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No.310 信州峠から横尾山1818m
平成25年7月12日 晴れ

信州峠から横尾山・略図
お薦め! ドライブ&ハイキング
いつか…、そんな日がくるといいね…

《マイカー利用》 中央自動車道・須玉I.C-《車45分》-信州峠〜カヤトの原〜横尾山(往復)-《車10分》-みずがき山自然公園〜カンマンボロン(往復)-《車20分》-増冨温泉(入浴)-《車30分》-須玉I.C 【歩行時間: 2時間50分】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


  信州峠は山梨県北杜市須玉町と長野県南佐久郡川上村の境、1460mを越える標高に位置する。 かつては、甲州側では川上峠、信州側では小尾(おび)峠ともいったらしい。 それぞれ向こう側の地名で呼んでいたのが面白い。
  いにしえの名ハイカー・尾崎喜八は、かつて信州側から甲州側へこの信州峠を越えて歩いている。 情緒豊かなその山旅は、彼の有名な紀行文集「山の絵本」の“御所平と信州峠”の項に紹介されている。 昭和10年(1935年)の作というから、実際に歩いたのはその年かもっと前の正月だろうと推察する。
  残雪の信州峠を越えた尾崎喜八と彼の義弟は、当時の寒村・黒森のあばら家に立ち寄る。 何かと世話をしてくれた貧しいその家の主婦が 「死ぬまでには一度でいいから東京って所が見たいものだね」 と言う。 喜八はそれに対して 「東京を見たらこの黒森のよさがはっきり分かるでしょう」 と答えている。 いま読み返してもグッとくる箇所だ…。
  私の手元にあるこの「山の絵本」は再編版のもので、1993年に岩波文庫から刊行されたものだから、多分その頃からだと思う。 信州峠に対する憧憬のようなものが芽生えたのは…。

ジミぃ〜な峠です (^^ゞ
ここが信州峠! 左の階段が横尾山登山口です

  そのあこがれの信州峠は、じつは、今までに私は何回も車で通り抜けている。 でも、いつも“気がついたら通り過ぎていた…”といった類いのもので、真面目に信州峠付近を逍遥したことはいまだかつてない。 そう…、案外と地味なのだ、信州峠は…。
  そんな感じの(どんな感じ?)…、地味な信州峠の地味な(6〜7台で満車になりそうな)駐車場から、地味な道標に導かれて、私達夫婦が西へ向かって歩き始めたのは午前9時頃だった。 目指すは奥秩父の西端に位置する横尾山1818m。 山梨百名山の一峰だけれど知名度はイマイチの(つまり地味な)、“玄人好みの通の山”でもあるそうな…。
ミズナラ林です
まず樹林帯を登る

サナギイチゴ(猿投苺):バラ科キイチゴ属
サナギイチゴの実

急に空が抜けた・・・
カヤトの原へ出る

南ア方面が開けている
横尾山の山頂にて
  暫くは、手入れのされていないカラマツ林にミズナラ・ダケカンバ・コメツガなどの自然林が交ざる、感じのいい森の中をなだらかに登る。 森の脇役はイタヤカエデ、ハウチワカエデ、ミネカエデ、ウリハダカエデなどのカエデ類やケヤマハンノキやヤハズハンノキなどのハンノキ類、シデ類、ツツジ類、ハリギリ、リョウブ、ツリバナなど。 少し凹んだ(水環境の良い)場所にはトチノキやサワシバなども生えているようだ。 林床の主役は背の低いミヤコザサで、その狭間には案外と珍しいサナギイチゴ(猿投苺:キイチゴのなかま)があちこちに、まるでサケの魚卵(イクラ)のように赤く実っている。
  何時の間にか傾斜が急になってきた。
  そろそろ一本立てようかと思っていたとき、急に空が抜けて目の前に草原が広がった。 これには矢張りびっくりした。 四方には何もなく、つまり360度の展望なのだ。 道標には「カヤトの原」と書いてある。 ガイドブックを予習していたのである程度の展望は期待していたが、いきなりのこの360度には、少ししつこいが、ほんとうにびっくりした。 しかも、この広々としたカヤトの尾根が、けっこう長く続くのだ。 瑞牆山、金峰山、富士山、茅ヶ岳、南アルプス、八ヶ岳、佐久の山々などの大展望が、若干モヤっていて写真向きではないけれど、ダイナミックに美しく、走馬灯のようにぐるぐると回って私達を囲むのだ。 これには、ほんとうにくどいけど、心底まいって感動した。
  草原にはアヤメが点々と咲いている。 ノアザミやウスユキソウやサワギクも少し咲いていたけれど、あちこちの足元で目立って咲いていたのはニガナ類(ニガナとシロニガナ)だった。 季節が中途半端なのか、花の数も種類も少ないが、ぐるぐる首を回しての大展望が充分にそれ(花の少なさ)をフォローしている。 スズランやレンゲツツジの花の季節などは、もっといいかもしれないが…。
  それにしても、何故ここにこんなにもすてきなカヤトの尾根が存在しているのだろう…。 土壌(地質)が関係しているのかな、山稜に吹く強い西風の影響かな、シカなどの食害によるものかな、それとも過去の度重なる伐採や火入れなどによる人的な作用かなぁ…。 う〜ん…。
  などと考えながら、再び樹林を通ったり草原を抜けたりを繰り返して、やや急な最後の樹林を登り切ると、ひょっこりと横尾山のこじんまりとした山頂へ出た。 信州峠の登山口から正味1時間30分の歩程で、なんかあっけなかった。 先行していた中年のご夫婦が2等三角点の標石の傍らで休憩している。 一言二言笑顔で会話してから、山慣れしている(と思われる)そのご夫婦は来た道を下って行った。 この日この山で出会った唯一のハイカーだ。
  静かな山頂で、開けている南西面から南アルプスなどの展望を楽しんでいる佐知子を無視して、付近の樹木を観察した。 主役はやはりミズナラ・ダケカンバだが、カラマツ、コメツガ、イタヤカエデなども交ざっている。 展望のために伐ってしまったと思われる南側には陽樹のシラカンバがいち早く侵入していて、アオダモの若木、ハコネウツギに似た木(タニウツギかも)、ニワトコのような木、ツツジ類などが目についた。 林床は相変わらずミヤコザサだ。 …案の定、佐知子の顔がいらいらし始めた。 取り急ぎ踵を返し、下山の途に就く。
  小川山、瑞牆山、金峰山のスリーショットを前方に仰ぎながらの復路も、いたって快適だった。 カヤトの原で再び大展望にうっとりしながら、ゴロっと座って、サンドイッチの昼食を摂ったりした。 暑くもなく寒くもない風が吹き、さわやかで透き通った空気が私達を包んでいる。
  そんなこんなでまったりと時を過ごし、(エゾ?)ハルゼミの鳴く信州峠の駐車場に戻りついたのは12時40分頃だった。 私達の青い車の周りには、たくさんの黄色っぽい豹紋蝶(オオウラギンスジヒョウモン)が飛び交っていた。

  この信州峠から横尾山の県境尾根コースは、けっこう標高があるので、夏の避暑としての山歩きにも向いていると思う。 まぁ、アラカン向けの山かもしれないが、横尾山からさらに西進して、飯盛山1643mを経て清里方面へ下るロングコースも設定できそうだ。 信州峠まで車で行けるのであれば、展望がすっきりとする冬の横尾山もいいかもしれない。 いつの日か…、もっとずっとゆっくりとまったりと、何日間も、このすてきな山域で時を過ごしたいと思った。 そんな日がくるといいね、と私達は帰路の車中で繰り返し話し合った。

* 横尾山登山の後、時間がまだ早かったので、近くの瑞牆山の麓(みずがき山自然公園)に車を置き、カンマンボロンを往復しました。 「カンマンボロンから瑞牆山」へ
* 今回は「しがらみ」をやりくりしての、久しぶりの夫婦山行でした。 帰路に立ち寄った増冨温泉の温い湯が、肌と心にやさしく沁みわたりました。

増富温泉「増富の湯」については当サイトのNo87.瑞牆山を参照してみてください。


  佐知子の歌日記より
 春蝉の声の後押し山のぼり ゆっくり我を鎮めてくれる
 精密な網の目えがき紫の あやめ立つなり乾いた山に
 メガネかけ虫メガネ手に葉っぱ見る 君はそう森林インストラクター




「カヤトの原」は展望の草原!


東南面の展望 : 左から瑞牆山・金峰山・茅ヶ岳・南アルプス…


横尾山へ向かう(往路)

前方に瑞牆山と金峰山(復路)

カヤトの尾根に咲いていた花
白苦菜:キク科ニガナ属
シロニガナ
菖蒲・文目・綾目
アヤメ
沢菊・別名ボロギク(襤褸菊)
サワギク

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