No.354 綾滝から馬頭刈尾根(まずかりおね) 平成29年(2017年)3月16日 |
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→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(馬頭刈山) 奥多摩の大岳山登山の主要コースのひとつに、その南東に長く続く馬頭刈尾根ルートがある。着地点(下山地)には秋川渓谷「瀬音の湯」がまっているということもあり、とても魅力的だ。だけどちょっとロングなので腰が引けて、今まではなかなか縁のなかったコースだ。 近所の図書館でガイドブック…大人の遠足「日帰りハイキング+立ち寄り温泉・JTBパブリッシング」…を立ち読みしていたとき「綾滝から馬頭刈尾根」のページに目が留まった。そうなのだ。なにも大岳山のピークを目指すことはないのだ。…はたと膝を打ってにんまりとして、のほほんとした陽気の早春の平日に、単独で、いそいそと出掛けてみた。 JR五日市線の終点・武蔵五日市駅前のバスターミナル@番線から8時40分発の藤倉行き西東京バスに乗る。乗客は(私を含めて)登山姿の10人だ。秋川に沿ってバスは快調に走り、途中、6名のグループは荷田子バス停で降車(戸倉三山縦走かな)、3名は払沢の滝入口バス停で降車して(浅間嶺かも)、バスの中には私一人だけがぽつんと残された。払沢の滝入口の4駅先・千足バス停から歩き始めたのは9時5分頃だった。 進行方向を右折して瀬音が耳に優しい柳沢林道を暫く進み、林道の終点からはスギ林の山道へ入る。やがて迂回路のある分岐を左へ(沢側へ)暫く進むと、けっこう立派な一つ目の滝・小天狗滝が右手に見えてくる。そして、道標に従って更に登ると二つ目の滝・天狗滝の間近に辿り着いた。しかし、ここから先へはどう進んだらよいものか、はたと困った。正面は岩壁で、左手を巻く道は無さそうだし、右手は滝つぼへ下る(多分行き止まりの)道だ。近くに立つ道標はここが“天狗滝”であることを示すだけで、見落としたものか、進むべき方向(「綾滝」とか「つづら岩」とか)を示すものは見当たらない。さて、ほんとうに困った。私はミステリーゾーンに足を踏み込んでしまったのか…。足元のヤブツバキの落花が私を見上げて笑っている。 迷ったら元へ戻ってみる、という基本に忠実に、私はあっさりとこの先へ進むのをあきらめて、迂回路との分岐まで戻ってVターンする。約40分間のタイムロスだ。山側の迂回路を登り進むと道標のある分岐があって、左手から(天狗滝からの)道が合わさる。やっぱりあの天狗滝の先に“道”があったのだ、と少し後悔する。 * 帰宅してからガイドブックを読み直してはっきりとしたことですが、天狗滝直下に(綾滝へ続く)沢を渡る道があったようです。“多分行き止まり…”と思ってしまった道だと思います。早とちりというかあきらめが早すぎたというか、面目次第もありません。(^_^;) 気を取り直して先へ進み、三つ目の滝・綾滝を見物する。ここには“三郷不動明王”と彫られた石碑や質素な(つまり安普請の)小祠があり、ベンチもあるので休憩するにはもってこいだ。チョコレートを齧ってサーモスの熱いコーヒーを飲む。しかしこの綾滝や天狗滝は、季節のせいなのか、思ったよりも水量が少なくて迫力に欠けると思った。一番下流にある(水量が多い)小天狗滝のほうが、落差の割には迫力があるように見えたのは皮肉なことだ。 急坂を更に登る。スギ・ヒノキの人工林にコナラ、シデ類、ヤマザクラなどが入り交ざるよくある里山の林相だ。林縁にはスズタケが生い茂り、モミやカヤの幼木やヒサカキなどの常緑樹が景色にアクセントをつけている。山稜の近くになるとツガの巨木が数株、森に厚みと貫禄を与えている。 やがて道が岩っぽくなってきて、馬頭刈尾根の縦走路に突き当たる。正面にはロッククライミングのゲレンデにもなっているという“つづら岩”の大岩壁が立ちふさがっている。左(北西方向)へ進むと富士見台を経て大岳山だが、今回は(当初の予定通り)右折して鶴脚山方面へ向かう。リョウブやアセビが見立ち始めた。 歩きやすい尾根道だ。林床は何時の間にかスズタケから背の低いミヤコザサにバトンタッチしている。進行方向の右手(檜原村側)はヒノキの人工林で、左手(あきる野市側)がコナラなどの天然林、といったロケーションが続く。振り返ると木々の隙間から大岳山のあの特徴のある(両肩を張った)山頂部が間近に見えている。ヒガラなどのカラ類の混群が、私の靴音に驚いて鳴き声を上げながらいっせいに飛び立つ。しかしコゲラ(小さなキツツキ)だけは私の存在を全く無視したように、冬枯れのコナラの幹をぴょんぴょんと駆け上がっている。思わず歩みを止めて、…あぁ来てみてよかった…と(いつものことながら)しみじみと思う。 樹林に囲まれて…しかし冬枯れだから展望のある…ひっそりとした小空間の鶴脚山(つるあしやま)916mの山頂で大休止。コンビニのおにぎりを食べてペットボトルのお茶を飲む。それから下って上って、馬頭刈山884mの山頂でも小休止。ここには三等三角点の標石やベンチがあり、今回のコース上では最も展望が良かった。特に大岳山から御岳山へ続く山稜の眺めが印象的だ。そしてそれから、またゆっくりと馬頭刈尾根ミニ縦走の続きを楽しむ。 南面の開けた箇所からはその右手(南西の方向)に、薄雲の中からにょきっと足を出している(純白の左裾だけを見せている)富士山を確認した。数日前の(富士山の麓に降った)積雪が反射しているものだと思うけど、それが妙にセクシーだ。 高明山(光明山)798mの山頂は知らずに通り過ぎ、木祠や石塔や「高明神社跡( ※高明神社は平成3年に西麓の乙津に遷座)」と彫られた石碑などのある小広場で立ち止まる。それから鳥居をくぐって少し下ると道端にミヤマシキミの大群生があって、蕾をつけているものもあったりして、これは壮観だった。更にスギ林(ヒノキは少ない)をひたすら下ると、「鶴松神社」と彫られた石柱や「山神社・稲荷社」と書かれた石祠なども出てきて、この高明山が信仰の山であることが推察される。 下り切ったところで情緒のある(道路に架かった)吊橋を渡り、疎らな人家や製材所などを右手に見下ろしながら、自然の散歩道といった感じの山道を直進する。少し登って、コナラの幹に「長岳326m」と記された小さな標識がつり下がっているピークを越えて、そして下るとそこが秋川渓谷「瀬音の湯」だった。腕時計を見ると午後4時の少し前。累積の標高差は800m〜900mくらいだったろうか。予想した通り、(常日頃の鍛錬不足の私にとっては)ちょうど手ごろな日帰りハイキングだと思った。 展望箇所の少ない今回のコースだったけれど、下山地で温泉入浴ができる、というのがなによりのご褒美だ。「瀬音の湯」の“カフェせせらぎ”でビールを飲んで、海老と野菜の天丼(620円)を食べて大満足。でも…、小ジョッキサイズの生ビール470円とビール中瓶670円は、やっぱり高いと思った。ひと昔前のバーやスナックで飲んだときの気分と思えば、まぁいいか。ホステスさんはいなかったけれど…。(^_^;) 秋川渓谷「瀬音の湯」については御岳山から日の出山の項を参照してみてください。 「瀬音の湯」のHP |