歩き始めたのは午前6時頃だった。 スタートはまずまず順調だ。 午後から崩れるという天気予報がちょっと心配だが…。
まず孟宗竹の林を通過
美しい竹林(小山氏宅裏)


林道終点から30分ほどの地点:標高約1050m
芽吹きのブナ林

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バイカオウレン

この先にギョウジャニンニクの群生地があります
木の鳥居を通過

少し雪が残っていました
山頂は目前だ!

手前に三角点の標石
日留賀岳の山頂

日留賀岳の山頂から撮影:右奥に大佐飛山1908m
鹿又岳の“切腹跡”
  歩き出して暫くはスギ・ヒノキの人工林で、途中の(孟宗竹にしては幾分細身の)竹林が何ともいえず美しい。 やがてコナラ、ミズナラ、シデ類などの明るい雑木林に移行する。 花期の終わりかけたトウゴクミツバツツジともうすぐ満開になりそうなヤマツツジが印象的な、春と初夏が同居する山道だ。 芽吹きの新緑が眩しい。
  40分ほどその山道を登り、鉄塔下を過ぎるとそこから比津羅山1201mの山腹をトラバースする林道(シラン沢林道)歩きになる。 所々の落石などで車両通行止めになっていて、しかも非舗装道路なのでそれほどストレスは感じない。 右下の斜面はカラマツの人工林で、左上はハンノキ類(ヤマハンノキやヤシャブシなど)やカエデ類(ヤマモミジ、ハウチワカエデ、オオモミジ、メグスリノキ)などの天然林だ。 路肩にはタチツボスミレがたくさん咲いている。 ヤマザクラの花びらもあちこちに落ちている。 大きな谷(シラン沢)を振り返ると、薄靄の中に塩原温泉郷の建物などが見えている。
  約30分間の林道歩きの終点は小広場になっていて、その左手から再び山道へ入る。 なだらかな地形のカラマツ林がしばらく続くが、その先(標高約1050mの辺りから)はいよいよブナ・ミズナラ林だ。 何れの林床も背の低いミヤコザサで、それらの林相は、なんというか、芸術的な美しさだ。 これからはずっと多様性に富んだ森が続き…、メモをとりながら歩く私は忙しい。 オオカメノキが白い装飾花をつけている。 足元にはリスが齧ったと思われるオニグルミの殻が何故かぽつんと転がっている。 花期を終えたカタクリの葉は寂しそうにしている。 ・・・登山道はよく整備されていて歩きやすい。
  次第に傾斜が増してきて、高度が上がってくると、樹木たちは未だ冬枯れの様相だ。 足元のあちこちにはバイカオウレン(梅花黄蓮・キンポウゲ科)が今を盛りに群落して咲いている。 5枚の白い花弁に見えるのは萼片で、黄色いおしべのようなものが花びらだという。 花芯にある緑色の小さな袋果が可愛らしく、ルーペでよく見ると“白・黄・緑”のコントラストが絶妙だ。 その根が漢方薬になるというあの“オウレン”だ。 「この花がこんなにきれいで可憐だとは知らなかったわ」 と佐知子がしきりに感心している。
  何時の間にか辺りにはアスナロが目立つようになり、ブナ・ミズナラ・アスナロ混交林、といった風だ。 それらの木々の隙間からは日留賀岳と思しき山容が右手に見え隠れしている。
  最初のピークを過ぎるとなだらかになり、ゆるやかに下った鞍部にある“木の鳥居”を潜る。 原生の森はますます明るくなり、点在するブナやミズナラの巨木がかっこいい。 ダケカンバやネコシデも目立ち始めた。 山稜の常連、リョウブも健在だ。 背の低いのはミヤコザサだが、背が高いのは…、これはブナ林におなじみのネマガリダケ(チシマザサ)だ。 エンレイソウが咲いている。 ショウジョウバカマが群落して咲いている。 小さなヒメイチゲも可憐に咲いている。 少し下ったり登り返したり、次から次への楽しい植物観察だ。 これから夏になると、もっと多くの花を楽しめると思う。
  葉の裏が淡褐色でビロード状のアズマシャクナゲが出てきたなと思っていたら、やがて、葉が極端に丸まったハクサンシャクナゲにとって替わる。(*) コメツガやトウヒも目立ち始める。 植生が亜高山性になってきたのだ。 樹木の背がさらに低く疎になり、展望が開けてくる。 気持ちのいい尾根歩きだ。 常緑樹のヤマグルマ(トリモチノキ)は本来は高木だが、ここでは灌木のように地を這っている。 アカミノイヌツゲ、そしてハイマツも次から次へと顔を出す。 小ピークを越え、所々雪渓状になった残雪を踏みしめて、最後の登りにとりかかる。
  2等三角点と石祠(日留賀嶽神社・H4年に再建とのこと)と黒御影石の芳名碑のある、360度展望のこじんまりとした山頂に着いたのは11時10分頃だった。 生憎の曇り空で、南面の高原山や日光連山は殆ど真っ白だが、北面〜東面の近景(男鹿山塊の秘峰部)は微かに見えている。 目前の鹿又岳(かのまただけ・1817m)の“切腹跡*”が矢張り悲惨だ。 *山腹を横切る塩那道路のこと。高度経済成長時代の遺物で、現在は廃道化している。
  静かで居心地のよい山頂だったので、私達はゆっくりとお弁当を食べたり、鹿又岳へ続く微かな道型を藪漕ぎして少し進んでみたり、付近の植物を観察したりして過ごした。 ハクサンシャクナゲやハイマツや背の低いコメツガに交じって、目立っている落葉樹の灌木がある。 「これなぁに?」 と佐知子が訊いてきた。 「冬芽の形から鑑みてドウダンツツジかその仲間じゃないかなぁ。咲けばわかるんだけどなぁ…(どうやら正解はサラサドウダンらしい…)」 などと会話する。 しかし…、じつはそれほどまったりとしている場合ではないのだ。 このピストンは(軟弱な私達にとっては)ロングコースだし、下り坂の空模様もちょっと心配だ。 そろそろ…、いつもの通り“時間管理”が気になってきた。
  日留賀岳の山頂を辞したのは12時を過ぎていた。 暫くはいつもの通り、往路の復習をしながらのんびりと歩いていたのだが、木の鳥居を過ぎる辺りから、何気に、だんだんと空が暗くなってきた。 メモをとっている場合ではなくなってきた。 「そろそろ急ぎましょう!」 と佐知子に促されて、日留賀岳の素晴らしい植生に酔っていた私は完全に我に返った。 弱い膝を庇って歩幅は狭いままだが、そのぶんピッチを速める。 「体力の上り、技術の下りだ!」 と気合を入れる。
  稜線を外れて高木の樹林帯に入ると少しほっとして、「安全登山のためだ。やっぱり少し休もう!」 と結局いつものテンポだ。 空は時折少し明るくなったりして、なんとかなる気配だと思った。 しかし、林道をのほほんと歩いていたら後ろから雷が鳴り出した。 「やべー」 と傘を取り出して、急ぐのだが、やはり疲れきっているのか、足がなかなか前へ進まない。 そしてとうとう、鉄塔から再び山道へ入ったころからぽつぽつと雨が降り出した。
  午後3時50分頃、ようやく小山氏宅の前庭(駐車場)に下山する。 ちょうどそのとき野良仕事から帰ってこられた小山さんのご主人に 「それほど降られなくてよかったね」 と笑顔で声をかけてもらった。 駐車場は無料だ。 日留賀岳山頂神社の主守を兼ねておられるという小山さんに深く感謝。
  車に乗った途端、すさまじい雷鳴とともにバケツをひっくり返したような雨が降ってきた。 間一髪とはこのことだろうか。 私達は非常に運がよかったのだ。 この日この山で出会ったのは往路の稜線ですれ違った一組の中年夫婦だけだったが、彼らの車はとっくに去っていて、私達の車だけがどしゃ降りの雨霧に包まれていた。

  日留賀岳は歩きでがあり、深山の趣も充分だし、山頂や山頂付近の稜線からの展望も素晴らしい。 それになんといっても、登山口からの標高差約1200mを実感できる植生の変化(垂直変化や地形による変化など)が自然で面白い。 私にとってはこの上もなく素晴らしい山に思えた。 何時かまた、体力と気力がまだ残っていたならば、季節を変えて再登頂してみたいと、ほんとうにそう思った。

塩原温泉「華の湯」 塩原温泉「華の湯」: 国道400号線(塩原バレーライン)沿いの上塩原にある公営の日帰り温泉施設。 日留賀岳登山口のある小山氏宅からは車で約5分、東北自動車道・西那須野I.Cからは約30分の、箒川源流付近に位置する。 1999年にオープンとのことで、民家風の外観がシックだ。 浴槽など、今どきそれほど大きくはない施設だが、必要かつ十分だ。 雷と豪雨の中、露天風呂(岩風呂風)に浸かってみたが、野趣たっぷりで(雷で)少し怖かったけれど、これがなかなかけっこうだった。 多少ヌルヌル感のあるさっぱりとした湯で、泉質はナトリウム‐塩化物・炭酸水素塩泉。 循環だが、湯船からは常に湯があふれていた。 営業時間は10時〜21時。 サウナや食堂などもある。 月曜日定休(祝日の場合は翌日休み)。 入浴料は700円。 気軽に立ち寄れる温泉施設だ。

「日留賀岳の森」写真集 大きな写真でご覧ください。



日留賀岳の明るくて美しい林相
ブナ、ミズナラの巨木が印象的でした
林床はミヤコザサです
前方に日留賀岳の一角が見えています
こちらの林床はネマガリダケです
ブナ、ミズナラ、ネコシデなどが疎に生える
美しい山稜でした。

日留賀岳に咲いていた花たち
延齢草:ユリ科
エンレイソウ
猩々袴:ユリ科
ショウジョウバカマ
姫一華:キンポウゲ科
ヒメイチゲ

*** おまけのコラム ***
アズマシャクナゲハクサンシャクナゲ
その葉っぱの、見た目の違いがわかりますか?
山地の林内に生育
アズマシャクナゲ
葉裏は薄褐色で有毛(ビロード状・スエード状)
亜高山〜高山帯に生育
ハクサンシャクナゲ
葉裏は白っぽく(淡灰褐色)、殆ど無毛
ハクサンシャクナゲの葉のほうが丸まっています!

葉について、その他の違いについての詳細
 種 名  葉 身  葉 柄  葉の基部 葉裏の毛
アズマシャクナゲ 5〜15cm 10〜25mm くさび型 有り
ハクサンシャクナゲ 6〜13cm 5〜20mm 円形または浅心形 *殆ど無し
キバナシャクナゲ 2〜5cm 5〜15mm くさび型 無し
* 葉の毛が全くないハクサンシャクナゲを特にケナシハクサンシャクナゲという場合があります。
* 凡その垂直分布については、標高の低い順にアズマ→ハクサン→キバナ
*
この表は「日本の野生植物(平凡社)」などを参考にして作成しました。



*** おまけのおまけ ***
花が咲いていりゃ〜その違いはすぐにわかるんだけどなぁ〜
アズマシャクナゲの花
アズマシャクナゲ(H21/06/01・笠取山
蕾のうちは濃い紅紫色だが、開花するにつれ薄くなる。
ハクサンシャクナゲの花
ハクサンシャクナゲ(H14/07/21・平ヶ岳
花は白から淡い紅色で、内側に緑褐色の斑点がある。

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