No.397 玉原湿原から鹿俣山1637m 令和2年(2020年)6月21日 |
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→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(鹿俣山)へ 未だコロナ禍は全然収まってはいないけれど、5月25日に緊急事態宣言が解除され、それに伴って6月19日からようやく(天下晴れて)都県境を跨いで郊外へ行けるようになった。そんな東京都民の私達夫婦が満を持していたのが、前々から狙っていた群馬県沼田市の北部、標高約1300mに位置する玉原(たんばら)高原だった。スキー場やラベンダーパークなどもある観光名所、というのがちょっと気にくわないけれど、関東でも有数といわれるブナ林が超魅力だ。運動不足の身体を慣らす意味でも安心・安全を優先させたコース選択、という言い逃れもできるけれど…。 とはいうものの、6月11日に九州北部・関東甲信・北陸・東北南部の梅雨入りが発表され、それからずっと(関東地方は19日まで)雨降りの毎日だった。梅雨の晴れ間を狙ったこの日(6月21日・夏至)の朝、私達夫婦はうきうきとマイカーに乗り込んだ。 関越自動車道の沼田インターから約30分、玉原ダムを左に見下ろしてなお暫く直進すると車止めのゲートがあって、その左手前が玉原センターハウスの大駐車場(無料)だった。日曜日ということもあって、既に20台近く(満車時の約50%)が駐車していた。トイレへ行ったりして準備して、ゲートを通り抜けて舗装道を玉原湿原に向かって歩きだしたのは9時頃だった。晴れの天気予報は外れて、空はどんよりとしている…。 まずはなだらかに下って、標高約1160mに位置する分岐を道標に従って右折して、木道を進むと間もなく玉原湿原だ。この時季はウラジロヨウラク、オゼタイゲキ(ハクサンタイゲキ)、ヒオウギアヤメ、コバイケイソウ、ワタスゲ、キンコウカなどの花期にあたっていて、なかなか見ごたえがある。小さくて見過ごしてしまいそうなトキソウやサワラン(アサヒラン)も、少しだが、可憐に咲いている。…しかし、この湿原の総面積は思ったよりもずっと狭くて(約4ha)、小尾瀬というよりはミニ尾瀬といったところかな。乾燥化している箇所にはハイイヌツゲやミヤマナラなどが侵入しているようだが…、何れにしても、小さいけれどとてもいい感じの湿原だ。植生などに関する(県の?)案内板や説明板がビジュアルで、とても分かりやすい。 湿原の末端を右折して、沢コース(水源ルート)を登ってブナ平へ進むと、うゎ〜、素晴らしいブナの自然林だ。 「やっぱり、水が豊富で平らな地形にブナは強いのね。さすが極相種ね」 と妻の佐知子が云っている。森林インストラクターを気取っている門前の小僧かも、と内心思ったけれど(もちろん)ここは黙って彼女の後ろをついていく。…時折日が差して、それが木漏れ日となって、緑の明るい森はこの上もなく美しい。 稜線へ出て、鹿俣山(かのまたやま・1637m)を目指してブナ平を東へ進む。ブナ(オオバブナ)以外の主な高木はミズナラ、トチノキ、シナノキ、ホオノキ、ナナカマド、イタヤカエデ、ウリハダカエデ、そしてアスナロなど。林床の主はチシマザサ(ネマガリダケ)で、典型的な東北〜日本海側の自然林(つまりブナ林)だ。それが(関東の割には)ものすごく自然で原生的で、岩にしがみついて辛うじて生きているアオダモを見たときなどには、やはり感動してしまった。多分(この地においての)自然保護については紆余曲折があったとは推測するけれど、ギリギリの線で今の私たちに本当の自然の姿を見せてくれているこの地に感謝感激だ。 21年前に(この玉原高原の東隣に聳える)上州武尊山に登ったときの、麓の美しいブナ林の思い出話などをしながら、なだらかな山稜を正味70分ほども進む。と、やがて開けた処(スキー場の上部)へ出て、玉原湖方面(南西方面)の展望が開ける。しかしこの日は如何せん天気が悪くて、ガスっぽくて、ぼんやりとしか望めない。晴れていれば谷川連峰や巻機山なども見渡せるらしいが、すぐ近くの尼ヶ禿山(あまがはげやま・1466m)が辛うじて眼下に識別できる程度だった。…この広い草付き(ゲレンデ)で、じつは、私達は進むべき道を間違えてしまう。 左手に赤テープの道案内があるのはわかってはいたのだけれど、私達はそれらの道標を無視して、ゲレンデの中央をリフトに沿って登っていった。1/25000の地形図(電子国土Webのコピー)を読むと、リフトの最上部の奥に破線(登山道)があって、目指す鹿俣山の山頂はその少し先なのだ。しかしこれが結果オーライとはならず、大変なアルバイトになってしまう。 左上の(第4リフトの)降場の奥はチシマザサの鬱蒼としたヤブになっていて、これ以上は進めそうにない。しからばと、そのさらに右上の第2高速リフトの終点まで登ってみたけれど、こちらの奥にも道らしきものはなくて、やはり密で鬱蒼としたヤブがあるばかり。佐知子がかなり苛々して 「戻りましょう!」 としつこく言っているけれど、私はそれでも意地を張って、道型らしきものを見つけて強引に突き進んでみた。しかしやはり全くお手上げ状態になり、危険さえ感じた。結局、元に下って、薄い分岐を正しい方向へ進むことになった。するとあっという間に(20分足らずで)鹿俣山のこじんまりとした山頂に着いてしまった。このアルバイト(ルートロストによるタイムロス)は、なんと40分以上だった、と思う。焦っていたので、この間の写真は一枚も撮っていない…。ふぅ〜、疲れた。意地は張るものじゃない。道標を無視してはいけない。 鹿俣山の山頂は南東面が開けていて、近くの剣ヶ峰山(西武尊)はもちろんのこと、赤城山や三峰山などの上州の山々の展望が良いらしいけれど、この日はホワイトアウトだ。狭い空間に座る場所を見つけて、近くのオオカメノキのまだ青い実を観察しながら、お弁当のおにぎりを食べる。暑くもなく寒くもなく、そよ風が心地よい静かな山頂だった。 下山開始は13時頃。山頂直下の分岐まで戻り、左折して尾根道を下る。今はもう咲き終わってしまったアズマシャクナゲの群生地やブナの美林を通過する。林床では真っ白な幽霊・菌寄生植物のギンリョウソウが自己主張している。この尾根の右手(西側)は並行してラベンダーパーク(夏季・有料)やスキー場になっているが、それらは樹林に遮られて見えないようになっている。やがてそのゲレンデを横切ったり、今は閑散としている森林キャンプ場も横切ったり、そして再びブナ林の森林浴を楽しんだり…、などして遊歩道を楽しく下る。ヤグルマソウやクリンソウの咲く銅金沢(どうきんざわ)の瀬音を聞きながら進むと、振り出しのセンターハウスの駐車場は近い。腕時計を見ると丁度15時。私達の頭上でエゾハルゼミが、哀愁を帯びた鳴き声で「おつかれさま」って云っている。 * 玉原高原は、スキー場やラベンダーパークなどの人工的な部分もありますが、案外と広い面積で、自然がいいかたちで保全されています。この山域の施設やハイキングコースなどは玉原ダムの完成(1981年)にともない整備されたと聞きます。子供連れや(常日頃の鍛錬不足の)中高年ハイカーなどが安心・安全に歩くことのできる、ありそうで案外と少ない、本物の自然を楽しめる貴重なエリアだと思います。願わくは、自然を自然のままに、なるべく手を入れないでほしい…。 白沢高原温泉「望郷の湯」: 玉原高原ハイキング(鹿俣山登山)の帰路に立ち寄ったのが、平成6年4月にオープンしたという「望郷の湯」。沼田インターからは約10分(約4km)の距離。「道の駅・白沢」と「座・白沢(農産物等直売所)」を併設。玄関前の広場にすっくと立つ大きなケヤキが印象的。“モダンな外観とおしゃれな内装”のコピーには納得だ。泉質はアルカリ性単純泉で一部循環。かなりのヌルヌル感がある。無色透明だが塩素臭がちょっと気になった。とはいえ外湯も内湯もなかなかいい感じで、コスパは高い(入館料:2時間以内は@580円)。すてきなレストランがあったけれど、今回の私達の風呂上がりは自販機のビン牛乳だけで我慢した。そのビン牛乳は、もちろん最高! 久しぶりの“甘露〜甘露”だった。 帰路の関越自動車道は少し渋滞したけれど、苛々するほどではなかった。 「望郷の湯」のホームページ 佐知子の歌日記より 駐車場に他県ナンバー並びおり おとといからは往来自由 葉を照らす光零れる玉原のぶなの森には妖精が住む まずは桶よくよく洗い口閉じて湯舟につかる日帰り温泉
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