佐知子の歌日記・第五集
佐知子の歌日記・第五集
平成25年10月〜12月
「眠れないの?」に「うん」と云って寝返りす 午前三時の君のやさしさ
風強くからまつの葉の舞いにけり リュックの中に黄葉を見る
紫のビオラの鉢を並べたら 風にまかせてゆらゆら笑う
悪玉のコレステロール上昇に 買わない豚肉買えない牛肉
肉眼で世の中みたのは十数年 めがねをたよりのああ半世紀
山並みが靄
(もや)っていても静けさがうれしい二人の父不見山
地図広げあちこちの峰ゆびで追う 手招きするよな等高線
クリスマスツリーやリースを飾りたて 新年は氏神様へ参ります
小春日に怪しく広がる大樹海 富士が両手で静寂つつむ
手をくじき腫れる甲にはしわがなく 痛くはあれど二十歳の張りなり
手のくじきやっと良くなりなめらかに 指でかぞえる短歌のリズム
雨音が歌っているよな夜ひとり つられて足がタンタンタタン
虫の音と問えば違うよ耳鳴りと云われせつない老い行くパーツ (10.1)

骨酒を口にふくんで目じり下げ うまい香に君は酔うなり (10.1)

わざわざの弟よりの電話うけ いつもの声が胸に染み入る (10.6)

すっきりと乾ききれない洗濯物 吹く風あるが残る湿り気 (10.6)

息が切れめまいがしそうランニング「ファイト!」と云われ寄り目で答える (10.6)

運ばれし救命室に上掛けを ずれないように握りしめる母 (10.7)

「眠れないの?」に「うん」と云って寝返りす 午前三時の君のやさしさ (10.7)

帰るなりリレーの補欠になったよと よろこぶ孫の肩がふるえる (10.9)

 
浅間連峰2日間の山旅 (10.11〜12)
予報では雨になりそな山登り 降るなら降れと強気で眠る 
前夜
歓声に応えるごとく浅間山 少しずつ出す細い噴煙
風強くからまつの葉の舞いにけり リュックの中に黄葉を見る
浅間ベリーつまみながらの山ガール 霧のち晴れのなごやか登山

リハビリの三月を経ても動かぬと おじぎのような左手のチョキ (10.14)

手作りの木の写真立てセンスよく 息子とともに君をおだてる (10.15)

台風に臨時休校の孫たちはゲームにパソコンピアノにトランプ (1016)

晴れに干す洗濯物の数たるや 五十枚まではおぼえていたが (1017)

三等賞 おなじでよかった徒競走 負けずぎらいの二人の孫の (1019)

冷え込みに肩をまるめて歩く君 きびしいことを多く背負う (1019)

黒飴によく似たボタンをなめようと 力の限りひきちぎる義母 (10.21)

「また来るね」「よろしくお願いいたします」 言葉があるから声が聞こえる (10.21)

紫のビオラの鉢を並べたら 風にまかせてゆらゆら笑う (10.23)

  「走る」 (10.24)
お使いに走って卵を買いに行き 三つを両手にそろりと帰る
  半世紀昔の回想
写真にて見ているだけの紅葉に 思いは走る涸沢カールへ

  「肉」 (10.24)
悪玉のコレステロール上昇に買わない豚肉買えない牛肉
筋肉がつくとのうわさ散歩後に牛乳一杯ふた月ためす
肉眼で世の中みたのは十数年 めがねをたよりのああ半世紀


 「目」 (10.24)
濃く長い我のまつげは副作用 うれしかなしい目ぐすりタイム
父に似て黒いいい目と云われたが緑内障も受け継ぐなんて
編むほどに毛糸のマフラー三角に端で増やし目してしまう母

秋晴れに二人で終えた障子張り 初体験に早寝する夫 (10.27)

 
父不見山登山 (10.29)
山並みが靄
(もや)っていても静けさがうれしい二人の父不見山(ててみえずやま)
荒川の水かさ多く白波が追いかけごっこの流れの速さ
大胆にすすきとあざみ瓶に挿す 野道の空気が漂ってくる

気負いすぎわかっているのに消しゴムを使うばかりの短歌のノート (11.1)

だぶだぶのユニフォーム着る野球人 テレビ観戦五年ぶりなり (11.2)

ハロウィンが終わればすぐにクリスマス スーパーで知る歳時記かしら (11.3)

一年をかけて育てた鉢の菊 見せる老い人くちもとゆるむ (11.6)

母親に食べさせたいと君は云う アツアツ牡蠣のバターソテーを (11.6)

地図広げあちこちの峰ゆびで追う 手招きするよな等高線 (11.8)

食卓に家族写真を飾り置く 十八の目がやんわり見てる (11.8)

歩くことさえむずかしい氷面を走って踊るフィギュアスケート (11.8)

娘よりコーヒーカップのプレゼント 木の香とともにぬくみ伝わる (11.8)
 
娘から木製コーヒーカップの贈り物

腰痛の君の歩きはアシモ君 二月前の我のまねして… (11.10)

強風や地震をすぐに感知する 昭和の我が家スマートハウス (11.10)

藻の陰にかくれて金魚お昼寝す えさの気配によたよた泳ぐ (11.12)

タイマーのカチカチ音に驚いて時限爆弾と君は思う (11.12)

クリスマスツリーやリースを飾りたて 新年は氏神様へ参ります (11.14)

白菜の高値つづきに漬物をひと休みするとひとり宣言 (11.14)

 
足和田山ハイキング (11.16)
日本一みつめられてる秀
(ほ)つ峰よ 頂き白く煌めく富士山
足和田山へ登るのにどうしても話題の主は富士山となる
小春日に怪しく広がる大樹海 富士が両手で静寂つつむ

たくあんの大根予約すみにけり 樽や重しの用意整う (11.18)

子を背負う八百屋の夫婦にこやかで たくあんうまく出来る予感す (11.19)

左胸筋肉痛ならよいけれど 悪い病を思う五日目 (11.19)

紅の葉をつけた老木かれそうで 四月の後の花見やいかに (11.24)

広告のおせちの写真手本にし 正月用品メモ帳に書く (11.25)

手をくじき腫れたる甲にしわがなく 痛みはあれど二十歳の張りなり (11.27)

にしき木の深紅の落ち葉てんてんと土に名残の模様をえがく (11.27)

 
二子山から阿部倉山 (11.30)
両面の羊歯のみどり葉華やかに 三浦アルプス常緑の森

散歩道七日来ぬまに葉は落ちて わずかに銀杏黄色くゆれる (12.2)

まだ痛い腫れは引いても片手では 鍋がつかめぬ年の瀬にきて (12.2)

おしゃべりの合間に食べて少し飲む 全員主役の忘年会 (12.3)

つわぶきの黄花凛と立つうらやまし 里よりもらい十年目にして (12.4)

古着着て忘年会へ急ぐ君 酔えばわからぬズボンのたるみ (12.6)

テレビより引き込むような渋い声 苗場の山に雪を降らせる (12.7)

手のくじきやっと良くなりなめらかに 指でかぞえる短歌のリズム (12.9)

支えてるつもりでいたが本当は支えられてる友との登山 (12.10)

病にて臥せるわが手にすり林檎くれる夫の手甘く匂えり (12.12)

あやふやな我のメールに戸惑いの君の舌打ち多摩より届く (12.14)

カレンダー少し早いが張り替える 吹き飛ばすなり一年の塵 (12.15)

ホームへは母の手編みのセーターを着て行くなんかあたたかくって (12.17)

いつもより静かな朝に雪かとの思いははずれ予報通り雨 (12.19)

誘われてお茶の時間はしみじみと つもる話はそれぞれにある (12.19)

雨音が歌っているよな夜ひとり つられて足がタンタンタタン (12.19)

ストーブのやかんのお湯をポットや風呂に入れる夫お湯奉行様 (12.21)

散歩道見知らぬ人のおはように 一人の時間しぼんでしまう (12.22)

新しい自転車なでつつ孫の足 かたいスタンド思いきりける (12.23)

君が書く年賀はがきの午の字は 象形文字かアラビア文字か (12.24)

お節の具おなじでいいか迷う暮れ 三十九年つづく手作り (12.24)

来ないでとさけんでみるが構わずに追いかけてくる老化というヤツ (12.24)

消しゴムのひとつだけ買う勇気なく 入って行けない文房具屋 (12.27)

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