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沼津アルプス遠景
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大瀬崎より(前日撮影)
伊豆長岡温泉より
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ナメちゃいけない素敵なコース
《マイカー利用》 …伊豆長岡温泉(前泊)-《車20分》-多比〜多比口峠〜大平山356m〜多比峠〜鷲頭山392m〜小鷲頭山330m〜志下峠〜馬込峠〜志下山214m〜志下坂峠〜象の首〜徳倉山256m〜横山峠〜横山182m〜八重坂峠〜香貫山193m〜黒瀬〜市役所前バス停-《バス20分》-多比 【歩行時間:
5時間40分】
→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(鷲頭山)へ
沼津アルプスとは、伊豆半島の西側の付け根、JR沼津駅にほど近い香貫(かぬき)山から南南東に延びる低山群の総称のことで、縦走コースの稜線上には7つの山と峠があり、最高点は鷲頭(わしず)山の392メートルだ。昨年の10月に発表された岩崎元郎さんの「新日本百名山」の1座にこの沼津アルプスが選定されたのを機に、益々脚光を浴びてしまったようだ。
私達夫婦は、じつは、ずっと以前から人伝にこのコースの存在だけは知っていた。沼津アルプスを訪れたことのあるハイカーたちは口々に 「ほんとうに、ウッソー、って思うほどの穴場ですよ」
と教えてくれたものだ。しかし、東京に住む私達にとって箱根から先の山々は何となく遠く感じてしまい、何時も計画の段階でボツになってしまっていた。実際、東京からは日帰りでも充分に可能なコースだったのだが…。
7年前の話になるが、たまたま購入して読んだ「山と渓谷・1998年2月号」の特集は「海と岬と半島の山」だった。海が見えるハイキングコースが20以上も紹介されていて、そのトップに大きな写真入りで載っていたのが、ずっと気になっていた存在の沼津アルプスだった。そのガイド文の冒頭にはこう書かれてあった。→『はっきりいって、この沼津アルプスはあまり人に教えたくない、とっておきの低山である。裾野を広げた富士山と洋々たる海の大展望はもちろん、歩きごたえのある尾根道に、昼寝に適した草の山頂、明るい林の小道、心地よい静けさ、鳥の声、懐かしい草花。低山のもつよさを一手に引き受けた山なのだ。…(文=当時の山渓編集部・若菜晃子氏)』
近くには有名な伊豆長岡温泉もある。というわけで、今回の山行についてはめずらしく妻の佐知子と意見が合った。少し残念だったのは、今や沼津アルプスは「穴場」ではなくなってしまった、ということだった。
* 旧来からの(正式な)山域名としては、沼津アルプスの南側に位置する発端丈山410m、葛城山452m、城山342mなども含めて静浦山地(しずうらさんち)と呼んでいるようです。
* 「山の名前っておもしろい(実業之日本社・大武美緒子著)」によりますと、沼津アルプスの開拓者で名付けの親は加藤満氏(1929年生まれ)とそのお仲間(清水町五十雀山歩会の有志約30人)とのことで、1980年の頃(昭和50年代)のことらしいです。[後日追記]
私達が泊まった温泉宿の部屋の窓からは、伊豆長岡の街が一望できる。(北西方向の)街の外れには沼津アルプスの低い山並みが横たわっていて、その奥には朝日を受けた白銀の富士山が眩しく輝いている。ぐっすりと眠ったので、昨日の越前岳(愛鷹連峰)登山 の疲れはすっかり癒えていた。贅沢すぎる宿の朝食を済ませ、いそいそとマイカーに乗り込む。
ウバメガシの岩尾根
けっこうきつい
志下山山頂にて
徳倉山の山頂
香貫山の山頂広場
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20分足らずの運転(国道414号線)で、登山口の多比(たび)に着いた。海ぎわの駐車スペースに車を置き、コース標識や道路上の白ペンキの矢印などに導かれながら、歩き始めたのは8時45分頃。低山とはいえ海抜0メートルからの登りだ。おまけに7つのピークをアップダウンする縦走コース。エスケープルートは随所にあるけれど、決して侮れない。「体力温存だ!」
と云いながら、何時ものようにゆっくりと歩き、まずは多比口峠を目指し、そこから太平山(おおびらやま・おおべらやま)のピークを往復する。この山域は、クヌギ、コナラ、シデ類などの二次林と、温暖な太平洋側の極相林であるシイ、カシ、タブなどの照葉樹の自然林が入り交じった林相のようだ。天空ではトンビが「ピーヒョロ」と鳴きながら旋回している。なんか、ワクワクしてきた。
大きなサクラの木がある大平山の山頂で第1回目の中休止。この山が沼津アルプスの南限かと思っていたら、「これより奥アルプス(奥の細道)・大平会」なる標柱を発見して、佐知子と顔を見合わせて暫し唖然とした。地形図でよく見てみると、確かにこの先の(東側の)尾根伝いには大嵐山(日守山)191mがあり、日守、あるいは原木(ばらき)へ続いているようだ。まだこの時点では体力十分だった私達だったが、流石にここから大嵐山を往復する気力は無かった。「奥」も含めて沼津アルプスを完全走破するには登山口を間違えてしまったのだと、その時私達は気がついた。
尚、あとで地元のハイカーから教わって分かったことだが、この大平山や鷲頭山の山頂の、一つの株から何本もの幹が出ているサクラの木は、じつは、黄緑色の八重の花をつけるという謎のサクラ、ギョイコウ(御衣黄)であったらしい。オオシマザクラ系サトザクラの園芸品種で、ウコン(鬱金)と共に花の色が珍しいので珍重されるとのことだ。ソメイヨシノよりは1ヶ月ほど遅く花を付けるらしい。
ウバメガシ(備長炭の原料だ)の見事な純林を抜け、多比峠を経て急登すると、石祠(鷲頭神社奥宮)のある鷲頭山(わしずやま)の山頂に着く。暫らく展望を楽しんでから、その少し先の「終焉切腹之場(三位中将重衝・平清盛の五男)」と書かれた標板のある小鷲頭山山頂でも中休止、とピークごとに休憩しながら、稜線を北へ向かう。正面には愛鷹山(あしたかやま)の頭上に富士山、その左手には南アルプスの峰々、さらに沼津市街と駿河湾と伊豆の山々。右手には三島へ続く街並みと道志や箱根の山々、などが樹林の隙間から見え隠れしている。林床の深緑色に輝くアオキやヒサカキの葉が美しい。
途中、何組かのパーティーとすれ違ったが、私達と同方向(北行き)に歩くハイカーはいないようだ。どうやら沼津駅始点の“南行き”がこのコースの主流らしい。“北行き”の方が常に富士山を正面に見ることができるのでイイと思うのだけれど、我田引水かなぁ…。
ロープの張ってある急坂を下り、志下(しげ)峠から志下山へ明るく開けたなだらかな尾根道を登り、更にもう一回アップダウンを繰り返し、2等三角点と2つの石祠のある徳倉山(象山)の山頂で遅めの昼食。 「いや〜、タフなコースだねぇ」 などと云いながら、枯草の上に座ってコンロで湯を沸かす。最近の私達の定番、カップラーメンとソーセージだ。今回は一工夫して薄切りにした米餅…私の千葉の田舎では新粉餅(しんこもち)という…も入れてみた。デザートは小さなミカンを佐知子と半分づつだ。日だまりでポカポカしながら展望も楽しんだ、至福のひと時だった。
再び急勾配を下り、横山峠から横山へ登り返す。メジロやツグミなどの小鳥の姿が多くなってきた。中弛(なかだるみ)を経て、舗装道の八重坂峠へぽんと出る。指導標に従ってアスファルト道を暫らく歩き、なだらかに登ってついに最後のピーク、4等三角点のある香貫(かぬき)山の山頂に辿り着いた。
沼津アルプスの7山の中でただ1座この香貫山のみが、良い意味での人間臭い山だった。麓の市街地からなだらかなコンクリート道を辿って、沼津市民の中高年たちが犬を連れて散歩がてらに登ってくる。山頂部のシラカシの枝などにはメジロが群れをなしており、展望台に登ると360度の大展望。まさにこのコースのフィナーレを飾るにふさわしい眺めだ。散歩で来ていた地元の山好きの老紳士に、見える山々の名前を片っ端から教えてもらったりして、私達夫婦は1時間近くもの間、思い思いに山頂広場を歩き回った。こんな素敵な憩いの場をもつ沼津市民をとても羨ましいと思った。そして、市街地に隣接する沼津アルプスの豊かな自然を守り続けている地元の方々に対し畏敬の念さえ覚えた。本当にもう感謝感激だ。
夕暮れが近くなってきた。狩野川を挟んで広がる沼津市街や富士山を正面に眺めながら、バリアフリーの坂道を下る。私達の前には若いカップルが手をつないでゆっくりと歩いている。追い越すのは、なんか悪いような気がして、私達もゆっくりと下った。
少し疲れたけれど、大満足して、沼津アルプス北側の登山口(黒瀬)に下り着いたのは午後4時30分頃だった。そこから尚1Kmほど舗道を歩き、市役所前バス停でバスを待った。
私達の乗ったバスは海沿いの国道414号線を南下する。左手には今日歩いた沼津アルプスの稜線がずっと間近に見えていた。出発地点の多比バス停で下車すると、私達のマイカーは暮れなずむ駿河湾を背にして、今朝と同じようにポツンと停まっていた。
伊豆長岡温泉「ニュー八景園」: 狩野川の西に位置する伊豆長岡温泉は、修善寺と並ぶ中伊豆の代表的な温泉。源氏山東側の古奈と西側の長岡を総称したもので、約70軒の温泉宿がひしめき合う。古奈温泉は鎌倉時代の「吾妻鏡」にもしるされているほどの古い歴史をもち、源頼朝も入浴したという。一方、歓楽的な要素の強い長岡温泉は明治40年の開湯で、その後急速に発展したらしい。120以上あるという源泉はアルカリ性単純泉で無色無臭透明、泉温60〜70度。
私達が利用した「ニュー八景園」は、長岡地区の高台に建つ眺望に優れた和風の宿。部屋の窓からは伊豆長岡の街並みや沼津アルプスの彼方の富士山も見渡せる。6階屋上の「天空風呂」は内湯も外湯も石貼りで、その広さといい湯量といい眺望といい、ナカナカだった。食堂での食事は刺身の船盛りや釜飯など盛りだくさん。自分で選べるワゴンサービススタイルというのがちょっと変わった趣向だったが、顧客に選ばれなかった食材は一体どうなってしまうのだろう、と心配する貧乏性の私達には向いていなかったかもしれない。御多分にもれず大旅館にありがちな儀礼的なサービス、が、少し鼻についた。一昨年、老舗の温泉旅館だった「八景園」が万葉倶楽部(万葉の湯グループ)の傘下になったものらしい。ウィークデー料金で一泊2食付き一人13,800円(税込み)だった。
7時30分からの朝食時、数人の従業員に沼津アルプスのことについて尋ねてみたけれど、眼前に広がる景色なのに、誰もその存在すら知らなかった。チーフらしき人が慌ててインターネットの検索結果をコピーして私達に持ってきてくれたけど、その程度の情報は既に知っていた。私達が知りたかったのは地元の裏情報だったのだ。でも社交辞令で私は
「助かります」 と、そのチーフに丁重にお礼を言った。
「ニュー八景園」のHP
小鷲頭山から駿河湾を望む
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香貫山より横山と徳倉山を望む
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再び 沼津アルプスへ
平成29年(2017年)11月9日
沼津駅-《バス25分》-多比〜多比口峠〜大平山〜多比峠〜鷲頭山〜小鷲頭山〜志下峠〜志下山〜志下坂峠〜徳倉山〜横山峠〜香貫小学校〜沼津港(「丸天」で打ち上げ)-《バス10分》-沼津駅 【歩行時間:
5時間】
ハックルベリーフレンドのT君と(私にとっては久しぶりの)沼津アルプスを歩いてきました。
午前9時頃、沼津駅前からバスに乗って登山口の多比で降りて、北行きで徳倉山まで縦走しました。特に午前中は富士山もよく見えていました。山稜(多比峠〜鷲頭山)のウバメガシの純林はやっぱりステキです。山の匂いと海の匂いが同居する感じもとてもファンタスティックです。山稜の所々にはノギクの類、ワレモコウ、ヤマラッキョウなどが咲いていました。
徳倉山から少し下って、横山峠を左折して香貫小学校方面へ下山したのは午後3時頃でした。それからアスファルトを1時間ほどだらだらと歩いて、狩野川を港大橋で渡って、沼津港の「丸天」で反省会。ほどよい疲れの中で飲むビールの美味さは格別です。刺身の盛り合わせなど、安くて量があって新鮮で大満足…日本酒もたっぷりと飲みました。沼津港からの(沼津駅行きの)バスの乗客は私たち二人だけ、案外と静かなワンディハイキングでした。
東京からの公共交通を利用しての低山アルプスの決定版! だと思いました、ここは、やっぱり。
象の背付近から振り返って鷲頭山(左)を望む
沼津アルプスの写真集: 大きな写真でご覧ください。
鷲頭山の山頂にて
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やっぱり 沼津アルプスへ 平成30年(2018年)3月17日
沼津駅-《バス25分》-多比9:00〜多比口峠〜多比峠〜鷲頭山392m〜小鷲頭山〜志下峠〜志下山〜志下坂峠〜徳倉山〜横山峠〜香貫小学校〜15:45沼津港(「丸天」で打ち上げ)-《バス10分》-沼津駅 【歩行時間:
4時間30分】
山の仲間たち(山歩会)と沼津アルプスを歩いてきました。
沼津駅前からバスで多比まで行って、鷲頭山〜志下山〜徳倉山と北へアップダウン(縦走)して、横山峠から下山。富士山は終始雲の中で、それがちょっと残念でしたが、箱根や伊豆の山々や駿河湾などはよく見えていました。
サクラ類の花芽が大きくやわらかくなって今にも開花しそう。足元にはスミレ類やクサボケやナツトウダイなどがきれいに咲いていました。今回はウバメガシやカゴノキなどについてもじっくりと観察・勉強しました。
舗装道を約50分歩いて沼津港の「魚河岸・丸天」で打ち上げ、海鮮丼(魚河岸丸天丼)に舌鼓を打ちました。楽しい仲間と一緒だと、なにもかにもが愉快です。
● ウバメガシ(姥目樫・ブナ科の常緑小高木): 年輪の込んだ重たい材(比重は約1.0)が備長炭の原料になることで有名です。その生き残るための戦略は、他の樹木が生育しづらい海岸近くの山稜などで、強風や乾燥や岩っぽい貧栄養の土壌にひたすら耐え抜くということです。
→ ウバメガシの純林(写真)
● カゴノキ(鹿子の木・クスノキ科の落葉高木): 樹皮が剥がれて鹿の子(バンビ)模様になっています。幹がつるつるというのは、リョウブとかヒメシャラとかサルスベリなどと同じ戦略で、蔓類に巻きつかれにくくするためだと言われています。
→ カゴノキの幹(写真)
佐知子の歌日記より
菫・木瓜登山道にあらわれて春を知らせる沼津アルプス
17年つづく登山の仲間との無事に下山のビールはうまし
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