No.325 釈迦ヶ岳と黒岳(御坂山地) 平成26年(2014年)9月13日 |
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展望もブナ林も素晴らしい! → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(日向坂峠)へ 山梨県笛吹市の国道137号線(御坂みち)の、新田の分岐を右折して林道・蕪入沢上芦川線を上る。舗装された林道だが所々に落石が転がっていて、運転には注意が必要だ。しかし意外と近い、と思った。中央道の一宮御坂I.Cからは30分そこそこの運転で日向坂峠(どんべえ峠)に着いた。 西方向の釈迦ヶ岳と東方向の黒岳への指導標があり、ここが標高約1450mの日向坂峠であることに間違いはないのだけれど、何故か、どこをさがしても「日向坂峠」とか「どんべえ峠」を表示した案内板が無い。少し広くなった路肩に先着の乗用車が1台停まっていたので、とりあえずその後ろに私達の車を停め、まず西の山道へ(釈迦ヶ岳へ)向かって歩き始めたのは午前7時半頃だった。とそのとき、ゲートの黄色い柱に黒色のマジックインキで「日向坂(どんべえ)峠」、と、頼りなく書かれているのを妻の佐知子が発見! これには笑ってしまった。…それにしても、マジックインキってなんか懐かしい響きだなぁ…。→右の写真を参照してみてください。画像をクリックすると拡大画像になります。もしかしたらポスカとかサインペンかもしれないけど…。 @ まず釈迦ヶ岳: 鋭鋒・釈迦ヶ岳への山稜は、ミズナラ、カエデ類(ハウチワカエデ、コハウチワカエデ、ウリハダカエデなど)、ヤマハンノキ、リョウブ、アオダモ、ネジキ、ヤマボウシ(若い実)、アカマツ、ツツジ類…、などの爽やかな自然林だった。高度が上がってくるとブナやツガ(少し)も交ざってくる。細身の樹木が多いので、比較的に若い自然林かもしれない。…ヤマハギが花をつけている。コバノガマズミは赤い実を可愛らしくつけている。足元にはママコナやヤマトリカブトがきれいな紫色に咲いている。上品な黄緑色のハナイカリも咲いている。歩みも自然にのろくなる。 三等三角点の標石はあるけれど、木々に囲まれて地味な山頂の府駒山を通り過ぎ、さらに稜線を西へ進む。けっこうアップダウンのあるコースだ。季節がら、あちこちのキノコが気になる。私は(食べるのは好きだけれど)キノコは恐くて苦手なので、この季節の山行では何時もなるべく見て見ないふりをしている。でも、あまりにもいろいろなキノコが次から次へと出てくるので、とうとうデジカメを取り出して、う〜ん、これをあとから図鑑などで同定するのは大変なんだけどなぁ、などと思いながら…、何枚か撮ってしまった。その度に立ち止まってはシャッターを切る私の後を、佐知子は(この日は)文句を言わずに(黙って)ついてくる。なんか、あとが怖そうだ。相変わらずママコナの群生が続く…。 岩っぽくなってきて、数箇所の(ロープに頼らなくても大丈夫な)太いロープ場を登り切ると、360度展望の釈迦ヶ岳の山頂だった。肝心な富士山や南アルプスが殆ど雲隠れしているのはチト残念だが、振り返ると、これから向かう黒岳とか懐かしの三ツ峠などの近くの山々(御坂の山々など)はよく見えている。 しかし…この釈迦ヶ岳の山頂で、ぶんぶん飛び回る凄まじい数のこの羽虫は、一体なんだろう。方位盤や2体の石仏(お地蔵さま?)の辺りは特にひどくて、もう、とにかく、羽虫だらけなのだ。虫には(女性としては)比較的に鈍感な佐知子でさえ珍しく逃げ回っている。シャツの首筋から背中に入ってきた羽蟻もいて、あちこち噛まれているようで、ちくちくと痛い。(ゴキブリを除く)虫には子供のころから愛着をもって接している私だが、これには流石にまいった。今のこの山頂はこれらの羽虫たちの縄張りなのだ、多分。で、早々に釈迦ヶ岳山頂を退散することにした。その羽虫さえ煩くなければ、ゴーロ状のとてもステキな、私好みのこじんまりとした山頂だったのだが…。 * 釈迦ヶ岳山頂の植生: 羽虫にまとわりつかれながらも、なんとか山頂部の植物についてメモすることができました。→『灌木状のミズナラ、リョウブ、アオダモ、ジゾウカンバ(これは珍しい)、(コ?)ミネカエデ。いじけたアカマツとヒノキ。コアジサイは少し…。ツツジ類→(トウゴク?)ミツバツツジ、ヤマツツジ、ホツツジ。葉が色づき始め実が上を向いているのはサラサドウダン、かな。岩の隙間に目立って咲いている草本はママコナ、ヤマハハコ、野菊の類(シロヨメナ?)。』 なお、釈迦ヶ岳の頂上に山宮がありますが、これは北西麓に位置する桧峰(ひみね)神社の奥ノ院だそうです。笛吹市のホームページによりますと、ここは「ブッポウソウ」と鳴く鳥がコノハズクであることが初めて確認された地、とのことでした。 → ウィキペディアの該当項には、「ブッ・ポウ・ソウ」がコノハズクの鳴き声であることが明らかにされたのは愛知県新城市の鳳来寺山、と書かれてあります。さて、どっちが本当? …まぁ、どうでもいいと云えばどうでもいいことかもしれないけれど…。 釈迦ヶ岳から引き返して日向坂峠に戻ったのは10時15分頃だった。お昼までにはまだ間があるけれど、お腹がすいたのでここで野菜と卵を入れた塩ラーメンを作って食べた。山で食べる(熱々の)ラーメンって、ほんとうに美味い。 …と、なにやかやで1時間近くを日向坂峠で過ごし、食後、コンロや余った飲料水などは車に置いて、今度は反対側(東側)の山道を進み、御坂山塊の最高峰・黒岳1793mを目指す。 A そして黒岳へ: 暫くは釈迦ヶ岳への尾根道と同じような植生(ミズナラ・ブナ・カエデ類など)だが、地形図上の1498m峰(無名峰)を過ぎたころからの、ずっと続くブナの純林が特に見事だった。平成6年3月に山梨県が発行した「やまなしの森林100選」によると、この辺りの森(黒岳のブナ・ミズナラ林)は、そのうちの“学術上貴重な森林・36ヶ所”のひとつとして選ばれている。同書の該当項によると樹齢150年とのことで、それから(原稿を書いたときから)20年近くが経過しているので、今は樹齢170年くらいかもしれない。何れにしても素晴らしい自然林で、“100選”に選ばれたのも頷ける。森の主役は言わずと知れた(樹齢約170年の)ブナで、脇役はイヌブナ、ツガ(少し)、ウラジロモミ(少し)などだ。林床にはササ類が無くて…明るい割にはブナの後継樹なども育っておらず…閑散としているが、これってシカなどの食害かもしれない。所々のスギゴケの類がなんとも云えぬ美しい緑色で、思わず目を細めてしまう。落葉低木のツノハシバミが例の独特な形の果実をつけている。 黒岳の山頂が近くなってきて、御坂峠方面からの主稜線に出て右折するころから、咲いている花がやたらに多くなってくる。ヤマトリカブト、ママコナ、ノギクの類、カシワバハグマ、トモエシオガマ、カイフウロ、サラシナショウマ、テンニンソウ、タムラソウ、アザミの類、トウヒレンの類、ヤマハハコ、ハナイカリ、ヤマハッカ、フシグロセンノウ…、等々、初秋の花たちの競演だ。特に見ごたえがあったのはサラシナショウマとヤマトリカブトの其々の群生で、私達はうれしい悲鳴の連続だ。 三等三角点のある黒岳の山頂は木々に囲まれているので、道標に従って200mほど進み、南側(つまり富士山側)が大きく開けた展望台で大休止にする。富士山は相変わらず雲の中で、その裾野が微かに見える程度だったが、手前の細長く見える河口湖や右端の節刀ヶ岳や十二ヶ岳などの方面はよく見えている。私達は中くらいの大きさの1株のブナの木の下に陣取り、長いことそれらの穏やかな風景を楽しんだ。 来た道を戻り、日向坂峠に下山したのは午後2時半頃だった。きわどい時刻だが、帰路に予定していた「ももの里温泉」に立ち寄る時間は(やっぱり)なさそうだ。私達は夕方までには帰宅しなければいけないのだ。 「もう少し早く歩けばよかったかなぁ…自然観察をやりすぎたかなぁ…」 と云ったら、佐知子はそっぽを向いて返事をしてくれない…。恐(こわ)〜。 この日、山中で出会ったハイカーは2組の4名だけだったが、峠付近では親子連れなど数組の(キノコ採りの)人たちと出会った。後日談だが、この山行で撮ってきたキノコの写真には、多分、毒の無い(食用の)キノコは1枚も写っていなかった。多分、と書いたのは(やっぱり)私が持っている安物のキノコ図鑑では(正確な同定について)まったく歯が立たなかったからだ…。登山道沿いに生え残っているんだもの、そうだよね、食用のキノコがそう簡単に見つかるはずはないよね、と悟った私です。 佐知子の歌日記より 頂上はハムシの群れが飛びまわりすぐに立ち去る釈迦ケ岳なり 方角を確かめ心で描いてみる雲の扉をあけた富士山 熱いのでメガネがくもるラーメンをすばやくすすって昼食とする 長月に新緑の海をみたような光にゆらぐ黒岳のブナ 赤白茶きのこが招く山の道なめこらしきを夫が見つめる
黒岳の展望台から河口湖を見下ろす : 雲の中の富士山〜十二ヶ岳・節刀ヶ岳 このページのトップへ↑ ホームへ |