No.367 立山二山 2泊3日の山旅 平成30年(2018年)8月9日〜11日 |
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【歩行時間: 第1日=30分 第2日=6時間 第3日=3時間】 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ 今年の山歩会(平均年齢約70歳のハイキング同好会)のメイン山行は夏の立山連峰でした。身体の不調や様々な“しがらみ”などで(妻の佐知子を含めて)無念にも参加できなかった方も多々いらして、今回は総勢6名でのメンバー構成になりました。…まぁ、個人の登山パーティーとしてはちょうどいい人数かもしれませんが…。 私にとっては18年ぶりの立山・室堂です。→No.109立山三山(平成12年8月) ●第1日目(8月9日・木) その感動に感動! 信州側の立山黒部アルペンルートで室堂へ 新宿発午前7時30分の「特急あずさ3号」が信濃大町駅に着いたのは11時を少し過ぎた頃でした。北陸新幹線を利用して長野駅からのアプローチのほうが随分と早いのですが、交通費が高いので、やはり「あずさ」利用で妥協したのです。人生は妥協です。…今日は、とにかく室堂まで行ければそれでよいのです。 信濃大町駅前で、扇沢駅まで(バス・約40分)の往復切符(@2,500円・7日間有効)を6枚購入してから、待ち時間はほとんどなくアルピコ交通バスに乗り込みます。シーズンに入っているので臨時便などが次から次へと出ているのです。順調な滑り出しにまずホッとします。 扇沢駅で、室堂までの立山黒部アルペンルート往復乗車券(@9,050円・5日間有効)を購入して、まず関電トンネルトロリーバスに乗って黒部ダム・黒部湖へ行き、立山方面の景色や大迫力のダム放水などを観光します。それから黒部ケーブルカーで黒部平へ行き、立山ロープウェイに乗り換えて、大観峰で針ノ木岳などの後立山連峰の大パノラマを堪能します。そしてそれから立山トンネルトロリーバスに乗り換えて…、ふぅ〜、このアルペンルートは楽しいけれど何故か忙しいのです。破砕帯から湧き出す「硬水」は相変わらず美味しかったし、各ターミナルで売っていた(買わなかったけれど)五平餅にも郷愁を感じました。…18年前と比べて、やっぱり(良きにつけ悪きにつけ)ますます“洗練”されてきたなぁ、と感じました。アルペンルートは初めてというメンバーもいて、そのかたの感動に感動したことも感動でした。 室堂ターミナルに着いたのは午後3時頃でした。3ヶ月前に(ぎりぎりで)予約の取れた、日本最古の山小屋という室堂山荘は、実質的にはサービスの悪い高級民宿といったところです。その室堂山荘にザックを預けてから付近を散策します。この室堂平の標高は既に約2450mで、森林限界を超えています。高山植物の花の盛りは過ぎてはいたものの、ミヤマアキノキリンソウ、ヨツバシオガマ、ウサギギク、エゾシオガマ、ヤマハハコ、ハクサンボウフウ、イワオトギリ、タテヤマリンドウ(ミヤマリンドウだったかも)…などは未だきれいに咲いていて、チングルマの綿毛も風に揺れていました。ここで懐かしかったのは「玉殿の岩屋」…立山開山伝説の残る由緒ある神聖な場所…ですが、今回も感じたのですが、情けないほどに荒んでいました。だいいち、一般の観光客などには絶対に行けないほどの…小雪渓を渡ったりするのですが道標が不完全で、知る人ぞ知るの秘密の裏ルート的な…“道”だったのです。何故なのか、ちょっと理解しがたいです。あんなに大事な場所をどうして(観光の名所にするなど)この地の人は大切にしないのでしょうか。…何か理由があるのだと思います。と、少し云い過ぎたかも…。 室堂山荘に戻って入浴して、夕食(トンカツだ!)の後はすることがなんにもないので、部屋の窓から立山連峰を眼前に仰いだり歓談したりして過ごします。外が真っ暗になった夜、南東側の…雄山と浄土山の中間くらい(一ノ越辺りの上空)に…地球に大接近しているという赤く輝く火星(マイナス2等星位)を、くっきりと見ることもできました。 ●第2日目(8月10日・金) 変だな、ヤバいな〜 室堂山荘〜雄山〜別山〜別山乗越・剱御前小舎 5時半からの室堂山荘の朝食後に歩き始めます。軽い高山病のために食事を殆ど摂ることができなかったメンバーがいたことや、朝靄が濃くて展望が望めないことなどにも鑑みて、当初に予定していた浄土山経由を端折って、石積み道を辿って一ノ瀬から雄山への最短コースを選びました。それでも山頂までの標高差約500mは空気が薄いこともあり、けっこう苦しんだメンバーもいました。やっぱり平均年齢70歳は、慎重に控え目に充分な余裕をもって進まなくてはいけないのです。立山三山縦走(*)が立山二山になってしまうのはちょっと残念でしたが、このコース変更が大正解だったことは後になってから納得したことでした。 例によって一人500円の登拝料を支払って、立山雄山神社本宮のある雄山山頂で宮司さんのお祓いを受けて、お神酒もいただいて快気炎を上げます。このころから徐々にガスが薄れてきて、時折り青空が現れます。メンバーたちも高所順応してきたのか、顔色がよくなってきました。タカネツメクサ、イワツメクサ、トウヤクリンドウ、イワギキョウ、ウラジロタデなどもあちこちに咲いています。 立山連峰最高峰の大汝山(だいなんじやま・3015m)の岩ゴロの狭い山頂でも快気炎です。生まれて初めて3000mを越えたメンバーにみんなから(半分は揶揄)の祝福が飛び交います。富士ノ折立2999mは巻道を進み、和気藹々と尚も北へ向かいます。そして真砂岳2861mも巻いてしまおうと分岐を左へ進んだところまでは至極快調だったのですが、ここでとんだハプニングが起きました。再びガスが濃くなってきて、なんと、道に迷ってしまったらしいのです…。 先頭を歩いていたのは私です。真砂岳の巻道だと思ったのはどうやらその少し手前の室堂へ下る道(大走り)だったようです。…と、それについては早々に(メンバーたちには黙っていましたが)気が付きました。まぁでも、少し下ってから次の分岐を右へ登り返せば縦走路に戻るはずでした。…ところが、どこでどう間違えたのか(いくら思い出しても、今も分からないのですが…)、徐々に踏み跡が薄くなってきて、岩っぽい処や砂っぽい急斜面を上るようになってきました。変だな、ヤバいな、とは思っていましたが、とりあえず行ける処まで行ってみようと思いました。というのは、はっきりとした靴跡があったからです。メンバーたちは必死になって(無言で)道なき道を私についてきます。 やがて小広い斜面の草原に出て、ひょいと上を見ると縦走路を歩いているハイカーたちを“発見”しました。ガスがようやく晴れてきたのです。あぁそうか、ここいら辺を歩いていたのか、と納得して、ここでお昼の(宿の)弁当にしました。このアルバイトで相当に疲れ果てたメンバーもいまして、本当に申し訳ないことです。 タテヤマリンドウの群生するその草原での昼食が済んでから、みんなをその場に残して、縦走路に戻るルートを一人で捜していたときのことです。上部から「大丈夫ですかぁ〜お怪我はないですか〜踏み跡をつけてしまったのは私です〜本当にスミマセン〜」と若い女性登山者が大声で呼びかけています。とりあえず安全に歩けるハイマツ帯の切れ目を捜し当てた後だったので、メンバーたちに声をかけてその女性登山者のいる処まで登ってみました。そしてここで彼女から聞いた話が感動でした。 その若い女性登山者は、じつは(あとで知ったのですが)近くの有名な山小屋の小屋番さんで、非番のこの日は山歩きを楽しんでいたそうです。私たちが歩いてしまった道なき道につけた靴跡は彼女のもので、それが気になって戻ってきたそうです。そしたら(案の定?)私たちが遭難しかかっているのをガスの切れ間から見つけた、とのことだったのです。私たちが無事に登山道に戻れて良かった、と、彼女は仕舞には泣き出してしまいました。オジサン・オバサンのメンバーたちは口々に「あなたはとても優しいかたね。心配してくれてありがとう」「タテヤマリンドウを踏んづけてしまってごめんなさい」などと云っていました。私は感動で声が出ませんでした。 私たちのパーティーがよほど頼りなく思えたのか、若い女性小屋番さんは別山まで超スローの私たちの後からついてきてくれました。…晴れてきて眼前に剣岳の雄姿が飛び込んできます。別山の北峰2880mを往復して南峰2874mに戻ってみると、女性小屋番さんがコンロで沸かしてくれた昆布茶を私たちに振る舞ってくれました。熱くて甘くてしょっぱくて、疲れ切った私たちには心の奥まで美味しく沁みわたりました。山が好きでたまらないといった風の若い女性小屋番さん、ほんとうにありがとう。 なにやかやで、別山乗越(のっこし)に位置する剱御前小舎に着いたのは16時近くになっていました。結果論ですが、浄土山を端折ったのは結果オーライだったのです。ともあれ、全員無事にメインのこの日を終えることができて、よかった、よかった。 剱御前小舎では6人の私たちに一部屋があてがわれ、一畳に一人といった空間が確保できて、それはこの時季としては予想外の快適さでした。夕食前には歓談室で湯を沸かして、ダージリン紅茶をみんなで楽しんだりもしました。…しかし、夜半からの屋根をたたく激しい雨音にちょっと不安もよぎりました。 ●第3日目(8月11日・土) ライチョウだ! 剱御前小舎〜新室堂乗越〜みくりが池温泉・室堂 やはり朝も本降りでした。5時からの小屋の朝食をゆっくりと食べてから、雨ガッパに身を固めて、完全武装で下山開始です。下山路の選択については少し迷ったのですが、ここ(別山乗越)から直接に雷鳥沢キャンプ場へ下るよりも新室堂乗越経由の方が(距離は長いけれど)多少は傾斜が緩くて歩きやすいかな、と思い、そちらを選びました。 (雨とガスのため)視界が殆ど無いので、ミヤマキンバイやハクサンイチゲやクルマユリなどの足元の花たちを愛でながら下ります。悪天候が幸いしたのか、この登山道では親子連れやつがいなど、たくさんの(合計で10羽以上の)ライチョウに出逢いました。その度に立ち止まってじっくりと観察です。チングルマなどの咲き残った花などを一生懸命に突いています。人間にはかなり慣れているようで、7〜8m以上近寄らなければ逃げていきません。 滑りやすいので要注意の木道を歩いて、浄土沢の橋を渡って、主稜線からも見えていたカラフルなテントが密集する雷鳥沢キャンプ場へ下りついたのは8時半でした。この頃から雨も上がって、ホッと一息を入れたのですが、じつはここから“丘”を上る階段状の遊歩道(標高差約130m)が、下りに慣れた足にはけっこうきつかったのです。汗をかきかき、ぜーぜー云いながら「みくりがいけ温泉」にようやく辿り着いたときは、全身の力が抜けたような虚脱感でした。 硫黄臭のする「みくりがいけ温泉(入浴料@700円)」は相変わらず素晴らしい泉質で、山の疲れが秒速で癒えていくのが実感できました。入浴後には女性はソフトクリーム、そして男性は冷えたビール、が美味いのなんのって…。シメは白海老のてんぷら蕎麦できまりです。 お盆休みの最初の土曜日だったこともあり、すれ違った観光客の超多かったことも特筆モノ(銀座なみ)でした。高山植物の花たちを観察したり、周囲の立山連峰をぐるっと見回したりして、まったりと室堂平を復習してから、室堂ターミナルからのアルペンルートの流れに乗ります。…私たちの進む下りは、各ターミナルなどでの待ち時間も殆ど無くて、ストレスを全く感じませんでした。 中高年の私たちにとっては得難い冒険の、ステキな3日間の山旅でした。…充分に満ち足りて、帰路の「あずさ」での会話は、新宿に着くまで尽きることはありませんでした。 * 雄山・大汝山・富士ノ折立の三山を総称して立山と呼び、立山三山とは雄山・浄土山・別山を指します。 * みくりがいけ温泉〜雷鳥沢ヒュッテ間は、平成30年8月現在、火山ガスにより地獄谷経由の道は通行禁止になっています。 * ライチョウは、霧の出ているような悪天候のときによく見ることができます。雷が鳴るようなときに現れる…つまり「雷鳥」ですよね。タカのような天敵から身を隠しやすい…というのがその説明によく使われますが、南・北アルプスなどのライチョウの生息地で私はタカを見たことがありません。…もしかして、ライチョウがもっと低地に生息していたときの古き良き時代のDNAのなせるわざ、でしょうか。 みくりがいけ温泉については「剣岳」の項を参照してみてください。 第2日目、遭難は忘れたころにやってくる…?
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