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No.324 朝日山1299m赤鞍ヶ岳1257m(道志山塊)
平成26年(2014年)8月16日 曇り・山頂部はガス マイカー利用

朝日山と赤鞍ヶ岳・略図
屁糞葛:アカネ科の蔓性多年草・別名ヤイトバナ、サオトメバナ
ヘクソカズラ

最近できたばかりと思われる鳥獣害対策の鉄柵
鉄柵をくぐる

2株の杉の大木が鳥居のよう・・・
秋葉神社に参拝

入道山の地味な山頂
入道山の山頂

ガスのため視界約50m
秋山峠に到着

節黒仙翁:ナデシコ科の多年草
フシグロセンノウ

霧に包まれた朝日山(赤鞍ヶ岳)1299mの山頂
朝日山の山頂にて

岨菜:キキョウ科ツリガネニンジン属の多年草
ソバナ

玉紫陽花:アジサイ科の落葉低木
タマアジサイ

球白鬼茸:テングタケ科・毒あり!
タマシロオニタケ?


とても静かな私達のお盆休み
山名のあやふやな山は危険かも…

《マイカー利用》 中央自動車道・相模湖I.C-《車50分》-竹之本・道志村役場の駐車場〜登山口〜入道山979m〜秋山峠〜朝日山(赤鞍ヶ岳)1299m〜秋山峠〜1232m峰〜ウバガ岩〜赤鞍ヶ岳(ワラビタタキ)1257m〜大栗分岐〜大栗〜道志村役場 【歩行時間: 約5時間】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


 中央道の相模湖I.Cから、カーナビに導かれて国道413号線(道志みち)へ入る。お盆の土曜日ということもあって、いつもより走っている乗用車の台数が多いようだ。帰路の道路渋滞は、やっぱり覚悟しておいたほうがいいわね、と助手席の佐知子が独り言。
 道志村役場前の小広い駐車場をお借りして、歩き始めたのは午前8時少し前。アスファルトを西へ向かって(大川渡バス停方面へ)少し進み、「朝日山」と書かれた木製のシブい道標に従って右折する。可愛らしいレリーフの石像(六地蔵?)や傍らに咲いているヘクソカズラやオオマツヨイグサ(月見草)などを愛でながら、情緒たっぷりな田舎道をだらだらと上る。振り返ると、道志川の流れる大きな谷を挟んで大室山や加入道山などの北・西丹沢の山々が、霧に山頂部を包んで、眼前に大きく聳えている。
 墓地の脇を通り過ぎた先に竹之本地区の農家の方々が作った“鳥獣害対策”の立派な鉄柵があって、これを丁寧に開けて、そして丁寧に閉めて、さらに田舎道(林道と書いたほうがいいのかなぁ)を進む。すると左手に立派な杉が2株あり、その奥に小さくて渋い木祠(秋葉神社*)が祀られていたので、ここで登山の安全を祈願する。なんか、とてもいい感じのアプローチだ。30分近くも歩いただろうか、ようやく登山口を示す「←赤鞍ヶ岳」の道標が出てきて、左折して登山道へ入る。
 * 秋葉神社: 総本宮は静岡県浜松市にあり、御祭神は火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ・火の神様)。特に防火のご利益があるという。
 まずスギ・ヒノキの植林地帯を登る。けっこうな急坂だ。やがてコナラ、クヌギ、クリ、イヌシデ、サワシバ、トチノキ、オニグルミ、ミズキ、イロハモミジ、オオモミジ、ウリカエデ、コハウチワカエデ、イヌブナ、ホオノキ、ダンコウバイ、ノイバラ、ツツジ類、アカマツなどの天然林も交ざり始め、益々いい感じになってくる。
 高度が上がってくると、森の主人公がコナラからミズナラへと移行する。出発地点(道志村役場)の標高が600m弱だから、標高差で400m近くも登っただろうか。そこに指導標の無い分岐があり、右側の道は尾根を巻いているようだ。私達は珍しく相談もせずに、左側の尾根道へ進む。と、思った通り少し先のピークに(地味な)山頂標識があり、「入道山」と書かれてあった。樹木に囲まれて、山頂標識に似合いの地味な山頂979mだったが、私達は少し立ち止まって少し喜んだ。
 入道山から先の暫くは傾斜が緩んだが、やがて再び(ロープ場もある)強烈な急登になる。この登山道は最近誰も歩いていないようで、ときどきクモの巣が顔にかかるのが鬱陶しい。今朝ほど降った雨の影響で、足元の草露も鬱陶しく、ズボンの裾がびしょびしょだ。何時しか辺りは霧に包まれて、神秘的な森の美しさだ。そしてとうとうブナが目立ち始めた、と思ったころ、ひょいと主稜線(秋山峠)へ出た。
 この秋山峠の(ミズナラの幹に括りつけられている)指導標は朽ちかけていて、判読不能だ。その根元には壊れて分解してしまっている道標があったので、拾い上げてみたら「←赤鞍ヶ岳」と読めた。登山口の道標でもそうだったのだが、“赤鞍ヶ岳”っていったいどっちの山?(朝日山のこと? 赤鞍ヶ岳=ワラビタタキのこと?)と一瞬考えた。地図もコンパスも持参していないような登山初心者だったら、多分この時点で何らかの錯覚をしてしまう可能性があると推測した。ちなみに、私達が登ってきた道の方向を見下ろすと、(イネ科の)草茫々で、この朽ちかけた道標が無かったならば分岐地点とは思わないかもしれない。それはそれで、山登りの(ルートファインディングの)醍醐味が味わえる得難いコース、という言い方もできるかもしれない…。何れにしても、反対コース(秋山峠から竹之本へ下る)を選ばなくてよかった、と思った。傍らにはナデシコ科のフシグロセンノウが、不気味なくらい美しく朱赤色の花を咲かせていた。
 秋山峠を左折して、霧が漂う幻想的な稜線を7〜8分ほどなだらかに進むと、そこが朝日山の山頂1299mだった。しかし山頂標識には「赤鞍ヶ岳」と書いてある。ガイドブックなどに「朝日山(赤鞍ヶ岳」と表記してある意味がおぼろげに理解できた。辺りはブナ、ミズナラ、リョウブ、サワシバ、コハウチワカエデ、ホオ、カラマツなどの木々に殆ど囲まれている。北側が幾分開けているようだが、近くに見えるはずの高畑山〜倉岳山矢平山などの中央沿線の山々は霧の中だ。林床の主は背の低いササ(ミヤコザサ?)やテンニンソウだ。サワシバ(カバノキ科の落葉高木)とかテンニンソウ(シソ科の多年草)とか、本来は沢筋などの湿った場所を好む木や草が山頂部に生育しているのは何故だろう、と考えてみた。多分、雨量が多くてこの日のように霧が発生しやすい気候条件や、保水力の高い土壌などが関係しているのではないか、と(独断なので間違っているかもしれないが)推理してみた。
 まだ午前11時前なので、弁当を食べるにはチト早すぎる。山頂部の樹木などをざっと観察してから、私達は踵を返し、秋山峠を通過して主稜線(唐沢尾根)を東進する。踏み跡が頼りない箇所もあるが、上野原市(旧・川上村)と道志村の赤い境界標を目印にすれば大きく道を外すことはない。実際の(それなりに踏まれた)縦走路はその左側(北側=上野原市側)を進むことが多いようだ。ブナ交じりのステキな山稜で、ササの生い茂る空間にはソバナ、キバナアキギリ、オヤマボクチ(開花前の状態)、タマアジサイなどが(辛うじて)咲いている。土の上には真っ白なキノコ(タマシロオニタケかな?・有毒らしい)があちこちに生えている。
 地形図上の1232m峰と思われるピークは知らずのうちに通り過ぎる。ウバガ岩(小規模の岩場)もあっという間に登り過ぎるが、あとから思うと、本コースで唯一の岩っぽい箇所だった。少し開けて展望の良さそうな処も通過するのだが、如何せん霧が晴れない。アップダウンを繰り返し、朝日山から1時間強で、赤鞍ヶ岳(ワラビタタキ)1257mと思しき地味な山頂にようやくたどり着いた。“思しき…”と書いたのはここに山頂標識が無かったからだが、三等三角点の標石が中央にドド〜ンとあったので、まず間違いない。その三角点を囲むように四方に株立ち状のアブラチャン(クスノキ科)が生えている。赤い葉柄が印象的な落葉低木だ。ガイドブックなどによるとこの北側(巻道)の近くに雨量観測所があるとのことだが、樹林のせいか濃霧のせいか、それを視認することはできなかった。(つ〜か、もう既に疲れ果てていて確認する気力が無かった。) とりあえず、佐知子が握ってきた絶品のおにぎりで大休止だ。サーモスの氷入り麦茶も超美味い。
 ひっそりと霧が立ち込める赤鞍ヶ岳の山頂でまったりと時を過ごし、どっこいしょと腰を上げる。周囲の樹木を少し観察してみると、アブラチャンやイヌシデの他にはカエデ類が多いようだ。オオモミジかなコハウチワカエデかな、などと思ってあれこれと観察していると、それらと少し違う葉っぱ(切れ込みがより深い)のヒナウチワカエデと思われる種もたくさん自生しているのを確認する。豊かな植生にまたまた感動だ。下山開始は12時45分頃だった。
 ヤマジノホトトギスなどを愛でながら20分ほどなだらかに進むと分岐があって、ここには分かりやすい道標が立っている。その道標に従って巌道峠への主稜を左に分け、道志村大栗への枝尾根をひた下る。こちらも(上りに勝るとも劣らない)急坂だ。
 林道を横切って再び山道を下り、送電線の鉄塔下を通り、ずんずん高度を下げる。霧が晴れて…つまり雲の下へ出ると…前方に大室山などの丹沢の山々が、矢張り山頂部に霧を被って聳えている。上りの登山道(竹之本コース)と比べるとこの下山道のほうが開けた箇所が多くて、展望に関してならこちら(大栗コース)のほうが良さそうだ。
 再び(工事中の)林道を横切ると間もなく、国道413号線の大栗バス停近くに出る。右折してアスファルトを約20分も歩くと、振り出しの道志村役場の駐車場へ到着だ。時計を見ると午後3時少し前。やっぱり、特に下山路ではスローペースになってしまっていたようだ。足が大分弱っているのをつくづくと感じたが、その原因には(家庭の事情などから)登山頻度が少なくなってきたことや、(相変わらずの)常日頃の鍛錬不足などもあると思う。でも、やっぱり“トシ”がその主因じゃないかしら、と、同類を相哀れむ(同級生の)私達夫婦だった。

* 帰路に立ち寄ったこの日帰り温泉施設の超混雑ぶりや中央道の渋滞など、いったいこれらの人たちは何処から湧いてきたのか、と訝るほどの衝撃を受けた。つまり落差が大きすぎたのだ。それほど、この日の朝日山と赤鞍ヶ岳は静かだった。山行中はとうとう誰とも出会わなかったのだから。

  佐知子の歌日記より
 山道を霧につつまれ君と行く 赤鞍ガ岳を二人占めする
 中央道スピードあげても掴めない 東の空の虹の両端


緑の休暇村センター「いやしの湯」 緑の休暇村センター「いやしの湯」: 道志から中央道の相模湖I.Cへ至る道沿いには道志温泉「道志の湯」や道志川温泉「紅椿の湯」や「藤野やまなみ温泉」などもあるのだけれど、今回の立ち寄り湯は、迷った挙句にまだ行ったことのない「いやしの湯」を選んでみた。地籍は神奈川県相模原市緑区青根で、相模湖I.Cまでは車で約15分、道志川沿いに位置する。2005年にオープンしたらしい。内湯も露天も広くて立派で、泉質は低張性アルカリ性温泉(カルシウム・ナトリウム・硫酸塩泉)、“しっとりとなめらか”な湯だった。食堂を兼ねた休憩所など、日帰り温泉として何も不満はないのだが…、如何せんこの日は混み過ぎていた。お盆の土曜日だったので、まぁ仕方のないことだったが…。
 外部サイトへリンク 「いやしの湯」のホームページ

  道志温泉「道志の湯」については、拙山行記録の菰釣山の項を参照してください。
  道志川温泉「紅椿の湯」については、拙山行記録の鳥ノ胸山の項を参照してください。
  「藤野やまなみ温泉」については、拙山行記録の菜畑山の項を参照してください。

*** コラム ***
山名のあやふやな 朝日山と赤鞍ヶ岳の山名について

 道志山塊のこの2座の名峰(1299m峰と1257mの三角点峰)は、その山名があやふやでかなりの異同があります。だから、山名についてある程度の定義をしておかないと一歩も前へ進めない(山行記録が書けない)、と私は危惧しました。本来はこのコラム欄は冒頭に置かれるべきものだと思いますが、そうするとなんかつや消しになってしまいそうなので、この位置に設けました。

ウバガ岩
ウバガ岩

三角点のある赤鞍ヶ岳(ワラビタタキ)の山頂
赤鞍ヶ岳の山頂
 国土地理院の地形図では竹之本の北に聳える1299m峰を「赤鞍ヶ岳」と注記していますが、多くのガイドブックや山名事典などで共通しているのは“朝日山が正しい”ということです。赤鞍ヶ岳というのは、その朝日山から東へ進んだ稜線上…直線距離にして約1.6Kmほどの地点に位置する標高1257mの三角点峰(地形図上は無名峰)のことで、ワラビタタキとも呼ばれているらしいです。もうこの時点でかなりややこしくなっていますが、つまりこの2座の山名が入りくって、ごちゃごちゃになっている感じがします。本文にも書きましたが、朝日山を「朝日山(赤鞍ヶ岳)」、赤鞍ヶ岳を「赤鞍ヶ岳(ワラビタタキ)」と表記しているガイドブックが多いのも頷けます。なお、赤鞍ヶ岳の山名については、この西にある岩壁(ウバガ岩)が赤鞍(赤岩)と呼ばれていたことに由来するといいます。
 では、現地での表記(山頂標識など)はどうなっているのかというと、これも本文に書きましたが、朝日山は「赤鞍ヶ岳」となっていて、三等三角点(点名:大栗村)のある赤鞍ヶ岳には、なんと山頂標識が設置されていないのです…。ということは、赤鞍ヶ岳は地形図と同じ扱い(山名注記のない山=無名峰)ということになります。「赤鞍山」とか「赤倉ヶ岳」などと書かれることもあるようで、矢張りかなり混乱しています。
 楠目高明氏は1985年に出版された著書「関東百山(共著)」の中で“地元有志の調査を待ちたい…”と述べられていますが、私も(僭越ながら)同感です。しかし、その後特に進展がないことを鑑みると、地元でもよくわからないのではないか、と思ってしまいます。夏のこの山稜は籔っぽいですが、山名についての真実も藪の中にあるようです。
 まぁどうでもいいこと、と言ってしまえばそれまでのことかもしれませんが…、実際に山名のあやふやな山に登ってみて、今回はっきりと感じたことがあります。それは、地図の山名や現地での山名表記があやふやなのは、登山者にとってとても危険なことじゃないのかなぁ、ということです。錯覚して道迷いの原因になるかもしれませんし、他の登山者との情報交換などで話の辻褄が合わないことがあるかもしれませんし…。
 ということで、本文では1299m峰を朝日山、その東に位置する三角点峰1257mを赤鞍ヶ岳、と表記してあります。ご承知おきください。
* 本欄は「関東百山(実業之日本社・1985年6月初版)の「朝日山(赤鞍ヶ岳)」の項(執筆担当:浅野孝一氏)、及び「菜畑山」の項(執筆担当:楠目高明氏)、「日本山名事典(三省堂)」、その他数冊のガイドブック、などを参考にして記述しました。

* ご意見ご感想は当サイトのBBS(掲示板)をご利用ください。




秋山峠から朝日山へ向かう
霧の山稜を行く
ガスが切れて視界が広がった
下山路から道志の谷を望む
山頂部は雲(ガス)の中です
下山路の中腹から道志の谷を隔てて丹沢の大室山〜加入道山方面を望む

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