No.333 鹿倉山(ししぐらやま・1288m) 平成27年(2015年)4月16日 |
|
→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ 鹿倉山(ししぐらやま・シシクラ山)は山梨県北都留郡の丹波山村と小菅村の境、つまり奥多摩の深くに位置する寂峰である。東の登山口(陣屋)は東京都の奥多摩市に属するが、交通の便が悪そうで、ずっと尻込みをしていた山だった。ところがよくよく調べてみると、けっこう“行けそう”な山であることに気がついた。そしてなんと、深山橋バス停からアプローチして山稜を西へ進み大丹波峠方面へ下山すると、北側には丹波山温泉「のめこい湯」があるし、南へ下ると「小菅の湯」が待っている。下山後の温泉入浴が何よりも楽しみな私にとって、この山は理想的なシチュエーションであることも分かったのだ。
朝の暗いうちから東京都大田区の自宅を出て…、JR青梅線・終点の奥多摩駅前から7時38分発の(小菅の湯行き)バスに乗り…、深山橋バス停(標高約530m)で降りたのは私一人きりだった。芽吹きの新緑を愛でながら歩き始めたのは8時10分頃。奥多摩湖の西(丹波川=多摩川源流)に架かる深山橋を渡ってすぐ、右角にある蕎麦屋(陣屋)の脇から指導標に従って山道へ入る。と、いきなりの急登だ。シジュウカラやその仲間たち(ヒガラとヤマガラ)が盛んにさえずっている。振り返ると奥多摩湖が眼下に見え隠れしている。 ヒノキ林にコナラやシデ類などの自然林が交ざる、割と感じのよい林相の中を1時間以上は登り続けただろうか。この場合“忽然”という副詞がぴったりするが、目の前に白い巨塔が現れて、そこが都県境に位置する大寺山の山頂950mだった。「白い巨塔」はじつは仏舎利塔で、バスの車窓から見えていた山上の白い建物の正体がこれだったのだ。伐り払われた広い敷地の中心に位置するその仏舎利塔の階段を、とりあえず上がって、ぐるっと一周してみた。東西南北に立像や座像や涅槃像などの、金ピカの大きな仏像が置かれていて、目がチカチカするくらい見ごたえがある。日本山妙法寺(日蓮系の宗教団体)関係の建造物であるらしいが、よいもの(すごいモノ)を見てトクしたという気分と、見てはいけないものを見てしまったという悲しい気持ちが、暫くの間、私の乾燥した頭の中を行ったり来たりした。 * 宗教と自然について、私はかつて少し考えたことがあります。たいした蘊蓄ではないので恐縮ですが、よろしかったら拙山行記録のNo.57鋸山の項を参照してみてください。 大寺山の山頂を辞し、少し進んで仏舎利塔が見えなくなった地点で小休止。チョコレート菓子を食べたりサーモスの熱いコーヒーを飲んだりした。それから徐に、なだらかな稜線を更に西へ進む。 山稜のミツバツツジは咲き始めたばかりで、こちらは未だ殆ど冬枯れ状態だ。ふと気がつくと、自然林の割合が増えていて、何時の間にか森の主人公がコナラからミズナラにバトンタッチしている。脇役の高木はアカマツ、モミ、ツガ、イヌブナ、ヤマザクラ、リョウブ、アカシデ、モミジ類(少し)、などで、明るい尾根歩きだ。それらの木々の隙間からは右手(北面)に長大な石尾根が見えている。左手の(南東方向の)三頭山も近くて大きい。 鹿倉山の山頂が近くになってきたと思われたころ、目の前に(これも忽然と)林道が現れた。そして、ここから先の殆どは(あとから思うと)林道歩きになってしまうのだ。 しかし、その林道からの北面の眺めは(皆伐された箇所が随所にあったので)秀逸だった。雲取山から七ツ石山〜鷹ノ巣山〜六ツ石山と続く石尾根が丹波川の流れる谷を隔てて大パノラマになっている。右端(東の方向)の奥多摩湖の頭上に聳える御前山の金字塔も素晴らしい。更に進むと左奥にどっしりとした飛竜山も見えてくる。思わず立ち止まってデジカメのシャッターを切りまくる。 少し進むと辺りはカラマツやシラカバの疎林で、なんと、何故か道は下り始めている。変だなぁ…と思って、ここでも歩みを止めていると、後ろから男性の声がする。 「左上が頂上らしいですよ〜」と聞こえた。私と同年輩と思われる男性ハイカーが大声で私に知らせてくれているのだ。やっぱりそうかと思って慌てて少し引き返し、南側につけられたそれらしき枝道を登ってみる。するとその天辺が、同年輩男性の云った通り、鹿倉山のひっそりとした山頂だった。三等三角点の標石はあるけれど、南側のヒノキ林や北側のカラマツ林に囲まれて展望は殆どない。で、急速に親しくなってしまった同年輩男性と相談して、先ほどの北側直下の(眺めの良い)林道上で昼食を摂ることにした。話を聞いてみると、彼は今朝の同じバスに乗ってきたとのことで、深山橋バス停は見送って留浦(とずら)を経由(往復)してから陣屋バス停で降りたらしい。奥多摩駅からの小菅の湯行きのバス便には、深山橋から陣屋へ直接行く便と留浦を往復してから陣屋へ向かう便があるのだが、今朝の便は留浦経由だったのだ。アプローチ(舗道歩き)の距離は僅かに短いが、陣屋(登山口)から歩き始めたのは私より数分遅くなってしまったとのことだった。 私よりゆっくりと山を歩く人は非常に少ないが、この鹿倉山で出会った同年輩男性がその希少な一人だった。「それじゃぁ〜お先に〜」と挨拶してから下山を開始した私だが、とうとうこの日のこの先、彼に追いつかれることはなかった。 道標に従って稜線を左折して山道を下ると、ミズナラの巨木が印象的ないい感じの空間・大丹波峠だった。当初はここから北側の沢筋を下って丹波山温泉「のめこい湯」へ下山する予定だったのだが、この日(木曜日)は「のめこい湯」の定休日だったので、里のアスファルト歩きが長くなるけれど、南側の「小菅の湯」へ下ることにした。大丹波峠から少し下った林道上に西面が大きく開けた箇所があり、大菩薩方面がくっきりと展望できる。 今回の下山コースは、ショートカットの山道も多少はあるけれど、その大半が林道とアスファルトというのが若干スポイルされる点だと思った。奥深い割には人間臭が強すぎる、という言い方もできるかもしれない。 小菅村役場前を通り県道18号線から国道139号線へ合流して右折して小菅川を渡り、なだらかに登り返して「小菅の湯」へ向かう。左手(北面)にはその小菅川の流れる大きな谷を隔てて鹿倉山がおっとりと、しかしどっしりと聳えている。その谷間の中空には、2本の超長いロープに吊るされたたくさんの鯉のぼりたちが悠々と泳いでいた。 思ったよりも随分と早く(14時頃)に下山できたので、奥多摩駅行きの最終バス17時45分発まで、先月オープンしたという「道の駅こすげ」の物産館などをまったりと見物したり、家へのお土産(小菅村のエゴマ50g・350円)を買ったり…、そしてそれから風呂にのんびりと浸かって、命の洗濯をした。今までに何回か訪れている「小菅の湯」だが、その露天風呂からも鹿倉山が大きく見えていることに、この日初めて気がついた。 「小菅の湯」については拙山行記録 No.27大菩薩嶺・part2 を参照してみてください。 丹波山温泉「のめこい湯」については No.233黒川鶏冠山 を参照してみてください。 山頂直下の林道から北面(石尾根方面)を望む・右端は御前山・パノラマ合成写真です。 小菅川の上空に鯉のぼり・バックは鹿倉山です。 このページのトップへ↑ ホームへ |