佐知子の歌日記・第四集
佐知子の歌日記・第四集
平成25年8月〜9月
しらびその林の床の幼木の みどり葉きらり受けつぐいのち
のど痛く話をするには億劫でツンツンすました顔にて過ごす
顔知らぬあわれ祖父母の旅立ちは昭和二十年五月と九月
花柄の半ズボンはく青年は ぼそっとあんパントレイにのせる
十歳の孫と美肌の湯につかり しっとりしたねと腕をみせあう
ゆっくりと母の名呼べば「はい」と云う 忘れていない貴重なことば
テラスにてくつろぐ孫はお台場の景色となりぬ緑のTシャツ
そういえば蝉の声せぬ散歩道 夕べ小庭にこおろぎの鳴く
雑踏をかきわけ進む雨上がり とんぼがするりぬけて行くなり
台風に落ちた葉の山よけて行く 今日の歩数は一割増しか
咲きそろう赤のまぶしき曼珠沙華 遅刻はしないクローンのさだめ
ぬばたまの黒髪復活あるらしい 知らずにきのう茶髪にしたわ
ゴーヤ食べ苦さのどから胸にまで届いてひびく夕餉の雷雨 (8.1)

金峰山登山 (8.2)
しらびその林の床の幼木の みどり葉きらり受けつぐいのち
高校生重いリュックで山登り 汗のしぶきが輝いている
マスコットは君の作りし温度計 リュックを離れ道迷いなり

年ごとに動きなめらか踊る孫 我には見えるプリマドンナに (8.4)

年上に将棋教える孫の声 うわずりひびいてはずんではやく (8.5)

土に描く水玉模様のありの巣は地下でつながるお城のぬけ道 (8.5)

のど痛し夏風邪らしくけだるい日 朝六時より梅を干すなり (8.8)

のど痛く話をするには億劫でツンツンすました顔にて過ごす (8.8)

陽にあてた梅干かめに並びいれ おいしくなあれと呪文をかける (8.9)

夏だ夏やまが呼んでる叫んでいる 介護がどうしたどうにもならぬ (8.9)

自転車で三十分の老人ホーム 暑さを理由に行かず昼寝する (8.10)

外食の濃い味どきりハンバーグ 慣れし減塩舌はおろおろ (8.11)

なめらかな響きのはずむ歌詠めず 頭ちらちら鉛筆ぽきん (8.14)

新しいビールの味に君は酔う 清しのどごし琥珀のしずく (8.14)

顔知らぬあわれ祖父母の旅立ちは昭和二十年五月と九月 (8.15)

葉の影を捜しながらの公園に酷暑を背負いひたすら歩く (8.17)

ダイエットしなくてやせた一キロ半 十年使う怪しい秤 (8.17)

五日後の孫との登山晴れてくれ 一日だけの小さな願い (8.17)

花柄の半ズボンはく青年は ぼそっとあんパントレイにのせる (8.18)

「いらっしゃい」レジの林
(りん)さん中国人か 発音のずれ良し可愛らし (8.18)

 
今夏から、甲子園初の休養日
休養日なのに練習すからだには限りがあるぞ高校球児 (8.20)

酒好む君との距離をちぢめたく たまに付き合うボルドーの赤 (8.20)

 
孫たちと湯ノ沢峠から大蔵高丸とハマイバ丸へ (8.22)
口々に疲れを連発する孫ら 足どり軽く登っているのに
頂上にだれもいないと驚いて高尾山との違いを云う孫
二千キロ小さな翅で飛行する浅黄斑の美の底力
虫好かぬ孫の視線は景色より弁当よりもアリンコ・ハムシ
十歳の孫と美肌の湯につかり しっとりしたねと腕をみせあう
湯上りに「ああいい気持ち」と云いながら空を見上げる六歳男子
どの曲も同じに聞こえるAKB でものってるねさすがアイドル
(車中で)

五度凉し金魚の泳ぎいきいきと 少し多めにえさをやるなり (8.25)

大田区のすべての図書館さがしたが短歌の本の少ない現実 (8.25)

ゆっくりと母の名呼べば「はい」と云う 忘れていない貴重なことば (8.27)

テラスにてくつろぐ孫はお台場の景色となりぬ緑のTシャツ (8.29)

人工の島をめぐってゆりかもめ 線路がなくても電車は動く (8.29)

映画にと誘ってみたが「そのうちテレビでやるよ」と君の冷笑 (8.29)

予約日は我の誕生日「また一つ年をとるわ」に歯医者が笑う (9.2)

潮温が高くてさんま遅れそう 待つ日が増えて食欲二倍 (9.2)

この六つき短歌読むとき詠むにつけ国語辞典を使わぬ日はなし (9.2)

そういえば蝉の声せぬ散歩道 夕べ小庭にこおろぎの鳴く (9.3)

かみ合わぬ歯車重く背負い行く つまずきころぶバンドエイドどこ (9.10)

品えらび迷いに迷う孫の足 ララランランと誕生日なり (9.15)

日曜日なれた手つきで皿をもつ 孫と張り合う昼バイキング (9.15)

雑踏をかきわけ進む雨上がり とんぼがするりぬけて行くなり (9.15)

台風に落ちた葉の山よけて行く 今日の歩数は一割増しか (9.17)

美容師は結婚したと微笑する いつになるのか息子の寿 (9.19)

スマートフォン使いこなせず十ヶ月 残量電池に八つ当たりする (9.19)

咲きそろう赤のまぶしき曼珠沙華 遅刻はしないクローンのさだめ (9.23)

ジョギングのあせふきタオル忘れたが  風に拭われ足取り軽く (9.23)

 題「外国の人」
外国の人と思えば気が楽になるかもしれず近所づきあい (9.23)
愛しすぎもっと悪口いいんだよ 山形県人ダニエル・カール (9.23)

ぬばたまの黒髪復活あるらしい 知らずにきのう茶髪にしたわ (9.24)

迷いなくお茶が恋しい涼しさに 夕べの一服しみわたりゆく (9.25)

 白金台の自然教育園
樹々のこと説明は聞いていないけど 君の笑顔で生きもの生きる (9.26)

素足ではごみ出し少し凉しくて 走って往復彼岸はあけた (9.26)

Yシャツの右カフスのみ汚れてる 息子の仕事重く片寄る (9.27)

再検査結果がわかるその日まで三時のおやつはケーキに決めた (9.29)

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