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林道から長久保ノ頭を望む
焼き焦げた樹木(杉ノ峠)
オトコヨウゾメ
父不見山の山頂
長久保ノ頭
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モヒカン刈りの山頂部…
《マイカー利用》 関越自動車道・花園I.C-《車70分》-杉ノ峠入口〜杉ノ峠〜父不見山1047m〜長久保ノ頭1066m〜(摩利支天)〜林道(寺平)〜杉ノ峠入口-《車45分》-秩父川端温泉「梵の湯」-《車30分》-花園I.C… 【歩行時間:
2時間20分】
→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ
西上州(群馬県)と北秩父(埼玉県)の境に位置する父不見山。かなりユニークで面白い山名だ。「ててみずやま・ててみえずやま・ててみえじやま・ててめえじやま」…など、いろいろな呼び方があるらしい。その謂れについては、平将門伝説に因むものや当地の伝承によるものなど、諸説あるようだが、この山では(あるいはこの山の方向には)父が見えない…父が帰ってこない…という悲しい物語が、共通してその伏線にあるようだ。西上州の西御荷鉾山へ登ったときに尾崎喜八の碑文(*)を読んで知っていたこともあり、“関東百山”の1座ということもあり、前々から登ってみたかった山である。車を利用すれば簡単そうで、私達夫婦の今の気分と状況にぴったりだ。たまたま時間ができたので、久しぶりに二人で出掛けた。
* 父不見(ててみえず)御荷鉾(みかぼ)も見えず神流川(かんながわ) 星ばかりなる万場の泊まり [尾崎喜八の碑文(神流川紀行の一節)より]
カーナビの指示どおりに、関越自動車道の花園I.Cで降りて西へ向かう。皆野を過ぎてから閑散とした県道71号線を進み、秩父から上州へ抜ける土坂トンネルの手前で左折して、舗装されている林道西秩父線をなおもクネクネと上る。標高約780mに位置する杉ノ峠入口(南側=秩父側)に到着したのは午前8時40分頃だった。少し広くなっている路肩に車を停め、軽登山靴に履き替えたり軽くストレッチしたりして準備する。風がひんやりとやさしくて、木々たちや土の匂いも気持ちよく、日常の鬱憤がす〜っと消えていくのがわかる。
佐知子が支度に手間取っている間に、見晴しのよい地点まで林道を少し進んでみると、案の定、長久保川(沢)の源流に聳える長久保ノ頭を確認することができた。父不見山は双耳峰(父不見山+長久保ノ頭)で、西に位置する長久保ノ頭のほうが少し背が高い。それは思っていたよりもずっと小さなピークで、伐採跡だろうか、モヒカン刈りの山頂部がなんとも可愛くて可笑しい。
指道標に従ってヒノキ林の山道を登る。足元には秋の花、シロヨメナとリンドウがたくさん咲いている。センブリも少しだが可憐に咲いている。所々のやや大きめのササは…、葉裏に毛があるから(多分)クマイザサだ。それらの植生をデジカメしながらルンルンと登っていると、あっという間に(登山口から20分足らずで)杉ノ峠に着いてしまった。ここには小さな石祠が祀ってあり、展望はあまりないけれど、なんとも感じのいい空間だったので思わず中休止。“平成12年の大規模な山火事で山の南面は焼野原になった”ということだが、その名残りと思われる焦げて立ち枯れた木々が痛々しい。
杉ノ峠からは、県境の尾根をゆるやかな起伏に従って西進する。左(埼玉県側)はヒノキ、右(群馬県側)はカラマツの人工林だが、ミズナラ、カエデ類(イタヤカエデ、オオモミジ、イロハモミジ、カジカエデ、ウリハダカエデ、ウリカエデなど)、ヤマザクラ、クリ(意外と多い)、リョウブ、ホオノキ、オニグルミ、ミズキ、ヤシャブシ、クロモジ、アブラチャン、サンショウ、コアジサイ、アセビ、…などの所謂雑木が交じり、カラマツ林側は明るい自然林風だ。紅葉の盛期にはチト早かったけれど、気の早い落葉樹が色付き始めている。一部の葉が紅くなり始めたオトコヨウゾメ(ガマズミの仲間)には鮮やかな赤い実が愛らしく垂れ下がっている。北面の林(カラマツ+雑木)の隙間からは…それはほとんど“心眼”の世界だけれど…神流川が流れる大きな谷を隔てて御荷鉾山(みかぼやま)から赤久縄山(あかぐなやま)へ続く山並みが大きく見えている。
ザル平ノ頭とも呼ばれる父不見山の山頂は、木々に囲まれて展望は殆ど無かったけれど、おなかがすいてしまったので、アカマツの根元に座り込んで(かなり)早目の昼食にした。佐知子の手作りの梅干入りおにぎりが美味しい。ぬか漬けのキュウリも美味しい。サーモスのお湯を注いだインスタントのみそ汁も美味しい。黄色く染まり始めたコアジサイの葉が美しい。周囲の木々の配列が日本庭園のように美しい。
父不見山から標高差で60mほど下って80mほど登り返すと長久保ノ頭だった。ここには二等三角点(点名・大塚)があるが、周囲の木々が育っていて展望はイマイチだ。あっさり通過して、坂丸峠へ向かう主尾根を正面に見送って左折して、“摩利支天”方面へ枝尾根を南下する。すると間もなくヒノキの伐採跡へ出て、左手に大展望が開けた。もやってはいたけれど御荷鉾山〜城峯山〜秩父市街方面など北・東・南面の景色が一望だ。さらに少し進むと、右手(南西方向)に聳える二子山のごっつい山容も視界に入ってくる。
「もう少し我慢して、こっちで昼食にすればよかったわね」 と佐知子が後悔している。
「この素晴らしい眺望も、これから植栽される苗木が成長するまでのワンチャンスかもね」 と私。何れにしても、この伐採跡が、麓の林道から見えていた“モヒカン刈りの山頂部”に間違いない。
ヤブ漕ぎも覚悟していた下山道だが、これが予想に反してずっと広くていい道だった。伐採木を運ぶための林道だろうと思う。石祠があるという“摩利支天”だが、見落としたものか、(新)林道のおかげで道を外したせいか、知らずに通り過ぎてしまった。そしてアッという間に、ドスンと林道西秩父線(父不見山フラワーラインという愛称もあるらしい)に降り立った。
キクタニギクやアザミの類やシロヨメナなどの花を愛でながら、しかし怪しくなってきた空模様を気にしながら、その林道をなだらかに30分ほど下る。前方に父不見山の山頂部が見えてきて、長久保川をぐるっと右にUターンして渡ると間もなく、振り出しの杉ノ峠入口に着いた。ちょうどお昼の頃で、車に乗った途端に雨が降ってきた。間一髪、ウンがよかったかもしれない。
帰路には秩父川端温泉「梵の湯」に立ち寄ったりして、のんびりと行動したつもりだが、夕方には東京の自宅に帰ることができた。少し歩き足りない気もしたが…。
いっときだけれど、父も母も見えない処へ行ってみたい、と思ったことがある。そのときの自分を思い出してちょっぴり罪悪感を感じたりもした…、とうとう誰にも出会わない、終始ひっそりとした、静かでちいさな父不見山(ててみえずやま)だった。
秩父川端温泉「梵の湯」: 秩父鉄道皆野駅の南(徒歩だと約20分の距離とのこと)、荒川河畔に建つ日帰り温泉施設。平成19年にオープンしたらしい。完成して間もない皆野寄居バイパスの出口に近く、交通の便はいい。オートキャンプ場に隣接する。泉質はトリウム・塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉(低張性・アルカリ性・重層泉)、循環加熱、ヌルヌル感たっぷりの湯。露天風呂には温泉水は使用していないようだが、荒川が見えたりしてなかなかのロケーション。岩盤浴(別料金)もあるようだ。畳敷きの広い休憩所が心地よく、湯上がりのビン牛乳が美味かった。
「梵の湯」のHPへ
佐知子の歌日記より
山並みが靄(もや)っていても静けさがうれしい二人の父不見山
荒川の水かさ多く白波が追いかけごっこの流れの速さ
大胆にすすきとあざみ瓶に挿す野道の空気が漂ってくる
父不見山の秋
父不見山から長久保ノ頭へ
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林道から父不見山を望む
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伐採跡(長久保ノ頭の南稜)からの大展望 父不見山〜塚山〜城峯山〜武甲山方面…
シロヨメナ
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リンドウ
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キクタニギク(アワコガネギク)
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